あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

103 / 104
39.彼女達とセルが戦う話(中編)

 その後も悟空とセルの戦いは続いた。

 

 先の気功砲のお返しとばかりに、悟空が瞬間移動で至近距離からセルにかめはめ波を直撃させる。上半身が消し飛ぶも、セルは身体を再生させて悟空を殴り飛ばす。

 

 岩山に叩き付けられた悟空は瞬時に体勢を立て直し、追撃に向かっていたセルに無数の気弾を撃ち放つ。とっさにガードするも押し切られそうになったセルは、気合と共に巨大な球状のバリアーを展開し、全ての気弾を弾き飛ばす。

 

 互いに息を切らせながら、更に二人は戦闘を続ける。一見互角に見えていた戦いだったが、長期化するにつれて、だんだんと優劣が明らかになってくる。

 

 頭に噛みつかれて絶叫するセルを見ながら、ナッツが呟いた。

 

「二人ともダメージを受けて消耗してるけど、セルの方が余裕があるわ……」

「お、お父さん……」 

 

 逆に腕に噛みつき返され絶叫する悟空を、突っ込みたそうな顔で見守る悟飯。

 

 疲労とダメージで少しずつ動きが精彩を欠いていくも、悟空は諦めず、むしろ強敵との戦いを楽しむように必死に食らいついていたが、ついに限界が訪れる。

 

「はぁっ……はぁっ……」 

 

 力を使い果たして倒れた悟空に、同じく息を切らしたセルが声を掛ける。

 

「貴様はよくやった、孫悟空。仙豆とやらを食うがいい。更に素晴らしい試合になるはずだ」

 

 ここで思いっきり孫悟空と言っているが、カメラマンとアナウンサーは危険を感じて遠くからの撮影に切り替えており、収音マイクを使ってはいたが、音声はろくに拾えていない。 

 

 サタンも同じく離れたかったのだが、顔見知りの子供二人が臆せず観戦しているのを見て、逃げるわけにはいかないと、内心震えながら観客席に残っていた。

 

「悟空! 受け取れ!」

 

 だが仙豆を投げようとしたクリリンを、悟空が手を振って止めて言った。

 

「……まいった」

「は?」

「降参だ。おめえの強さは良く判った。悔しいけど、オラじゃおめえに勝てねえ」

 

 上半身を起こし、満足そうに笑う悟空を見て、セルは訝し気な顔になる。

 

「……貴様が降参するというのなら、次の者が出るという事か?」

 

 人間共の実況によると、最後の選手はミスター・サタンとかいう男で、確かに孫悟空は前座という話だったが。なら次は、ベジータかトランクスかあの娘か。

 

 確かにそこそこ強いだろうが、今の孫悟空よりも楽しめるかというと無理な話だ。顔をしかめるセルに、悟空は自信たっぷりに言った。

 

「ああ。次の試合で多分セルゲームは終わる。そいつが勝てなきゃ、もうおめえに勝てる奴はいねえからだ」

「そ、そんなにも強いというのか……?」

 

 観客席のサタンに、そわそわした目を向けるセル。

 

「ああ、きっとびっくりするぞ」

 

 サタンの隣に座る息子を、頼もしそうな目で見る悟空。

 

 そして二人分の視線を向けられたと勘違いしたサタンは、真っ青な顔になっていた。

 

「ま、まさか、もうオレの出番なのか……?」

「ええ……?」

 

(カカロット、ミスター・サタンの前座ってことになってるの忘れてない!? どうするのよこれ!?)

 

 ナッツが内心絶叫するも、悟空は構わず、良い笑顔で息子に呼びかける。

 

「おめえの出番だぞ、悟飯!」

 

(言っちゃったーーー!?)

 

 もう勢いで押し切るしかないと、ナッツは少年の手を握り、キラキラした瞳で送り出す。

 

「……頑張って、悟飯!」

「う、うん、行ってくる」

 

 少し顔を赤くした悟飯が、ナッツの手を握り返し、ゆっくりとリングへと歩いていく。

 

「な、何だと!?」

 

 自分ではないとほっとしていたサタンが、その光景を見て、事態を悟り色めき立つ。

 

「ふざけるな! この子はまだ子供じゃないか! 危険すぎる!」

「え、えっと……」

 

 唐突な正論に、たじたじとなる悟空。その様子を、セルは面白そうに眺めていた。

 

「なら貴様が出るのか? 私はどちらでも構わないぞ。ただ順番が変わるだけだからな」

「うっ……」

 

 サタンは思わずたじろいでしまう。これまでの戦いを見て、目の前のセルが、自分とは文字どおり強さの次元が違う、戦闘機や戦車が挑んでなお勝てない程の存在だというのが理解できてしまった。もちろん事前にセルに挑んだ軍隊が壊滅させられたという話は聞いていたが。

 

(まさか本当だとは思わないじゃないか……!!)

