妖怪の日常   作:テディア

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置き傘の涙雨

 

_目の前には振り続ける雨。

そして足の下には湿気で少しだけ湿った地面。

濡れ続ける道と草木を眺めながら私は暇を持て余していた。

 

さぁさぁ、コト、コト。

質素な雨宿り小屋の中、椅子の隅っこに座って雨を凌ぐ。

サァサァ、こと、こと。

無表情のまま足を振り上げ、足元の濡れていない地面に叩きつける。

さぁさぁ、コト、コト、カラ。

当分止む気配がない。家の中にいる時に降るのは風情があるが、今はやめて欲しい。

サァサァ、こと、こと、カラ、カラ。

雨に紛れて下駄の音が聞こえてくる。

…へ?こんな人も妖怪も通らない道、しかも人通りが減る雨の日に下駄の音?

と、そう思った時。

 

_カラリ、と。

傘を閉じながら青い髪をした少女が入ってきた。 

勿論こちらには気づいていないので、こちらには目もくれず傘を閉じながら隣に座る。

唐笠お化けだろうか。赤と青のオッドアイが人ではない事を語っていた。

 

…どうせ暇なのだし、多少お話するぐらいなら大丈夫だと信じたい。

そう思い、気づかれないように少しずつ能力を緩めていく。

大丈夫。気づかれてない。

音を立てぬように息を殺し、ゆっくりと傍に近づく。

そして緩め終わった所で舌を濡らし、さも自然な風を装いながら息を吸って_

 

「今日は雨が長いですねぇ?」

「どぉうぉわああ!?」

 

…話しかけたのだが、大声と共に飛び退かれてしまった。

少しだけ残念ではあるけれども、まぁ仕方ないのかもしれない。

とはいえ、雨は勢いを増すばかり。

このままずっと沈黙の中で雨上がりを待つというのも退屈だし。

 

「…え?さっきいた?」

「いたよ?多分…半刻かな?それぐらい前からずっとここにね。」

「そうかぁ…まさかあちきが驚かされるなんて…

 

しかしそれにしても可愛らしさが目立つ。

言い換えるのなら幼さとも言えるのだが。

閉じられた傘から見える目と伸びた舌に青一色の服装。

人里で時々見かけるような気もするけれど…はて。

子供に懐かれていたような。

 

「…君は人里で子供とよく関わったりはするの?」

「うぇっ!?そ、そりゃあ驚かせるのが私だし…。」

「ふーん?懐かれるの間違いじゃなくて?」

「そっ、そんな事は! …そんな事…。」

 

そう呟いたきり、顔を伏せたまま何も言わなくなってしまった。

少し大人気なかったかもしれないが、まぁ致し方なし。

取り敢えず、驚いてくれないのが恐らく彼女の悩みなのだろう。

項垂れる彼女を見ながら巾着に手を伸ばし中から金平糖を取り出す。

それを一つ口に放り込みながら少しだけ考える。

雨はもう上がろうとしているのだし、ここで出会えたのも何かの縁。

最後に彼女に何かしてあげようと決めたのだ。

 

「…ねぇ、人間を驚かせたい?ビックリさせたい?」

「そりゃあ勿論!…でも最近は誰も驚いてくれなくて。はぁ…。」

「へぇ、そっか。それなら甘い魔法でもあげようかね。」

「…魔法?」

 

手持ちの金平糖を三つほど片手に取り、ほんの少しだけ能力を付与する。

気配を薄め、消し去る。ただそれだけの粗悪品。

でもこんなものでも今の彼女には何かの助けになるだろう。

何より甘くて美味しいし。

 

立ち上がって残りの金平糖を巾着に仕舞いなおし、残りを

湿気でしんなりとした紙に包んで彼女の目の前に差し出す。

 

「ほら、これを食べれば気配を消せる。でもそれ以上は役に立たない。

 数にも限りがあるから使う時は頭をよく駆使してから使うんだよ?」

「え?くれるの?本当に?」

「本当だってば、雨宿りの間のお礼。じゃあ私はもう行くからね。」

 

雨水でぬかるんだ道と濡れた草。

雲の間から見える太陽の眩しさに目を細めながら一瞬だけ振り返る。

じっと金平糖を見つめる彼女の姿を見たあと、前へと向き直った。

 

両手を精一杯伸ばして背伸びした後、両手を力なく落とす。

忘れられる魔法。忘れさせる魔法。能力をそう形容する。

頭に突然浮かんだ皮肉な言葉に薄く嘲笑するが、それが私なのだから仕方ない。

 

それじゃあ、また歩き出そうか。

 

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