アースラに帰還した俺は、まずプレシアさんを医務室へ運んだ。
「さて、それじゃまずはあなたを治療しないといけないな」
「本当に大丈夫なんでしょうね?」
「まぁ疑いたくなるのもわかるが、俺を信じてくれ」
「……そうね。あなたに助けられた命だもの、信じる事にするわ」
「ありがとう、プレシアさん。……っと、なのはちゃん達庭園突入組もついでに治すからこっちに来て」
「ついでって……」
「にゃはは……」
「龍姫らしいかも……」
む。フェイト、俺らしいって何だよ.....
「よし、全員揃ったな。じゃあいくぞ……『大地讃頌』」
全員を淡い光が包み込むと同時に、どこからか音楽が聴こえてくる。そして、それぞれの怪我が治っていく。
「綺麗……」
「素敵な音……」
「凄い……」
「こんな高位の魔法、一体どこで……」
「プレシアさん、身体の調子はいかがかな?」
「え、ええ……嘘みたいに身体が軽いわ。本当に凄いわね……」
まぁ当然の結果だな。『大地讃頌』は全てのステータス異常と失われた体力を回復させる魔法だからな。
「皆大丈夫みたいだな。それじゃ本題、に入る前に……リンディさん」
「何かしら」
「これから俺と取引をしないか?」
「ふざけるなっ!管理局を相手に取引だって!?」
「黙れKY。お前には聞いてない」
「クロノ。あなたは下がっていなさい……とりあえず、話を聞かせてくれる?」
「母さ……艦長!」
なおも何かを言おうとしているが、うるさいKYは放置する。
「これは、ここ数年で管理局が起こした『隠蔽された過去の不祥事』に関する資料だ」
そう言って、俺は1枚のディスクを取り出した。
「っ!?」
「ちなみに、この中には今回の事件の原因である『大型魔力駆動炉実験』に関する詳細な資料もある。見せてやるよ」
「何ですって!?……やはりあれは管理局のせいだったのね……」
「そうだな」
それを聞いて、管理局組に厳しい視線を向けるプレシアさん。俺は彼女にとりあえず落ち着くよう諭すと、データのコピーを管理局組に見せた。
「これは……これが事実なら、私達はとんでもない間違いを犯してしまっていた事になるわ……」
「こんな……酷い……」
「チッ……」
データを見た管理局組は、その内容に愕然としている。若干1名は一層不機嫌になっただけだが。
「まぁムチだけ与えるのも酷だからな、ちゃんとアメも用意してある」
そう言って、俺はもう1枚のディスクを見せる。
「それは?」
「これはデバイスの関連技術について纏められた研究データだ。今の技術部なら喉から手が出る程欲しいだろうな」
ちなみにこれら2枚のディスクは、この時の為に俺が以前から用意しておいたものだ。
「その2枚のディスクが取引の材料、というわけね?」
「そうだ」
「……あなたの要求を聞かせて頂戴」
「テスタロッサ親子の処分を、できる限り軽いものにして欲しい」
「バカな事を言うな!」
そこでKYが割り込んできた。.....この野郎。
「黙れと言っただろう!……それとも、俺が強制的に黙らせてやろうか?」
「艦長!こんなヤツの言う事なんて聞く必要はありません!むしろ、コイツも逮捕すべきです!」
「クロノ、静かにしなさい」
クロノを叱り、何かを考えるように俯くリンディさん。
「どうする。判断はあなたに任せるよ、リンディ艦長」
「……わかりました。取引に応じましょう」
.....よしっ!乗ってきた!
