あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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38.彼女達とセルが戦う話(前編)

 いよいよセルゲームが始まった。

 

 ナッツ達だけでなく、TV放送を通して全世界が見守る中、一人目の戦士として、悟空がリングへと上がり、セルと向かい合う。

 

「いきなり貴様からか……一番の楽しみは、もう少し後でも良かったのだぞ?」

「どうかな。一番強えのは、オラとは限らねえぞ?」

 

 負けたら悟飯に任せると公言している悟空は、リラックスした様子で、ちらりと観客席の息子を見る。

 

「何だと……?」

 

 セルが悟空の視線を追った先には、悟飯とナッツの隣に座るミスター・サタンの姿。

 

「……奴が貴様よりも強いというのか?」

「ああ、期待は裏切らねえと思うぞ」

 

 彼らのやり取りを聞いて、満足げに頷くサタン。

 

「君のお父さんは良い人だな。オレの顔を立ててくれている」

「そ、そうですね……」

 

 父親の意図とセルの誤解に気付いている悟飯は、この後どうするのこれ!? と内心冷や汗を流していた。

 

 そしてリングの上で、悟空とセルが構えを取る。その光景はTV中継され、オレンジ色の胴着の男は格闘家であり、ミスター・サタンの前座であるとアナウンサーが説明している。

 

 放送を見ていた犬の国王や、かつての天下一武道会を知る人々は、孫悟空選手と似ている気がするけど、金髪で青い目だし別人かな? と首を傾げていた。

 

『彼の名前は……』

 

 そこでアナウンサーは、選手の名前を聞き忘れてしまった事に気付く。世界中が注目する生放送でのミスに青ざめる彼に、ナッツが小声で助け船を出す。

 

「カカロットよ」

『カカロット選手です!』

 

 同時刻、国王らは名前を聞いて、やっぱり別人かー、となっていた。

 

『どうですか、ミスター・サタン。あの選手をご覧になって』

『かなり鍛えているようだ。もちろん私には及ばないが、あわよくばセルを倒してくれるんじゃないかと期待しているよ』

 

 片目を瞑る世界チャンピオンのリップサービスに、お茶の間の人々が、久しぶりに明るい笑顔になる。

 

 そして戦いが始まった。

 

「来い!」

 

 セルの誘いを皮切りに、悟空が猛スピードで距離を詰める。勢いのまま頭を狙った回し蹴りをセルが受け止め、すかさず反撃で振るわれた拳を、身を沈めて避ける悟空。

 

 目にも止まらぬ速度で、大気を激しく揺るがせながら二人は攻防を続ける。バク転を繰り返して距離を取った悟空に、今度はセルが頭ごとぶつかっていき、受け止めた悟空が後ろに倒れつつ両手を地につけ、両足でセルを上空へと蹴り飛ばす。

 

「か……め……は……め……」

 

 両手を構えながら、悟空も飛び上がって追撃し、

 

「波っ!!」

 

 放たれたかめはめ波を、セルは右手に力を込めて弾き飛ばす。その後ろに現れた悟空が、セルの背中を殴りつけるも、すかさず振り向いたセルが反撃し、組み合わせた両手を悟空の頭へと振り下ろす。

 

 直撃を受け、凄まじい勢いで落下した悟空が、リングに激突する寸前で体勢を整え、衝撃で石舞台にヒビを入れながら両手両足で着地する。

 

 そして軽やかに降り立ったセルが、全くダメージを受けていない様子で立ち上がった悟空と再び向かい合う。

 

「準備運動はこれくらいにしておくか……」

「そうだな」

 

(カカロットもセルも、まだ全然本気じゃないわね……)

 

 ナッツ達からすれば、今の攻防が全くの小手調べである事は明らかだったのだが。想像を絶するレベルの戦いに、サタンとアナウンサーは呆然としていた。

 

『い、今のカカロット選手の戦いは、もしかして凄かったんじゃないでしょうか……?』

『あ、ああ、予想以上だ……』

 

 思わず素で呟く世界チャンピオン。

 

「今の撮れたか?」

「無茶言わないで下さいよ!? かろうじて映った分も、見ても全然判りませんよ」

「だよなあ」

 

