あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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2019.1.5 冒頭に過去話の追加と、全体的に加筆修正を行いました。


サイヤ人編
1.彼女が地球へ向かう話


 エイジ759.ラディッツが地球を襲う、2年前の話。

 

 惑星フリーザNo.75。フリーザ軍の拠点であるその星に、一台のポッドが着陸した。

 ゆっくりとポッドの入り口が開き、そこから出てきたのは、明るい顔をした少女だった。

 

 

 彼女の名前はナッツ。惑星ベジータの崩壊後に生まれた彼女は、今年でちょうど3歳になる。

 

 夜のような黒い瞳に、肩まで伸びた黒い髪。緑色のスカウター。小さな身体を包むのは、黒い戦闘服と、袖が無く、腿までを覆う紫のアンダースーツ。彼女の母親が、この日のために選んでくれたものだった。

 

 

 ポッドの確認に来た整備員達が、彼女に笑顔で敬礼する。

 

「ナッツ様、初陣お疲れ様です!」

「お怪我はありませんでしたか?」

 

 可愛らしい子供の戦闘員である彼女は、フリーザ軍では有名人だったし、人気者だった。

 

 ナッツは笑って手を上げ、彼らに応える。サイヤ人の証である、尻尾が軽やかに揺れている。

 

「うん、大丈夫よ。ありがとう!」

 

 彼女はポッドを彼らに任せ、基地の中へと向かう。

 早く家に帰って、両親に報告をしたかった。

 

 初めて一人で星を滅ぼしたんだから、きっと凄く褒めてくれるに違いなかった。 

 

 

 

 ナッツは駆け足で、上級戦士用の宿舎へと向かっていく。

 彼女の両親は、フリーザ軍から特別に大きな部屋を与えられていた。

 

 父様はサイヤ人の王族で、とても強くてたくさん手柄を挙げているし、病気がちな母様も、身体の調子が良い時なら、結構強いのだ。

 

 彼女はそんな自分の両親を誇りに思っていたし、自分も早く、強い戦士になりたいと思っていた。今回の惑星攻略は、そのための大きな一歩だ。

 

 まあそこまで強い戦士のいる星でも無かったし、宇宙船で乗り込んで月を見て、気が付いたら全て終わっていただけなのだけど、それでも私が一人でやった事には変わりない。誇らしかったし、褒めて欲しかった。

 

 

 

 走るナッツに、すれ違う基地の職員や戦士達が声を掛ける。彼女は足を止めないまま、その一つ一つに、笑顔で応じていく。

 

「お、ナッツちゃんだぜ」

「ナッツちゃーん!」

 

 手を振ってくる4人組のおじさん達。前にフルーツパフェをご馳走してくれた人たちだ。笑って手を振り返すと、4人でビシッと格好良いポーズをしてみせてくれた。思わず足を止めてしまう。

 

 自分も真似して、今考えた王族っぽい高貴なポーズをしてみせると、凄え!と拍手と歓声が上がる。良い人達だと思った。

 

「またね! おじさん達!」

 

 

 

 ナッツが上級戦士用の宿舎へと向かうのを見た彼らは、誰となくため息をついた。

 

「ナッツちゃん、可哀想になあ」

「フリーザ様も、あんな死にかけのサイヤ人の女一人、放っておけば良かったのによ」

 

 青い肌の男がそう漏らすと、長身で紫色の肌の、黒い2本の角の生えた男が歩いてきた。途端に気まずそうな顔になる4人。次の任務の調整で、戻るのはもう少し後だと思っていた。

 

「隊長、お疲れ様です」

「バータ、口を慎め。フリーザ様のなさる事だ」

「へいへい」

 

 遠くへと離れていく少女の背中を、4人は憐れむような目で見守っていた。

 

 

 

 ナッツが宿舎に戻った時、そこには誰もいなかった。

 

 調子を崩して休んでいたはずの母親の姿も、見当たらなかった。

 スカウターで何度呼びかけても、返事は返ってこなかった。

 

 しばらくして、険しい顔の父親がやって来て、少女に告げた。

 母親は難攻不落の惑星に、たった一人で出撃してしまったと。

 

 

 

 

 

 雨が降っていた。

 無数の死体や兵器の残骸の中、それらの密度が一番高い場所に、彼女の母親は倒れていた。 

 

 出撃する前に、気を付けてねと、笑ってナッツを抱き締めてくれた母親の身体は、既に冷たくなっていた。満足そうな顔で、力尽きるように死んでいた。

 

