そうして俺達は海鳴臨海公園へとやってきた。
「……話の前に、まずはそちらの素性を明かしてもらおうか」
公園につくなり、シグナムがそんな事を言ってきた。
「おいおい。人にものを尋ねる時はまず自分から、だろ?」
「……ふむ。一理あるな。それでは改めて名乗ろう。私はヴォルケンリッター『剣の騎士』シグナムだ」
「私は『湖の騎士』シャマルです」
「アタシは『鉄槌の騎士』ヴィータ」
「……『盾の守護獣』ザフィーラ」
それぞれが自らの称号と共に名乗りを上げる。う~ん.....やっぱり格好いいな。
「ではこちらも改めて、俺は氷護龍姫。時空管理局所属の特務捜査官だ」
「私ははじめましてですね。アテナ・グラウクスと言います。同じく管理局で龍姫の補佐官をしています」
というわけで、俺達も自己紹介する。管理局職員である事も隠さない。
「管理局ですって!?」
「やっぱコイツら敵じゃんかよ!」
「グルル……」
.....わかっちゃいたけど、やっぱりな。
管理局の名前が出た途端に臨戦態勢を取るヴォルケンズ。
「管理局の人間が我らに何の用だ」
「あ~……言っても信じてもらえんだろうが、俺は管理局を絶対の正義とは思っていない」
「何だと?」
「籍は置いているが、あくまでそれだけだ。別にアンタらを逮捕・拘束する気もない。そんな事をしたらはやてが悲しむからな」
「……それだけでは信用できんな」
「それもそうだ。……まぁあれだ、今回の話は俺の勝手な独り言とでも思ってくれ。そちらの独り言にも独り言で返すがな」
とりあえず妥協案としてそんな事を言ってみる。
「……いいだろう。ならばこちらも勝手に聞き、勝手に喋らせてもらう」
よしっ!乗ってきた!
そして、俺とヴォルケンズによる奇妙な会合は始まった。
「まず結論から言わせてもらうと、このままでははやての命が危ない」
「「「「っ!?」」」」
俺の第一声に、ヴォルケンズ全員が息を呑んだ。
「現在『闇の書』と呼ばれている
「「「「…………」」」」
「その本来の名称は『夜天の魔導書』。しかし歴代の持ち主の何人かがプログラムを改悪した結果、転生と再生の機能が暴走し、ただ破壊の力を振るうだけの『呪われた闇の書』になってしまった」
「「「「…………」」」」
「『闇の書』はページの蒐集が行われない状態が一定期間続くと、持ち主のリンカーコアを侵食し、やがてはその身体をも蝕む」
「「「「…………」」」」
「しかしこれでもし焦って『闇の書』を完成させてしまうと、途端に防衛プログラムの暴走が始まり、はやてはおろかこの世界すらも滅ぼす事になるだろう」
「今の話が全て真実だとしたら、我々は一体どうすればいいのだ……」
「蒐集をしてもしなくても、主を危険な目に遭わせちゃうなんて……」
「さらに今日はやてが9歳の誕生日を迎えた事で封印の第一段階が解放され、守護騎士であるお前達が表に出てきた。これによってはやての負担は加速度的に増したと見ていいだろう」
「そんな……アタシらがマスターの負担になるなんて……」
「グゥゥ……」
それぞれが悔しそうに顔を俯ける。
「……俺は『闇の書』なんかにはやてを殺させたりしない。その為にも、俺は『闇の書』を再び『夜天の魔導書』へと戻す」
「「「「っ!?」」」」
そこで全員が驚いた顔で俺を見てきた。
「……本当にそんな事ができるのか?」
「ああ、俺ならできる。……そこで、はやての守護騎士であり家族でもあるお前達に問おう。俺を信じて、はやてとお前達の命を預ける気はあるか?」
「……信じて、いいんですか?」
「もちろんだ。多少準備に時間はかかるが、安全かつ確実に修復を行う事ができる。断言しよう」
「「「「…………」」」」
ヴォルケンズが無言になった。また念話で相談しているんだろう。
しばらくして、シグナムが口を開いた。
「……正直、お前の話を完全に信じたわけではない。だが、我らも主を危険に曝すような事はしたくない」
「ふむ……」
「お前はそれを回避する術を持っていると言った。そしてできると断言した」
「ああ」
「ならば我らはお前に賭けようと決めた。成功以外は断じて許さんからな」
「望むところだ」
俺はシグナムの言葉に不敵に笑い返してやった。
「……それで、具体的に我々は何をすればいい?」
「特に何もする事はないさ。ただこれからも変わらず、はやての家族として傍にいてくれるだけでいい」
「……そうか」
「ああ。ただし、もしはやての病状に何らかの変化があった場合は知らせてくれ」
「承知した」
「よし!それじゃ友好の印に、お互い名前で呼び合おうぜ!」
「別に我らはお前と馴れ合う気は……」
「そんな事言わずに。俺とはやては友達なんだから、よろしく頼むよ」
「……そうだな。主の友人をあまり他人行儀に扱うわけにもいかないか」
「まぁそういう事だ。これからよろしくな。シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ」
「私もよろしくお願いします」
「よろしく、龍姫、アテナ」
「よろしくね、龍姫君、アテナさん」
「……フンッ」
「…………」
うぅ.....ヴィータとザフィーラが冷たい.....
