※2019.1.6 加筆修正しました。
3人のサイヤ人達は地球に降り立ち、ナッパが街を一つ破壊した後、やってきた地球の戦士達と対峙していた。
「父様……こいつら、なかなか楽しめそうですね」
スカウターを確認したナッツが微笑む。予想以上の彼らの戦闘力を見て、彼女は新しい玩具を買ってもらった子供のような気分になっていた。
「私は誰と戦えばいいですか? できればあの一番強い緑色の奴か、額に目のある奴か……」
はしゃぎながら、品定めをするように、少女は全員を観察していく。
「おい、なんだあのガキは……」
「あ、あいつらの子供なのか? 悟飯と同じくらいの歳なのに……」
「なんて悪の気だ……」
「どれだけ殺してきやがった……!」
「天さん……」
「怖い……」
あどけない子供の外見と、彼女が持つ悪の気の大きさとのギャップに、戦士達が戦慄する。ナッツはそれを見て、悪くない反応だと思った。相手が怯えれば、それだけ戦いでは優位に立てる。父親の教えだった。
「ああ、そうだ。この中で月を消してくれたのは、誰かしら?」
少女は声色と表情を一変させ、冷酷なサイヤ人の顔で告げる。
「父様と一緒に月を見るのがとても楽しみで、わざわざ満月の日を選んで来たのだけど、いつの間にか壊されていたみたいで ガッカリしていたところよ」
「月だと……? 観光にでも来たつもりか?」
ナッツの言葉の意味がわからず、天津飯とチャオズ、悟飯は困惑する。
だが悟空の大猿化を見た事がある人間は、少女の腰に巻かれた尻尾を見て、恐怖に顔を引きつらせていた。ただでさえとてつもない気を持ったこのサイヤ人達に変身などされたら、間違いなく地球は終わってしまう。そして同時に月がもう無い事に、深く安堵した。
ピッコロが一歩進み出て、サイヤ人の少女と対峙する。
「オレだ。貴様らを化け物にさせないためにやったが、どうやら正解だったようだな」
「正直ね。あなたは私の手で殺してあげる」
ナッツは微笑む。これで私達が大猿に変身できないと印象付けられた。パワーボールを使う機会があるかわからないけど、その時は、彼らの驚き慌てる顔を楽しむ事ができそうだった。
その時、悟飯がピッコロを庇うように前に出て、少女と向かい合って叫ぶ。
「ピ、ピッコロさんに手を出すなっ!」
「へえ?」
まだ子供だ。自分よりもさらに幼く見えた。1歳下くらいだろうか。自分以外で、子供の戦士を見るのは初めてだった。少しだけ興味が湧く。戦闘力はおよそ1500。それなりだが、彼女が4歳の頃はもっと高かった。
「まあまあやるみたいけど、邪魔をするなら、あなたから殺すわよ」
「ひっ……!」
軽く殺気を込めて睨み付けてやっただけで怯える姿に、むしろ驚いてしまった。この歳でこの高い戦闘力なら、何度も修羅場を潜っていると思ったのに。
「下がっていろ、悟飯」
ピッコロが悟飯の肩を掴み、庇うように後ろへ下げる。
「てめえのような奴が、悟飯と同じサイヤ人の子供だと思うと、ヘドが出るぜ」
その言葉に、ベジータが反応した。
「ほう、そいつがカカロットの息子か。地球人との混血らしいが、尻尾はどうした?」
(へえ、地球人って、サイヤ人との間に子供を作れるのね)
黒目で黒髪。高い戦闘力。なるほど、確かにサイヤ人と言われれば納得できる。それも自分より年下だ。ちょっと可愛い気がする。
尻尾が無いのが残念だけど、事故か何かで切れてしまったのかしら。そう考えていたナッツは、次のピッコロの言葉に愕然とする。
「月を消した時に、オレが切ってやった。サイヤ人は尻尾が弱点らしいからな」
「……えっ!?」
ナッツは一瞬、何を言っているのか、わからなかった。弱点なら鍛えてあげればいいじゃない。尻尾を切るなんてそんな。いつ生えてくるかもわからないのに。変身もできなくなるし、背中を洗う時とか困る。それに何より、尻尾はサイヤ人にとって誇りの象徴とも言える。暴れる子供を大人しくさせる時、尻尾を握るくらいは仕方ないと思うけど、切るだなんて、そんな。
(虐待じゃないの……!!)
