1.彼女が傷を癒す話
惑星フリーザNo.79。
フリーザ軍の拠点の一つであるその星に向けて、父親と娘を乗せた複座型のポッドが、最高速度で飛翔していた。ポッドは大気圏に突入し、赤熱しながら速度を落とさず、流星のように落ちていく。
「来たぞ! ベジータ様達の宇宙船だ!」
地上の宇宙船発着場から、降下してくるポッドを見た医療スタッフ達が叫ぶ。
彼らはベジータから事前の連絡を受け、治療のために待機していた。
大気を引き裂く轟音と共にポッドは地上へと迫り、衝撃を吸収する専用スペースへと、まるで墜落するように着陸した。
空気との摩擦熱で煙をあげるポッドの入り口がゆっくりと開き、次の瞬間、満身創痍のベジータが、意識の無い娘を抱えて飛び出した。
「ナッツをメディカルマシーンへ運べ!! 今すぐにだ!!」
駆け寄った医療スタッフ達は、父親に抱えられた少女が、一瞬既に死んでいるのではないかとすら思った。サイヤ人の頑強さがなければ、そうなっていたかもしれない。肩に巻かれた包帯は出血で真っ赤に染まっており、顔からは血の気が失せ、呼吸もほとんどしていない。ポッドの生命維持装置が無ければ、どうなっていたことか。
娘がすぐさま別の生命維持装置に繋ぎ直され、搬送されていくのを見送った父親は、苦しげに息をつきながら言葉を紡ぐ。
「こんな所で、死ぬんじゃないぞ、ナッツ……」
そして自身もまた力尽きたように倒れ、医務室へと搬送されていった。
彼らが去った後、一部始終を遠巻きに眺めていた整備員達が、残されたポッドへと近付きながら、心配そうに呟いた。
「ナッツちゃん、大丈夫かなあ。誰がやったか知らねえが、酷え事しやがる」
「ベジータ様まであの有様って事は、余程の化け物がいたんだろうな……」
まあ、生きてて良かったよ、そうだなあ、と彼らは安堵した顔で言葉を交わした。
それから、半日ほどの時間が経過した。
医務室のメディカルマシーンの中に、一糸まとわぬ姿のナッツが浮かんでいる。呼吸器とコードに繋がれ、目を閉じて治療液の中に浮かぶ少女のしなやかな肢体に、既に負傷の跡はない。
ただ例外が2つある。1つは左肩。肉食性の獣に噛まれたような傷跡が、痛々しく残っている。もう1つは腰の後ろ。アザのような丸い跡が、そこに尻尾が生えていた事を示していた。
白衣を着た爬虫類顔の医師が、メディカルマシーンの計器類と、中に浮かぶ少女の状態を確認しながら、時折何かしら操作をしている。他の人間が同じ事をすればベジータに殺されていてもおかしくなかったが、彼はナッツが今より小さい頃から面倒を見ている、掛かり付けの医師だった。
空気が抜けるような音と共に、医務室のドアが開く。入室したのは、別室のメディカルマシーンで治療を終えたベジータだ。真新しい戦闘服に身を包んだ彼は、娘のためか、替えの戦闘服やタオル、食料などを山と抱えている。
父親はメディカルマシーンに浮かぶ娘の状態を見ながら、顔馴染みの医師に声を掛ける。
「具合はどうだ?」
「これはベジータ様。ご安心下さい。もう傷はすっかり塞がっておりますぞ」
医師はナッツの左肩の傷跡を指し示しながら告げる。
「メディカルマシーンでは傷を塞ぐ事しかできませんが、ご安心ください。このくらいの傷跡なら、すぐに消して見せましょう」
生き死にには関係の無い技術だが、怪我人を多く診る関係上、そうした需要も当然ある。医師は自分の腕前に自信があった。だがベジータは喜ぶでもなく渋い顔をしている。
「こいつがそれを望めばな」
いやいやいや、と医師は内心手を左右に振る。それはまあ、ごく稀に傷跡は勲章と言い出す患者もいるが。そんな事を言うのは全員むくつけき野郎どもだった。さすがにナッツ様と言えど、こんな小さな女の子が、そんな。
「ナッツ様のお身体にあんな傷を残してしまったら、わたくしは基地の皆から大層恨まれて、ヤブ医者扱いされてしまいます」
