咲異録~鏡花水月~   作:璃空埜

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どうも、璃空埜です。
年末が近いこともあり、仕事の忙しさがヤバいです…。

投稿ペースですが今回のようにゆったり投稿していきますのであしからず。


第1局 狙撃主といたずら悪童と竜巻迷子と澄んだ月-②

side 澄夜

今までこんなに“黎明”に向かうのを嫌だと思ったことはない……

 

「はぁぁぁぁ……」

 

深い深い溜め息をつきつつ、亀の歩みで“黎明”に向かっているのだが……

 

「やっぱり行きたくないなぁ……」

 

……でも行かないとなぁ……。嵌められたとはいえ、スイーツ担当しているのは事実なんだし……。何より

父さん達が作り上げた“黎明”の評価を壊したくないし……。

 

「…………覚悟きめますか……」

 

そう呟き、俯いていた顔をあげる。その時、視界の端に気になるものが写った。

 

「…………?」

 

そこにはスラッとしていかにも真面目そうな凛とした女子がいて、竹柵の向こうを眺めながらーーーー

 

ーーーーただ静かに、涙を流していた。

 

「…………」

 

竹柵の向こうは確か何かしらの道場だったような……。スカーフの色から見て同級生だけど、彼女はそこに何かしらの未練があるのかな…?

足を止め、ぼんやりとそんなことを思っていると……

 

「趣味が悪いようだな」

 

その少女が竹柵の向こうを見ながら声を掛けてきた

 

「……ごめん。悪気は無いよ」

「…………ならば一人にしてほしい」

「ごめん…………、それはできない」

「…………やはり趣味が悪いようじゃないか」

「いや、趣味とかではなく…………ただ僕は」

 

いつも、そうだ。

幼い頃からだって、両親と全国を旅していた時だって、そうだ。僕は……

 

「ただ僕は泣いてる人を見過ごすのはできない性分なだけだからね」

 

すると、一瞬目を見張ったがすぐに目を閉じ、涙を拭った後、長い髪を優雅に踊らせながらこちらを振り向き、呆れたような目線を向けた。

 

「君は馬鹿なのか?」

「馬鹿って……心外だなぁ。姉ちゃん達にもよく言われてるけどただアホみたい優しいだけだよ」

「……やはり馬鹿じゃないか」

「馬鹿じゃないって……」

「いいや、君は馬鹿だ。私みたいなのに構って何が楽しい?」

「といっても……僕は君のことを知らないし。楽しいかどうかは僕が決めることじゃないかな?」

「……やはり君は馬鹿だ。涼月澄夜」

「さっきから馬鹿、馬鹿って……。……あれ?僕、名乗ったっけ?」

「いや、名乗っていない。ただかつて君がとある喫茶店で君が客と楽しそうに麻雀を打っていたとき、偶然聞いてしまってな」

「その喫茶店てもしかして“黎明”?」

「そうだ。よくわかったな」

 

んん~、ということは家に来たことがあるのか……。

でも、彼女の顔に見覚えはないから一緒に打ったことはないはずだ。だけども聞いていたならば麻雀に興味があるのかな?

 

「えーっと……」

「弘世菫、1-Cだ。呼び方はなんでもいい」

「じゃあ、弘世さんで。それで弘世さんって麻雀に興味あるの?」

「……一応な。3ヶ月ほど前に友人から教わった程度だがな」

「なるほど……。ならさ……ーーーー

 

ーーーーーーこれから打ちにいってみない?」

 

**************

 

side 菫

かつて、私は弓道を嗜んでいた。父方の祖父母から薦められて始めたのだが意外にも頭角を表し、全国優勝とまではいかなかったが全国大会決勝の常連にもなったほどだった。ただまさに高校からの注目が集まっていた中学最後の全国大会決勝で私は……事件に巻き込まれてしまい………………………………私はーーーー

 

ーーーーーーそこで終わってしまった。

 

**************

どうしてこうなった……!