結局、この日はこれで解散する事になった。
そして公園からの帰り道。
「それで、結局龍姫はどうするの?」
「俺の持ってる知識の中にある『夜天の書』のデータを元に、修復パッチを作る」
「……何だかパソコンのソフトウェアみたいね」
「まさしくその通りだよ。だから所有者が自由にプログラムに手を加えられたんだ」
「なるほどね」
「そういうわけで、これからはその修復パッチの製作だ」
「了解」
そこでアテナとの話を切ると、俺は後ろを振り向いてこう言ってやった。
「……おい。そろそろ隠れてないで出て来いよ。俺達を尾けてるヤツがいるのはわかってるんだ」
「「っ!?」」
すると、どこかで何者かが驚く気配が2つ。.....やっぱり動いていたか。
「……よく私達の事に気付いたな」
「気配の遮断も完璧だったはずだが……」
「その程度で完璧なんて言ってるようじゃ、まだまだだぜ?」
予想通り、すぐ近くの物陰からはまったく同じ容姿をした2人の仮面の男が姿を現した。
「くっ……流石はSSSランク、というわけか」
「そうでもないさ。アンタらの練度が低いだけだ」
「ガキのくせに、生意気なヤツだ」
「それよりこんな真似をして、一体俺に何の用だ?」
「……管理局に属していながら、危険な
「裏切り者?その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。ギル・グレアム提督の使い魔、リーゼ・ロッテにリーゼ・アリア」
「「っ!?」」
またしても驚く2人。何だ、バレてないと思ってたのか。バカだなぁ.....
「何故知ってたかって?簡単だよ。補佐官のアテナに職員のデータバンクを調べてもらっていたからさ」
5月の終わり頃にアテナが本局に行っていた理由がこれだ。
こうしておけば、現時点で俺がグレアム提督とその使い魔2人の事を知っていても矛盾が生じないからな。
「それに俺はアンタらの主、ギル・グレアム提督が秘密裏に『ある計画』を進めている事も知っている」
「バカなっ!?それこそ調べようもないはず!」
「甘く見てもらっちゃ困る。俺にとってはその程度の情報を調べる事くらいわけないんだよ」
「ロッテ!やはりコイツは『計画』の大きな障害になるわ!今ここでしばらく動けない身体になってもらうわよ!」
「了解!男のくせに龍『姫』なんて名前のヤツが、でしゃばるんじゃないよ!」
.....イマ、コイツハナンテイッタ?
「あ、バカ!それは――」
俺の横でアテナが慌てるが、もう遅い。ヤツの言葉は俺の耳に入ってしまったからな.....
「……コロス!今ここで、オマエらを、肉の1片すら残さずにっ!」
『ブースト&アクセル』
「フルドライブ!」
俺の思考が真紅に染まる。頭にあるのはただ1つ.....目の前にいる敵を滅殺する事のみ!
「ハァ……龍姫に名前ネタはNGなのよ……もう手遅れだけど」
アテナはそう呟くと、敵であるはずのリーゼ姉妹に向かって合掌していた。
そして始まる、
―Side ロッテ
「ロッテ!やはりコイツは『計画』の大きな障害になるわ!今ここでしばらく動けない身体になってもらうわよ!」
「了解!男のくせに龍『姫』なんて名前のヤツが、でしゃばるんじゃないよ!」
アリアの意見に同意したアタシがそう口走ったその時、ソイツ――氷護龍姫に変化が起きた。
「あ、バカ!それは――」
氷護の隣にいた女――アテナ・グラウクスが何かを言ったみたいだけど、別の声に遮られて聞こえなかった。
「……コロス!今ここで、オマエらを、肉の1片すら残さずにっ!」
その声の主は、先程までは全く感じる事のなかった濃密な死の気配を振りまく氷護だった。
「え?何、アレ……」
アタシの後ろでアリアが呆然と呟く。
.....アタシだってわかんないよ!何なの、アレは!
あまりにも強烈な殺気に身体が震える。
と、次の瞬間――
――ズドンッ!
「ガハッ!?」
脇腹に凄まじい衝撃が走って、アタシは20メートルくらい吹き飛ばされていた。
.....な、何が起きたの!?
「ゲホッ!ゴホッ!……うっ!」
口の中に滲む血の味と、突然込み上げた吐き気。
.....どうやらアイツに脇腹を蹴り飛ばされたらしい。肋骨が何本か折れたようだ。
「ロッテ!」
アリアの焦ったような声。慌てて顔を上げると、アイツがこっちに突っ込んでくるのが見えた。
くっ.....今のダメージのせいで上手く身体が動かない!
それでも何とか立ち上がり、目の前のアイツを見据える。
しかし――
.....いないっ!?
私の正面からアイツの姿は消えていた。慌てて周囲を探るも、見つける事ができない。
そしてまた――
――ドンッ!バキッ!グシャッ!ズドォンッ!
