「ふぅ~……」
『Jacket Off』
リーゼ姉妹への折檻を終え、俺は1つ大きく息を吐いた。
「……ホント龍姫はアレを言われると、一切の容赦がなくなるわよね」
「うるせぇ。人が気にしてる事をわざわざ指摘するヤツにはキツいおしおきが必要なんだよ」
呆れた様子のアテナに、ちょっと不貞腐れたように返す。
「で、あの2人はどうするのよ」
それにしても――
「グレアム提督は今頃大慌てだろうな。2人を救出しようにもできないんだから」
くっくっく.....今この海鳴市一帯には俺特製の結界が張ってあるからな。
ちなみに効果は外部から結界内への干渉と、内部からの転移を完全に無効化するというものだ。
「龍姫?」
ヤベ、アテナの語気が強くなった。しかも怖い顔で睨んできてる。
「あ、ああ。……とりあえず話をする前に2人の治療だな」
「あんなボロボロにしたのは自分のくせに……」
「そこ、余計な事は言わない!」
「はーい」
それから俺達はリーゼ姉妹を担いで公園に戻り、芝生に寝かせると治癒魔法をかけた。
「『ホーリーグレイス』」
2人の怪我がみるみるうちに治っていく。
「「う……」」
すると、意識が戻ったのか軽く身じろぎする2人。
「……ここは?」
「お父様の執務室じゃないわね」
そして起き上がった2人は周囲を確認してそう零す。
「お目覚めかな?」
「「っ!?」」
俺が声を掛けると、ビクッと身体を震わせて恐る恐るこちらに振り向く。
「お前……」
「……どうして君がここにいるのかしら?」
「簡単な事さ。怪我した2人をここに運んで、たった今俺が治癒魔法をかけたからだよ」
「あれ……そういえば、すごい大怪我だったはずなのに治ってる……」
「……私もかなり出血してたはずなのに全然そんな感じがしないわね……」
「それはよかった。……流石に俺もちょっとやりすぎたからな、悪かった」
反省した意を込めて頭を下げて謝罪した。
「まぁ原因を作ったのはあなた方なので、自業自得ではあるんですがね」
「アテナ!余計な事は言わんでいい!」
「はーい」
わかっててやってるから性質が悪いよな、コイツの場合。
「アタシの言葉が原因だったんだろ?確かにこっちも悪かったよ、ゴメン」
「そうね。確かに非はこちらにあったわね、ごめんなさい。それから、怪我の治療をしてくれてありがとう」
「お、そうだそうだ。ありがとね」
「どういたしまして」
.....何か変な雰囲気だ。まあ、話を切り出すにはちょうどいいか。
「なあ、ちょっと話をしないか?」
「話?」
「何かしら?」
「『闇の書』に関して、なんだが……俺に全てを任せてくれないか?」
「え!?」
「ど、どういう事?」
案の定、その話題を出した途端に動揺するリーゼ姉妹。
「実は……俺は『闇の書』を『夜天の書』に戻そうと思ってるんだ」
「なっ!?」
「そんな事が可能なの!?」
「ああ。俺ならできる」
「「…………」」
そこで無言になる2人。.....さぁ、どうする?
「……ゴメン。アタシ達だけじゃ判断できないよ」
「そうね。一度お父様に聞いてみる必要があるわ」
.....まぁ予想通りの返答だな。それじゃ、こっちも。
「なら、後日俺が直接グレアム提督に話をしに行こう。どうだ?」
「う~ん……アリア、どうだろ?」
「そうね……うん。そういう事なら、お父様には私から話しておくわ」
「そうか。それじゃ、よろしく頼むよ」
「ええ。任せて」
フッ、計画通りだ。グレアム提督、悪いがあなたの『計画』は完璧に潰させてもらう!