未練がましく、弓道場の方を眺めていたら通りかかった涼月にいつの間にか流していた涙を見られ、何故かそのまま「麻雀を打たないか?」と誘われ、共に雀荘に向かうことになった………のはいいんだが……。

 

「おい!!涼月!!」

「何!?」

「何故私たちはさっきからあちこち走り回るはめになっているんだ!!」

「十中八九僕のせいじゃない!!久と夕羅姉ちゃんのせいだぁぁぁぁ!!!」

《待ってぇぇぇぇぇぇっ!!澄夜様ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!》

「な!?さっきより増えてないか!?あれ!!?」

「知らないし!!とにかく弘世さん走ってぇぇ!!

!」

 

ーーー何故か女子生徒の大群に終われるはめになってしまった。

 

▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 

事の起こりは数十分前に遡るのだが…………

私が以前友人達と訪れた雀荘喫茶店“黎明”は涼月の自宅でもあるらしく、そこで打とうと言うことになった。

 

「ただ僕は日中、すんごく忙しくなるから相手は喫茶店の営業終わってからでもいいかな?」

「誘ったのは君だ。合わせる」

「ありがとう。助かるよ」

 

不思議なものだ……

涼月はそれなりに身長が高いのに加え、頭髪は銀髪という傍目から見れば不良とも言えもなくもない格好をしている。だが、彼が発する優しげな雰囲気がそれを完璧に打ち消している。

先刻、少し話しただけでもそれは分かった。彼は涙を流していた私に対し、その支えになろうとしている。どんな、事情があるか……それを一切聞かずに。

 

「なぁ、涼月」

「何?」

「何故……聞かない?」

「?……ああ。泣いていた理由をってこと?」

「まぁ、有り体に言えばそうだ」

「う~ん………。ならさ、逆に弘世さんはその事を話したいのかな?」

「いや……私は……」

「なら、僕は聞かないよ」

 

そういって彼は優しい顔になる。

 

「さっきの君は何かに未練を抱えているように見えた。そこから察するに君にとって、とても大切なものからやむを得ず、離れなければいけなくなった……って感じかな」

 

あんな僅かな私の仕草、姿勢から一瞬でそこまで考えたことと、その考えたが的を射ている事の二つに驚きを隠せない。

しかし…………恐怖は感じなかった。

何故かはわからない。彼の雰囲気がそうさせるのか、それとも彼ならば……という謎の安心感からか、とにかく恐怖は感じなかった。

 

「ならば……僕はその話を聞く資格はまだ持ち合わせていない。第一印象がどうだったかは分からないけれど、出会って数分の人間が聞いていい話じゃなさそうだしね。だから……」

「だから……?」

「弘世さんにとって、僕が本当に信頼できる人になったら話してほしいな」

 

そういって涼月は桜吹雪の中、静かに、どこまでも優しげに笑っていた。

 

「…………やはり君は……馬鹿だ」

「結局、馬鹿扱いか……」

「ああ、やはり君は馬鹿だ……大馬鹿だ」

「…………いいこと言ったつもりだったんだけど……」

 

十分にいい言葉だったぞ。大馬鹿者。

口には出さなかったが心の中で感謝した。

…………いかんな。このままでは彼の優しさに溺れてまた泣いてしまいそうだ……。

 

ーーーと、ここまではいい雰囲気だったのだ。“ここまで”は……。

 

ーーーーーそして、私達が校門に差し掛かった時、全てが……始まったのだ…………。

 

「あっ……あのぅっ……!涼月さん!!」

「ん?」「あれ?」

 

ーーーーー事の始まりは顔を茹で蛸のように赤くした、たった一人の女子生徒ががっちがちに緊張しながら声を掛けてきたことだった。

 

「君は……確か同じクラスの高倉さん……だったっけ?」

「は……はひぃ!!覚えていたたたでけましてでってすかっ!?」

「尋常じゃないほど噛んだな……」

「あ~……とにかく落ち着いて?ね?」

 

ーーーーーそして、私が軽くツッコミをいれ、涼月が落ち着かせようとしたとき。

 

「いいいやっ!大丈夫でしゅ!!…………そそそんんんなな、こおあとより!!!涼月しゃま!!!!」

「私は眼中になしか………………ん?涼月“様”?」

 

ーーーーー彼女は……とんでもない爆弾を落としたのだ。

 

「あたしゃと!!!結婚しててくらざい!!!」

「………………」「………………」

 

 

……………………………………はぁっ!?

