咲異録~鏡花水月~   作:璃空埜

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第1局 狙撃主といたずら悪童と竜巻迷子と澄んだ月-①

side 澄夜

ささっと身支度を整え、軽く欠伸をしつつ1階にあるリビングに入るとすでに何かが焼けるいい香りがした。

その香りに誘われるようにキッチンに向かうと現在、我が涼月家の大黒柱の代わりでもある長姉、涼月 朝日が丁度料理を皿に出し終えたところだった。

 

「おはよう、朝日姉ちゃん」

「おっす、澄夜。星莉奈と久が降りてくる前に何かどたばたしていたがなんかあったんか?」

「ああ…。ちょっと星莉奈姉ちゃんにダイブされて起こされただけだよ」

「あいつ……。はぁぁあ、もう立派な社会人だってのにあいつの子供っぽいところは何とかなんねぇもんかなぁ…。同じ双子の星魅を見習えってんだ」

「はは……。ま、まぁ、その元気さが星莉奈姉ちゃんの良いところだと僕は思うよ」

「……相変わらずおめぇも甘いな」

「あはは……」

「…まァいい。おめぇの優しさは天下一品だもんな。その優しさは大事にしろよ」

「わかった。ありがと、朝日姉ちゃん」

「礼はいい。それよか、今だしたハムエッグ、テーブルに運んどいてくれ。ついでに星魅にも声をかけとけ」

「了解」

「…さて。星莉奈をしばいて来るとするか……」

 

……最後のは聞かなかったことにして。

頼まれたハムエッグ二つをテーブルに置いたところでどこからか星莉奈姉ちゃんの悲鳴が聞こえたような気がしたが気のせいだろう。

それより、星魅姉ちゃんを探さないといけない。

丁度、久がちょこんと待っているし聞いてみるか。

 

「なぁ、久。星魅姉ちゃんは?」

「星姉さん?さっき“黎明”の方に行ったわよ」

「わかった。それならいつものとこか…」

「そういえば、なんか莉奈姉さんの悲鳴が聞こえたような気がするんだけど?」

「さぁ、気のせいなんじゃないかな」

「……大方、朝姉さんの折檻を受けたのだろうけど…。

関わらない方が良さそうね」

「その方がいいと思うよ。じゃあ、僕は星魅姉ちゃんを呼んでくるよ」

「は~い」

 

僕はリビング中央にある引き戸を開き、隣の雀荘喫茶店“黎明”に入った。

この雀荘喫茶店“黎明”は現在、世界を飛び回っている両親が双子の星姉ちゃん達が生まれたぐらいの頃に始めたらしい。最初は両親が切り盛りしていたんだけど朝日姉ちゃんが高校卒業した頃ぐらいから子供達に店を任せるようになった。現在は朝日姉ちゃんと星魅姉ちゃんが主に切り盛りしている。といっても僕自身ここにちゃんと身を置き始めたのは中学3年のときだったりするんだけどね。因みにそれまでは両親、久と一緒に日本全国を飛び回っていた。その際、各地で友人達と麻雀をしたのは、今でも大切な思い出だ。

……みんな、元気かなぁ…。

 

「っと……過去を思い返してる場合じゃないや」

 

まぁ、といっても探し人はもう目の前にいるんだけどね。

 

「星魅姉ちゃん、朝御飯の時間だよ~」

「そう、わかったわ」

 