父親は表情を動かさず、娘の様子を見守り続ける。
「そんなものか」
「ええ、皆がナッツ様のことを、心配しておりましたぞ」
大怪我をした少女が運び込まれてから1時間ほどの間は、問い合わせがひっきりなしに届いていたものだ。医務室に直接押しかける奴らまでいた。あいつら勤務時間中では無かったか。「治療の邪魔だ! ナッツ様に何かあったらどうする!」と追い返してからは、それらがぴたりと止まったのが逆に怖い。
一方ベジータは、医師の話に何の感慨も持たなかった。宇宙一可愛い自分の娘が皆にちやほやされるのは当然の事だと思っている。ただ娘に近づく悪い虫は殺すと決めていた。そんな彼の親馬鹿ぶりはフリーザ軍の中でも有名だったから、幸いな事に、今日まで犠牲者は出ていない。
「しかしお可哀想に。あの肩の傷、猛獣にでも襲われたのですかな?」
父親は顔をしかめ、吐き捨てるように言った。
「もっとタチの悪いケダモノだ」
「……そうですか」
患者の負傷の原因は気になったが、それ以上突っ込むべきではない話題だと、長年の付き合いで理解していた。
「それと、残念ながら尻尾は再生できませんでした……」
父親は娘のがっかりした顔を想像し、露骨に顔を歪める。
「どうにかならないのか?」
「サイヤ人の尻尾は、難しいのですよ。治療例が少なくて……」
尻尾の再生メカニズムは、ほとんど解明されていないと言っていい。そもそも屈強なサイヤ人が、大事にしている尻尾を失う事例が数少ない。まさか研究のために尻尾を切って観察させろと、サイヤ人に向かって言えるわけもなく。そのうちに惑星ベジータが消滅して生き残りのサイヤ人が極少数になってからは、小規模に行われていた研究すらも行き詰まっていた。
研究と言っても、そのほとんどはサイヤ人から聞き取りした内容をまとめたに過ぎない。1年程度で生えてきた。命の危機に生えてきた。一生生えて来なかった。症例が少ない上に個人差が大きすぎて、到底治療の役に立つものではない。一応通常の再生医療を施してはみたが、結果は芳しくなかった。
「幼少期の方が再生しやすい事は確かなようですので、ナッツ様の尻尾も時が解決してくれるとは思いますが……」
「……仕方がないな」
娘の尻尾を切ってくれやがったカカロットのガキの名前は、確か悟飯と言ったか。
今度会ったらたっぷり礼をしてやると、父親は固く決意した。
それからしばらく後、メディカルマシーンから、治療の完了を告げる電子音が鳴った。
「もう大丈夫ですな。では、開けますぞ」
医師が機械を操作すると、少女の身体を浮かべていた治療液が排出されていく。
やがて排出が終わり、ナッツは目を開き、自らの手で呼吸器と、身体に繋がれたコードを外す。そして治療ポッドの外で、心配そうな顔の父親がこちらを見守っているのを見つけた。真新しい戦闘服を身に着け、地球での酷い負傷が完治している姿に、少女は嬉しくなり、開いた扉から飛び出して、そのまま父親に抱き付いた。
「父様! ご無事で良かったです!」
嬉しそうに頭を押し付けてくる娘の濡れた髪を、準備していたタオルで拭いてやりながら、父親が問いかける。
「ナッツ、身体の調子はどうだ? どこか、痛い所は残っていないか」
「そうですね……」
少女は手早く己の身体を確認する。痛みは無く手足も正常に動く。地球での負傷は完治しており、一か所を除いて、肌にも傷は残っていない。ただ、肝心の尻尾が再生していないことにがっかりする。普段は腰に巻いていたせいか、バランスが崩れるという事はなかったが、サイヤ人にとって誇りとも言える尻尾を無くしてしまったという喪失感は大きかった。
「尻尾については心配するな。そのうち生えてくるらしい」
「そうですか……」