「ゴフッ!……グハッ!」
腹部に2発、顔に1発、最後に背中に1発、アイツの拳が入った。
最後の背中への一撃で、アタシは地面に叩きつけられた。
「ガッ……!」
そのまま徐々に視界が黒で塗り潰されていく。
.....ダメ.....逃げて、アリア.....
最後にそれだけが頭に浮かんで、アタシは意識を手放した。
―Side Out
―Side アリア
「ロッテェ――ッ!」
彼――氷護龍姫に蹴り飛ばされ、殴られて地面に叩き伏せられたロッテに向かって思わず叫んでしまった。
私達が氷護に目をつけたのは、5月下旬頃にお父様の『計画』の
それから、私達は彼に関する情報の収集とその行動の追跡を始めた。
そして私が局のデータバンクで調べた彼の情報は、私達を大いに驚かせた。
氷護龍姫。若干8歳にして空戦SSSランクの魔導師。潜在魔力の測定結果は測定不能を示すランクEX。
召喚魔法を使い、高位の龍を軽々と使役する。さらには入局の為の実戦試験において、試験官だった首都防衛隊所属ゼスト・グランガイツ氏を撃破。
これ程の力を持った魔導師が何故『闇の書』の主に近づくのか、私達はさらに彼の周囲を探っていたところで、今日のあの出来事が起きた。
.....まさか『闇の書』の守護騎士達とまで接触するとはね。
それを見た私達は密かに彼を襲撃しようとしたけれど、逆に看破されて彼の前に姿を現さざるを得なくなった。
しかも彼はお父様の『計画』の事まで知っていると告げてきた。
そして、改めて彼を危険視した私達が
「ロッテ!やはり彼は『計画』の大きな障害になるわ!今ここでしばらく動けない身体になってもらうわよ!」
「了解!男のくせに龍『姫』なんて名前のヤツが、でしゃばるんじゃないよ!」
という会話を交わしたその瞬間から豹変した彼に、たった今ロッテがやられてしまった。
「よくも……よくもロッテを!」
私は倒れたロッテの横に佇む彼に向かってスティンガーブレイドを撃ち込んだ。
爆散した魔力刃によって起きる煙によって彼の姿が見えなくなるけど、そのまま容赦なく刃の雨を降らせ続ける。
「ハァ、ハァ……」
あれだけの数の魔力刃を浴びせたんだもの、いくらSSSランク魔導師といえど、相当のダメージを負ったはず.....
次第に晴れていく煙の先を見据えながら、私は息を整えた。
そうして完全に煙が消えたその先には――
「そ、そんな……っ!」
球状に彼を覆うバリアにスティンガーブレイドの魔力刃が何十本も突き刺さっている光景があった。
「そら、そっくりそのまま返してやるよ」
『リフレクトブレイク・フルバースト』
デバイスのものと思しき機械音声が聞こえた次の瞬間、バリアに刺さっていた刃が私に向かって飛んできた。
「なっ!?……くっ!」
その光景に一瞬驚くけど、すぐにシールドを張って防御の構えを取る。
そんな私に、彼は不気味に笑いながらこんな事を言ってきた。
「……いや、利子がついてるから『そっくりそのまま』じゃないか。悪いな、間違えたよ」
.....どういう事?
結論から言うと、私のその疑問はすぐに氷解した。何故なら――
――パキィィンッ!
「え!?」
飛んできた魔力刃が私の張ったシールドに当たった瞬間、それを粉々に撃ち砕いたからだ。
そしてシールドを抜いた魔力刃は、そのまま無防備になった私へと襲い掛かってきた。
「きゃあぁぁぁあああっ!」
容赦なく私に降り注ぐ魔力刃の雨。
それらは次々に私の服を切り、肌を切っていく。
徐々に血で赤く染まっていく私の身体。
.....いけない!血を流しすぎたわ!
気付いた時には時既に遅く、視界が次第に黒く塗り潰されていく。
.....ロッテ.....ごめんなさい、お父様.....
そして、私の意識は完全に闇に堕ちた。
―Side Out
あとがき
作者 「スーパー龍姫ターイム!」
龍姫 「いやぁ~、スッキリしたぁ~!」
作者 「いつぞや以来の清々しい笑顔だな」
龍姫 「いや、もう楽しくて楽しくて!」
作者 「……そんなに嫌いだったのか、リーゼ姉妹」
龍姫 「あ、別にリーゼ姉妹はそれ程でもないんだよな」
作者 「……本命はグレアム提督?」
龍姫 「まぁな。今回の2人は……とばっちり?」
作者 「ひでぇ。……コレ後半だけ見たら、お前完全に
龍姫 「そこはアレだ。前半が上手い具合に中和して……」
作者 「いや、後半のインパクトがデカいせいで前半のいい話が消し飛ばされる」
龍姫 「……ソンナコトナイヨ?」
作者 「そんな冷や汗ダラダラ流しながら言っても無駄だって。それに何故片言だし」
龍姫 「もういい!次だ次!」
作者 「あ、開き直ったよコイツ……というわけで、次回予告!
次回、第20話『卑怯汚いは所詮敗者の戯言(仮)』
を」
龍姫 「よろしくな!」