異世界の異世界デート譚   作:Kuro Maru

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2.「小さな扉」

 その扉の存在に、最初に気づいたのはラムだった。

 

 ロズワール邸では、筆頭使用人のレム、そして彼女の姉のラムが文字通り屋敷全ての管理を任されていた。と言っても、そのほとんどの作業は妹のレムが行っており、肉体労働が苦手な姉のラムはその『補佐及びご意見番』的な立場だ。

 ラムが得意なのは野菜の皮むきとふかし芋を作ること。あとは彼女が『バルス』と呼ぶ少年を蔑むこと。妹のレムはそんな姉を上手に支えている。

 

 一日の作業の割り振りを終え、スバルは外回りの清掃と植木の剪定、レムは自分の作業以外のことをおこなっていた。ラム自身のその日の仕事は、屋敷に数多くある部屋の状態をチェックすることだった。

 

 西棟の一室ずつを見て回る。それにしても、この屋敷は広くて大きい。作業の割り振りをしているとはいえ——割り振りといっても、実質一人+アルファの作業なのだが——一日で全部屋の掃除とチェックはほぼ不可能。そこで、主棟と東棟、そして西棟に分けて、一日ごとに管理作業を行っているのだ。

 

 ラムのこの日のノルマ、西棟の最後の部屋にようやくたどり着いたのは、お昼の休憩時間を挟み、陽も傾きかけた頃だった。

 いつものことだが、今の所、特に異常は見当たらない。これはもちろんレムの功績なのだが、ラム自身は、自分のチェック能力の賜物でもあると、半分くらいは本気でそう思っていた。

 

——この部屋が今日の最後ね。

 

 四階の一番端の部屋の前に立ったラムは、その部屋に入る前に、廊下の窓から外を見下ろした。下ではスバルが庭の植木の剪定をしているのが見える。使用人見習いとして屋敷で働き始めた頃よりも、いろいろなところが随分マシになってる。それでも、ラムの評価は下の中くらいだ。

 

——あぁ、それじゃあ、せっかくの植木が見るも耐えない状態になってしまう。仕方がない、これが済んだら、バルスのところに行って……。

 

 そう思った時、レムがスバルのところに駆け寄ってきたのが見えた。

 

 とある事件をきっかけにして、レムはスバルにすっかりなついて——夢中になって——しまった。最近ではまるで子犬のように尻尾を振りながら、スバルの後をついて回っている。

 これで仕事が滞っているようなら大問題なのだが、レムは仕事をきっちりとこなした上で、スバルにべったりだった。これではラムも突っ込みようがない。

 

 おそらく今も、大急ぎで今日の分の仕事を早々に終わらせ、颯と外に出てきたに違いない。その様子を窓から眺めながら、ラムはついこの間までのレムのことを考えていた。

 

 自分に自信が持てず、引っ込み思案な傾向にある割には、先走って、一人でなんでも解決しようとしてしまうことの多かった双子の妹、レム。それが今では僅かながらも自分の意見を言いうようになり、常に姉であるラムの顔色を伺っている感じも少なくなった。何より表情が明るくなった。

 これはスバルがこの屋敷に来てからの一つの『成果』といえる。若干不満なのは相手がなんの能力も持たない、平凡で多少目つきの悪い男と言うことだった。

 

——ま、レムがいいなら、それはそれでいいわ。あとは変なことにならないよう、今のうちにバルスを軽く〆ておく必要があるかもしれないわね。

 

 ラムは、二人をしばらく眺めると、意識せずふっとその口元を緩めた。

 

 改めて、西棟四階の一番西側の部屋のドアの前に立つ。チェックするだけとはいえ、これだけの部屋数をチェックすると言うのも、なかなか体力のいる仕事だ。

 

——さっさと終わらせて、夕食準備の前に美味しいお茶を淹れよう。

 

 ドアのノブを回して中に入る。天井が高いその部屋には、メイクされていないベッドと、簡単なデスクセット、そしてやや大ぶりなチェストが設置されていた。豪華だが、無駄のない部屋。その部屋の結晶灯に破損がないか、窓の開け閉めができるか、それぞれを見てまわる。

 当然ながら、今日最後の部屋にも問題は、ない。自分がチェックしているのだから、あるはずがない。ベッドメイクするだけで、いつでも客人を迎入れることができる。

 

 そう思いながら部屋を出ようとした時。何か妙な感じがした。

 

——?

 

 もう一度部屋の中を見渡す。窓に何か付いているかと思ったが、そうでなない。天井も何も変わらない。ベッドも机も変わりはないようだ。チェストは——チェストの扉の部分に何かある気がする。引き出しが引かれているのだろうか? ラムは踵を返して部屋の奥に向かった。影に隠れている部分に、何か、茶色いものが見える。

 

 違和感はこれだった。

 

 正面に回ったラムの目に映ったものは、壁に鎮座した、小さな扉だった。

 

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