星莉奈姉ちゃんとは対照的にとても静かな双子の末姉の片割れ、涼月 星魅(ほしみ)は、何台かある電動卓の1つに牌を並べ何か考えていた。

星魅姉ちゃんが麻雀で悩むってのは珍しくない。実際、我が家は一家全員、何かしら麻雀に関わっている。まず、両親はプロではないが世界トップの実力を持っている雀士だし、朝日姉ちゃんは麻雀の試合の解説者や高校や中学に赴いて新人雀士の育成をしている。今はもう仕事に出た姉、夕羅姉ちゃんは日本代表にも選出されたことのあるベテランプロ雀士であり、星莉奈姉ちゃんもここ最近デビューしたばかりだけど今後の期待も大きい大型新人プロ雀士。ここにはいない結婚済みのもう一人の姉も元プロ雀士としての経験をいかし、どっかの高校で麻雀部の副顧問をしているらしい。そして、久や僕も中学では麻雀部に所属こそはできなかったが、夕羅姉ちゃん曰く、高校麻雀界でもトップクラスの実力があるとのこと。そんな中で星魅姉ちゃんは雀士達のレポートをまとめ、プロ雀士の有力ドラフト候補をあげたりする仕事をフリーでしている。そのためか、よく家の麻雀卓を使って気になった人の打ち筋等の確認に使うことが多い。その際、僕や久も協力することが多い。

 

「ねぇ、澄」

「うん?」

「連続して和了、しかも1回1回点数が上がっていく打ち方って可能かしら?」

「連続和了でしかも点数が上がっていく……?……うーん……。……そんな人がいると仮定するなら、対局相手の持ち牌、捨て牌を正確に把握する。それだけじゃなくて、場を支配できるような強運を持ってないと出来ないんじゃないかな……」

「やっぱりそうよね……。ねぇ澄」

「?」

「もしその子と対局したら“真似”できる?」

「……その人の技量によりけりかな」

「わかったわ。……私も噂程度でしか聞いていないのだけれども、澄や久と同い年の子がこの連続和了するらしいの。それで、入学した学校は白糸台の可能性が一番高いとのことらしいわ」

 

白糸台高校と言うのは、”黎明“の近くにある校風が結構緩めなかなり大きな進学校で今日から僕と久も通うし、姉ちゃん達も通っていた。嬉しいことに麻雀に結構力をいれていて、星莉奈姉ちゃんを含めた何人かのプロ雀士を排出している名門古豪校だ。ただここ最近は新入部員に恵まれず、常に顔を出していた全国大会にすら出場できていないらしい。朝日姉ちゃんも何度か教えに行ってはいるんだけども、「ここ最近の部員は骨のある奴がいない」と嘆いていた。

 

「へぇ…それは面白そうだね」

「澄ならそういうと思ったわ。…対局したら早めに教えてね。かなりの逸材だからこのチャンスを逃したくないもの」

「わかったよ。話が本当ならかなりの強者だからね……。ありがとう、久にも話して探してみるよ」

「お願いね。さて…、それじゃご飯にしましょうか」

「ああ!」

 

**************

 

その後朝食を済ませ、(星莉奈姉ちゃんは真っ白に燃え尽きていた。…………南無)最後にもう一度身なりを整えてくると言った久と自分の荷物を持ち、先に家を出ると、外は満開になった桜並木から僕と久の入学を祝うかのようにたくさんの花びらが舞っていた。

綺麗だなーとそれを見ていると、

 

「…………」

 

いつの間にか目の前に褐色のロングコートを見にまとった赤髪の見知らぬ少女がいた。

 

「…………(じーっ)」

 

えーっと…何かとじーっと見られているような…。

 

「えと……おはようございます?」

「ん、おはよう」

 

いや、確かに各地で仲良くなった人達はたくさんいるけど、みんな顔を覚えるはずだし、実際この子は初顔なんだけど……僕、なんかやったっけ?

 

「…………ねぇ」

「な、なに?」

 

あっ!ちょっと待って!?もしかしたら成長してわからなくなっているなっている可能性が……!?

