異世界の異世界デート譚   作:Kuro Maru

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5.「困惑」

 スバルは激しく混乱していた。ありえない。ありえないはずだ。

 

 だが、実際目の前にあるもの。それはスバルが生まれ育った場所に、スバルが生まれた時にすでに存在し、スバルもよく知っているものだった。

 

「れ、れむ……」

 

「は、はい、スバルくん……」

 

「こ、ここは……お俺、帰ってきたのか? 戻れたのか?」

 

「戻れた? もしかしてここは、スバルくんの……」

 

「そんなはずは……夢か、もしかして。夢なのか? れむ? レム! レム、お前は本物か?」

 

 戸惑いを隠せないスバルにレムは、

 

「落ち着いてください、スバルくん! レムはここにいます。レムです。スバルくんのレムはここです!」

 

 混乱しているスバルの胸に飛び込んで、体を抱きしめると、顔を見上げてそういった。

 

「れ、レム……」

 

 ちょうどその時。

 

——パシャッ! パシャッ!

 

 レムに突然抱きつかれ、困惑気味のスバルの耳に、聞き慣れた音が飛び込んできた。ついで、

 

「ねえ、あれ! みてみて!」「おお、あれはなんてアニメ?」「女の子、かわいいな!」「男の方、いまいち」「——」「——」「——」

 

 いつの間にか、周りを人が囲んでいる。レムはもちろんいつものメイド服、スバルはといえば、これまたいつもの執事服。どう見ても、使用人とメイドによる、コスプレ色恋沙汰劇場だった。

 

「げげげっ!」

 

 スバルはさっとレムの手を取ると、さっき来た森林——もとい、由々木公園の奥へと走った。

 

「おお、愛の逃避行!」「駆け落ち? 駆け落ち?」

 

 そんな言葉が背中から聞こえてくる。

 

——うるさい! うるさい! も、もうかんべんしてくれ!

 

 しばらく走って、ようやく人影のない場所まで来ると、両手を膝に置き、

 

「と、とりあえず、落ち着こう」

 

 そう言って、呼吸を整えた。

 

 すぐそばに、例の扉が見えている。レムは、全く訳がわからない、という顔をしている。無理もなかった。スバル自身も、この状況が把握できていないのだ。

 

「レム、大丈夫か?」

 

「はい。スバルくん。あの、ここは、もしかして、スバルくんの……」

 

「ああ、そう。そうだと思う。いまいち自信はないけどな」

 

 とりあえず、扉の反対側——正しければ駅とは反対方向——に行ってみよう。

 

 レムと手を繋ぎながら、先ほどとは反対の方角に進んだ。が、百メートルもいかないうちに、

 

「ぶべっ!」

 

 何か固いものに顔をぶつけて、うずくまるスバル。

 

「つぅーっ、なんだ?」

 

「す、スバルくん」

 

 見上げると、レムがパントマイムのようなことをしている。

 

「何やってんだ?」

 

 スバルは立ち上がりながら、レムが手を伸ばしている場所に、自分も手を伸ばした。

 

「!」

 

 壁があった。正確には、透明な、何かがあった。

 

——な、なんだ、これ?

 

 叩いてみても、返ってくるのはその感触だけで、音も何もない。

 

「ドーム? か?」

 

「どーむ? なんですか? スバルくん」

 

「ああ、前に読んだんだ。王様の名前が付いている人が、書いた本。透明なドームって呼ばれるものにすっぽりと覆われて、外から隔離される話」

 

「王様の名前……?」

 

「でも、車も走ってた。人もいた。木も切られていない。これは俺とレムだけに干渉しているのか」

 

「くるま?」 

 

「ああ、後で説明するよ。とにかく、だ」

 

——相変わらず状況が読めないが、こっちにはもう進めなさそうだ。逆側はいったいどこまで? 行って、みるか。ああ、携帯を持って来ればよかったかな。取りに戻るか。でも、

 

「レム。時間がないかもしれないし、ここはひとつ、さっきの方角に戻ろうと思う。どうかな?」

 

「はい、スバルくん。レムはスバルくんが行くところなら、どこまでも!」

 

「さんきゅ。心強いぜ。さて、問題はこのドームが……」

 

——ドーム、んー、ドームねぇ。俺ならそうだな。ああ、そうだ。前にどこかで観た話に、そういう話があった! たしか、あれは——。

 

「ゾーン……。うん。ゾーンだな。ゾーン。そっちの方がしっくりくる。そう命名しよう。このゾーンがどこまであるのかっていうのが、いちばんの問題だ。そして、だ。レム——」

 

 スバルはレムの顔をじっと見つめた。その眼差しに顔を赤らめる、レム。

 

「はい、スバルくん?」

 

 続けて、彼女の肩に両手を置くと、ニカッと笑ってこう言った。

 

「腹、減ってない?」

 

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