ナッツの不安は晴れない。彼女は尻尾を失った経験がなく、再生までどの程度の時間が掛かるか判らなかった。今満月を見ても変身できないなんて、信じられなかったし、全力で戦えない不満と心細さがあった。
沈んだ様子の娘を心配した父親が、スカウターで戦闘力を測って見せる。
「ナッツ、見てみろ。戦闘力がかなり上がっているぞ」
「本当ですか……ええっ!?」
差し出されたスカウターの数値を確認した少女が驚愕する。
「ナッパの戦闘力を超えてる! あと1年は掛かると思ってたのに……!」
思わず頬を緩める娘の髪を拭きながら、父親は笑いかける。
「良かったな。ナッツ」
「はい、父様!」
少女は微笑みながら、地球での戦いを思い出す。たった1日で戦闘力が急上昇したのも頷ける、とても充実した戦闘の数々だった。
そして悟飯の事を思い出した時、胸の奥が温かくなるのを感じた。下手をすると私よりも強いくせに、優しい心を持ったおかしなサイヤ人。また彼と戦いかった。正直に言うと、戦いの事が無くても、会ってみたかった。地球に行ったら、また会えるだろうか。色々あったけど、彼と仲良くなりたかった。父様と同じように、悟飯のいない人生なんて考えられなかった。
尻尾を切られてしまった事も、恨む気にはなれなかった。切られなければ自分はカカロットを、彼の父親を殺していただろうし、逆の立場なら、必ず同じ事をしただろう。
それにあっちも、父様に尻尾を切られていたのだし。あれは本当に勿体ないと思ったが、もし切られていなかったら、次に会う時、悟飯に尻尾が生えていて、自分だけ尻尾が無いという状況になるわけで。それはちょっとサイヤ人として、情けなくて嫌だった。それに正直怖い。逆の立場で自分と戦っていた悟飯は本当に勇気があると思う。まああっちは、私が月を作れるなんて、知らなかったのだろうけど。
ただ、一つだけ残った懸念に、気持ちが沈む。
ピッコロと呼ばれていたあの緑色の顔の奴。悟飯の尻尾を切った事は許せなかったが、彼はよく懐いていたし、最後は身体を張って悟飯を守っていた。おそらく悟飯にとって、カカロットが死んでいる間の、親代わりのようなものだったのだろう。直接手を下したわけではないが、彼は自分達が地球に行ったせいで、死んでしまった。謝って許されるとは思えなかった。取り返しのつかないことだからだ。フリーザの手で母親を失った身として、大事な人を失う痛みは、よくわかっていた。
地球での戦いで私が勝っていれば、命を助けてあげたんだから、それくらいいいでしょうと言えたかもしれないが、最後に尻尾を切られて逆に殺されるところだったし、ちょっと苦しい。けどまた会いたい。
ナッツは考える。いっそもう一度、地球を攻めてみようかと。
(悟飯! また地球を侵略に来てやったわ! 止めたければ私と戦いなさい!)
これはなかなか良いんじゃないだろうか。うん、我ながら結構良い線行ってる気がする。
もちろん本当に侵略なんかしない。力尽きるまで戦って、「今日はこのくらいで勘弁してあげる!」と言い捨てて、戻って傷を癒してまた地球へ向かう。今の戦闘力なら後回しにしていた惑星の攻略も可能だが、それよりもずっと早く楽しく強くなれそうだった。幸せな想像に、思わず頬が緩んでしまう。
(そうと決まれば、地球へ向かう前に、何かお土産でも買って行ってあげましょうか)
自分がもらって嬉しいものといえば、やっぱり食料や戦闘服だろうか。いや頭が良さそうだったし、本とか図鑑が喜ばれるかもしれない。
父親に髪を拭かれながら、幸せそうな顔をしている少女は、当の悟飯が現在ナメック星に向かっていて、今地球に向かえば行き違いになってしまう事など、全く知らなかった。
そんな娘に向けて、父親が何気なく問い掛ける。
「それと肩の傷の方は、すぐに消せるそうだが、どうする?」