 

 

「ち、ちょっ!?高倉さm《さあああああぁぁぁぁぁぁせえええええええええぇぇぇぇぇるうううううぅぅぅぅぅかああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!》わぁ!!?」

 

彼女……高倉から突然告白され、フリーズした涼月が動きだした瞬間。四方八方から女子の呪詛のごとき怒号が響き渡った。

日中のHRの時の歓声はこいつが原因か!!

 

《澄夜様ぁぁ!!付き合うのならばぁぁぁ!!!ぜひぃぃぃ!!!このわたしとぉぉぉぉっ!!!!》

「やっべっ…………。弘世さん!!逃げるよ!!!」

「はぁ!?何故、わた「ごめん!!説教は後で!!」」

 

そして周囲から怒濤のように押し寄せる女子集団から、何故か私の手を取り、涼月は駆け出した。ーーー

 

▲△▲△▲△▲△▲△▲△▲△

 

ーーーそして、現在に至る。

 

「全く……!!どうしてこんなことに……!!なっているんだ……!!?」

「僕だって分かんない……!!」

 

弓道をやっていたときは訓練の一貫としてランニングをして体力をつけていたのだが……さすがに数十分走っているのはきついっ……。

 

{…………やるっきゃないか…………}「っ!弘世さん!!こっち!!」

「お、おい!!?」

 

何かを小さく呟いた後、突如として涼月は建物の間の小さな隙間に私を[抱き止めるようにして]滑り込んだ。

 

「ちょっ……!?すずっ……!!?」

「ごめん……ちょっと我慢してて」

 

いやいやいやいや!!?こんな隙間に入り込んだとしても……っ!!

そんなことを私は言おうとした。しかし、その瞬間ーーーー

 

ーーーーー涼月の雰囲気がすぅっ…と変わった……気がした。

 

 

「すず…………つき…………?」

「僕から離れないで」

 

私の耳元で涼月は小さく呟く。

まてまてまてまてぇ!?近い近い近い近い近い近い!?!?

涼月は銀髪に相まった端正な顔をしているのだが、年頃の女子にとってこれはきつい!!しかも結構ガッチリとした腕に抱き止められてるから逃げれない!!

頭の中が大混乱中の私は……とにかく早く終わってくれと願うことしかできなかった……。

 

**************

 

「よし……いなくなったかな……?」

 

よ……ようやくか……。

あの後、私はずっと涼月の腕の中におかれていた。涼月によればあの女子集団は数分ほど近くを捜索し、諦めて戻っていったらしい。

……その数分が私には何時間にも感じられたんたがな…………。

 

「ごめんね、弘世さん。巻き込んじゃって」

「い、いや……それよりもだな…………」

「うん?」

「……そ、そろそろ放してくれないか?」

「…………あ」

 

涼月はここでようやく私を抱きしめてることに気付いたようだ……。

 

「ご、ごめん!」

 

少し頬を赤くした涼月が慌てて離れる。

…………まぁ、あの集団に巻き込まれていたらどうなっていたのかわからないし、この件は不問にしておこう。

 

「……恥ずかしかったが、気にするな……」

「う、うん…………」

「………………」

「………………」

 

さすがに…………気まずいな……。

だがそれよりも気になる事がある。さっきは混乱していてそんな余裕はなく……今もあるとは言いがたいが…………、それでも気にかかることがある。

 

ーーあれだけの人数の前からちょっとした脇道に隠れただけで見過ごされることなんてあるのだろうか…………?ーー

 

「と、とにかくさ、早く“黎明”に行こう」

「そ、そう…だな……」

 

…………先程、確かに涼月の雰囲気が変わった。それが原因の1つであることは確かだ……。しかし……

 

『弘世さんにとって、僕が本当に信頼できる人になったら話してほしいな』

 

本当に信頼できる人……か…………。

なら、私もその言葉に従うことにしよう。……先程のことは彼にとって私が[本当に信頼できる人]になった時、問いただすとしようーーー

 

**************

 

そんなこんなで先程の女子集団に見つからぬよう裏道を通りつつ重い足を引きずるようにして歩き、何とか“黎明”に辿り着くことができた。

 