それから日程の調整をして、この日はリーゼ姉妹と別れた。
瞬く間に日は過ぎていき、今日が約束の日。
俺はアテナと共に管理局本局の高官執務室棟に来ていた。
「はじめまして。ギル・グレアムだ」
「特務捜査官の氷護龍姫だ」
「補佐官のアテナ・グラウクスです」
とりあえず自己紹介から。
「先日は失礼した。すまなかったな」
「いいえ。実際こちらには何ら被害はありませんでしたから」
「……そうだったな」
そして早速雰囲気が緊張感を増す。
「……アリアから話は聞いているよ。本当にそんな事が可能なのかい?」
「ああ。もちろんだ」
「『闇の書』を『夜天の書』へと戻す……確かにそれができるなら、もうあのような悲劇は起きないのだろうな……」
「11年前の『闇の書』暴走事件の事か。クロノの父、クライド・ハラオウンが殉職したという」
「ああ。私はもう二度とあの時の悲しみを繰り返したくない。その為に『計画』を――」
「ふざけるな」
そこで俺はグレアム提督の言葉を遮る。提督は驚いた目で俺を見た。
「確かに『闇の書』は、これまでにそれこそ数え切れない人の命を奪い、多くの悲しみを生んだかもしれない……だがそれでも、それを知らない無関係な人間――しかもまだ9歳の少女を、はやてをあなたの個人的な都合の為に殺させるわけにはいかない」
「……っ!」
「『闇の書』の転生先がはやてだとわかったあなたはこう考えた――天涯孤独のはやてなら、封印したところで悲しむ人間は少なくて済む、と」
「…………」
「そしてあなたは『計画』を練り始めた。『闇の書』を暴走させて、表に出た防衛プログラムをはやてごと凍結し、次元の狭間に閉じ込めるという計画を」
「…………」
俺はそこまで一気にまくし立てる。その間グレアム提督はずっと無言だ。
「……それしか、ないと思った」
いつまでもこの状態が続くかと思っていたが、おもむろに提督が口を開いた。
「最初に彼女に辿り着いた時は、運命だと思った。あの子を不憫に思わなかったわけではないが、確かに君の言う通り、天涯孤独の彼女なら……と思った」
「はやての父親の友人を騙って、彼女の生活の援助をしていたのは?」
「永遠の眠りに就く前くらいはせめて、幸せにしてやりたかったんだ……」
「……いい加減にしろ。あなたのそれはただの自己満足に過ぎない」
提督の言葉を俺はバッサリと斬って捨てる。すると――
「ちょっと待ってよ!」
リーゼ姉妹の片割れ――ロッテが突然割り込んできた。
「これまでの『闇の書』の主だって、アルカンシェルで蒸発させたりしてんだ!父様の『計画』だって、それと何にも変わんない!」
「君だって局の人間なんだから、わかるでしょう?一般人だから関係ない、なんて決まりがあるから悲しみが繰り返されるの!クライド君だって、そのせいで!」
それに乗じて、アリアも声を荒げる。
「お前らは黙ってろ!……それに俺は管理局に籍を置いてはいるが、その正義まで信じているわけじゃない。俺は俺の信念にしか従わない」
「なっ!?」
「お前、よくもぬけぬけとそんな事を……っ!」
「俺を逮捕でもするか?……やめておけ、そんな事をすればお前達だってただでは済まさんぞ?」
「くっ……卑怯な……!」
「汚いわよっ!」
「復讐の為に偽りの正義を振りかざすお前達に言われたくはない」
さて、そろそろ終わりにしようか。
「ギル・グレアム……あなたがこの先復讐の為にはやてと守護騎士達に危害を加えると言うのなら、俺があなたを殺す」
最後の瞬間だけ、言葉と共に全力の殺気を叩きつける。
「「あ……っ」」
リーゼ姉妹は耐え切れなかったんだろう。2人ともその場で気を失った。
「む……ぐっ……」
提督は何とか耐えたようだが、全身から冷や汗が噴き出している。
「……1つ、聞かせてくれないか」
しばらくして落ち着きを取り戻した提督がそう聞いてきた。
「……何だ」
「八神はやては、君にとってどんな存在なんだ?」
俺にとってのはやて。それは.....
「……はやては、俺の大切な友人だ。そして、俺が命を懸けてでも護りたい人だ」
「そうか……」
俺の答えを聞いて、押し黙る提督。
「……わかった。君の提案に乗ろう」
しばらく続いた沈黙を破ったのは、提督のそんな言葉だった。
「ならば、今後一切はやてと守護騎士達に手を出さないと約束しろ。直接・間接を問わず、だ」
「わかっている」
「それから、準備の為にあなたの使い魔をレンタルしてもらう」
「いいだろう」
「……話はこれで終わりだ。また追って連絡する。じゃあな」
「失礼しました」
「ああ」
そうして、俺とアテナは部屋を出た。
「ふぅ……これで提督サイドには釘を刺したし、こっちへの協力も取り付けたな」
「そうね」
帰り道、俺はアテナと話をしながら局の廊下を歩いている。
「にしても、やっぱ疲れるわ……」
「ふふっ……でも、ああいう風に口で相手を説き伏せる龍姫って格好いいわよ?」
「……そうなのか?」
「ええ。とっても」
「俺にはわからん」
「ふふっ」
俺は憮然としながら、アテナは楽しそうに笑いながら、2人で歩いていった。
.....次ははやてに現状とこれからについて説明、だな。
あとがき
作者 「上手くシリアスさが伝わるといいんだが……」
龍姫 「全ては読者次第、だな」
作者 「やっぱりシリアスシーンは描写が難しいって」
龍姫 「弱音を吐くな。それでも作者か?」
作者 「ちなみに次回もこんな感じでいきます、多分……」
龍姫 「まぁ頑張れ」
作者 「おう。……にしても割と言いたい放題言った感じだよな、今回」
龍姫 「そうか?あれくらいは当然だと思うが……」
作者 「そんなもんか?」
龍姫 「そうだよ。……まぁ難しい話ではあったな。『正義』の捉え方っていうか」
作者 「必ずしも同じ方向を向いてないって事だよな」
龍姫 「まさに信念と信念のぶつかり合いだ」
作者 「……っと、なんか
龍姫 「そうだな……というわけで、気を取り直して次回予告だ。
次回、第21話『明かされた真実と、向き合う勇気(仮)』
を」
作者 「よろしくお願いします!」