 

「母様、どうして、どうしてこんな……」

 

 降りしきる雨と涙で、溺れてしまいそうだった。縋り付いて呼びかけても、返事は返ってこなかった。もう母様に、任務の成功を報告して、褒めてもらう事はできないのだと、その事実が何よりも苦しかった。

 

 

 フリーザの野郎、と、震える拳を握りしめ、絞り出すように父様が言う。

 

「父様、フリーザが、母様を?」

 

 父様は、何も言わずに頷いた。父様の顔も、ずぶ濡れになっていた。

 

 

 なぜこんな事を。父様は頑張ってくれてるって、言っていたじゃない。

 母様だって私だって、フリーザのために戦ったのに、なぜこんな事を。

 

 

 降りしきる雨の中、少女のぐしゃぐしゃに濡れた顔が、悲しみと殺意に歪む。

 

 

 

ゆるさないわ。ころしてやる。

 

 

 

 ナッツは復讐を誓った。何年かかってもいい。戦い続けて力をつけて、いつかフリーザを殺すのだ。この苦しさを力に変えて、全て叩き込んで殺してやる。いつか来るだろうその日が、楽しみで仕方ない。

 

 

あはっ、あははははは

 

 

 少女は雨に濡れながら、凄惨な笑い声をあげる。

 壊れてしまったように、虚ろな瞳で笑い続ける。

 

 

「ナッツ!」

 

 娘の状態を見かねた父親は、そうしなければならないと、小さな身体を、強く抱きしめていた。

 

「ナッツ。大丈夫だ。オレがお前の傍にいてやる。あいつの分まで愛してやる。だから」

 

 

だからどうか、お前まで、いなくなってしまわないでくれ。

 

 

「……父様!」

 

 震える父親の声を聞いて、少女の目に光が戻る。少女は父親に、縋り付いて泣いた。その身体は温かかった。辛くてどうしようもなかったけど、父様がいてくれるなら、耐えられると思った。

 

 

 

 

 復讐を誓ったその日から、2年が経過した。

 

 戦闘力を上げるために、ナッツは自分を鍛え続けた。最低限の休息以外の時間を、全て訓練と任務に充てて、いくつもの星を滅ぼした。父親達に同行して、一人では到底死ぬだろう、危険な惑星へ行く事もあった。

 

 5歳となり、身体も成長したが、内面は、あの日、あの時から変わっていない。母親を失った悲しみに加えて、フリーザへの復讐心と怒りが燃え続けていた。

 

 フリーザ軍の人間に対して、彼女が笑顔を見せることはなくなった。一切笑わないわけではないが、それを見る事ができるのは、ごく少数の身内のみだった。

 

 

 

 地球から遠く離れた、とある辺境の星。

 

 夕暮れ空の下、荒れ果てた荒野に、無数の兵士達の死体が転がっている。惑星上の全ての都市は破壊され、もはや人が生きられる状態ではない。

 

 その惨状をたった一人で作り出した少女は、積み重なった死体に腰かけ、つまらなさそうに、棒状の携帯食料を口にしていた。

 

「いくら月の無い星だからって、星一番の戦士が戦闘力1400は、さすがに手ごたえが無さすぎたわね。こんな事なら、サイバイマンと遊んでいた方が良かったわ」

 

 ナッツは夕日を見つめながら、物思いにふける。尻尾は固く、腰に巻かれている。

 

 この2年間、戦い続けて彼女は強くなった。人工的に満月を作成するパワーボールの作り方も、血の滲むような努力の果てに習得した。正面から1対1で戦うのなら、ギニュー特戦隊やザーボン、ドドリアといった例外を除いて、フリーザ軍の大抵の相手を殺せる自信があった。

 

 だがフリーザの底知れぬ戦闘力の前には、まだ全く及ばないとわかっていた。自分より遥かに強い父様でもまだ、復讐に踏み切れないでいるのだ。少なくとも、人間の姿でもギニュー特戦隊を倒せるくらいに鍛えなければ、話にすらならないだろう。

 

 

 ナッツはスカウターを操作し、フリーザ軍が提供している、攻略目標の惑星の一覧を呼び出した。既に何度も見返したそれに、変化が無い事を確認してため息を吐く。

 