「具体的にはどうしてくれるんだ?」
「プレシア・テスタロッサ、フェイト・テスタロッサ、及びアリシア・テスタロッサの3名は管理局でその身柄を保護します。そして、しばらくは監察処分。その後は自由、という事でどうかしら」
「取引成立だ。リンディ艦長、あなたが聡明な人でよかったよ」
「艦長!そんな不当な事は――」
「黙れと言っただろう。お前だって執務官を懲戒免職にされたいのか?あの時の映像は俺が持っているんだぞ?」
KYの顔の5センチ手前で振るった拳を寸止めする。
「くっ……!」
「……というわけだ、プレシアさん、フェイト。よかったな」
「氷護……あなた……」
「龍姫……」
2人は驚いた様子で俺を見てくる。
「それじゃ、アリシアのポッドをどこか広い場所に移したいんだが……どこかいい場所はないか?」
「アースラ艦内だと、一番広いのは訓練室ね」
「わかった。そこにしよう」
「よし。早速始めようと思うが……そこの男2人。お前らは出て行け」
「なっ、また勝手な事を……」
「何だ?こんな小さな女の子の裸を見たいだなんて、お前はそんな変態だったのか?」
「クロノくん……」
「最低……」
「っ!失礼させてもらう!行くぞユーノ!」
「わぁっ!ちょ、ちょっと待ってよクロノ!」
女性陣の冷ややかな視線に耐えられなくなったクロノが、ユーノを連れて出て行った。
これで邪魔者はいなくなったな。
俺はプレシアさんに頼んでアリシアをポッドから出してもらい、床に敷いたタオルの上に寝かせた。
「さっき2人にああ言った手前、俺も直接見るわけにもいかないから、誰かアリシアに服を着せてくれ」
「じゃあ私がやるわ」
「頼む」
アテナが申し出て、手早くアリシアに服を着せてくれる。病院でよく見る病人服みたいなヤツだ。
もちろん俺はその間、明後日の方向を向いておく。
「龍姫、いいわよ」
「ありがとう」
そうしてアリシアの着替えが終わったところで、アテナから声が掛かる。
「これで準備は完璧だな。それじゃ、始めようか」
「お願いするわ」
プレシアさんの返事を受けて、俺は呪文を口にする。
「『フェニックス』」
すると次の瞬間、どこからともなく現れた火の鳥が横たわるアリシアの身体をその身で包んで、激しく燃え始めた。
「アリシア!」
あまりの光景にプレシアさんが思わずアリシアの名前を叫ぶ。
「落ち着いてくれ。別にアリシアの身体が焼けているわけじゃない」
「で、でも……」
フェイトも不安そうに俺を見てくる。.....ったく、大丈夫だって。
しばらくするとその身を焼き尽くした
「う……うぅん……」
軽く身じろぎをして、ゆっくりと目を開けるアリシア。
「アリシア!?」
それを見たプレシアさんがアリシアに駆け寄ってその身体を抱きしめる。
「あれ、おかーさん?」
よかった。成功したみたいだな。
「アリシア!アリシア!」
「お、おかーさん?……泣いてるの?」
アリシアが不思議そうに首を傾げる。
「いいえ……」
プレシアさんは涙を拭うと、
「少し……ほんの少し、悪い夢を見ていただけよ」
そう言ってアリシアに笑いかけた。その笑顔は優しさに満ち溢れた、母親の笑顔だった。
「さて、それじゃ俺達はここを出よう。親子の再会に水を差しちゃいけないしな。いいだろ、リンディさん?」
「……いいでしょう」
「それじゃ皆、外に出るぞ」
プレシアさん、フェイト、アリシアの3人を残して、それ以外の全員が俺を先頭に部屋を出て行こうとする。すると、
「氷護!」
プレシアさんが俺を呼び止めた。フェイトもこっちを見ている。
俺は他の皆を先に行かせて、1人中に残った。
「あなたには、本当に色々とお世話になったわ……ありがとう」
「龍姫。母さんとアリシアを助けてくれて……ありがとう」
そう言って、涙を浮かべながら頭を下げる2人。
「どういたしまして。それからプレシアさん、俺の事は龍姫と呼んでください」
「ええ……ありがとう、龍姫……」
そうして今度こそ、俺は部屋を後にした。3人だけの親子の時間を、今はどうかゆっくりと噛み締めてくれ.....
あの後3人には正式に保護監察処分が下り、今もアースラにいるそうだ。監察官はリンディさんが申し出たらしい。これが決まるまでに一悶着あったようだが、俺が渡した資料をチラつかせて上を黙らせたのだとか。
「う~ん!久しぶりだな、こんなにゆっくりできるのは」
「そうね。龍姫、お疲れ様」
「アテナもな」
現在俺達は海鳴に帰ってきて、元通りの生活を送っている。
今まで色々と慌しかった分、こうしてゆっくりできるのが本当にありがたい。
「おい、龍姫」
しかしそんな平穏をブチ壊すかのように、アイツが突然現れた。
「……今まで何もないと思っていたら突然湧いて出やがって……何の用だ、ゼウス」
本当に何しに出てきやがった、この野郎.....