 

「甘いもの」

「ちょっ…まっ…!……はい?」

「甘いもの、ちょうだい」

 

……甘いもの……?……あぁ、そういうことか。

 

「あーっと…、ごめん。家の喫茶店、今日はちょっとした用事があって午前中は休みなんだよ。一応、午後3時ぐらいから開く予定だから」

「そう。じゃあ」

「……?」

 

 

「私を白糸台までつれていって」

「…………はい?」

 

 

****************

 

赤髪の少女ーー宮永 照はどうやら白糸台高校へ向かう途中、迷子になってしまいフラフラと歩いていたところでここの喫茶店を見つけ、偶然同じ学校の制服を着ていた僕を見つけたのだという。それを身支度を終えて出てきた久にも説明しーー何故かは知らないが少しムッとした目で見られた。なんで?ーー照、久と共にこれから通う白糸台高校に向かうことになった。

 

「とっても助かった」

「新入生同士助け合わないとね。……宮永さんも新入生?」

「……(コク)」

「ということは同級生ね。私は涼月久。んで、こっちの朴念仁は弟の澄夜。弟共々よろしく!」

「改めて、澄夜です。……というか、朴念仁はひどくないか……?」

「あなたはそれでいーの!」

「……さいですか……」

「こちらこそ改めて…。私は宮永照、よろしく。後、私のことは照でいい」

「分かったわ。よろしくね、照。私のことも久でいいわ♪」

「僕のことは澄夜でいいよ」

 

パパっと自己紹介を終えたあとは学校に向かってのんびりと歩きつついろいろ話し合った。特に、同姓なこともあってか久と照はすぐに仲良くなり……

 

「あら、ということは照も長野生まれなの?」

「…?"も"ということは?」

「僕や久も元々は長野出身なんだよ。…まぁ、そのあと親と一緒に日本全国を飛び回っていたんだけどね」

「びっくり。世界は広いようでいて狭い」

 

う~ん無表情な人なのかなぁ?あんまり驚いてるようには見えないけれど…?……いや、まて。ぴょこんとなった癖毛がぴこぴこ動いてる……。……なるほど、犬のしっぽと同じなのかな?

 

「ねぇ、澄夜」

「うん?」

「私のこと、じ~っと見てるけれど……何かついてる…?」

「あ、いや、何でもない。気にしないで」

 

やってしまった!つい、いつもの癖が……

 

「全く……。澄、その癖、何とかならないの?」

「申し訳ない………。」

「癖?」

「ごめんなさいね、照。この子、他人を結構じろじろ見るっていうちょっと困った癖があるのよ」

「……へんたい?」

「断じてちがうからね!?」

 

そんなことをぼちぼち話しつつ歩いているとようやく目的地が見えてきた。

 

「そろそろか……」

「さてさて、どんな高校生活が待ってるのかしらね~。いやはや、楽しみだわ~」

「そうだね。早めに昼寝ポイントを探しておかないと……」

「学食。甘いもの、いっぱいあるかな…?」

「……二人とも?ちょ~っと観点が違うんじゃないかしら?」

「いやいや、間違っていないよ。いい昼寝ポイントを早く見つけて、昼休みとか放課後時間あるときゆっくり寝たいじゃないか」

「いつでもどこでも寝れるのは澄だけよ……。ま、そのスペースはあたしも使わせてもらうのだけれどね」

「なんやかんや言っていても結局使うじゃんか……」

「気にしない、気にしな~い♪」

「甘いもの……」

「というか照さんや?会ったときからそうだったけどずっとそればっかだよね??」

「甘いものは……大切だよ?」

 

何故か、家の駄目な元気な末姉と重なって見えるのは……気のせいでありたい……

 

「ま、そんなことより早く行きましょ。入学式、始まっちゃうわよ?」

「……だね。まぁ、後々でもなんとかなるか」

「レッツゴー」

《せめてやるならもうちょっと明るく行こう(行きましょう)!?》

 

そんなこんなで僕らは、三人賑やかに白糸台高校の門に入っていったーーー

 

**************

 

side ??