 

 悪役レスラーが数百人殺したとか地獄から来たとか言ってるのと同じ、そういう設定だと思っていた。でなければ、そもそも何で軍隊が壊滅してるのに格闘家に声が掛かるのか。

 

 その理由は犬の国王が、かつてピッコロ大魔王を倒した少年のような強い武闘家に頼るしかないと、天下一武道会の出場者リストを頼りに探していたからだったのだが。どいつもこいつも住所不定だったり絶海の孤島に住んでいたり修行に出掛けていて連絡が取れなかったりで、たった数日で見つけるのは無理があり、かろうじてコンタクトの取れた凄腕の殺し屋にも、きっぱり断られてしまっていた。

 

 そんな中、第24回天下一武道会で優勝したミスター・サタンがOKしたので、大丈夫かな? と思いつつ任せる事になったのだった。

 

「あの、チャンピオン……本当に奴と戦うんですか?」

 

 躊躇しているサタンの身を案じ、小声で問いかけるアナウンサー。ミスター・サタンはあくまでも、常識的な範囲での人間のチャンピオンだ。いくら人類の危機といえども、生身の人間が巨大隕石から逃げたところで恥には当たらないし、後から非難される謂れも無いだろう。

 

(絶対にあんな奴と戦いたくない! し、死んでしまう! だ、だが、だからといってあんな子供を……!)

 

 悩むサタンに向かって、振り向いた悟飯が微笑む。

 

「大丈夫です。おじさん」

 

 そして悟飯が気を解放する。それだけで、爆発のような衝撃が周囲一帯に吹き荒れる。少年の身体から激しく立ち上がるオーラは、悟空のそれよりもなお大きい。

 

 観客席に尻もちをつき、呆気に取られるサタン。そしてリングの上で、オーラに包まれた悟飯とセルが向かい合う。

 

「なるほど、確かにそれなりの力を持っているようだが……試してみるとするか」

 

 小手調べとばかりに、セルが放った蹴りを悟飯は片手でガードする。

 

「ほう……」

 

 セルは一旦飛び退き、勢いを付けて前進しつつ手刀を撃ち込むも、飛び上がって回避した悟飯の後ろ回し蹴りが、カウンターでセルの顔面に叩き込まれた。

 

「なっ!?」

 

 背中からリングに叩き付けられるセル。受けたダメージの大きさに驚く間も無く、すかさず顔面を蹴り飛ばさんとする悟飯の蹴りをセルは必死に転がって回避し、掌を前に向けて叫ぶ。

 

「だああっ!!!」

 

 放たれた全力の念動力を、悟飯は両手を身体の前で交差させて防ぐ。威力を正面から受け止め、リングをブーツで擦りつつ大きく後ろに下がるも、耐えきった無傷の身体でセルを睨む。

 

 セルは消耗に息をつきつつ、口元の血を拭って笑う。

 

「いいぞ。良いじゃないか孫悟飯。孫悟空が降参した時は、正直どうなるかと思ったが、面白い」

「……いくぞっ!」

 

 叫び、一瞬で距離を詰めた悟飯の拳がセルの腹部に突き刺さる。セルは呻くも、すかさず組み合わせた両手を悟飯の頭部に振り下ろす。鉄塊のような一撃を受けた悟飯は倒れると見せかけ、身を沈めてセルの足を蹴り払う。

 

 セルと互角、あるいはそれ以上の戦いを見せる少年の姿に、ナッツは目を輝かせる。

 

(す、凄いわ。悟飯がこんなに強くなったなんて……!)