 当然、彼らの動きをカメラマンが追えるわけもなく。ごく一部の武闘家達を除いた大多数の視聴者は、機材の調子でも悪いのかな? と思っていた。

 

「はっ!!」

 

 悟空が両腕を腰の横で構え、一息に気を解放する。リングの周囲数百メートルに、中央から台風のような突風が吹きつけ、土塊や小石が舞い上がる。

 

 本気を出した悟空の凄まじい気に、ナッツ達は唖然とした顔になってしまう。

 

「カカロット、凄い戦闘力だわ……」

「……そうかな?」

「えっ?」

 

 怪訝な顔の少女に見つめられて、悟飯は慌てて訂正する。

 

「い、いや! ボクは精神と時の部屋で見た事あるし……!」

「いいのよ。頼もしいわね」

 

 ふふっと笑う彼女の表情に、赤くなって俯く悟飯。

 

「はっ!!」

 

 セルもまた、同様に気を解放する。再び吹き荒れる豪風に、飛びそうになるカメラを必死に押さえるカメラマン。

 

 風が収まり、オーラに包まれ向かい合う二人を見て、後ろに倒れかけたアナウンサーが震える声で実況を続ける。

 

『い、今のは一体何だったのでしょうか。突然何かが爆発したような……そしてカカロット選手とセルから、炎のようなものが……』

『……しょ、照明の演出かな?』

 

 そうであってくれと、きょろきょろと周囲を見回す二人を他所に、悟空とセルは戦闘を再開する。凄まじい速度の悟空の連撃を受け、吹き飛ばされながらも空中で停止し、にやりと笑うセル。

 

「いいぞ孫悟空! これだ! やはり戦いはこうやって、ある程度実力が近くなければ面白くない」

「ああ、オラもそう思う」

 

 そこでセルはリングに降り立ち、両手を腰だめに構えて気を高め始める。

 

「か……め……」

 

 それを見た一同は驚愕する。地表近くでああまでパワーを高めた状態でかめはめ波を使えば、ほんのわずかな角度の狂いで、地球が破壊されてしまいかねない。

 

「や、やめろ!」

「は……め……」

 

 悟空が叫ぶも、セルは攻撃を止めようとしない。そこで少女が立ち上がり、慌てる天津飯を捕獲した。

 

「なっ、何故オレを!?」

「出番よ! 確かあなた、かめはめ波が大小関係なく効かないんでしょう?」

「いつの話だ!?」

 

 飛び込んで盾になりなさいと、必死に抵抗する天津飯を、ぐいぐいと観客席からリングの前に押し出すナッツ。

 

 彼女が言っているのは、第22回天下一武道会のビデオで、観客席を映したシーンに偶然収録された発言だ。とはいえ、さすがに地球自体を破壊するような威力は、当の亀仙人も想定していなかったに違いないが。

 

(……かめはめ波が効かないだと?)

 

 騒ぐナッツ達を見たセルが、小さく顔をしかめる。元よりまだ地球を破壊するつもりは無かったのだが、それでは脅しにならないと、一瞬悩んだセルは、すっ、と構えを変更した。

 

 突き出した両手の人差し指と親指で作った三角形。その構えに見覚えのあるヤムチャ達が悲鳴を上げる。

 

「あれはまずい!」

「ちょっと!? より危ないの来ちゃったじゃない!」

「オレのせいか!?」

「こっちだ! セルーー!!」

 

 悟空が飛び上がり、それを予想していたセルが、にやりと笑って狙いを上へと向ける。避けられないタイミングで、必殺の一撃が放たれる。

 

 

「気功砲!!!」

 

 

 膨大なエネルギーの奔流に飲み込まれる寸前、悟空は額に指を当てて精神を集中する。その姿が一瞬でセルの背後へと転移する。

 

「はっ!?」

 

 とっさに振り向いたセルに、悟空が渾身の蹴りを叩き込む。吹き飛ばされたセルは、場外寸前でギリギリ足を止め、口元の血を拭って息をつく。

 

「……なぜだ。今のタイミングなら間違いなく当たっていた」

「瞬間移動ってやつだ」

「そいつは厄介な技だな……だが」

 

 お返しとばかりに、セルの姿が一瞬にして掻き消える。驚く悟空の眼前に現れたセルが正面から彼を殴り飛ばす。

 