ーーー校門の喧騒から少し離れた棟のある一部屋

「いた……」

「へぇ、あいつ早速女の子引っ掻やがったのか。ま、本人に自覚はないだろうがな」

「……なるほど、あれが先生の言っていた?」

「ふ~ん……。……ヤバい、ストライクかも……」

「そう、あたしの愚妹と愚弟さ。……もう一人の奴は知らないがな。後、愚弟を狙うんなら覚悟しな。あいつは天然の優柔鈍感タラシだからな」

「あらら……ちょっち手厳しいかな?」

「今は、そんな話をしてるわけではないでしょう?それより、あの子……もしかして……」

「うん?何か知っているのか?」

「ええ……。もう一人の女子……真意は定かではありませんが、噂の張本人……の可能性があります」

「ほほぉ……。つーことは、あれも期待株か?」

「はい、さらに闇情報ですが、経験は少ないのですが中々の腕前を持つ打ち手の情報もあります」

「そりゃぁ、楽しみだ……。こっちも教育のしがいがあるもんだぜ」

「…………先生。本当に…本当に彼らが?」

「ふっ……、愚問だぜ。部長さんよ、何せ……」

「何せ?」

「家の愚弟は確実にーーーー

 

ーーーーあたしやあいつよりも別格に強いからな」

 

**************

 

side 澄夜

入学式も無事終わり、早速僕らが此れから学校生活を送ることになる教室に案内された。因みに僕、照、久は三人揃って同じ1-Bに入ることになった。久は、「いやぁ……。偶然ってあるものなのね」って言っていたけれども、気心の知れた相手がいるって言うのは結構リラックスできるからいいって僕は思っている。にしても……

 

「どうしたの?照。なんか顔が少し青ざめてけど……?」

「……うかつだった…………」

「?」

 

各々がすでに何人かのグループを作り、賑やかになっている教室の窓際の席を確保した僕らだったが(因みに席順は僕が一番後ろの席で、左に照、前が久だ)何故か照が頭を抱えていた。こころなしか癖毛もしゅん…としなだれている。

 

「照?どうしたんだ?」

「……………この学校、すごく広い……」

「確かに広かったわね。1学年10クラスあるし、特別教室の数も凄かったし、その教室一つとっても軽~く50人以上入れるほど広いしね~。でも、それがどうしたの?」

「…………ちゃう」

「え……?」「うん……?」

 

「私が……迷子になっちゃう……」

 

《…………》

「…………」

《…………はい?》

「…………あ、でも澄夜と久がいるから……」

 

まさか……この子、素で重度の方向音痴!?今朝、迷ってきたって言っていたけど、慣れ不慣れ以前の問題なのか!!?

 

「あ~っと……。とにかく、久」

「……言われずともわかっているわ……」

「よろしく」

 

長年、ずっと一緒に過ごしていただけあり、久も同じ考えだったらしい。つまりは

《この子には……どちらかがついていないとヤバい》

ということである……。

もしかして一番おせわ……もとい、目をかけていないといけない子と出会っちゃったかなぁ…と久と顔を見合わせていると階段の方からコツコツとこちらにやって来る足音が近づいてきていた。

 

「お……。照、久。担任の先生、来たみたいだ」

「え………?」「そうなの?分かったわ」

「……照?」

「澄夜?えっと…足音なんて……」

「ん?……ああ、来てるっていったってまだ[西側3階の踊り場のところ]だから……もうちょt「まって!」……?」

「照?……あ」

「きこ……えてるの……?」

「うん。…まぁ、回りが賑やかだから集中しないと聞き取れないけれど」

「…………」「…あちゃ~…。素で会わせちゃった……」

 

…?なんか照が呆然として…………

………………あっ!?

 

「やっ!!照!?あの、これは……えっと……」

 

ヤバい!!これは……どう説明したらいいんだ!?

というか、もう教室の前に……あれ?この足音の感覚……聞き覚えが……

そうこうしている内に教室のドアがゆっくりと開いて姿を見せたのは……

 

「おはようございます。早速ですが皆さん、早く席について下さい」

 

……うぇっ?