「神を神とも思わないその口ぶり、相変わらずだな龍姫」
「お父様、お久しぶりです」
「アテナか。元気でやっているか?」
「はい」
「それは何よりだ。……龍姫、今日はお前に話があって来た」
「なんだよ」
「アリシア・テスタロッサの蘇生についてだ」
アリシアの蘇生?
「何か問題でもあったか?原作改変はお前の望むところだったはずだが?」
「大アリだ。地獄の神ヘルがお怒りなんだよ。死者の魂を勝手に戻すな、とな」
「お前、一応最高神だろ?何とかしろよ」
「簡単に言ってくれるな。……だが、いいだろう。今回限りで俺が何とかしてやる」
「任せた」
「だが、2度目はないぞ。もしまた今回のような事があった時は、問答無用でお前の命を刈り取る」
「……わかった。肝に銘じておこう」
流石にそうホイホイと死者を蘇らせるなんて事はできないよな.....当然か。
「それから連絡だが、お前のユニゾンデバイスはA's開始までには完成する」
「そうか。そりゃ朗報だ」
「お父様、頑張ってください」
「うむ。アテナがそう言ってくれるなら100人力だな」
.....やっぱりコイツも親バカか.....
「話は終わりか?今日はフェイト達と面会できる日だから、用が済んだならさっさと消えろ」
「ほぅ……そうかそうか。ならば邪魔者はさっさと消えるとしよう」
何やらニヤニヤと笑みを浮かべるゼウス。
「ちょっと待て。お前、今何を考えた」
「別に何も?ではさらばだ、龍姫、アテナ」
「はい、お父様」
「待てゼウス!」
しかし俺の制止には耳を貸さず、ゼウスは消えていった。
約束の時間になり、海鳴臨海公園へとやって来た俺、アテナ、なのは、ユーノ(フェレット)の3人と1匹。
面会の場所は原作最終話のラストシーンで出てきたあの場所だ。
しばらく待っていると、魔法陣が出現してプレシアさん、フェイト、アリシア、アルフ、ついでにクロノが姿を現した。
「……君は今また僕をついで扱いしなかったか?」
おっと、だいぶ鋭くなったな。KYのくせに。
「はて、何の事だか?……っと、プレシアさんも来たんですね」
クロノの追及をとぼけてかわし、プレシアさんに話を振った。
「ええ。この子にも迷惑をかけたからね」
そう言って、なのはを見るプレシアさん。ちなみに、今の彼女の服装はあの露出の多い黒服ではなく、昔の記憶の中で着ていた普段着だ。
もうすっかり病気も治ったおかげか血色も良く、肌のハリも元通りといった様子だ。本当によかった。
「あんまり時間はないんだが、しばらく話すといい。僕達は向こうにいるから」
「おっ?KYにしては珍しい気遣いだな」
「茶化すな!……コホン、とにかくそういう事だから」
「ありがとう、クロノくん」
「ありがとう」
「それじゃ、僕も向こうに行ってるよ」
俺もその場を離れる一行について行こうとしたところで、
「ま、待って……」
「ん?」
フェイトが俺を呼び止めた。
「龍姫にも……ここにいて欲しいんだ……」
「……いいのか?」
俺の問いに小さく頷くフェイト。
「なのはちゃんも、いい?」
「もちろんだよ」
「じゃあ、そうさせてもらうね」
その場に俺、なのは、フェイト、アリシアの4人が残る。
それからしばらく続いた沈黙を破って、フェイトがなのはに話し始めた。
「来てもらったのは……返事をする為」
「え……?」
「君が言ってくれた言葉……『友達になりたい』って……」
「あ……!うん、うんっ!」
フェイトの言葉に顔を綻ばせて、大きく頷くなのは。
「私にできるなら、私でいいならって……だけど私……どうしていいかわからない。母さんに聞いてもわからないって……」
フェイトはそこで俯いたまま、なのはに問い掛ける。
「だから教えて欲しいんだ……どうしたら友達になれるのか」
「私も……わかんない……」
戸惑うフェイトとアリシアの手を取ると、なのはが強く握った。それに驚いて顔を上げる2人。
「簡単だよ。友達になるの、すごく簡単」
そうして一呼吸置いて、なのははその言葉を口にした。
「……名前を呼んで。はじめはそれだけでいいの……君とかあなたとか、そういうのじゃなくて……ちゃんと相手の目を見て、相手の名前を呼ぶの。そうしたら、2人は友達。だよね、たっくん?」
.....あれ?なのはサン?
