妖怪の日常   作:テディア

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屋台とお酒とお料理と。

「いらっしゃーい」

 

夜、森の暗がりに灯る提灯。

そこから漂ういい匂いに誘われたのか、数名の妖怪が既にいた。

今日は屋台の気分だったので丁度よかったと暖簾(のれん)をくぐる。

ここ、美味しいし女将さんが話が分かる人だから時々来るんだよね。

 

「やっほー。鰻1つとおでんおねがーい。」

「はいよー。おでんは適当でいいよねー。」

 

今の季節はそれなりに寒いのでコートの前は閉めている。

しばらくの間お茶を適当に飲みながらぼーっとしていると、目の前に鰻とおでんが出された。

箸を手に取り、出汁が染み込んで色の染まった大根を齧る。

夜の寒空に少し熱いぐらいの温かさが心地いい。

正直鰻は美味しいけれど、食べるのが面倒なので最後に骨ごとまとめて食べる。

…ふと、彼女と目があった。

新しいお客さんもなく、暇をしていた彼女は思い出したかのように話しかけてきた。

 

「…こうして見ると不思議だよねー。

 貴女の料理用意して、2人で話して、そうやって椅子に座りながら食べてるのに…

 誰も貴女の事に気が付いてない。他のお客からはどう見えてるんだろうね?」

 

「さぁね?私が立ち去ったらみすちーが私の事殆ど覚えてないのと一緒じゃない?

 最初からここには誰もいないし、椅子の数なんて誰も分からない。

 みすちーは誰にも話しかけてないし、誰の料理も作ってない。…そんなものだと思うよ?」

 

「ほんっとずるいよねー、それ。鳥目なんかより凶悪じゃない。

 貴女が許してくれてるおかげで存在と名前は憶えていられるけど。」

 

ゆっくりと食べながらどれ程の時間をくつろいだだろう。

最後の餅巾着を食べ終わり、残ったおでんの出汁には薄っすらと

私の白髪と魅入るような浅葱色の瞳が映っている。

一瞬だけぼんやりとそこに映る自分を眺めた後、一気に出汁を飲み干した。

その後で一息に鰻を口に頬張り、咀嚼して飲み込んではお茶を飲む。

しばらくして全部食べ終わった後、私は膝の上に乗っけていた袋に手を入れた。

 

「…それ、お酒?」

「そ、お酒。鬼殺しって名前の奴。…お代替わりに、ね?」

 

片目だけを閉じて期待するような目で見つめる。

ここの屋台は幻のお酒が秘密裏に存在する事で酒好きの間では有名なのは知っていた。

それでもこういった有名な銘柄のお酒というのは幻想郷では貴重だからね。

幻のお酒といっても、本当に少しずつしか作れないのだから本人もそう簡単には飲めないだろうし。

 

「もう…まぁいつもの事ね。ご来店、ありがとうございました。」

「はいはい。それじゃあまた今度ねー」

 

一升瓶を割らないようにそっとテーブルの上に置き、その場を後にする。

夜もいつの間にか更け、さらに寒さが厳しくなる。

それでも十分に温まった体は寒々しい帰り道を楽にしてくれる、そんな気がした。

 

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