異世界の異世界デート譚   作:Kuro Maru

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15.「もう一つのエンディング」

「はい、台本(ほん)は先ほどいただきました。はい。はい! ありがとうございます! 頑張ります! 先生にもどうぞよろしくお伝えください!」

 

 そう言い終えて、画面をタッチする。一間置いて、椅子の背にフーッともたれかかり、大きく伸びをする。そのまま手の中にあるスマートフォンをしばらく眺める。ふふっ、と小さな笑い声を漏らし、体を起こしてデスクに肘をつく。そして、あらためて写真のアイコンをタップする。

 

 画面の中で、綺麗な青い髪の少女が黒のワンピースを着て、はにかみながらこちらを見ていた。自分でいうのも何だが、抜群のセンスだ。そもそも素材がいい。何を着せても、恐ろしいくらいに可愛いだろう。そして、その隣で赤い顔をしている少しだけ目つきの悪い黒髮の少年。

 

「ふふん……ホント、素直じゃないわよねぇ」

 

 彼がその青髪の少女を見る時、自分がどんなに優しい目をしているのか、おそらく自覚がないのだろう。でも、彼女はそれにとっくに気づいている。

 

「ほんと初々しいわー。青春だわー」

 

 知らず知らずに、頬が緩む。

 

——それにしても、二人とも、意外とそそっかしいのね……。

 

 ブティックから電話があったのは、二人がショップを出て行ってすぐだった。唯一自分だけが、彼らの連絡先を知っていると思われていた。

 

 手にしたスマートフォンの写真を、一枚一枚確認しながら、フォルダに振り分けていく。

 

 たくさんの人に囲まれた二人。自分に向けられたスマートフォンを、不思議そうに覗き込む彼女。見たことのないメイド服をまとった彼女。サイズの合わないグレーのスエットを着せられた彼女。ブティックで歳相応の洋服に身を包み、嬉しそうに笑う彼女。

 

 そして——。

 

 白い綺麗な素肌に、下着とガーターベルト、ストッキングという姿で、少しだけ恥ずかしそうにこちらを見て微笑んでいる青い瞳の彼女。

 

「これ、こんなの持っているなんて知られたら、彼に殺されちゃうかしら」

 

 クスッと笑ってデスクチェアから立ち上がると、事務所の冷蔵庫から、とっておきのスパークリングワインを取り出す。ポン、という音とともに、芳醇な香りが彼女の鼻をくすぐる。それを、テーブルに用意してあった三つのグラスに、静かに注ぐ。

 

 一脚は自分へ。そして、あとの二客は、あの素敵なカップルのために。

 

——乾杯! 二人とも元気でね!

 

 

 グラスを掲げた先に、異世界のメイド服と執事服を着せられたトルソーが、二体仲良く寄り添っていた。その一方の腰のあたりで、洋剣の柄に埋め込まれた宝珠がキラリと光輝いていた。

 

《異世界の異世界デート譚・完》




『異世界の異世界デート譚・「あとがき」のようなもの』

 こんにちは、黒丸〈Kuro Maru〉です。初めましての方は初めまして! 「異世界の異世界デート譚」、最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 最初にお伝えしておきますと、この物語はもちろん「Re:ゼロから始める異世界生活」をベースにさせていただいております。もっと言うと、一部の登場人物と一部の設定を、ナイショでお借りしております。スミマセン……。

 この物語を思いついたのは、メイドのコスプレをしている可愛い女の子を、某所で目にしたことでした。その子がもし青髪だったら、そこに目つきの悪い少年もいたら……。そして何と、その場所のすぐそばには、結界が張られていない大きな森(?)まであったのです!

 かつて、その森の近くには、たくさんのコスプレイヤーの方々がいらっしゃったのですが、今ではもうその姿を見ることはほぼありません。まあ、知っている人は知っている場所だと思うのですが、あれ、何ででしょうね?
 あの日、あの場所で一体何があったのか、何かのイベントだったのか、彼女の個人的趣味だったのか、もしかしてもしかしたら本物だったのか……今となってはもうわかりませんが、「だから、あの日、たまたま彼女を見かけたのは、本当にラッキー」でした。

 実はちょうどその頃、とある物語を一つ書いている真っ只中で、途中、ちょっと行き詰まっていたところ、その女の子を見かけ、違うお話でも書いてみたらまたあっちも筆が進むかも、と安直に考えて書き始めたのが、この「異世界の異世界デート譚」です(ちなみに最初につけていた仮タイトルは「S&R、HJへ行くの巻」でした……)。
 その後、しばらくの間、その二つの話を行ったり来たりしながら書いていまして、大まかに書き終わったのが二つほぼ同時、まあ、少しだけこっちが後、って感じでした。そこからちょこちょこ手直しをして、ようやくアップにこぎつけました。ですから、正確には黒丸の二作目ではなく、1.1作目くらいな感覚です。
 
 そんなわけで、相変わらずネタが苦しい……。どことはいいませんが、そことそこ、あとあそことそれから……。ううう。そもそもどうやって「こちら側」に来て、どうやって「あちら側」へ帰すのか、それも二人も。そこらへんも悩みました。で、今の自分のレベルではこれが精一杯でした。とほほ(って今日日、聞かねえな……)。

 今回も変わらず青髪&双子ラブな内容ですが、一応お屋敷の女性陣は全員出ていますので、EMT&BMAの方々、どうかご容赦ください。
 
 「もう一つのエンディング」は、もしかしたらないほうが良かったのかもしれませんが、すごーく悩んだ末、つけたままにしました(せっかく書いたから、読んでもらいたい! と言う欲求に抗えませんでした……)。いらないと思う方は、本篇最後のところでおしまい、ってことにしといてください。

 あと、某所で告知させていただいた通り、R-18ではありません。ですが、オリジナルがR-15なのと、一応予告通りチューはしたので(?)、こちらも同様にR-15させていただきました。

 最後になりましたが、この物語にお付き合いいただいた皆様、お気に入りに入れてくださったり、評価をいただいたり、感想をいただけたり、本当にありがとうございました!

 ではまた!
2019年4月 黒丸〈Kuro Maru〉



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