「ど、どうしてそこで僕に話を振るの?」
「だって、これは私がたっくんと初めて会った時にたっくんが教えてくれたことだもん!」
.....あ~、言われてみれば昔そんな事を言ったような.....
「……そんな事もあったね」
「そうなの!」
そしてなのははフェイトに向き直ると、
「私、高町なのは。なのはだよ」
そう自己紹介をした。
「なの、は……」
なのはの言葉を反芻するように、フェイトが小さく呟く。
「うん!そう!」
「なのは……」
「うん」
「なのは」
「うんっ!」
返事をする度に溢れてくるなのはの涙を、フェイトがその指でそっと拭った。
「少し……わかった事がある……友達が泣いていると、同じように自分も悲しいんだ……」
「っ!フェイトちゃんっ!」
その言葉に感極まったのか、なのはがフェイトに抱きつく。なのは、フェイト、よかったな.....
「龍姫。君とも、友達になれるかな……」
なのはに抱きつかれたまま、フェイトが俺の方を見た。
「もちろんだよ。改めまして、僕は氷護龍姫。これからよろしくね、フェイト。それにアリシアも」
「うん……ありがとう」
「たつき!よろしくね!」
そうして2人と握手を交わす。皆が笑顔でいられる、こんな時間がいつまでも続くことを願いながら.....
―Side プレシア
少し離れたところで、私は娘達の事を見ていた。
「うっ……うぅ……ぐすっ」
「あら。アルフ、どうしたの?」
私の隣ではアルフがボロボロと涙を流していた。.....どうしたのかしら?
「あの子……なのはが、本当にいい子でさ……フェイトが、あんなに笑ってるよ……」
「そうね……」
視線をもう一度フェイトへと向ける。本当に嬉しそうな笑顔。あの子のあんな笑顔を見たのはいつ以来かしら。
そしてそのフェイトの横では、アリシアが一緒に笑っている。二度と見ることは叶わないと思っていたアリシアが笑っている姿に、私の胸にも熱いものが込み上げてくる。
それもこれも、全てはあの少年――龍姫のおかげね.....
「彼は将来きっと、さらに多くの人を幸せにするんでしょうね……」
「そうですね。それが龍姫の願いですから」
近くに立っていた金髪蒼眼の女性が私の呟きにそう返した。
「……そういえばあなた……龍姫と一緒に庭園に来ていた……」
「アテナと言います。龍姫の友人にして、彼を支える者の1人です」
「そう……」
「またいつか、ゆっくりお話をしましょう」
「ええ……」
そうね。私には彼がくれた時間がいくらでもある。もう一度、今度はゆっくりと娘達と一緒にやり直すのよ.....
―Side Out
あとがき
作者 「うだぁーっ!」
龍姫 「うおっ!?作者が滝のような涙を流してる!?」
作者 「何度見てもこのシーンはサイコーだよ、畜生ーっ!」
龍姫 「はいはい。わかったからとりあえず涙を止めろ」
作者 「うっ、ぐすっ、うぅ……」
龍姫 「すまんが作者が使い物にならないので、ここからは俺が1人で進行していくぞ」
龍姫 「これにて原作無印編は一応終わりだ」
龍姫 「『一応』と言うからにはまだあるのか?と思った諸君、正解だ」
龍姫 「申し訳ないんだが、もう1話だけ続きがある。まぁ、続きと言っても簡単な後日談なんだが」
龍姫 「というわけで、次回予告だ。
次回、第14話『後日談あれこれ(仮)』
をお楽しみに!」