「ほとほと……疲れた……」

「……誰の……せいだ…………くしゅん!!」

 

うう……春先とはいえ……汗だくになった後は冷えるな……。

 

「……まずはシャワーだね……。……弘世さんも浴びていって……」

「……お言葉に甘えさせてもらおうか……」

「じゃあ……こっちが玄関だから……」

 

そして、裏手に回り涼月が家の扉を開いたーーー

 

 

ーーーーーー「ただい「とぉ~やぁ~っ!!おっ帰りぃ~っ!!!」!?」

 

 

刹那、突っ込んできた何かが涼月の腰辺りに直撃し、涼月が吹っ飛んだ。

 

「涼月!?」

「あれ??」

「だ……から……だい……ぶは……だめ……だ……って…………(がくっ)」

「すっ……涼月ぃぃっ!?」

 

**************

 

「ふぅ…………。シャワー、ありがとうございました」

「ん~!気にするな!!」

「星莉奈、あなたは少しは反省しなさい?また朝日姉さんの折檻を受けたいのかしら?」

「うにゅっ…!?そっ、それは嫌だぞ!!?」

「だったら反省することね。弘世さん……だったかしら?制服の方は今、洗濯しているけど……貸した方は大丈夫?」

「はい、お陰さまで……といってもちょっときついですが」

 

飛び出してきた人物ーーー星莉奈さんと私の声を聞き、その後ろからやって来た星魅さんと共に伸びてしまった涼月を部屋まで運んだ後、私はシャワーを浴びさせてもらった。

 

「おー!なんかモデルみたいだな!!」

「いえ……そんなことは……」

 

実際借りたのはシャツとハーフパンツなのだが……少しサイズが小さいからか、どこかの小説で読んだ大きな日本刀使いの聖人と同じような格好になってしまった。

ううむ……少し、恥ずかしいな。

 

「すごいスタイルいいのね……ところで」

「……?」

「あなた、もしかして澄夜の彼女さん?」

「なぁっ!?ちっちっちっがいます!!」

「あら、そうなの?てっきり昔の友達の一人かと思ったわ」

「えっと……私と涼月は初対面です。なんというか…………その……彼の……「お節介でしょ?」……まぁ、そうです」

「まったく……相変わらずなんだから」

 

呆れたように溜め息をつきつつも、優しい微笑みを浮かべている星魅さん。

というかだな………………。[涼月]という名字は珍しいからまさかとは思っていたが……、本物の有名人一家じゃないか!!

先程から「何かポーズしてくれ!!」とはしゃいでいる星莉奈さんは、去年大学在学中にプロ入りし、新人王等の各賞をかっさらっていった今後の期待も大きい新星プロ雀士だし、「写真、撮ってもいいかしら?」とカメラを構えている星魅さんはフリーながらも各プロ集団から多大な信頼を得ているスカウトマンでありつつも、麻雀界の現状を様々な観点から的確に見抜いた人気記事を作成する有名記者だ。

 

「いや、さすがに写真は……」

「残念……。<~♪~♪>っと、少し失礼するわね」

 

今の着信メロディというと……確か……

 

「夕羅姉さん?どうかしたの?」

 

やはりか!?涼月夕羅ともなれば、国内無敗とされた小鍛冶健夜プロと唯一対等に打ち合い、彼女に何度も打ち勝った事がある程の超有名ベテランプロ雀士だぞ!?!?

 

「あら………。そんなことが」

{ーーー……ーーーーーーーーー}

「そうね……。朝日姉さんも帰るのは少し遅くなるって言っていたし、人手不足は否めないかも」

{ーーー?…………ーーーーーーーーーーーー?}

「どうしたもの…………あ」

 

有名人のオンパレードに唖然としていた私の方を見た星魅さんがこちらを見、何かしらに気づいたような声をあげた。

一体、夕羅プロと何の話しているのだろうか?…………嫌な予感がしないでもないのだが?

