ある日道を歩いていた俺の足元に、突然穴が開いた。
コイツ頭おかしいんじゃねぇの?とか思うかもしれないが、事実である。
そして、俺は為す術もなく穴の底へと落ちていく。
.....父さん、母さん。先立つ不幸をどうかお許しください。
ああ、死んだな.....。瞬間的にそう悟った俺は、心の中で両親に謝罪していた。
どこまで落ちたのか、周りは闇に覆われていてわからない。
しかし俺の落ちた穴が全く見えないという事は、だいぶ深いところなんだろう。
「っていうか、なんだったんだあの穴は……」
思わず1人ごちる。
「はっはっは!あれは俺が仕掛けたのさ」
どこからか豪快な笑い声と共にそんな声が聞こえてきた。
「だ、誰だ!?」
反射的に辺りを見回すが、闇の中で見えるはずもない。
「悪い悪い。今姿を見せてやるよ」
声がそう言った瞬間、強烈なフラッシュがたかれて視界が白く染まる。
「うわっ、まぶしっ!?」
急に開けた視界にだんだん目が慣れていくと、そこには――
「よう」
軽い調子で片手を上げる
「……って、誰だよ!?」
俺にはこんな知り合いはいないぞ!?
「ああ。そういえばまずは自己紹介をしないとな。俺はゼウスだ」
.....は?
「お~い。なんてアホ面してるんだ。聞こえなかったのか?」
「あ、いや、大丈夫だ。聞こえてはいる。……だが本当なのか?」
「いや、ここで嘘吐いてもしょうがないだろ」
「……それもそうか」
若干納得はしかねるが。というか、ゼウスってジジィじゃなかったのか?
「おい、失礼な事を考えるな。俺達神には年齢という概念はない。だから姿形は好きなように変えられる」
うぉ!?まさか俺の心を読んだのか!?
「正解だ。なんせ神だからな。それくらいはできて当然だ」
ああそうかい。
「で、ギリシア神話の最高神たるゼウス様が一体俺に何の用で?」
「む。随分落ち着くのが早いな。もうちょっと騒いでもいいだろうに」
「騒いだところでこの状況がどうなるわけでもないだろう?だったら騒ぐだけ無駄だ」
「それじゃ俺がつまらんだろ」
ヒデェ神様だな。
「で、用件は何だ」
「俺の暇潰しに付き合ってもらおうと思ってな」
「断る」
神の暇潰しだと?そんなのどうせロクでもない事に決まってる。
「ちなみに拒否権はないぞ?」
「なっ!?」
「当然だ。それに、お前はもう元の世界には帰れない」
「どういう事だ」
「穴に落とすと同時に、あの世界から『―――』という存在の記憶を消したからな」
「ふざけるな!」
「いいねいいね。熱くなってくれて大いに結構。やっぱこうじゃないと」
「くっ……」
既に俺はヤツの掌の上、というわけか.....
「まぁ、もちろんただで付き合わせるのも悪いからそれなりの『特典』は用意するよ?」
「『特典』?何だそれは」
「それはこの話を受けてくれたら教えるよ」
受けてくれたら、などと言っているが、実質俺には選択肢など存在しない。
「……わかった。引き受ける」
「ふふっ。そうこなくっちゃ」
そう言って笑う