自分が同じ事をされたらと思うと、背筋が震えてしまった。
「何て事するの! 尻尾を切るなんて、可哀想じゃない!」
「な、なんだと……!!」
ピッコロは動揺する。その声には、真摯に悟飯の事を案じる響きがあったから。
確かに月を消しておけば、尻尾まで切る必要は無かったかもしれない。サイヤ人の事をよく知らずに尻尾を切ってしまったが、もしかしたら、オレは悟飯に酷い事をしてしまったのではないか。
「ねえ、あなた。そんな奴の所なんかより、サイヤ人だったら、こっちに来てもいいのよ?」
おいしい食べ物もあるわ、と携帯食料を差し出して見せる。
警戒されないよう、とっておきの笑顔。上手くできているだろうか。
「くっ、ご、悟飯……!!」
謎の危機感を覚えたピッコロが呻く。自覚は薄かったが、それは悟飯が自分から離れてしまうという不安だった。
悟飯との想い出が脳裏に浮かぶ。孫悟空の兄に連れ去られたので助けに行って、見込みがあったので連れ去って尻尾を切って服と剣を渡して荒野に放置して、その後みっちり戦いを教え込んだ。
まずい。あまり悟飯に好かれる事をした覚えがなかった。勢いで連れ去ってしまったが、今考えると、せめて母親には会わせてやるべきだっただろうか。
悟飯がよく食べたがるリンゴでも残っていなかったかと、焦って懐を漁るピッコロの足に、悟飯が縋り付く。
「ピッコロさん、あの子怖い……」
悟飯はピッコロの背後に隠れたまま、必死に首を振る。それを見たピッコロは一瞬驚き、それから勝ち誇った笑みを浮かべて、悟飯と同じほどの背丈しかない少女を見下ろし、得意そうに告げた。
「残念だったな、サイヤ人」
ナッツはぶるぶると震え、怒りに満ちた目でピッコロを睨み付ける。殺してしまおうかと思ったが、ここで暴力に訴えるのは、何だか負けのような気がした。
「……フン、いらないわよ。そんな情けないサイヤ人なんて」
ベジータは娘の様子を眺めながら、彼女を戦わせてやるべきか、悩んでいた。好きにさせてやりたいとは思うし、戦闘力で考えれば、全員が相手でも負けはしないとは思うが、不安は拭えなかった。ギニュー特戦隊のグルドのように、見かけの戦闘力だけでは判断できない厄介な技を使う奴もいる。それを思うと、未知の相手と娘を、いきなり戦わせたくはなかった。
「ナッツ、一旦下がれ。まずサイバイマンで様子を見る」
「わかりました、父様」
(正直、サイバンマンでは不足だが、何もしないよりマシか)
こういう時、娘より少し弱いくらいの戦闘力で、当て馬に使えて死んでも惜しくないような奴がいればと思う。惑星ベジータが健在ならば、今頃は自分が王になって、サイヤ人の臣下を好きに使えて、娘にも王族に相応しい扱いを受けさせてやれたのだが。
小さく息を吐くベジータの横でナッパが種を植え、戦士達と同じ6体のサイバイマンが発芽する。惑星攻略用の貴重な戦力だが、ナッツが訓練で大量に消費してしまうため、その在庫は常に少ない。
(サイバイマンが相手なら大丈夫とは思うけど、私の獲物が減ったら困るわね……)
始まった戦士達とサイバイマンとの戦いを、はらはらしながら見守るナッツ。彼女の心配を他所に、天津飯が危うげなく1匹を倒す。
「あの額に目の男、強いですね。ラディッツでも苦戦するかも……」
「何?」
「えっ?」
父様が凄い顔をしている。自分は何か、おかしな事を言っただろうか。
固まっている父様を余所に、ナッパが話し掛けてきた。
「お嬢、ラディッツの戦闘力は……」
「? 確か、2000くらいでしたよね? 父様」
自分より低いという事しか覚えていないが、さすがにサイバイマン並という事は無かったと思う。
「……ああ、そうだったな」
「……そうでしたね、お嬢」
実際のラディッツの戦闘力は1500だが、エリートサイヤ人達にも、死んだ仲間に対する情けはあった。わざわざ訂正する意味もあまり無いしな……と二人は思っていた。
「次はオレにやらせてくれ。そろそろ奴らに、遊びじゃないって事を教えてやらないとな」
そう言って現れたヤムチャも言葉どおりの強さであっさり1匹を倒し、ナッツは上機嫌となっていた。
(あの長髪の男もなかなかレベルが高いわね。良い事言ってるし、もう次は私が出てあげようかしら?)