 

「夕羅姉さん。こっちは大丈夫かもしれないわ」

{?ーーーーーー?}

 

「ええ。ーーーーーー

 

 

ーーーーーー丁度良いところに手空きの子がいるのよ」

 

 

こちらを見てニヤリと笑う星魅さん。

………………………………これは……逃げるべきだろうか?………………いや、逃げても逃げ切れるのだろうか?

 

**************

 

side 澄夜

 

「いっ……つつぅ……」

 

うー…直撃を受けたお腹がまだ痛い…………。今朝、あれだけ朝日姉ちゃんから折檻受けたって言うのに………。まぁ、今回は僕も走り回って疲れきっていたって事もあるから一概には責められないかな?

…………やっぱり甘過ぎるのかなぁ…………?

そんなことをベッドに寝転がりながらぼんやり考えていると、

 

「…………そういや、さっきっから下が賑やかだな」

 

いやに下が賑やかなことに気がついた。

さっき時計を見たけれど喫茶店の開店の時間はもうちょっと先なはず。……そもそも、僕が伸びちゃったから開店の時間はもう少し後になっていたかも。

とにもかくにも、まだお客さんが来てる…………可能性は十二分にありますね。ハイ。

 

「……急がなきゃ……!」

 

すぐさま飛び起き、学校の制服から店の制服に急いで着替える。もちろん走り回されたから体をふくのを忘れずにっと。

そして、姿見で素早くおかしな所がないか確認して部屋を飛び出し、転げ落ちるようにリビングへ!

 

「ごめん!!気絶して……た………………え゙」

《あっ…………》

 

…………………………えーっと………………。

飛び込んだリビングでは、何故か、満面の笑みとなっている姉二人に強引に服を脱がされかけ、涙目になっている弘世さんがいた。

………………弘世さんて、スッゴくスタイル良いんだなぁ…………………じゃなくってぇ!?!?

 

「ごっ!?ごめっ!!?」

「きっ……キャアアアアアァァァァァッ!!!」

「ちょぉっ!?トレイはかんbじゅごっぐぅ!!??」

 

一瞬でパニックなってしまった弘世さんが投擲したトレイが寸分違わず頭部を直撃した…………。

 

「おお~!なんとも綺麗に直撃したな!」

「そんなこと言っている場合じゃないでしょう?…………あ~あ……澄、また伸びちゃった」

「はあ……はあ…………はっ!?涼月!?」

 

呑気な姉二人と正気に戻り、慌てる弘世さんの声を聞きつつ僕の意識は闇へと沈んでいった………………。

 

**************

 

「本当にごめん!!」

「い、いや……私も気が動転していたとはいえ悪いことをした……申し訳ない」

 

今回はほんの数分で意識が戻り、すぐさま弘世さんに謝罪した。

慌てていた(+強制的だった)とはいえ女子の着替えの場に突入してしまったのだ。もう平謝りしかない。

弘世さんもそこを汲み取ってくれて、許してくれた上に彼女自信も非礼を詫びてきたーーーーーー

 

ーーーーーーーーー家の喫茶店の女子用制服姿で。

 

しかも、ただの制服ではなく…………

 

ーーーーーーーーー俗に言うメイド姿で。

 

「…………あ、あまり見るな…………」

「あぁ……うん……」

 

そうなんです。家の女子の制服は何故だかメイド服なんです。

理由については……地元、長野にいるらしい父さんの友達のおじいちゃんが「雀荘も良いが喫茶店、しかもメイド喫茶店とかも良さそうじゃないか」とかなんとか言ったらしく、それに父さんと友人が悪のりした結果、こうなってしまったらしい。…………ちなみにその友達も長野で雀荘喫茶店を開いた……と言うより、そのおじいちゃんが営んでいた雀荘を喫茶店と合体させたらしいんだけど、そこの女子の制服もメイド服らしい。

………………父さん曰く、『メイドは漢のロマンだ!!』とのこと。…………僕には微塵もわからないけどね……。

………………まぁ可愛い制服だなぁとは思うけれども。

 

「~~~~~~~~ッ!!」

「あいてっ!?」

 

そんなことをぼんやり思い返していた時、顔が真っ赤になった弘世さんから軽くチョップされた。

…………また、やってしまった…………。さすがに恥ずかしがっている女子を見つめ続けるのは駄目でしょ…………。

 

