あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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13.彼女が彼らと戦う話(後編)

 ナメック星の太陽の横に、浮かぶは小さな人工の月。

 

 自ら作り上げたそれから降り注ぐブルーツ波を思うさまに浴びながら、大猿化したナッツは溢れんばかりの力に歓喜していた。長大な尻尾が、しなやかに、かつ力強く風を切る。

 

 血のように赤く光る瞳が見据えるのは、飛翔し迫り来るギニュー特戦隊の四人。フリーザ軍最強部隊の彼らが自分に戦いを挑んでいるという事実に、サイヤ人の少女は巨大な牙を見せながら獰猛に笑う。

 

『まずは、挨拶代わりよ……!!』

 

 戦闘力が一瞬で限界まで跳ね上がり、巨体から吹き出すオーラが大気を震わせる。そして開かれた口から、彼女の全長すら超える特大のエネルギー波が放たれた。凄まじい熱量で周囲の空気をプラズマ化させながら、直径20メートルの赤い死の壁が四人に迫る。

 

「はっはーーーー!!!」

「凄えぜナッツちゃん!!」

 

 加速して攻撃を回避しながら、リクームとジースが快哉を叫ぶ。直撃すれば即死、良くて戦闘不能は避けられないだろう大火力。だが、遠距離かつ真正面から放たれたそれは広範囲への攻撃といえど、彼らの戦闘力なら回避可能なレベルだ。

 

「いや無理だろこれ!?」

 

 慌てたのは、四人の中で一番身体能力の低いグルドだ。一見無造作に見えるナッツの攻撃は、その実、彼一人を狙って放たれていた。必死に避けようとするも、あまりに広い攻撃範囲にそれすらままならない。赤いエネルギーの奔流が迫り、彼が何かを叫びかけた直前、飛び込んだ青い流星がその小さな身体を掻っ攫った。

 

 間一髪、巨大なエネルギー波が彼らのすぐ後ろを通り過ぎ、数秒後、地平線の向こうで閃光と共に町一つを消し飛ばす規模の大爆発が巻き起こった。猛烈な爆風に煽られながら、グルドの戦闘服を掴んだバータがにやりと笑う。

 

「危なかったじゃねえか、グルド」

「……ちっ、あのくらい自力で避けられたってのによ」

「けど体力使うし、万が一って事もあるだろ? お前は戦闘力が低いんだから、あんま無理せずオレらを頼れよ」

 

 助けられながらも仏頂面のグルドは、反論しようとバータの方を見てその身を強張らせた。とっさに手を付きだし、念動力でバータを大きく弾き飛ばす。

 

「な、何だよ……っ!?」

 

 味方からの急な攻撃に驚いたバータが見たものは、彼の何倍も大きな岩塊が高速で飛来し、今まさにグルドに衝突せんとする光景だった。大技を避けた瞬間を狙い、足元にあった丘の一部をナッツが蹴り飛ばしたのだ。

 

『まとめて殺せなかったのは残念だったけど、まず一匹ね』

 

 直撃を確信した大猿が、残酷に笑う。肉体的に脆弱なグルドなら、これで仕留めきれるはずだ。

 

 ナッツは父親から聞かされた、ギニュー特戦隊についての情報を思い返していた。いつかフリーザの命を狙うにあたって、彼らとの衝突はまず避けられないため、その対策は必須だったのだ。

 

 彼らは全員が一騎当千の実力者だが、中でも様々な超能力を使いこなすグルドは、ギニュー隊長の次に危険な存在であり、決して正面からは戦わない事、可能なら不意打ちで仕留め、それが無理なら決して近づかないよう厳命されていた。

 

 そして彼女の父親が警戒した力の一端が、今、示される。

 

 

「止まれ!」

 

 

 グルドの叫びと共に、時間が停止する。先ほど使おうとしていた、彼の切り札の一つだ。神々の権能にも迫る能力だが、体力を大きく消耗するため、連続使用は難しい。

 

 最初のエネルギー波をこれで避けていた場合、追撃の岩塊に対応できていたかどうか。仏頂面のまま、グルドは離れた場所で停止したバータを見て呟いた。

 

「まあ、感謝してやるよ」

 

 グルドはその場を離脱し、速やかに能力を解除する。再び動き出したバータが、巨大な岩塊が目標を見失って飛んでいき、隣に無傷のグルドがいる事に安堵する。

 

「ありがとよ。助けたつもりが、助けられちまったな」

「気にするな。先に助けられたのはオレの方だろ」

 