「……えっ!?」

教室の空気もピタリと時が止まったかのように停止した。なにせそこにいたのは僕と久の姉にして、有名プロ雀士のーーー

 

 

ーーー《夕羅姉ちゃぁぁぁんっ(さぁぁぁん)<プロぉぉ>!!?》

 

 

その後、朝日姉ちゃんに聞いたのだが僕らのクラスの驚愕の一声は、白糸台高校中に響きわたっていたそうだ。

 

**************

 

「突然、驚かせてしまい申し訳ありません。しかし、わたくし、涼月夕羅は本日から1-B…つまりはあなた方の担任となります。新人故に何かとご迷惑をおかけすることがあると思いますが、よろしくお願いしますね」

 

驚愕の波もある程度落ち着いた頃に、僕の姉達の中で一番“猫を被っている”物静かな姉、涼月 夕羅がひっそりと自己紹介を終えた。どうやら、おしとやかなキャラで行くらしい……。

 

(おいおい……俺たちすっげぇ大当たりじゃぁねぇか!)

(雑誌でよく見ていたけど、やっぱり実物を見るとすっごく綺麗だよなぁ……)

(彼氏とかいるのかな?)

(ばっか……お前!前、いるって報道あっただろうが!)

(すごくスタイルいいね……)

(何か秘訣があるのかしら?)

(すごく綺麗な髪~。どんなシャンプー使っているんだろ?)

(スーツが似合ういい女かぁ……。あたしもそうなりたいなぁ……)

 

ああ……哀れだぁ……。十中八九、家にいるところを見たらきっと幻滅、というか理想が崩れ落ちるだろうなぁ……。とにかく、家にいるときはクラスメイトには会わせないようにしよ……。

クラスメイト達の夕羅姉ちゃんに対する羨望のひそひそ話を聞いて少し頭を抱えていると、夕羅姉ちゃんの一声からクラスメイトの自己紹介が始まった。

さて……どんな風に自己紹介したものか………。

というか、この席を選んだのは大正解だった。このぽかぽかとした日差しがとても心地よい……。………駄目だ、どんどん眠くなってきた………。

 

……………………よし、お昼寝たいm「てい」っふぅっ!?

 

……………………………………お腹に横から鋭い一撃が入って危うく大きな声が出るところだったがなんとか堪えた。

顔を上げると、任務完了とでも言いたげにちょっとどや顔をした照とそれによくやった!!とサムズアップで答えながらニヤニヤしている久がいた。

そのまま怨みを込めて見つめて見つめていると……

 

「次は、澄くんですね。こちらに」

 

僕の番が回ってきた。

………まぁ、いつも通り、パパっと済ませてしまおう。

夕羅姉ちゃんの声に返事を返し、教壇に立つ。その間に……

 

(澄くん?……誰だ?あれ)

(雑誌に乗ってた……彼氏さんじゃ無さそうだけど……)

(え?え?じゃあ、あいつ一体なにもん?)

(ヤバいよ!ヤバいよ!すっっっごいイケメン!!!)

(あれ?わたし、あの人どっかで……?)

(何!?何!?芸能人の人なのかな?)

(綺麗な銀髪……)

 

という、ひそひそ声が聞こえてきた。

まぁ、ここは隠し事はしないつもりだ。夕羅姉ちゃんにハンドサインで聞いたら、「いっていいよ」って口を動かしてたし。

 

「っと、初めましての人は初めましてかな?家の店に来たことある人とは初対面じゃないかもだけれど…。担任の涼月夕羅の弟の澄夜です」

(弟!?弟さんだって!?)

(確かに姉妹弟がいると言っていたけど、まさか同級生にいるとはね……)

(姉弟揃って美男美女!?羨ましいぃ~!!)

(店…………。あっ!?)

 

おお……いきなり大きな反応。そりゃ有名プロ雀士の弟ともなればこんなもんかなぁ。

そんなことを考えているとクラスの女子の一人が早速質問してきた。

 

「はい!はい!!涼月君、お店って言っていたけど……それって?」

「学校より少し離れた小川沿いに、“黎明”っていう喫茶店があるでしょ?あそk」「キャーーーー!!!」

「うおっ!?びっくりしたぁ……」

「待って!!まだよ!みんな!!!」

 

な、なんだなんだ?女性陣のテンションがいっきにあがって、立ち上がった人まで出てきたのだけれど……?