 彼女にとってちょうど良い強さの星が無いのは、最近の悩みの種だった。そうした惑星は彼女が全て滅ぼしてしまったので、今はこうした強い戦士のいない星か、あるいは彼女一人では危険なレベルの星しか残っていない。多少危険でも月のある惑星なら問題は無かったが、そうした星の大多数は、彼女が生まれる前に、惑星ベジータのサイヤ人達の手で滅ぼされている。

 

 フリーザ軍の他の戦士と組む気は無かった。表面上は友好的に見える彼らが、フリーザの命令でいつ彼女を狙ってくるか、知れたものではないし、彼女自身が何かのはずみで、殺さずにいる自信がなかった。だから最近は父親やナッパ達の任務に同行させてもらっていたが、少し前に彼女が危険な目に遭ってから、連れて行ってくれなくなってしまった。父親が自分の事を心配してくれているのは嬉しかったし、たった5歳でその戦闘力なら十分だと言われたが、それでも彼女は不満だった。

 

 早く大人になりたかった。フリーザがその力を恐れるほどの、強い戦士になりたかった。

 

「なぜだ……なぜ、こんな事を……」

「ああ、まだ生きてたの。注意が散漫になっていたのかしら。次からは気を付けることにするわ」

 

 倒れていた兵士の呻き声に気付いたナッツは、近寄って左手でその頭部を掴む。小さな手に力がこもり、兵士の頭が軋んでいく。弱い、と思う。弱い相手を殺す事を、退屈だとは思うが、躊躇いは無い。サイヤ人とはそういうものだと、彼女は幼い頃から教育されてきた。

 

「やめっ! あ、があぁっ!?」

「質問の答えだけど、私は知らない。フリーザ軍の戦略担当に聞いてちょうだい。けどたった一つだけ、私から言えることがある」

 

 果物の潰れるような音と共に、兵士の頭が弾け飛んだ。

 

「こうなったのは、私が強くて、あなた達が弱かったからよ」

 

 返り血を浴びたナッツは、そう言い捨てて、再び携帯食料を口にする。自分があの時、フリーザを殺せるほどに強ければ、奴は母様に手出しをしなかっただろう。けどそうはならなかった。母様は死んだ。だから弱い奴が、強者の意思一つで死ぬのは、当たり前の事なのだと、彼女はそれを、受け入れて生きてきた。

 

 沈みそうな夕日に照らされて、無数の死体を串刺しにして、少女の影が伸びていた。積み上げた死体の数だけ、自分は強くなる。いつかフリーザに届くだろうと、彼女はそう信じていた。

 

 

 

 ナッツが食事を終えたちょうどその時、スカウターから、甲高い電子音が鳴った。少女は通信モードをオンにする。相手の声を聞いて、その表情が、ぱあっと明るくなった。

 

『俺だ。ベジータだ。怪我はしていないか? ナッツ』

「父様ですか! ええ、大丈夫です! たった今全滅させて、これから帰るところでした!」

 

 父親と話す少女の姿は、年相応の無邪気なもので、惑星ひとつを壊滅させた元凶とは、とても思えないものだった。2年前に母親を亡くして以来、父親の存在が、彼女の心の支えだった。

 

『俺とナッパは地球に行くことになった。少し遠い星で大して強い奴はいないが、環境だけは良いと聞いた。久しぶりに、お前も一緒に来ないか?』

 

 その言葉を聞いたナッツは、父親と一緒に戦えることに、すっかり嬉しくなってしまった。遠いと言っても、コールドスリープで寝ていれば、体感的には一瞬で済むだろう。

 

「行きます! 待ってて下さい! すぐに合流しますから!」

 

 少女は急いでポッドに乗り込み、父親の待つ星へ飛び立った。

 

「父様と一緒の任務……楽しみね。あんまりはしゃいですぐ終わらせないよう、ナッパに言っておかないと」

 

 ポッドの窓から宇宙を眺め、ナッツは鼻歌を歌いながら、嬉しそうに笑っている。その様子は、遠足を前にした子供のようだった。

 

「……あれ? 地球って、最近どこかで聞いた気がするんだけど……」

 

 ラディッツが向かうと言っていた星が、そんな名前では無かっただろうか。スカウターで聞こうとするも、壊れてしまったのか、返事が返ってこない。あるいは既に、死んでしまっているか。

 

「まあ、どうでもいいか」

 

 小さい頃は良い練習相手になってくれたけど、彼の力はとっくに超えてしまっていたし、フリーザと戦うにも、役に立たないだろう。同じサイヤ人とはいえ、そんな弱い奴の生死に、大して興味は持てなかった。