言われてナッツは自分の左肩を見る。痛みが消えていたので気にしていなかったが、そこには肉食性の獣に噛まれたような傷跡が残っていた。大猿となった悟飯に左肩を噛み砕かれ、深々と牙の刺さった傷は、メディカルマシーンの治療によっても、完全に消しきれてはいなかった。
見るだけで、胸が高鳴った。地球での最後の戦いの痛みと恐怖と、自分に向けてくれたぞくぞくするような殺意と、激戦の末の勝利の喜びが、昨日の事のように思い出された。少女は大切な物に触れるような手付きで、痛々しい傷を撫で、笑って言った。
「いいんです、父様。これは残します」
それを聞いた医師が少女の後ろで目を剥き、変な子を見るような表情になった。
「そうか」
娘がそう答えるだろう事は、薄々わかっていた。一人の戦士として、戦いの思い出を残したいという気持ちは理解できた。だがそれはそれとして、カカロットのガキはいつか絶対殺してやるとも思った。
それから数分が経過するも、まだナッツの髪は乾かない。一般的に、サイヤ人は髪の毛の量が多い。ごく稀に例外はあるが、ナッツもその例に漏れず、跳ねながら肩まで伸びた髪はそれなり以上のボリュームがある。そして彼女は、父親に髪の毛を手入れされる、この時間が好きだった。少女は目を瞑り、安心しきった顔で、父親にその身を任せていた。
その時、医務室の扉の向こうから、基地職員の男の声がした。
「先生ー、追加の薬品と人工皮膚持ってきましたー。開けますよー」
未だ裸の娘の髪を拭きながら、ベジータが扉に掌を向ける。惨劇の気配を察した医師が慌てて叫ぶ。
「待て!! 開けるな! 絶対に入るんじゃないぞ! ベジータ様達がお取込み中だ!」
「! りょ、了解です!」
男の逃げていく足音を聞きながら、ナッツは怪訝な顔で父親を見上げる。
「父様、別に入れても良かったのでは?」
「……ナッツ、少しは気にしろ」
父親は額を押さえて呻く。娘の羞恥心が薄いのは、彼の悩みの種だった。基本的に裸で入るメディカルマシーンの仕様上、フリーザ軍では男も女も、下手に隠す方が恥ずかしいという風潮がある。彼も別段、自分がメディカルマシーンを使う時は周囲の目など気にしないが、娘が同じように堂々としているのは、やはりまずいと思うのだった。
「? 母様みたいな大人の身体ならともかく、子供の私なんて見ても仕方ないですよ。それに」
くすりと、ナッツは子供らしく微笑んだ。
「何かあったら殺せばいいじゃないですか。今の私に勝てる奴なんて、この基地にはほとんどいないでしょうし」
ベジータは内心ため息を吐く。そういう問題ではないと言いたかったが、上手く説明できる自信がなかった。確かに自分も殺して解決しようとしたが、やはり片親だけでは、教育が偏ってしまうのだろうかと、彼は悩んでいた。
さらに数分後、3枚目のタオルでようやく髪の水分が抜ける。ドライヤーで仕上げを行い、気持ち良さそうな顔をしている娘の頭を撫でる。
「よし、終わったぞ。早く服を着ろ」
「はい、父様」
ベジータが準備した戦闘服は、ナッツが以前着ていたのと同じ物だった。地球での事もあり、本当はもう少し防御に優れた形状のものを買いたかったのだが、それで万が一娘に嫌な顔でもされたら、彼は自責のあまり憤死する自信があった。
ナッツは父親から戦闘服一式を受け取り、アンダースーツから着け始める。再生した時のために、きちんと尻尾用の穴を開けてくれている、父親の心遣いが嬉しかった。そういえば尻尾と言えば、肝心な事を忘れていた。少女は気を遣いながら言葉を紡ぐ。
「ところで、父様の尻尾は……?」
「……まあ、そのうち生えるはずだ」
つまり、いつになるか判らないという事だ。ナッツの表情が曇り、目に不穏な光が宿る。
「……父様の尻尾を切った奴、あの時殺しておけば良かったです」
「そうだな。だが、あの状況なら仕方ない」