 

「そっ、そっ、そっそれ、それで……」

「ああ……」

 

なんか聞いてきた人もなんかどもっちゃっているし……

 

「それで……スイーツ、作られてますか…………?」

「そうだけど……?あ、よく家にスイーツを買いに来てくれる二丁目の奥さんが話していた「僕と同い年の娘」さんって君かな?雰囲気、特に目がそっくりだし。いつもありがとね。今度、感想でも………。あれ…………?」

 

なんか…………空気が……固まってる?

咄嗟に夕羅姉ちゃんのほうを見ると「引っ掛かった♪引っ掛かった♪」というかのような満面の黒い笑み。そして、つつーっ……と、冷や汗をかきつつゆっくり久の方を見ると…………

 

……………………“ドッキリ大成功!!”と書かれたノートをこちらに向け、清々しく綺麗な悪魔の笑顔を向けていた…………

 

嵌められたぁ!!と思ったと同時に再びーーただし今回は女性のみだがーー特大の驚愕、というよりは狂喜の一声が響き渡った……。

 

因みに、その声は白糸台高校の敷地を飛び越え、近隣住民の方にまで聞こえていなそうな……。

 

**************

 

side 久

「じ……じぬぅ…………」

嵐が過ぎ去り、机にぐったりと突っ伏した澄。

あぁ~やっぱ、澄のこの感じ。最高だわぁ~。やめられないわぁ~。やっばいわぁ~。結構童顔なだけあって困った顔はとにかくやっばいわぁ~。っばいわぁ~。

あの自己紹介の後、共犯の夕姉さんが笑いをこらえつつもみんなをなだめ、続きを再開したのだけれど女子達は完全に心ここにあらずな感じで進んでいった。(因みにわたしのときも澄程じゃなかったけど歓声は上がった)最後の子が終わり、夕姉さんが緒注意を一通り話して今日はそのまま放課後となったんだけど……。

 

ーーー夕姉さんが教室を出ていった瞬間、クラスの女子達が、雪崩のように澄のところにやって来たのだ。

 

巻き込まれないようにあたしと照は避難したんだけれど……澄は性格上、他人の好意を絶対に無下にしないのが災いして女子一人一人に対し、丁寧に応対していって、何とか全員帰ってもらって今に至る。

 

「……ひ…ざぁ……」

「あ~…。ちょっとやりすぎたかしら……」

「………か……げん……を……」

「…………(ちょんちょん)」

「…………?」

「どうかしたの、照?」

「甘いもの」

「Oh………………」

「照…さすがにそれは追い討ちよ……」

「先に帰って着替えてくる」

「じゃ、またあ…………。あー、一人で大丈夫?」

「う…………」

「仕方ないわね……。ケータイ、持ってるかしら?」

「うん。……でも、あんまり使わない」

「あるならいいわ。連絡先交換しましょ?」

「!いいの?」

「友達が迷子になったら助けてあげるのが普通でしょ?……ついでにそこで灰になりつつある子のも教えてあげるわ」

「……助かる。……登録って?」

「予想はしていたけどそこもなのね……。貸して、あたしがやるわ」

「ありがと」

 

照から携帯を受け取り、あたしと澄の連絡先を入力する。その時、隣の燃え尽きた人が「こ……じん……」とかなんとかぼそぼそ呟いたけど、どうせ後で自分から登録しに行っただろうし気にしない。

 

「はい、登録できたわ。今日はこの後十中八九、澄は忙しくなって手が回らなくなるだろうから、連絡はあたしにしてね」

「わかった。……ありがと。じゃ、またあとで」

「はーい。またね」

 

この後の澄の甘味が楽しみなのか、軽くスキップしながら照は教室を出ていった。

 

「…………良かった」

「……?」

 

ある程度復活したらしい澄が鞄を持ちつつ立ち上がりながら安心したように呟く。

 