 

 

 

 それから、およそ1年後。

 

 宇宙空間の中を、地球に向けて、2つのポッドが飛んでいる。そのうちの1つは複座型の大きなもので、父親と娘が並んで目を閉じ、眠りについていた。

 

 閉じていた少女の瞳が、ゆっくりと開かれる。目的地である地球が近づいて来たのだ。

 

 ナッツはまだ眠そうに目をこすり、大きく身体を伸ばす。父親の顔を見たくて横を見ると、同じように起きたばかりの父親と目が合って、ナッツは嬉しくなって微笑んだ。

 

 

「むう、父様……おはようございます」

「ああ、おはよう」

 

 二人は軽く運動をして、身体をほぐしていく。長期睡眠で筋力などが落ちる事はないが、それでもしばらく動いてない身体を慣れさせる必要があった。

 

 ナッツは自分の身体が、この1年間で全く成長していない事を確認して、やや不満な気持ちになる。まあ眠っていただけなので仕方がないし、年齢も長期睡眠中の分は数えない事になっているのだけど、1年経ったのだから、少しくらい背丈とか伸びても良いんじゃないかと思う。

 

「ナッツ、今のうちに食事をしておけ」

「はい、父様」

 

 運動を終えたナッツは、父親から差し出された棒状の携帯食料を受け取り、開封して笑顔で食べ始めた。隣で同じ物を食べながら、父親が娘に話し掛ける。

 

「うまいか?」

「はい! おいしいです!」

 

 味も良くて飽きないし、持ち運びも簡単で保存も効く。これだけ食べていれば栄養的に全く問題ないのも素晴らしい。それに何より、久しぶりに父様と二人で食事をしているのだ。おいしくないはずがない。

 

 食事をしながら、少女は父親に、自分の近況について話していた。この前攻略した惑星はどんなだったの、戦闘力がどのくらい上がっただの。スカウター越しに毎日会話はしていたが、彼女がほとんど休まず任務に出ているので、直接会って落ち着いて話せる機会は貴重だった。

 

 父親の方は、娘の話を聞きながら、惑星の攻略法や、敵との戦い方について、自身の経験談も交えたアドバイスをしていった。ナッツにとってそれらは参考になる事ばかりで、父親との会話という事もあって、とても楽しい時間だった。

 

 

「お前も腕を上げたようだし、地球の奴らを片付けたら、久しぶりに稽古でもつけてやるか」

「本当ですか! 嬉しいです!」

 

 思わず尻尾を振りたくなってしまうが、無闇に腰から解かないよう、注意されているので我慢する。

 

(家族で遠くに遊びに行くのって、凄く楽しい。こういうの、何て言うのかしら)

 

 少女は旅行やピクニックという言葉を知らなかったが、一般的な用法はともかく、ナッツにとって、この地球への旅は、そうしたものだった。

 

 母様も一緒に居てくれたらいいのに。一瞬だけそう考えて、寂しくならないよう、すぐにその考えを打ち消した。

 

(私には、父様がいてくれるから。それだけでもう、満足すべきなのよ)

 

 

 

 

 

 やがて二人の話題は、これから行く惑星の話に移る。

 

「もうすぐ地球ですね。確か月もあるんでしたっけ?」

 

 月を見られるという期待に、少女の頬が緩む。ナッツは満月が好きだった。大猿に変身するだけならパワーボールでも可能だが、消耗もないし、たった数時間で消えてしまう事もなく、一晩中変身していられる。それに何より、雰囲気がある。

 

「ああ。ちょうど今日が満月の日だ。地球人共がどれほどの強さか知らんが、さすがに大猿になったお前に勝てるほどではないだろうさ」

「父様、ちょっと過保護です……。けど、ありがとうございます」

 

 自分で月を作る必要のない満月の夜ならば、本当の意味で、彼女は全力で戦える。あらかじめ変身しておけるのなら、ザーボンやドドリアにも負けない自信があった。

 

(まあ、あの二人が満月の夜に私と二人きりになるなんて有り得ないから、仮定の話なんだけど)

 

 ナッツ達が月のある惑星を攻略している時、あるいはパワーボールで月を作った時も、彼らは絶対に近付こうとしない。フリーザの側近である彼らが恐れるほど、変身した私達は強いのだと、その事実を内心誇らしく思っていた。

 

 