 時間停止の反動で小さく息をつくグルド。傍から見ると瞬間移動でもしたようにしか見えない彼の様子を、遠くに立つナッツは冷静に観察していた。

 

(時間を止める事ができるって話は本当みたいね。厄介な能力だわ。止まってる間に尻尾を切られたら、どうしようもないわよ……)

 

 実際には消耗があまりに大きすぎるため、時間停止中に攻撃をする事はできないのだが、ナッツにとっては当然の懸念だった。

 

(けど、ずっと止められるのなら、とっくに背後に回って尻尾を狙ってるはず。それにたった1回でずいぶん疲れてるみたいだし、どうやら制限があるみたいね)

 

『じゃあ、何回止められるか試してあげるわ』

 

 どうせ避けられるのなら、手数を重視するべきだろう。口を開き、エネルギー弾の連打を食らわせるべく集中を開始した大猿の身体に、二発の気弾が命中し、爆発した。

 

 戦闘服に守られていない腕や脚を狙った攻撃だったが、厚い毛皮をわずかに焦がしたのみで、大猿の巨体は小揺るぎもしない。それでも攻撃を受けたという苛立ちから、ナッツは周囲を飛ぶ二人をギロリと睨む。

 

「おいおいナッツちゃん。グルドばっかりずるいじゃないの」

「オレ達とも遊ぼうぜ?」

 

 飛び回りながら更に攻撃を繰り返すリクームとジース。ナッツは鬱陶しく思ったが、彼女の気を引こうという狙いは明らかであり、軽々しく誘いに乗ってやる気は無かった。

 

(尻尾さえ切られなければ、私が負ける道理はないわ。まずは厄介なグルドを落として、数を減らす事が先決よ)

 

 大猿に変身しているにも関わらず、彼女は冷静だった。おどけたように、リクームが口にした言葉を聞くまでは。

 

「ナッツちゃん、オレ様に無様にやられたベジータちゃんより強いんじゃね?」

 

 

『父様を馬鹿にするなあっ!!!』

 

 

 誰よりも尊敬する父親を乏しめられ、激昂した大猿がリクームに飛び掛かり、叩き潰さんと巨大な拳を振り下ろす。回避された拳が大地にめり込み粉砕し、轟音と共に地上を揺らしながら破片を跳ね上げる。

 

 逃げ回るリクームに向けて、ナッツは咆哮しながらエネルギー弾を連打する。怒りに燃えた赤い瞳が、獣じみた唸りと共に向けられる。

 

 大猿になったサイヤ人は、凶暴性が遥かに増す。訓練によって理性を残しているとはいえ、増大した破壊衝動は健在で、時として彼女自身にも制御できなくなってしまう。

 

 狂ったように攻撃を放ち、周辺の地形を破壊しながら暴れ回る大猿の背後に、死角からジースが近寄りつつあった。狙いは当然、彼女の尻尾だ。

 

 身体に合わせて巨大化しているとはいえ、胴体などと比べれば極端に細く、しかも激しく動いている尻尾を遠距離から狙うのは困難であり、切断するためにはある程度接近する必要があった。

 

「いい調子だ。もう少し耐えてくれよ、リクーム」

 

 ジースは地上から大猿の巨体を見上げながら、スカウターがかろうじて拾える程度の小声で呟く。そして尻尾に狙いをつけ、一息に切断すべく飛び上がろうとしたその瞬間。長大な尻尾が鞭のようにしなり、彼に向けて振るわれた。

 

「んなっ!?」

 

 とっさに飛び下がった彼が立っていた地面に、尻尾が激しく叩き付けられる。驚愕するジースの前で尻尾は一瞬にして振り上げられ、切断の隙を与えない。

 

 そして振り向いたナッツが、獣の顔に怒りを滲ませ、彼を見下ろした。

 

『今、私の尻尾を切ろうとしたわね……!!』

 

 開いた口の奥に赤い光が収束する。ジースが逃げる隙を与えず広範囲を焼き尽くそうとした時。

 

「そうは、いくかよおお!!」

 

 流星のごとく飛来したバータが、勢いのまま大猿の横っ面に両足を叩き込んだ。

 

『ガアッ!?』

 

 不意打ちで攻撃が中断され、ナッツが蹴られた頬を押さえて呻いている間にジースはその場を離脱する。

 

「ありがとよ。バータ」

「今のは危なかったぜ。お前らしくも無い。欲張って見つかったか?」

「いやどうやらナッツちゃん、ずいぶん勘が良いみたいでさ」

 