次に地球に行く時のお楽しみだ、とベジータは笑い、そうですね、と娘も微笑む。入院中のヤジロベーは寒気を感じ、悟空の隣のベッドで大きなくしゃみをした。
少女がいつもの黒い戦闘服に身を包み、最後にスカウターを着けた時、後ろを向いていた医師が口を開く。
「ナッツ様、お身体は大丈夫ですかな? あれほど大怪我をされたのは初めてですから、私としても心配で」
「うん、大丈夫みたい。ありがとう」
ナッツは自然な感じで、医師に向けて微笑んだ。彼は目を見開き、本気で驚愕した。
この少女が、父親以外の者に笑いかける姿など、長らく見た覚えが無かった。母親が任務で亡くなる前、両親に付いて歩いていた頃は、確かによく笑う子供だったが。不意に目頭が熱くなったのを誤魔化すように、医師は言葉を続ける。
「ナッツ様、少し、明るくなられましたかな。地球で何か、良い事でもあったので?」
「ふふ、それはね……」
とっておきの楽しい秘密を打ち明けるように、口を開いた少女の言葉を、父親が遮った。
「ナッツ、その話はまた今度でいいだろう」
不機嫌そうなベジータの声に、医師はこれ以上聞くなという意図を察知し、頭を下げた。その顔に密かな笑みを浮かべながら。
ベジータは娘と医務室を出ようとした所で、気になった事を医師に尋ねた。
「ところで、フリーザの奴はどうしてる?」
「確か、他の星に行かれましたな」
それを聞いたナッツが、不満そうな顔になった。
(もうこの星が飽きたの? 父様達と私が苦労して攻略した星なのに……)
確か2年ほど前、地球への旅で長期睡眠をしていた彼女にとっては1年前の話だ。この星は経済的に発展していて、金に飽かせて最新型の兵器を揃え、強力な傭兵を大勢雇っていた。どうにもできず二人で交互にパワーボールを使ってごり押しした覚えがある。終わってからも連続して月を作った反動で疲れが取れず、一週間は父親に看病されながら寝込んだものだ。
一方ベジータの方は、宇宙船の発着場へと歩きながら、内心ほくそ笑んでいた。
(フリーザの奴がいないなら好都合だ。気付かれないうちにナメック星に向かい、ドラゴンボールで不老不死を手に入れてやる!)
「オレはナメック星に向かうが、お前はどうする?」
「そうですね……」
少女は悩んでしまう。父親に付いて行きたい思いはあるが、悟飯のいる地球行きも捨てがたい。難しい問題だったが、悩んだ末に決断する。
(父様とは地球へ一緒に行ったし、ナメック星に行っても、悟飯と戦う以上に戦闘力が上がるとは思えないのよね……)
ごめんなさい、父様、私はちょっと地球に用事が。そう言って地球に向かった少女が少年に会えず、歴史から置き去りにされる2秒前。
「よう、ベジータ。地球ではえらい目に遭ったそうじゃないか」
戦闘服を着た、紫色の肌の男。キュイが声を掛けてきた。
少女は父親と話すキュイを、蔑むような目で睨んでいた。父親と戦闘力が近いだけでライバル扱いされて、生意気な口を叩く目の前の男の事が、ナッツは以前から気に入らなかった。
(私達がいつでも月を作れる事を知らない愚かな奴。あなたなんて、地球に行く前の私でも、いつでも殺せていたのよ)
何か言ってやろうと思ったが、そこで少女は、普段から自分の腰にあったものが無い事に気付き、はっと目を見開く。
(そういえば今、尻尾が無いんだったわ……!)
変身できなければ、向こうがその気になれば一方的に殺される。その事実に、額から一筋の汗が流れた。
父親の後ろに隠れながら威嚇の声を上げるナッツを、変な子を見る目で見ながら、キュイは話し続ける。
「フリーザ様は、ナメック星に向かったそうだぜ。お前の情報のおかげで永遠の命が手に入るとご機嫌だったな」
「な、なんだと……!!」
「なんですって……!!」
二人は驚愕する。フリーザが永遠の命を得るという事は、殺せなくなってしまうという事だ。
(母様の仇が討てなくなってしまう……!)