「…………?」

 

がっくりと肩をおとしていると、今度は弘世さんが僕のことをじぃ~っと見つめ始めた。

 

「え、えーっと…………?」

「君…………」

 

う……うわぁ……うわぁぁ……見つめられるってこんな感じなのかな?なんだか全身がむずむずしてくるし………かなり恥ずかしい…………。

 

「……ど、どうしたのさ一体?」

「いや、君の左目……」

「…………?」

「いや気のせいならいいんだが……少し青みがかってないか?」

「あ~」

 

なるほどね……。これに気づいたからじっと見つめてきてたのか。

というか、これに気づくって弘世さんて結構目が良いのかな?

 

「気にさわったか?」

「いや、大丈夫だよ。で、左目がちょっと青くなっていることなんだけど……」

 

さすがにこれは大きな声で話す内容ではないから少し声を潜める。

 

「実は……左目だけ少し色がぼやけて見えているんだよ」

「ということは……」

「そ、軽い色盲。日常生活に支障は全くないけれどね」

「色盲……」

「まぁ、[ちょっとした事情]があってね……」

 

[あれ]はまだ使う事はないだろうし………。しばらくはこれが悪化することはないはずだとは思うけれども。

 

「これについては家族も知っているし、先生方にはもう伝えてあるけれども……同級生達には言わないでおいてほしいな」

「当たり前だ。……すまない、少し踏み込み過ぎたな」

「大丈夫だよ。弘世さんが気にすることじゃない」

「そう言ってくれるとありがたい。…………ところで、だ」

 

うん?

 

「涼月。話が大~きく変わんだが……一つ聞きたいことがある」

「ハイ?」

「君のお姉さんの一人……夕羅さんと言うのは…………」

「夕羅姉ちゃん?」

「まさかとは思うが……小鍛冶プロの…………?」

「ああ、確かに夕羅姉ちゃんとこやちゃんは親友でありらいば……「やはりか!?」おわぁ!?」

「やはりあの“幸運喰い<ラックイーター>”涼月夕羅なのか!?というか、小鍛冶プロとも仲が良いのか!!?」

「ま、まぁ……一応。というか…弘世さん落ち着いて?」

 

なんか久しぶりに聞いたな“幸運喰い”。というか、詳しいな弘世さん。

“幸運喰い<ラックイーター>”というのは、夕羅姉ちゃんのスタイルから名付けられた2つ名にして夕羅姉ちゃんの[オカルト]っていう“能力”の名前。

さてこの[オカルト]についてなんだけど、これは特定の雀士が持つ“能力”のことなんだ。“能力”というのは[オカルト]ともう一つ[デジタル]という分類があって、[オカルト]系はさらに様々な“型”へと分類されることがある。

それで夕羅姉ちゃんの“幸運喰い”なんだけれども、これは[オカルト]系の支配型の能力に分類される能力。大まかに言うと自分に放銃した相手の運を[喰べ]、自身の糧にしてしまうというもの。

結構えげつない能力なんだよねこれ。なにせ安手でも振り込んでしまったら最後、あれよあれよというまに夕羅姉ちゃんの餌食となる。

もう一つ、小鍛冶プロっていうのは夕羅姉ちゃんの親友にしてライバルの日本最強とも言われたプロ雀士。今は夕羅姉ちゃん共々最前線からは身を引いているけれど、実力はまだまだ衰えていない。ここ最近は朝日姉ちゃんと一緒に解説やったり、ラジオのメインキャストとしての仕事がメインらしい。忙しい合間を縫っては家に顔を出してくれて結構仲良くなったんだけど…………ただなんというか…………何故か僕を見る目付きがどこか怖いんだよなぁ………。

なんでだろ?