 そう、あの地球には月があるのだ。住民は大した戦闘力を持っていないらしいが、人間の姿で地道に片付けるよりは、退屈しないで済むだろう。それに嬉しい事に、久しぶりに父様も一緒なのだ。

 

 少女は父親に向けて、花のように笑ってみせた。

 

「地球に着いたら、2人でいっぱい楽しみましょうね」

 

 父親はその笑顔を見て、ナッツの母親のことを思い出した。娘の整った顔立ちには、どこか彼女の面影があった。

 

 

 その時、スカウターから、甲高い電子音が鳴った。隣のポッドからの通信だ。

 

『お嬢、俺もいるんですが……』

「ナッパは黙ってて」

 

 少女にとっての彼は、数少ないサイヤ人の仲間で、自分より強い戦力だった。個人的な感情は、特に無かった。小さい頃から可愛がってくれていて、別に嫌いなわけではないが、貴重な父親との時間を邪魔されたくなかった。

 

 自分には父様さえいれば、それで良かった。 

 

 

 それから、しばしの時間が経過した。

 

 父親と楽しい時間を過ごしていた少女は、遠くに見えてきた青い惑星に気付き、立ち上がって窓越しに指差して笑う。

 

「父様! 地球が見えてきました! まだ昼みたいですけど、せっかくですから月が出てから降りましょうか?」

 

 ベジータは、地球を見て表情を硬くする。

 

「ナッツ、それなんだが……周囲にあるはずの月が見当たらん。事前に破壊されたらしい」

「……えっ!?」

 

 何かの間違いではないかと、少女は地球の周りを念入りに確認するも、確かに月は見えない。天体を破壊するにはかなりの戦闘力が必要だが、宇宙において月の大きさは様々だ。どうやら地球の月は、簡単に壊せるサイズだったらしい。

 

「地球の奴ら、私達を変身させないために、そこまでするの……!」

 

 楽しみを台無しにされたナッツは、怒りの表情で地球を睨み付ける。そして、ふと何かを思いつき、ニヤリと笑った。

 

 そんなに怖がっている奴らが、大猿になった私を見たら、どんな顔をするだろうか。

 

「私がパワーボールで月を作って、驚かせてあげましょうか?」

 

「やめておけ。あれは消耗が激しい。必要な時は俺がやる。まあ、地球人ごときに使うまでもないだろうがな」

 

「わかりました、父様。……けど腹が立ちます! 父様と一緒に月を見るのを楽しみにしてたのに……」

 

 むくれるナッツの肩を、ベジータは自分の尻尾で優しく叩いた。ナッツはそれに気づいて微笑み、父親の尻尾に自分の尻尾を絡める。互いに大事な尻尾を預け合うのは、サイヤ人にとって信頼と愛情を示す行為だ。少女の頬が緩む。

 

「父様の尻尾、温かいです」

「お前のも、な」

 

 ポッドが地球に着陸するまでの間、2人はずっとそうしていて、少女はこの世で一番の、幸せな時間を噛み締めていた。ふと何気なく、ナッツは呟く。

 

「父様、私を置いて、死なないでくださいね」

「当たり前だ。お前も、あんまり危ない真似はするんじゃないぞ」

 

 ナッツは父親の強さを信じていた。だからこれは、否定される事が前提の、念押しのようなものだった。母親の身に起こったような事が、たとえ万が一あるとして。少なくとも、それは今日ではないだろうと、安心してその温もりに身を委ねていた。




というわけで、リメイク済みの第1話です。
冒頭のナッツの過去をようやく書けてすっきりしました。何でこれ入れ忘れてたの昔の自分。


第1話から第4話については投稿に慣れていなかった時期に書いたもので、自分でもちょっと拙い文章だなあと思うので、まずこれらを書き直して、それ以外の話も合わせて軽く修正してからナメック星編に入ります。

先にナメック星編を早く読みたい! という方も大勢いらっしゃると思いますが、そっちの下書きも少しずつ同時進行でやってますのでどうかご容赦を。


それと年末にサイヤ人編を終わらせた辺りから、評価やお気に入り数が一気に増えまして。驚くと同時に嬉しく思っております。読んで下さった方々、ありがとうございました。

もしよろしければ、この小説に限らず、面白い、とか続きを見たい、と思った作品には感想や評価を加えてあげて下さい。きっと作者が喜んで続きを作る原動力になると、投稿を始めて強く実感できましたので。
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