 スカウター越しに会話しながら、ジースは今の状況を思い返す。物音などは一切立てていなかったはずだが、リクームの方を向いていたはずの彼女は、正確に彼を攻撃してのけた。まるで位置がわかっていたかのように。野生の勘か、それともそういう能力でも持っているのか。

 

「こりゃ思ってたよりも、楽しめそうじゃないの」

 

 本能に任せて暴れ回るだけの大猿なら、容易に尻尾を切れていたはずだ。知り合いの娘が厄介な強敵に成長していた事をジースは喜び、それと同時に、血が騒ぐのを感じていた。

 

『よくも、やってくれたわね……!!!』

 

 地の底から響くような声は、彼女の声の面影を残しながらも、低く重いものに変化していた。今にも理性を消し飛ばしそうなほどの怒りを燃料に、ナッツの中で攻撃性が高まっていく。もはや言葉の体を成さない叫びが彼女の喉から溢れ出す。

 

 

『グオオオオオオオォォォォォ!!!!!!!!』

 

 

 殺してやる、と。明確にして過剰な殺意が込められたその咆哮は、大気を震わせる大音量も相まって、並の兵士なら聞いただけで恐慌状態に陥るだろう圧力を伴っていた。離れた安全な場所で聞いていたクリリンですら、身体が震えるのを止められなかったが。

 

「おお、怖い怖い」

「銀河アイドルのコンサート会場みたいだぜ!」

 

 その程度で怯む臆病者が、ギニュー特戦隊にいるはずもなく。気合いの入った強敵を前に、それぞれの顔に不敵な笑みが浮かぶ。

 

 

 

 そして、戦闘開始からおおよそ10分が経過した。

 

 咆哮と共に岩山が踏み砕かれる。ナッツが激しく動き、また飛び上がる度に衝撃で地形が破壊されていく。数十発のエネルギー波によって見える範囲の大地はあらかた消し飛ばされ、その空隙に海から水が流れ込んでいる。

 

 大猿化したサイヤ人はその巨体も相まって、大規模な破壊の面で優れている。この短い時間で彼女が放った火力は地球レベルの惑星の軍隊なら、とうに壊滅しているだろう圧倒的なものだ。

 

 また戦闘服に加えて分厚い毛皮と筋肉に覆われたその肉体に、生半可な攻撃ではダメージを与えられない。

 

 にも関わらず、ナッツは全身の毛皮を出血で赤く染め、黒い戦闘服にはひびが無数に入り、大きく肩で息をついている。

 

 強敵相手とはいえ、通常ならば膨大なタフネスを持つ大猿がこの程度の時間で疲労困憊するなど有り得なかったが、そもそも変身前の彼女は戦闘に敗れて負傷し、加えてパワーボールの作成で起き上がれないほど消耗した状態だった。

 

 無理矢理に動いた反動で傷口が開き、出血がさらに体力を奪っていく。

 

 

 対してギニュー特戦隊。唯一彼女を戦闘力で上回る隊長を欠いたこの状態では全滅も有り得たが、おのおの手傷は負っているにせよ、彼らは健在で、元気に戦闘を継続していた。

 

「「いやっはーーーー!!!!」」

 

 リクームとジースの二人が楽しそうに絶叫しながら、繰り出された拳に飛び乗って、大猿の腕を駆け上がっていく。自分の身体を足場にされる感覚に、ナッツは驚愕する。

 

 今までそんな事をしてくる奴はいなかった。今の私に接近戦を挑んで掴まれでもすれば、命は無いというのに。

 

(こいつら、命が惜しくないの!?)

 

 あまりの事態に動きが鈍ったその刹那、彼女の腕の上で連続して爆発が巻き起こる。出血していた傷口をさらに至近距離から攻撃されたナッツが、あまりの激痛に悲鳴を上げる。

 

『グアアアアアッ!!』

 

 尻尾を狙って飛んできたバータを振り払い、近づこうとするグルドにエネルギー波を放って牽制する。休む間もない猛攻に、大猿の巨体が片膝を突く。既に彼女の体力は限界に近づいていた。

 

(戦闘力は私の方が上なのよ。どうしてここまで苦戦するの……!?)