 

「頑張って、悟飯!」

 

 彼女の声がきっかけになったかのように、観戦していたトランクス達も応援を始める。

 

「悟飯さん! 頑張ってください!」

「やっちまえ、悟飯!」

「悟飯! ナッツの前で無様を晒すんじゃないぞ!」

「すまん! 勝ってくれ!」

「悟飯! もっとボディを狙え!」

 

 見守る父親。叫ぶ親馬鹿。祈るようなサタン。セコンド気分で指示を出すピッコロ。

 

 他にも多くの声援に背中を押されるように、攻勢を強める悟飯。対するセルも既に全力を出しており、パワーもスピードも、先程の悟空相手なら圧倒できる域にも拘わらずなお押し切れない。

 

(強い。こいつを打ち破れば、私は更に……!)

 

 かつてない歓喜に包まれていたセルは、真剣な悟飯の顔を見て、ある事に気付く。そして攻撃を止め、後方へ飛び離れた。

 

「?」

 

 訝しむ悟飯に、セルは問いかける。

 

「お前はなぜ楽しんでいない? 孫悟空の息子で、それだけの強さを持っているというのに」

 

 問われた悟飯は、絞り出すような声で答える。

 

「……戦うのは、そんなに好きじゃない」

 

 堰を切ったように、言葉が続く。

 

「本当は戦かったり、殺したりしたくないんだ。たとえお前みたいに酷いやつでも」

 

 実際にセルに会うのは、今日が初めてだった。ナッツの尻尾を切ったり、何十万人も殺して吸収したり、テレビ局を襲ったりと、しでかした事は聞いていたけれど。

 

 ヤムチャさん達の細かい注文に悩みながら、天下一武道会を模した試合会場を作っていた姿を見ると、どうしても殺す気にまではなれなかった。

 

「地球の人を殺すとか、やめにして、やり直せないかな?」

「……何を言っている。私は地球人の命など何とも思っていない。むしろ殺すのが楽しみだ」

「ボクの友達にも、そういう子がいるよ」

 

 はにかみながら、少年は言葉を続ける。

 

「凄く怖くて、数えきれないくらい人を殺してきて、将来地獄へ行くのは間違いなくて」

 

 それらはどう見ても、悪口にしか思えない内容だったが、

 

「私の事だわ……!」

 

 褒められてるとばかりに照れた様子を見せるナッツを、変な子を見る目で見るクリリン。

 

「けどそれでも、本当は優しくていい子で、今は毎日楽しく暮らしてるんだ」

 

 美味しいご飯を食べて身体を鍛えてポーズの練習をして、お風呂に入ってゆっくり眠って、本を読んだり勉強したり格闘技番組を見たり、家族や友達と遊びに行ったり、たまに宇宙に賞金首を殺しに行ったり。

 

「死んだ人達には悪いけど、ドラゴンボールで生き返らせれるし、戦いが好きなら、お父さん達もこれからまた強くなって、いくらでも付き合ってくれると思うし……」

 

 悟飯はリングと試合会場を見渡して言った。

 

「これも凄いけど、他にも何か色々作ったり、そういうのに向いてるんじゃないかな。地球の人を皆殺しにするより、そっちの方がきっと楽しいよ」

 

 セルは少しの間、無言で『第一回セルゲーム』の看板が掲げられた建物を見上げていたが。

 

「……なるほどな。私にとっても悪くない申し出のようだが」

「! それじゃあ……!」

 

 ぱあっと顔を明るくして近付いた少年を払いのけ、セルは再び構えを取る。驚愕する悟飯。

 

「ど、どうして……?」

「その友達とやらは、お前に説得されて良い子になったのか? 違うだろう」

 

 その言葉は、ナッツにとって腑に落ちるもので。別に私は良い子じゃないけれど。

 

(私が地球を滅ぼさなかったのは、悟飯にやられて追い返されたからだわ)

 

 そうだ。自分より弱い相手に何を言われても、それで納得するサイヤ人はいない。

 

「私を倒してみる事だな、孫悟飯」

 

 どこか面白そうに、闘志を滾らせながらセルは言い放つのだった。




 原作悟飯、強いのは確かなのにセルが焦れるのも判るくらい戦おうとしてないので、それが積極的に戦おうとしてくれたらセルも大喜びという解釈です。あとこれはそこまで影響無いんですが、好戦的なサイヤ人の細胞が原作から一人分増えてますね。

 それと前回は評価とたくさんのお気に入りをありがとうございました。久々にランキングにも載れてとても嬉しかったです。続きを書く励みになっておりますので、よろしければまだの方は是非お願いします。


・頭に噛みつかれて絶叫するセル
ブウ戦のあれ好きなので入れました!

・凄腕の殺し屋
いったい何白白なんだ……?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。