サイヤ人の常として、彼女は戦う事が大好きだったが、最近はちょうどいい強さの相手がいなかったため、地球の戦士達の戦闘力が、とても魅力的に見えていた。
(手頃な星は全部攻略しちゃったし、サイバイマンはもう何匹倒したか覚えてないし、父様やナッパは本気で相手をしてくれないし。けどあいつらが束になったら、結構良い勝負ができそう。欲を言えば、1人で私と互角なら申し分無いんだけど、さすがにそんな奴はいないわよね)
「残りの4匹も、俺一人で片付けてやるぜ!」
勝ち誇るヤムチャの背後で、倒れたサイバイマンがぴくりと動く。その動きで、ナッツには次の行動が予測できた。
「ちょっと、そいつまだ……!」
ナッツが思わず警告するも、サイバイマンは素早くヤムチャに組みついた。
「何っ、しまった!?」
振り解こうとしても離れず、そして自爆によって大爆発が巻き起こり、後にはクレーターと、倒れ伏すヤムチャの死体が残されていた。突然の仲間の死に、愕然とする戦士達。そしてナッツ。
「ああ、そこそこ強かったのに、勿体ない……」
楽しみの一つを失った少女は、深くため息をついた。
「ナッツ、どっちの味方だ」
「だって、どうせなら私が戦いたかったです。ずっと退屈だったんですよ」
父親に注意されても、ナッツは不機嫌な顔を隠さなかった。
「あ、あいつ、自分達のせいでヤムチャが死んだってのに、何を呑気な……!」
仲間の死とナッツの発言に激昂したクリリンが躍り出て、気を集中する。
「修行の成果を見せてやる……はああああっ!!!」
そして放ったエネルギー波が空中で拡散して降り注ぎ、次々にサイバイマン達に命中し、爆発させていく。
「凄い! あれってどうやって……」
珍しい技を見て喜ぶナッツに向けて、拡散したエネルギー波の一つが迫る。
彼女は一瞬驚いて、それから、不敵に笑ってみせた。
「……へえ、私に?」
「ナッツ! 危ない!」
前に出て庇おうとするベジータを、ナッツが手で制する。その表情は見えない。
そしてエネルギー波が少女に着弾し、爆発した。
「やったぜ!」
クリリンの見せた大技に歓喜する戦士達。
だが、生き残った1匹のサイバイマンが悟飯に迫る。
「う、うわ……」
「悟飯!?」
恐怖に竦んで動けない悟飯。迎撃しようとするピッコロ。
だがそれより早く、サイバイマンの頭に、少女の拳がめり込んだ。
「ギッ……!?」
一撃で頭部を陥没させ、崩れ落ちるサイバイマン。
半分潰れたその頭を、黒いブーツが踏み砕く。
「て、天さん!」
「出てきやがったか……!」
黒い戦闘服を着た少女が、全くの無傷でそこにいた。
解放された気が、電流のようにナッツの周囲で弾けていく。
彼女の顔は笑っていたが、その雰囲気は、先ほどまでとは全く異なっていた。
飢えた獣が獲物の前で見せるような、欲望と殺意に満ちた表情で、ナッツは宣言する。
「もう、我慢できないわ……次は私よ。全員相手してあげる」
「来るぞ! 気をつけろ!」
そしてナッツは地を蹴り、戦士達へと襲い掛かった。
「おい、いいのかベジータ」
「問題無い。オレの娘は、あの程度の奴らに遅れは取らん」
万が一何かあれば、すぐに助けに入るつもりだった。そしてスカウターの録画機能をオンにし、同時に映像を宇宙船に送信する。娘の姿を残しておくためだ。
「ベジータ、またそれかよ……」
「何とでも言え。お前も子供を持てばわかる」
ナッパは思う。自分にとっては、ラディッツとベジータがそれに近かったと。
可愛げもなかったし、甘えてくるわけでもなかったが。
「あの小さかったベジータが、子供を可愛がる歳にねえ」
オレも歳をとるわけだと、ナッパは苦笑した。
第2話のリメイク完了です。
ピッコロさんとの絡みは、後々の話を考えると欲しかったエピソードなのです。
あと超ブロリー劇場版で印象に残った場面の一つに、パラガスが再会して暴れるブロリーの尻尾を掴んで大人しくさせるシーンがあります。さらっと流されてましたが「あれがサイヤ人の子育て……!」ってなったので軽く触れてみました。