異世界の異世界デート譚   作:Kuro Maru

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7.「まあるいもの」

 はたと気付くと、またしても人だかりが出来つつあった。使用人とメイドの初体験・コーラ篇、絶賛公開中。

 

——うげ!

 

 あわてて自動販売機から離れるスバルとレム。早足で人だかりから遠ざかりながら、ポケットから例のカードを取り出す。

 

「うーん。このカード、魔法のマネーカードか?」

 

「スバルくん、そのカードは……」

 

「ああ、ここに来る前にベアトリスにもらったんだ。ただ、これが何なのか、ベアトリスも知らなかったみたいだ。俺も、まさかこれが電子マネーだったなんて、思いもしなかった……いや、電子マネーじゃないとは思うけど」

 

「それ、光ってますね。何か書いてあるみたいですけど」

 

「レム、読める?」

 

「いえ、レムにも読めません。どこの文字でしょうか? そもそも文字なんでしょうか?」

 

「レムにもわからないんじゃあ、お手上げだな。が、しかーし!」

 

 横を歩きながら、レムがスバルの顔を見上げる。

 

「レム。この機を逃す手はないぜ。せっかくだから」

 

「はい? せっかくですから?」

 

 スバルは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、

 

「たこ焼き、食おうぜ!」

 

 歌うようにそう言った。

 

「えっ!」

 

 レムの顔がパッと明るくなる。

 

「そそ。このカードが使えるたこ焼き屋、絶対あるからさ!」

 

「そ、それはレムも楽しみです! さすが、スバルくんは素敵です!」

 

「いや、この場合、カードをくれたベア子が素敵なんじゃないか、な?」

 

 スバルは、お目当の店を探し当てると、

 

「レム、あったあった! ここなら使えそうだ!」

 

 スバルが鼻歌交じりで、開いた窓の中に声をかける。

 

「すみません、たこ焼き一つ、いや、二つ欲しいんですけど、あの、ここって電子マネー使えますか?」

 

 そんなスバルをよそに、レムは、その小部屋の中で行われている作業に、心を奪われていた。

 

 これは、調理、の一種だとは思う。いくつも穴の開いた大きな鉄板に、液体のようなものが流し込まれていく。じゅーっと音とともに、香ばしい香りが立ち上る。すかさず、何か大きなダイスのようなものが次々と投入されて、最後にスパイスと思しきものが数種類、ぱらぱらと振りかけられる。

 

 すごいのはここからだった。料理人が手にしている、手のひらサイズのレイピアでその穴を抉ると、そこにまあるい物体が次々と姿を現していく。それがいくつもいくつも、面白いように出来上がっていく。くるくる。くるくる。

 

 窓枠に手をかけ、被り付きで見ていると、

 

「レム、子供みたいだな」

 

 笑いながらスバルが言った。

 

「スバルくん、すごいです! こんな調理をレムは見たことがありません!」

 

「たしかに、おもしろいよな、これ。でもな、味はもっとすごいぞ!」

 

 小さなレイピアで、次々とまあるいものを拾い上げ、手際よく皿に乗せていく料理人。ちょうど六個乗ったところで、今度はソースとマヨネーズが絵を描くようにかけられていく。最後は何か、薄っぺらな木のクズのようなものをふわっと乗せると、

 

「おまたせ!」

 

 料理人がそう言って、スバルとレムに、皿を差し出した。

 

「さあ、そこのベンチに座って食べようぜ!」

 

 店の前のベンチに仲良く腰掛けると、スバルはたこ焼きの一つに爪楊枝を刺して口に運んだ。

 

「あふっ! あふっ! ほっ、ほっ」

 

 隣でその様子をじっと見つめる、レム。

 

「おふっ。ろうした? うまいお」

 

 スバルの顔と手元の皿を交互に見ながら、何かを躊躇している。

 

「ん? ああ、ほっか、そっか。大丈夫だ、レム。さっきみたいなことにはならないから。ただ、中が熱々だから、一気に口に入れないで、冷ましながら、ちょっとずつ、な」

 

 スバルの言葉に納得したのか、レムは皿から一つ刺して取り上げると、恐る恐る口に運んだ。

 

「あふ。あふ……」

 

 ふーふーしながら、ちょっとずつ口にするレムの顔が、可愛くて。ついつい見とれてしまう。ようやく一個食べ終わると、

 

「す、スバルくん。レムは今決めました」

 

「え? なにを?」

 

「ロズワール邸の食卓に、タコヤキを導入することを、です!」

 

「おお、そんなに気に入ったか!」

 

「はい! こんな料理を口にするのは、初めてです! レムは、レムは感動しました!」

 

「だろ? さ、冷めないうちに喰っちまおうぜ!」

 

 ふーふーと冷ましながら、たこ焼きを口にする二人。最後の一つを食べ終えると、

 

「ではスバルくん、行ってまいります」

 

「は? どこに?」

 

「こちらの厨房に弟子入りさせていただいて……」

 

「え? あ?」

 

 一体何を言っているのか、理解するのに、ちょっと時間がかかって、

 

「で、弟子入りって! おまえ……。あー、あの、レムさん。道具があれば、俺、作れるから」

 

「えっ? スバルくんはあの技を習得しているのですか?」

 

 真面目に聞かれると、赤面してしまう。

 

「技って。いや、そんなすごくねぇよ。まあ、あのたこ焼き器がなきゃできないけど。あれ、もしどこかで買えたら、買って帰ろう」

 

 レムは、スバルのそんな一言一言にいちいち顔を輝かせて、

 

「はい! スバルくん! さすがスバルくんは素敵です!」

 

「だから! そんなにすごくないんだって!」

 

 だんだん漫才のようなやり取りになって来る。

 

 その二人をじっと見つめる目があった。だが、すっかりたこ焼きに夢中になっていた二人は、それに気づくことができなかった。

 

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