異世界の異世界デート譚   作:Kuro Maru

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8.「強襲」

「さてと、次は」

 

 使い捨ての容器をゴミ箱に捨てながら、レムに話しかける。

 

「レム、さっきの話だけど、たこ焼きの……レム?」

 

 レムは真剣な面持ちで、どこか違う一点を見つめていた。

 

「どした? 何か、何かあるのか?」

 

「スバルくん」

 

 一瞬、スバルに緊張が走る。

 

「うん、なんだ?」

 

「あれは一体なんですか?」

 

「あれ?」

 

 レムの目線を追って、スバルもそこに集中する。が、スバルには何の気配は感じられない。唯一見えているのは——三十一という数字が書いてある看板だった。

 

「ん? もしかして、アイス? アイス食べたいのか?」

 

「あいす? って言うんですか? まあるい、あの」

 

「レム。今、たこ焼き食べたばっかりだよな。まだ食うの?」

 

「あれは、あのまあるいのは、美味しいものですか? スバルくん。も、もしかして、あの技もスバルくんは」

 

「ないない! アイスなんて作れ……るかもしれんが、三十一種類も作れるわけがない! それに、あんまり食うと腹壊すぞ」

 

「で、でも、な、何か新しいお料理のひらめきが……」

 

 よくわからない理由を口にして、アイス屋から目を離さないレム。

 

「ああ、わかった。わかった! じゃあ、後で、一個だけな」

 

「絶対、ですか?」

 

「ああ、絶対。忘れないから」

 

「絶対の絶対ですか?」

 

「絶対の絶対! って、どこかでこのやり取り、しなかった?」

 

 さあ、と、レムの手を引いて、アイス屋の前を通り過ぎる。だが、ケースの中にはたくさんの種類が並んでいて——。

 

「す、スバルくん、こんなたくさん、色とりどりで! どうしましょう? どれにしましょう?」

 

「あとで、な。あとで」

 

「で、でも……」

 

「わかった。わかったよ。どれがいい?」

 

「ひとつだけ、ですよね」

 

「ひとつだけ。それで我慢しとけ」

 

「ど、どれにしましょう」

 

「そうだなぁ。俺がひとつだけ選ぶとしたら、チョコミント! と言いたいが、さっきのコーラのこともあるし。んー、抹茶も捨てがたい……だがここは基本のバニラって考え方も。むむむ」

 

 かなり真剣に悩むスバル。

 

「うん! ここは定番のチョコレート、君に決めた! って感じでどかな?」

 

 早速コーンに乗ったチョコアイスを口にする、レム。にっこりと嬉しそうに微笑む顔が本当にかわいい。スバルの顔が思わず顔が赤くなる。

 

「あー、こ、こほん。レム 、あの、それで最後に——」

 

 スバルが言い終える前に

 

「す、スバルくん! あれはなんですか? あの薄い皮で包んだ……」

 

 質問が飛ぶ。

 

「うん? なに? もしかして、クレープ?」

 

「くれーぷ? あの白いふわふわと果物が巻かれている、あの」

 

「レムさんや」

 

「あれは、美味しいものですか? スバルくん。も、もしかして、あの技もスバルくんは」

 

「ないない! 流石にクレープはできない!」

 

 目にするものすべてに反応するレム。めんどくさくも、それもやっぱり可愛くて。スバルは、アイスを舐めながら歩くレムの質問すべてに、いちいち、丁寧に説明をして歩いた。

 

 ちょうどレムの手のアイスが無くなったタイミングだった。不意に、大きな影が二人の前を塞いだ。

 

「!」

 

 ガタイのいいスーツ姿の男が、二人の前に前に立ちはだかっていた。一瞬身構えるスバル。レムもスバルの手を取って、緊張を走らせた。

 

 大男の部類に入るだろう。スバルよりも頭一つ半は背が高い。見上げると、黒縁のメガネの奥から、黒い瞳がレムを見下ろしている。堅気の商売ではなさそうだ。ヤクザか? それともあるいは——。

 

「あ、あの、そんなに緊張しないでもらえるかな?」

 

「え?」

 

「えーと、あなた。そう、あなた。今、どこか事務所に所属してたりするのかな?」

 

 そのガタイとは裏腹な、柔らかな声が、その口から発せられた。

 

「いやぁ、ずっとあなたを見てまして。ああ、僕はこういうものです」

 

 優しい目でそいういうと、レムにさっと名刺を差し出す。受け取るべきかどうか躊躇するレムにの代わりに、スバルが横から手を伸ばした。

 

「——事務所? え?」

 

「もし、フリーなら、ちょっと話をさせてもらえないかな?」

 

「え? いや、あの」

 

「ああ、君には聞いてないんだ。僕が用があるのは、彼女の方。もし用がなければ、先に帰ってくれるかな?」

 

 途端にその声のトーンをガラリと変えて、男がそう言った。さっきの優しい目が嘘のように冷たくなっている。

 流石にカチンときたスバルは、その男を睨み付けると、

 

「なにを——」

 

 そう言いかけた途端、ばばばっと、五、六人の男が——そして女性も二人ほど——、二人を、いや、レムを取り囲んだ。

 

「まったまった。この子はこちらが先に——」「いや、俺が最初に目を——」「俺が——」「うちの事務所で——」

 

 人数がどんどん増え、レムを囲む輪もどんどん大きくなる。そしてその輪から、スバルだけがはじき出されて——。

 

——やばい! このままじゃ、このままじゃ、

 

 レムに手を伸ばそうとするが、手が届くどころか、その輪にすら入れない。

 

——このままじゃ、こいつらが危ない!

