「じゃ、あとは頼もうかしら」
寝息を立て始めたレムを見つめ、優しく微笑むと、ラムはその視線をスバルに向けた。
「な、なんだよ、姉様。そのまなざしの違いは! まったくブレねえな!」
スバルは枕元に椅子を引き寄せて腰を下ろし、そうラムに言いながら、絞ったタオルをレムの額にそっと乗せた。
「わかってるよ。絶対変なことはしませんって」
「別に何も言っていないわ。それに……」
そう言いかけて、じっとスバルを見る、ラム。そうして不意に、
「ふっ」
「な、な、なんだよ、その、『ふっ』て、『ふっ』て! いつもと若干違うじゃねえか! なんか怖えよ!」
「なんでもないわ。ちょっと思い出しただけ。じゃ、ラムは寝るわ」
「はいはい。そうですか! お休みなさいませ、おねえさま!」
ラムはもう一度レムの顔を見てから、ドアを後ろ手に閉めてそっと部屋出て行った。
「ったく、なんなんだよ……」
スバルはそう呟くと、すでに寝息をたてているレムに視線を落とした。
レムの可愛い寝顔を眺めていると、今日一日、二人に起こったことが夢だったような気がする。だが、一体どちらが夢で、どちらが現実なのか。
——不思議なことだらけだ。あの扉といい、あのカードといい。そしてきわめつけはあのゾーン。あれは一体……。まさか夢オチってことはないだろうな。
「スバル、くん……も、もう食べられません……」
レムの口から、マンガのような寝言が漏れる。
——熱まで出して、どんな夢見てんだか。でもまぁ、俺もなんだかんだで、結構楽しかったし、レムとは二回目のデートってことになるのか、な? これは。
嬉しさと、すこしだけ複雑な思いが交差する。スバルはそっとレムの髪に手を伸ばすと、優しくその頭を撫で続けた。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
隣の部屋では『おみやげ』が、ベッドの上に広げられていた。
もう何年も、メイド服にしか袖を通していなかった。二人にとってそれが当たり前のことだったし、何の疑問も持たなかった。
だが、今日のレムの姿を見て、素直に可愛いと思ってしまった。妹のその姿が。纏っているその装いが。一体、誰が選んだのかは知らないけれど、ほんの少しだけ、羨ましい、と思ってしまった。
そして——。
黒いラインの入った可愛らしい白のワンピース。黒い薄手のカーディガン。同じく黒いソックスはこの明るいベージュのブーツにぴったりだろう。丸い形の白い帽子。このクロスボディーの青いポーチも、とってもおしゃれだ。そして、お揃いの可愛いアクセサリーたち。
しばらく眺めてから、シワにならないよう、丁寧にハンガーにかけてゆく。小箱に小物をしまって、最後に帽子を棚の上にそっと置いて——。
「いつか、近いうちに、レムとお揃いのこの服を着て、どこかに出かけることがあるのかしらね」
優しく微笑む。
「もしそんなことがあったとして、できるならバルス抜きでお願いしたいところだわ」
——きっとそうはならないだろう。
そうも思う。
——でも、それはそれで楽しいかもしれない。その日は一体いつになるだろう。
とっておきの宝物を、秘密の宝箱にしまい込む子供のような表情を浮かべて、彼女はクローゼットの扉をパタンと閉めた。