 

「っ!?……すまない……。超有名人を前に大分興奮してしまった……」

「まぁ、姉ちゃん達のことを聞いたらそうなるさな」

「……ということはやはり……?」

「そ。星利奈姉ちゃんは“零動超速<ゼロドライブ>”の涼月星利奈その人だよ」

「………………とんでもないお姉さん方じゃないか……」

 

星利奈姉ちゃんの2つ名にして能力“零動超速<ゼロドライブ>”。[オカルト]系、自己向上型に属するこの能力の特徴は、点数関係なく“とにかく最速で和了る”ことに特化しているということ。ただ、何回か和了って自身の“ギア”を上げていかなければ真価を発揮できないし、運が悪いと安手ばかりになったりもするし、1度止められてしまうと再発に時間が掛かるっていう隙の多い能力だ。

でも1度勢いに乗るとそうそう簡単に止めることはできなくなり、一方的な試合展開ができる強力な能力。

なんだけども…………。我が姉とはいえ、星利奈姉ちゃんはちょっと……いや結構?……とにかく幼稚なところが多いからすぐ読まれちゃうんだよね…………。

 

「澄、弘世さん。そろそろお店開けるから準備の方、よろしくね」

「っと……わかったよ、星魅姉ちゃん」

 

星魅姉ちゃんに呼ばれて時間を見ると、確かにそろそろ開店する時間帯だった。

といっても僕の準備は大体昨日の夜に済ませておいたし……開店までに追加で何個か作っておこうかな?

 

「それより……私はどうすれば?」

「…………その格好してるから薄々察していたけれど……」

「……………………まあ……な」

 

大方、夕羅姉ちゃんから何かしらの連絡があったときに巻き込まれたのかな?とにかく……

 

「……麻雀はまた今度しよう。今日は星利奈姉ちゃんと一緒にフロアの方をお願い」

「わかった」

 

そう言葉を交わし、店の方へ向かおうとしたところで

 

「…………なぁ、涼月」

 

最初出会った時と同じ様な雰囲気になって俯いてしまった弘世さんに呼び止められた。

 

「?」

「…………麻雀こそできなかったが、君のお姉さん達と話すことができたお陰か、気が軽くなった。…………ありがとえな」

「僕はなにもしてないよ?」

「いや、今日あの時、君が話しかけてくれなかったら私はもっと……あの事に未練を抱えていただろう」

「ん~?そんなことはないと思うよ。例え僕が話しかけなかったとしても弘世さんはすぐに前を向いていたと思う」

「そんなこと……」

「そんなことあるさ。確かに今日、弘世さんは泣いてたけどさ……その瞳は力強くて、ちゃんと前を向こうという意志があった。だから…………今日僕がしたことはただのお節介…………というか厄介ごとに巻き込んじゃっただけか?…………まぁとにかく、ただ僕は…………僕のしたいことをしただけだよ」

 

そう……これは僕の生き方。そして……ただのーーーー

 

 

ーーーーーー罪滅ぼしでしかない。

 

 

「…………決めた」

 

少しの静寂の後、ポツリと弘世さんが呟き、俯いていた顔をあげて僕をしっかりと見る。

 

「涼月…いや、澄と呼ばせてもらおう……。今はまだ出会ったばかりだかいつか、『君にとって、私が本当に信頼できる人』になったら君の背負っているものを…………私にも聞かせてくれないか?」

「!?…………なんだか弘世さんには敵いそうもないなぁ」

「私のことは菫でいい。……今日はとにかく目の前のことを片付けるとしよう」

「…………じゃあ、スゥで」

「何故略す!?」

「さ、そんなことよりちゃっちゃと仕事にかかろうよ。あ、分からないことなら星利奈姉ちゃんに聞いてね。星利奈姉ちゃん、フロアの仕事ならばプロ並みだから」

「ちょっと待て!?さすがにそのこっ恥ずかしいあだ名をどうにかするべきなんじゃないのか!!?」

「前向きに検討しておくよ~」

「絶対変えないやつじゃないか!それ!!」

 

さすがにあだ名で呼ぶ理由は言うつもりはないが…………名前が似ていると根本的なところで似るのかな……?

 

…………元気かなーーーーーー[スミちゃん]

 

そんなことを考えながら僕はいつもの厨房へと足を向けたーーー

 

                    

                  1ー② END




何かラブコメぎみになりました。まぁラブコメ風にしていく予定ですけれども…。

麻雀描写についてはもう少し先になると思います。ただ、作者は麻雀ド素人なので……うまくかけるかどうか……

誤字脱字等あればよろしくお願いします!
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