 

 そう思った瞬間だった。

 

「あー、ごめんなさい。うちの子がー。ちょうど衣装チェックとカメラテストの最中でー。もういいですかー? ごめんなさいねー」

 

 声がした。その声の方を見ると、若い女性がレムの腕をとって、輪の中から抜け出してくるところだった。女性はレムを抱えるようにして歩きながら、スバルに近づいた。そしてスバルの耳元に顔を近づけると、

 

「君、彼氏? いくわよ! さあ!」

 

 そう囁いた。

 

 訳が分からず、とりあえずスバルもその後をついて行く。 ——数分後、三人は近くの建物の一室にいた。

 

「ああいううるさい輩は、無視するのが一番なの。少しでも戸惑ったり、迷うそぶりを見せると、どんどん調子に乗ってくるから」

 

 その女性は、そう言って二人を見ると、楽しそうに笑った。

 

「それにしても、ものすごい数だったわね。今時珍しい。あんなの、久しぶりに見たわ」

 

 スバルの頭の中には、疑問と疑惑が渦巻いていた。そんなスバルの表情に気づいたのかレムがそっとスバルの袖をつかんだ。スバルは、レムのその手に自分の手を重ねて、ようやく口を開いた。

 

「レム、大丈夫だったか?」

 

「はい、レムは全く。それよりスバルくんは……」

 

「ああ、俺は大丈夫。まあ、おまえがブチ切……いや、レムが無事だったら、いいんだ」

 

 ちょっとホッとしてレムの顔を見つめる、スバル。

 

「怖い思いを——したかどうかは、ちと疑問だが、とにかく嫌な思いをさせて悪かった」

 

 そこで一旦言葉を切って、

 

「んで」

 

 再び女性の方に向き直ると、

 

「あの、お姉さんは……誰?」

 

 そう聞いた。

 

「え? ああ、ごめん、ごめんね」

 

 私、こういうものです。彼女はそう言いながら、机の上のケースから一枚のカードを取ると、スバルに丁寧に手渡した。

 

「スタイリスト? 三宅真由美、さん。三宅さん?」

 

 スバルは、誰か知っている人だったかな、と思い、

 

「すたいりすと?」

 

 レムは可愛らしく首をかしげる。

 

「ああ、それ。たまたま名字が一緒なだけだから、気にしないで」

 

「は?」

 

 なにを言っているのかわからず、キョトンとしていると、

 

「あー、わからないなら、いいのいいの。私のことは真由美でいいわ。ところで、お二人のお名前を教えてもらえる?」

 

 スバルとレムは思わず顔を見合わせた。

 

「ぼ、お、俺は菜月昴。野菜の菜に月、下は星の昴。こっちはレム。えーと、その」

 

——どう説明したらいい? レムって言ったって……

 

 そのスバルの表情を読んだ真由美は、

 

「君は菜月君。彼女は、れむちゃん? 怜夢ちゃんね。ふうん……苗字は内緒、なのかしら? ううん。いいのいいの。初めまして。よろしく! 菜月君、怜夢ちゃん!」

 

 そう言って手を差し出した。勢いに気取られて、思わずその手を取るスバル。

 

 その横で、丁寧にお辞儀をする、レム。

 

 勢いに押されてつい名乗ってしまったが、とりあえず問題はなさそうだ。レムのことも、勝手に納得しているし、これもクリアってことだろう。名前を脳内で漢字変換されていることは、まったく思いもしていなかった。

 

 そんなスバルを気にも止めずに、真由美はレムに矢継ぎ早に話しかける。

 

「瞳の色も、髪の色も、とても綺麗ね。カラコン、じゃないわよね。怜夢ちゃん、あなた、ハーフ? それにその髪。カラー? マニキュア? どっちにしても、ずいぶん艶があってしなやかね。まるで地毛みたい。どこでやったの? お手入れは?」

 

「え、え?」

 

「えええっ! まさか! 怜夢ちゃん、もしかして、これすっぴん? な、なんてこと! すっぴんでそんな! あなた、幾つ? 十七? そもそも、なんでこんな赤ちゃんみたいな肌なの? こ、これは。怜夢ちゃん、あなた、ある意味女の敵ね……」

 

「あ、あの、マユミ様……?」

 

「これはシルク? ううん、これは、これは何? シルクみたいにツヤがあって滑らかだけど、もっと丈夫な、他の何か、ね。ね、これ、素材は何? 何で出来ているの?」

 

「そ、その……」

 

 レムはスバルの顔を見て、助けを求めた。

 

「あー、おね、真由美さん?」

 

 割って入るスバル。

 

「まず先に、この状況を説明して欲しかったりするんだけど。いや、あの人混みの中から俺たちを助けてくれたのはありがとうございます、なんですけど、その、ここ、どこ?」

 

「あー、ごめんごめん。ここは私の個人オフィス。さっき渡した名刺の通り、私、スタイリストなのよ。あー、まだアシスタントを卒業したばっかり、だけど」

 

 最後の方は若干小さい声で、真由美が続ける。

 

「ずいぶん騒がしいから、何かと思って窓から外を見たの。そしたら妙な人だかりができていて、よく見るとコスプレカップルが困っていらっしゃるじゃない? 私、これでも一応業界人だし、ああいう人たちのあしらい方はよく知ってるし。それに……」

 

 急に、

 

「そ、それに?」

 

 真剣な眼差しで、

 

「教えて欲しいことがあるの——」

 

 真由美が言った。

 

「な、なにを——」

 

——お、教えるって、い、いったいなにが知りたいん……

 

「——そのメイド服、どこで手に入れたの?」

 

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