「こんな扉、ベティーは知らないのよ」
「お前が知らないなら、一体これは何なんだよ? 扉渡りの何かじゃないのかよ」
「さぁ? ベティーには全く関係のないことかしら? ロズワールはどこなのよ? あいつに聞いてみるのがいいかしら」
「ロズっちは、一昨日どっかに出かけたまま、あと何日か帰ってこないみたいだぜ? なぁ、そうだろ?」
「はい、スバルくん。ロズワール様がお戻りになるのは明後日の予定です」
「そもそも、だ。これ、いつからここにあるんだ?」
「何日か前に、レムがお掃除した時には気づきませんでした……」
「愚問ね。さっきも言った通り、ラムが気がついたのは今日の夕方よ、バルス。だからレムが掃除を行なった後から、今日にかけての間に出現したと考えて間違いないわ。そんなこともわからないの? ベアトリス様ならお分かりになるかと思って、バルスに頼んだ時に、もう理解しているものかと思っていたわ。本当に頭も悪ければ、目つきも悪い男ね。一度も二度も同じことを聞かないでちょうだい。時間の無駄だわ」
「ぐぅっ。一言言っただけで、こんなに長く辛辣な返事を返されるとはっ」
「誰もわからないとしたら、ロズワールに聞くしかないわね。それともドアを開けて入ってみる? スバル」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず。エミリアたん、得体の知れないものなのに、だ、い、た、ん。そのくせ入るのは何となく俺という、そのフラグ立ち系発言が、
「ふらぐ? いーけーえー? ごめん、ちょっと意味がわからない」
「どうしますか? スバルくん。レムが入ってみましょうか?」
「い、いや。まずは俺がドアを開けて覗いてみる。ギリギリ入れそうだしな。もし何かあったら、そん時のフォローよろしく!」
件の部屋の件の扉の前での井戸端、いや、ドア前会議はスバルが中をのぞいて確かめるという、誰でもが思いつく簡単な結論を出した。
第一発見者であるラムは、扉に気づいた時、とりあえずかがんでそのドアノブをひねってみたらしい。鍵がかかってるかもしれないと思ったが、そのドアは音もなく手前に開いた。高さ八十センチほどのアーチから見えるその先はすでに薄暗く、森のような場所ということしかわからなかった。
先日の魔獣騒ぎがあったので、一瞬身構えたが、特にはそのような気配はないようだ。だが、油断はできない。ラムはその扉をそっと閉めると、チェストを動かし、その扉を塞いだ。
その後、庭でレムといちゃついていた——そう言っても決して過言ではない——スバルを一喝、日が暮れる前に仕事を終わらせたあと、ベアトリスを見つけてもらって、今ここだ。
「よし! 中に入ってみる……いや、この場合、外になるのか?」
かがんでドアノブに手をかけるスバル。鍵はラムの言う通り掛っていない。そっとドアノブを回して、恐る恐る手前にドアを引く。
暗い。ラムが言っていた森はほとんど見えない。とりあえず飛び出してくるものはないようだった。四つん這いになったスバルは、そっと体半分ほどを扉の中に入れて、注意深く辺りを見回した。
月が出ているのだろうか、もやがかかったような木々が見える。森だとしたら、一体どこの森につながっているのか。よくみると遠くに小さく結晶灯が光っているのが見える。あそこは道なのか。それとも……。遠くから海鳴りのような『ゴー』っという音が聞こえる。
後ずさりしながら、一度みんなのいる部屋に這って戻る、と。
「おいおいおい。なぜに皆さん、そんな遠くに……部屋の隅っこに固まっていらっしゃるの? それって、なに? なんかあった時、俺の犠牲でみんなが助かる系? その結果、二階級特進で俺が家主になるとか、そう言う話?」
「バルスに何かあって、万が一、その二階級云々が適用されたとして、せいぜい庭師止まりよ。安心なさい」
「う……、こ、心が折れる……」
四つん這いのままがっくりとうなだれる、スバル。
「レムはここですよ、スバルくん」
すぐ横に、白いストッキングに包まれた綺麗な脚が見えた。
「レムだけだよ。なんかあった時に助けようとしてくれてるのは」
誰に言うわけでもなくそうぼやきながら、スバルは力なく立ち上がった。
「バルスの尊い犠牲のおかげで、ラムは勿論、エミリア様もベアトリス様も助かるなんて、男冥利に尽きると言うものよ、バルス。さぁ、レムも早くこっちに」
「まだ犠牲になってません! お姉様!」
「大丈夫です。スバルくんだけを犠牲にはしません!」
——じゃららん。
鎖の音とともに、トゲのついた重そうな鉄球が、レムの可愛い足元に出現する。
「レム、それ早い! まだ早い! まだ何も出て来てないし、何も起きてない! と言うか、なんで俺が犠牲になるのが前提なの?」
スバルは小さなドアを閉じて、小さくため息を一つ。
——さて、これは何だ? どこに繋がっている? 出た先が森には間違いない。ただ、結晶灯が見えたと言うことは未開の森ではなさそうだ。そして海鳴り……。
「海が見える森って、誰か知ってるか?」
顔を見合す、女性陣。隣のレムも、首を傾げて少し考えたあと、ゆっくりと横に振った。
「スバルくん、そのウミってなんですか?」
「あ、そうなの? 海、ないの?」
そう言って、再び小さな扉に目をやる。
「海鳴り——その、水の音みたいなのが聞こえたんだ。あと結晶灯の明かりも見えた。けど……」
ロズワール不在の中、また危険な状況になるのは非常にまずい。
「暗い状態で調べに行くのは危険だと思う。明日、明るくなってから、もう一度調べてみようと思うんだ。みんなはどう思う?」
「確かに、この暗さだと危険すぎますね。さすがはスバルくんです。エミリア様やベアトリス様、姉様のことをいつも考えてくれているんですね」
「違うわ、レム。ただ怖いだけよ。そうよね、バルス」
「う……。全否定できないのが、く、くやしい……」
「まあまあ。私もスバルの意見に賛成。明るくなってからの方がいいと思う」
とりあえず、全員の意見が一致した。