 

 その答えは、一言でいえば戦闘経験の差だ。

 

 ナッツの戦闘経験が3年程度である事に比べ、ギニュー特戦隊はコルド大王の時代から20年以上、絶えず最前線で戦い続けていた歴戦の猛者だ。大物相手の戦いも、幾度と無く経験している。

 

 対してナッツの方は、大猿化した彼女と拮抗するような人間を相手にした経験がほとんど皆無だ。今までは、それで全く問題なかった。どんな相手でも変身すれば圧倒的な戦闘力で叩き潰せていたからだ。

 

 そもそも変身したサイヤ人と身体一つで戦える人間など宇宙全体でもほぼおらず、極少数の強者達は魔人ブウの復活や魔界からの侵略などを警戒するのに忙しく、フリーザ軍の惑星攻略程度の事にいちいち介入したりはしない。

 

 地球で彼女が悟飯と戦った時は、戦闘力でほぼ互角だったとはいえ、相手も同じく巨大化しており、人間の時の戦い方がそのまま適用できたが、今は違う。

 

 自分よりも遥かに小さく、それでいて高い戦闘力を持ち、素早く動き回る個人に対し、有効打を当てられていない。それでいて相手からすれば、大猿の巨体は格好の的だ。

 

 十数年の間、死線を潜り続けてきた父親と違い、彼女にはまだ戦闘経験が足りない。ナッツは今、その事実を痛感していたが、だからといって、諦めるわけにはいかなかった。

 

(ここで私が負けたら、父様達が死ぬのよ……! 絶対に、諦めてたまるもんですか!)

 

 経験がどうした。悟飯なんてたった1年訓練しただけで、実戦すらした事のない状態で、私と互角に渡り合って、地球を守って見せたのだ。

 

 下級戦士の子供にできた事が、王族でエリート戦士で1歳年上の自分ができないなんて、プライドが許さなかった。

 

 弱っていたナッツの目に力が戻る。両足に力を込めて、立ち上がる。経験が足りないなら、悟飯がして見せたように、今積めばいいのだ。猛攻に晒されながらも、ナッツは冷静に相手の動きを観察し始めた。

 

 

 そして彼女の様子が変わった事に、歴戦の彼らは程なく気付く。

 

「ナッツちゃん、動きが良くなってきてね?」

「確かに……うおおっ!?」

 

 リクームの身体を巨大なブーツの爪先が掠め、大きく弾き飛ばされる。とっさにガードした両腕の骨が軋む痛みに、リクームは笑う。

 

「いいね! 今のは良かった!」

 

 それをきっかけとしたように、次第に彼らの被弾が増えていく。ナッツは明らかに弱っているというのに、その動きはまるで、この瞬間にも洗練されていくようで。

 

(サイヤ人は戦闘民族、戦えば戦うほど強くなるのよ)

 

 ジースは3年前、幼い子供が自慢げに話した言葉を思い出していた。他ならぬ彼女自身が自分達を相手にそれを実践している事が、妙におかしくなってしまう。

 

「本当に、成長したよ。ナッツちゃんは」

 

 しみじみと、ジースは呟いた。今のところはまだ優勢だが、このまま戦い続ければ、万が一が有り得た。

 

「どうする? 一旦退いて、こっちに向かってるギニュー隊長と合流するか?」

 

 そうすれば確実に勝てるのだが。

 

「それズルくね?」

「ナッツちゃんが可哀想だよなあ」

「天下のギニュー特戦隊が、ガキ一人から逃げるってのかよ」

 

 スカウターから聞こえてくる、リクーム、バータ、グルドの声。それは彼自身の思いでもあった。こんな楽しい戦いが無粋な形で終わるなど、あまりにつまらない。

 

 そして彼女と互角の条件で戦う事は、彼らなりの、あの幼い少女に対する償いでもあった。加えて矛盾しているようだが、当然負けてやるつもりもなかった。

 

「さて、どうやって攻めるか……」

 

 ジースは考える。パワーと頑丈さで前に出るリクーム、速度で攪乱するバータ、超能力で搦め手を担当するグルド、そして一通り何でもできる彼の役割は、その場その場で必要な分野の穴埋めだ。ギニュー隊長と離れている今、全体の指揮は彼が担っていた。

 

 尻尾を切って変身を解くのは無理だろう。切られれば終わりと判っているからか、最優先で守られていて、付け入る隙が無い。さらに今のナッツは尻尾を囮に攻撃を誘い、反撃を狙っている節すらある。

 

 これ以上の負傷を避ける意味でも、短期決戦が望ましいだろう。彼は素早く作戦を組み立て、全員に指示を出した。

 

 

『くっ、こいつら、いきなり速く……っ!』

 

 ナッツは翻弄されていた。バータとジース、青と赤の流星のように天と地を駆ける二人が、目で追いきれないほどの速度で無数の気弾をばら撒きながら彼女の周囲を飛翔し、すれ違いざまに気を纏わせた手刀で全身を切り裂いていく。