「照はいい子だから……そんな子が久と友達になってくれて良かったってこと」

「…………そうね」

「……大丈夫だよ。このクラスの人はみんないい人達だから。…………ここにはもう久を苦しめる人はいないから」

「…………うん」

「………………それでも何かあったら……僕が君を守るよ。…………昔みたいにね」

「…………っ!?……ま、まったくあんたってほんっとタラシだよね」

「……?何で?というかどうしたの?顔、真っ赤……」

「あんたのせい!!」

「え、ええぇ……。僕、なんかしたっけ……?」

 

本当に澄は鈍感だ。超鈍感の唐変木。でも、それでもあたしはそんな彼に賭け、その賭けに勝って今、ここにいる。あたしが今のあたしであるのは、彼のお陰だ。

 

「とにかく!この話はおしまい!!それより早く行きましょう?朝姉さんが待ってるわ」

「それもそうだね。ただなぁ……」

「ふふっ♪そして~さらにその後は~♪」

「言わないで……」

「御愁傷様ね~♪」

「誰のせいだよ!?」

 

「全く……」と軽くぼやきながら教室を出る彼の背中。

あたしがちゃんと素直になったら面と向かって伝える言葉はある。でも……今はまだ素直じゃないから面と向かっては言えない。けどーーー

 

 

「…………ホントに、ありがとう」

「……?久、何か言った?」

「ふふっ♪なんでもな~い」

「??」

 

 

**************

 

さて、何故あたしと澄がみんな下校しているなか教室に残っていたのかと言うと、朝姉さんから「ある場所に来てほしい」と頼まれていたからなのだ。

 

「でも、朝日姉さんからの頼まれ事って珍しいわね」

「うん。ただ、僕はある程度内容に予測がついているけど…」

「あら、あたしだってわかっているわよ?大体、あたし達の姉さん達が頼むといったら麻雀のことしかないでしょ?」

「それもそうだね……。っとここだ」

 

白糸台校内の中でも一番大きな建物の前にやって来ると、すでに入り口で朝姉さんが仁王立ちして待っていた。

ある意味、某警備会社の人より安心感があるわね……。

 

「朝日姉ちゃん!ごめん、待たしたかな?」

「いや、待ってねえぞ。むしろ、あんだけどでかい歓声が聞こえて、その元凶に心当たりがありまくるんだから多少は目をつむるさ」

「……ということは、朝姉さんは夕姉さんのこと聞いていたのね…」

「ああ。あいつが突然教員免許とるって言ったときには驚いたけどな……。同時にお前らには黙っておくよう言われたし、元々今日、サプライズするつもりだったんだろうな……」

「……やっぱりあの人の影響なのかな?」

「さぁな……。ま、今はそれはおいておこうぜ。あ、そういや……」

 

そういって背後の建物に入ろうとして、すぐに朝姉さんが振り向きかけ、1度止まる。

 

「??」

「どうしたの朝日姉ちゃん?」

「1回目の歓声は夕羅が原因ってのはわかったんだが、2回目はなんだったんだ?」

「ああ~♪それはね」

「あ~……」

「…………皆まで言わなくていい……。こうなったら、澄夜」

「うん?」

「お前は一旦店に行け。こっちの用事は久づてでもなんとかなる」

 

確かに家に帰った後でもできる話というならばその方が効率がいい。さらに今日はあたしと夕姉さんのいたずらで澄が地獄のような忙しさになるだろうし♪

でもなぁ、ちょっと複雑かなぁ……?ならば……

 

「あーっと……お願いしてもいい?」

「いいわよ~♪ただし……」

「ただし……?」

 

ーーーー「後で“あれ”頂戴ね♪」

 

 

                   1-① END




今回はプロローグと1話-①を投稿しました。
初めて書いた物なので何かしらのミスがあるのならば報告していただけると幸いです。

麻雀描写は…………後々頑張ります!!

追記ですがここの[涼月久]は[竹井久]と同一人物です。理由は物語が進んでいくと判明します!!
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