ナッツは歯噛みする。絶対に止めなければならなかった。
「行くぞ!」
「はい、父様!」
そして彼らは走り出す。背後で叫ぶキュイを無視して、発着場を駆ける。驚いた顔で、それでも少女へ声を掛け、手を振る整備員達に一瞥もくれず、既に整備の終わっていた複座型のポッドへと乗り込み、ナメック星へと飛び立った。
ナメック星へと向かうポッドの中、隣り合わせの座席に、父親と娘が並んで話している。
「オレはドラゴンボールで不老不死になるつもりだ。フリーザの野郎がどれだけ強くても、死なずに何度でも食らいついていけば、いつかは倒せるはずだからな」
父親の言葉に、ナッツは目を輝かせる。不老不死。つまり、父様が絶対にいなくならないという事だ。その上フリーザまで倒せる。
「いい考えだと思います!」
「その為には、先に行ったフリーザ達を出し抜いて、ボールを集める必要がある」
最悪の場合でも、フリーザが不老不死を得る事だけは阻止する必要があった。その為に、ボールの破壊も視野に入れる事を娘に説明する。だがどちらにせよ、今から行おうとしている事はフリーザに対する、完全な敵対行為だった。自分一人なら、フリーザ軍を敵に回そうとも生きて行けるが、まだ幼い娘まで巻き込んでしまう事は躊躇われた。
「……そうなったら、もうフリーザ軍には戻れないが、いいのか?」
「はい、父様。フリーザはいつの日か、私達サイヤ人の手で死ぬべきです」
ナッツは迷わなかった。例え今は敵わなくとも、フリーザを生かしておく道理が無い。母親を失った日から、少女の心には、復讐の炎が燃えていた。
彼女の声は、憎悪に満ちていた。黒い瞳は、子供とは思えないほどの、暗い光を湛えていた。見ていられなくて、目を背けたくなったが、それではなお娘が哀れだから、彼は痛みを堪えながらも目を逸らさない。
父親は思い出す。まだ母親が生きていた頃の、幸せそうな娘の笑顔。憎らしい事に、地球で悟飯とかいう、カカロットのガキと話していた時の笑顔は、限りなくそれに近いものだった。彼女の母親が死んだ今、彼は残された娘の幸せを望んでいたし、そのためなら、何だってするつもりでいた。
フリーザへの復讐は、命に代えてでもオレがやるから、お前は好きに生きていいと、そう言ってやりたかった。だが今の彼が娘に用意できるのは、血塗られた復讐へ続く道だけだった。だからせめて彼女が生き残るために、できるだけの事をしてやろうと思った。
「ナメック星に着くまでの間に、お前に教えておきたい事がある」
「何ですか、父様?」
「戦闘力のコントロールだ」
ナッツは驚いてしまう。少女にとって、それは魔法のような言葉だった。そんな事ができるなんて、思ってもいなかった。だけど父様が言うのなら、きっとできるのだろう。凄いと思った。ナッツは尊敬の目で、父親を見上げて、明るい声で言った。
「はい、お願いします!」
娘のその笑顔に、父親は慰められたような気がして、頬を緩めた。
ナッツ視点。宇宙船発着所での父親の問い。
→ナメック星に行く
地球に行く
ナメック星行きか時間切れで通常ルート、地球行きを選んだ場合、悟飯の行方をスカウターを頼りに聞きまわってチチに出会って、
「あなたが悟飯のお母様?」
「悟飯ちゃんの友達だか!? お母様だなんて、そんな呼ばれ方したの初めてだよ……!」
って気に入られて食事出してもらったりお風呂入れてもらったり。
「悟空さ達が戻るまで、うちにいるといいだよ!」
「そうですね……」
(ナメック星に行ってもまた行き違いになるかもしれないし、食べ物美味しいし……)
で1週間後くらいに悟飯達がいきなり戻ってきて事情を聞いて、
「何かスッキリしないけど、まあフリーザが死んだのなら、それでいいのかしら……」
ってなってGOODEND1つ回収です。
というわけでお久しぶりです。
結構時間が空きましたが、ナメック星編の第1話です。文字数の割にスローな展開ですが、ナメック星編の土台とも言えるパートですのでしっかり書きました。さすがに次からは、もう少し早い展開になると思います。
やっぱりサイヤ人といえばメディカルマシーンだと思うので、書きたかった話の一つです。ベジータもバーダックも入ってましたし。惑星攻略の仕事に出ているサイヤ人は羞恥心が薄いイメージがありますので、ナッツはああいう感じになりました。まあ恥ずかしがっていても、それはそれでおいしいと思いますが。
あとこっそりサイヤ人編の1~4話を編纂しました。話の流れは変えてませんが、1話は冒頭に過去話を入れたのと、2話はナメック星編で使いたいピッコロさん絡みの描写を入れましたので、よろしければ見ておいていただけると、後の話がより楽しめると思います。
第2話以降の話も最後まで考えていますので、少しずつ書いていきます。時間は掛かるかもしれませんが、彼女の物語を途中で投げ出すような事はしませんので、どうか気長にお待ちください。
それと長らく投稿していない間も、お気に入りの数が少しずつ増えていくのが嬉しくて励みになりました。変わった話だと思いますが、読んで気に入ってくださった方々、本当にありがとうございます。