はたと気付くと、またしても人だかりが出来つつあった。使用人とメイドの初体験・コーラ篇、絶賛公開中。
——うげ!
あわてて自動販売機から離れるスバルとレム。早足で人だかりから遠ざかりながら、ポケットから例のカードを取り出す。
「うーん。このカード、魔法のマネーカードか?」
「スバルくん、そのカードは……」
「ああ、ここに来る前にベアトリスにもらったんだ。ただ、これが何なのか、ベアトリスも知らなかったみたいだ。俺も、まさかこれが電子マネーだったなんて、思いもしなかった……いや、電子マネーじゃないとは思うけど」
「それ、光ってますね。何か書いてあるみたいですけど」
「レム、読める?」
「いえ、レムにも読めません。どこの文字でしょうか? そもそも文字なんでしょうか?」
「レムにもわからないんじゃあ、お手上げだな。が、しかーし!」
横を歩きながら、レムがスバルの顔を見上げる。
「レム。この機を逃す手はないぜ。せっかくだから」
「はい? せっかくですから?」
スバルは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、
「たこ焼き、食おうぜ!」
歌うようにそう言った。
「えっ!」
レムの顔がパッと明るくなる。
「そそ。このカードが使えるたこ焼き屋、絶対あるからさ!」
「そ、それはレムも楽しみです! さすが、スバルくんは素敵です!」
「いや、この場合、カードをくれたベア子が素敵なんじゃないか、な?」
スバルは、お目当の店を探し当てると、
「レム、あったあった! ここなら使えそうだ!」
スバルが鼻歌交じりで、開いた窓の中に声をかける。
「すみません、たこ焼き一つ、いや、二つ欲しいんですけど、あの、ここって電子マネー使えますか?」
そんなスバルをよそに、レムは、その小部屋の中で行われている作業に、心を奪われていた。
これは、調理、の一種だとは思う。いくつも穴の開いた大きな鉄板に、液体のようなものが流し込まれていく。じゅーっと音とともに、香ばしい香りが立ち上る。すかさず、何か大きなダイスのようなものが次々と投入されて、最後にスパイスと思しきものが数種類、ぱらぱらと振りかけられる。
すごいのはここからだった。料理人が手にしている、手のひらサイズのレイピアでその穴を抉ると、そこにまあるい物体が次々と姿を現していく。それがいくつもいくつも、面白いように出来上がっていく。くるくる。くるくる。
窓枠に手をかけ、被り付きで見ていると、
「レム、子供みたいだな」
笑いながらスバルが言った。
「スバルくん、すごいです! こんな調理をレムは見たことがありません!」
「たしかに、おもしろいよな、これ。でもな、味はもっとすごいぞ!」
小さなレイピアで、次々とまあるいものを拾い上げ、手際よく皿に乗せていく料理人。ちょうど六個乗ったところで、今度はソースとマヨネーズが絵を描くようにかけられていく。最後は何か、薄っぺらな木のクズのようなものをふわっと乗せると、
「おまたせ!」
料理人がそう言って、スバルとレムに、皿を差し出した。
「さあ、そこのベンチに座って食べようぜ!」
店の前のベンチに仲良く腰掛けると、スバルはたこ焼きの一つに爪楊枝を刺して口に運んだ。
「あふっ! あふっ! ほっ、ほっ」
隣でその様子をじっと見つめる、レム。
「おふっ。ろうした? うまいお」
スバルの顔と手元の皿を交互に見ながら、何かを躊躇している。
「ん? ああ、ほっか、そっか。大丈夫だ、レム。さっきみたいなことにはならないから。ただ、中が熱々だから、一気に口に入れないで、冷ましながら、ちょっとずつ、な」
スバルの言葉に納得したのか、レムは皿から一つ刺して取り上げると、恐る恐る口に運んだ。
「あふ。あふ……」
ふーふーしながら、ちょっとずつ口にするレムの顔が、可愛くて。ついつい見とれてしまう。ようやく一個食べ終わると、
「す、スバルくん。レムは今決めました」
「え? なにを?」
「ロズワール邸の食卓に、タコヤキを導入することを、です!」
「おお、そんなに気に入ったか!」
「はい! こんな料理を口にするのは、初めてです! レムは、レムは感動しました!」
「だろ? さ、冷めないうちに喰っちまおうぜ!」
ふーふーと冷ましながら、たこ焼きを口にする二人。最後の一つを食べ終えると、
「ではスバルくん、行ってまいります」
「は? どこに?」
「こちらの厨房に弟子入りさせていただいて……」
「え? あ?」
一体何を言っているのか、理解するのに、ちょっと時間がかかって、
「で、弟子入りって! おまえ……。あー、あの、レムさん。道具があれば、俺、作れるから」
「えっ? スバルくんはあの技を習得しているのですか?」
真面目に聞かれると、赤面してしまう。
「技って。いや、そんなすごくねぇよ。まあ、あのたこ焼き器がなきゃできないけど。あれ、もしどこかで買えたら、買って帰ろう」
レムは、スバルのそんな一言一言にいちいち顔を輝かせて、
「はい! スバルくん! さすがスバルくんは素敵です!」
「だから! そんなにすごくないんだって!」
だんだん漫才のようなやり取りになって来る。
その二人をじっと見つめる目があった。だが、すっかりたこ焼きに夢中になっていた二人は、それに気づくことができなかった。