「私もスピードには自信があるんだ。瞬間移動とまではいかないがね」

「そう来ないとな!」

 

 にっと笑った悟空が、セルの追撃を残像で回避し、今度は瞬間移動を使わずセルの背後に出現する。振り下ろした拳をやはり残像で避けたセルが、悟空の頭上に現れ、直後の攻撃を悟空がさらに回避する。

 

「ふ、二人はどこへ……?」

 

 サタンとアナウンサーの目には、突如彼らがリングから消えたようにしか映らない。戦いの舞台は、既に上空へと移っていた。

 

「な、何て速さなの、二人とも……」

 

 悟飯の目線を参考に、ギリギリ彼らの動きを追いながら、ナッツが呟いた。

 

 まるで互いの速度を競い合うかのように、二人は目まぐるしく上空を駆け回り、瞬く間に数十、数百回の攻防を繰り返す。 

 

「……やるじゃないか本当に。ここまで楽しめるとは正直思わなかったぞ」

「オラもそうだ。せっかく人造人間が来るの待ってたのに、急に病気になったりで、良い所なかったからな」

 

 激戦でダメージを受けながらも、笑みを返す悟空を見て、セルは呟いた。

 

「……この戦いを場外負けなどで終わらせるのは惜しい」

 

 もはやリングなど不要と、セルは真下に掌を向けるが。そうして目に入ったのは、先程作った観客席と『第一回セルゲーム』の看板が掲げられた運営本部兼選手控え室。その周囲には、遠くから地盤ごと持ってきた草花や木が植えられている。

 

 天下一武道会経験者達からの、数度のリテイクを経て完成したそれらは、見た事はないが、本物の天下一武道会の会場にそっくりな出来栄えだという。 

 

 一呼吸おいて、すっ、と掌を返したセルが言った。

 

「場外負けはルールから外そう。勝敗は降参するか死ぬかだけだ」

 

 言われた悟空が、うっすらと笑みを浮かべる。

 

「どうした?」

「おめえ今、会場を壊すのをためらったろ。どうしてだ?」

「……さあな」

「立派なリングじゃねえか。飯食う所がねえのが、玉にキズだけどよ」

「食事か。私にはわからん」

 

 ナメック星人の細胞を持つセルは、今まで水以外の物を口にしたことは無かったし、その必要性も感じなかった。

 

「もったいねえなあ。世界にはうめえ食い物がいっぱいあるってのに」

「知らんな。私には意味の無い事だ」

 

 それよりも戦いを楽しませろと、指を曲げて誘うセルに、それもそうだと悟空は再び躍り掛かるのだった。




 既に悟飯に色々伝えて任せてある分、悟空のエンジョイ度が上がってます。セル編悟空、ここまであんまり良い所無かったですし……。
 あとセルは戦いさえあればそれで良いと思っていて、悟空も全部ではないですけど似たようなところがあるので、特にこれ以上突っ込んだりせず戦いに戻ってます。

 一応、サタンの性格は原作からそこまで変えてないつもりです。原作サタン視点からすると悟空達って、TV中継されてる世界チャンピオンの試合にろくな説明もせず割り込んで来た得体の知れない集団で印象が最悪だったので、きちんと説明して筋通して、あと娘と同じ年頃のファンの女の子とかもいればこんな感じになった可能性もあるんじゃないかなあと。

 それとどうして悟飯出るあたりまでTV中継されてたのにサタンの手柄に? って思ってましたけど、原作読み返したらまともに試合を放送できてるわけないですねこれ。映った映像も一般人視点だと全く見えないでしょうし、事前の人気もあって普通にサタンが倒したと主張すれば通ったのかなあと。この話ではどうなるかは先の展開をお楽しみください。

 またお気に入り、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。続きを書く励みになっております。ちょっと9月は忙しくなりそうで続きは遅れるかもしれませんが、エタらせるつもりはありませんので気長にお待ちくださいませ。


・ごく一部の武闘家達

 サイボーグ桃白白とか、鶴仙人とかジャッキー・チュンとか色々な人が見てそうです。全然見当違いの所を映してるの見て現地に行けば良かったとイラついてそう。
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