 

 かろうじて尻尾だけは守りきるも、連続する爆発と斬撃に全身を痛めつけられる。必死に悲鳴を押し殺しながら反撃の機会を伺うナッツは、自分の前で技名を叫ぶリクームに気付く。

 

 凄まじいエネルギーが高まっていくのを感じ、止めるべくナッツが攻撃をしようとした瞬間。

 

 

「きええええっ!!」

『!?』

 

 

 グルドの気合いの声と共に、大猿の全身の神経が麻痺し、動きが封じられる。他の三人が注意を逸らしている隙に彼は近寄り、ナッツを金縛りの術の射程圏内に捉えていた。

 

(しまった! 時間停止じゃない! これは!?)

 

 身体の異変に戸惑いながらも大猿は即座に咆哮し、身体を侵す超能力を力づくで解除する。

 

『オオオオオオオォォォォ!!!!!』

 

 大猿の両腕がリクームに迫る。だが巨大な両手に掴まれるその寸前、彼の必殺技は発動した。

 

「ボンバーーーー!!!!」

 

 絶叫と共に莫大なエネルギーが放出され、大猿がリクームを中心に巻き起こった大爆発に飲み込まれる。動けぬまま見ているしかできなかった悟飯とベジータが、絶望に崩れ落ちる。

 

(嫌だ、負けたくない。……どうしたら勝てるの?)

 

 全身を焼かれる苦痛に叫びながら、ナッツはただそれだけを考え続けていた。

 

 

 

 

 爆発が収まった後、辺りに立ち込め、視界を封じていた土埃と煙が少しずつ晴れていく。

 

「やったか?」

「おい、やめろ馬鹿ジース」

「まあ、流石にあれは、無事では済まないだろ……」

 

 大猿を全力で金縛りにした反動で、息も絶え絶えのグルドが呟く。リクームが放ったあの技は、ギニュー隊長不在の今の彼らにできる最大火力だ。溜め時間が必要なのが欠点だが、その分威力は法外に大きい。

 

 やがて視界が完全に戻り、見えてきた目の前の光景に、軽口を叩いていた特戦隊メンバーは困惑する。爆発の跡地にあった物は、直径50メートルにも及ぶ巨大なクレーター。周囲の海から流れ込んだ水が浅く溜まりつつあるが、それだけだった。

 

「おい、ナッツちゃんがいねえぞ?」

「あんな図体で一体どこに……」

 

 四人は周囲を確認するも、彼女の姿は見当たらない。隠れられそうな丘などは戦闘の余波で消し飛んでいる。先ほどまでナッツの戦闘力を感知していたスカウターも、今は反応していない。

 

「技の威力が強過ぎて、粉々になって消滅したか?」

「リクーム、グロい想像させんじゃねえよ……」

 

 ジースは考える。戦闘力の低い相手なら、大火力の攻撃で死体すら残さず消し飛ぶ事は有り得たが、あの巨体が欠片も残さず消滅するとは、どうにも考えづらかった。

 

「まさか、上か? とっさに飛び上がって、雲の間にでも隠れているとか……」

 

 バータが上空に視線を向け、他の全員がそれに続く。確かに雲はいくつか浮かんでいるが、とても大猿が隠れられそうには見えない。そもそも空など飛んでいては、あっという間に見つかってしまうだろう。

 

 地上に視線を戻したバータが、それに気づいたのは偶然だった。緑がかった海水が、わずかに赤く染まっている。誰かが血でも流したかのように。

 

「なあっ……!?」

 

 彼が警告を叫ぶより早く、水底を蹴った大猿が海面から飛び出しながら、残された全ての力で、瞬間的に戦闘力を0から最大値に跳ね上げる。警告音と共に7万を超える数値がスカウターに表示され、慌てた彼らが反応しようとするも、手遅れだった。

 

 

『くらええええっ!!!!!!!』

 

 

 絶叫と共に開いた口から、ナッツは極大のエネルギー波を撃ち放つ。巨大な赤い奔流が四人全員を巻き込み、閃光と共に全てを焼き尽くした。




 戦闘描写が大変でしたが、彼らとの決着はこれでついて、次回はいろいろ、後始末の話です。
 彼女の物語もいよいよ中盤を超えました。色々あって更新が遅くなるかもしれませんが、気長にお待ちくださいませ。

 それと前回はたくさんの高評価をありがとうございます。
 おかげ様で久々にランキングに載れて嬉しかったです。
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