その一帯は焦土だった。
ナッツの放った一撃によって草木は焼き尽くされ、海水すらも蒸発し、剥き出しになった地面のあちこちから煙が上がっている。
爆発によって巻き上がった土くれが陽光を遮り、周囲一帯が薄闇に包まれる中、倒れていた一つの影が、よろめきながら立ち上がった。
「ち、ちくしょう……油断しちまったか」
その男はバータだった。ギニュー特戦隊随一のスピードを誇り、ナッツの潜伏場所にいち早く気付いた彼だけが、とっさに離脱する事で、かろうじて直撃を免れていた。
それでも受けたダメージはかなり大きく、先の戦いでの負傷も相まって、戦闘力は元の半分にも満たない状態だ。だが今の彼にとって、そんな事はどうでもよかった。
全身を襲う痛みに顔をしかめながらも、バータは液晶のひび割れたスカウターを操作する。
「あいつらは、生きているのか……?」
スカウターが火花を散らしながら動作し、やがて電子音と共に、登録された仲間達の反応が表示され、彼の表情が安堵に緩む。ジースも、グルドも、リクームも、かなり弱ってはいるが、まだ生きている。
戦闘力の低いグルドまで無事だったのは奇跡だった。ナッツへの攻撃に参加していなかった分、離れていたのが幸いしたのだろう。場所もそう遠くは無い。示された方角を見ると、確かに遠くに3人が倒れているのが小さく見えた。
「おい! お前ら大丈夫か?」
呼びかけるも反応は無い。気絶でもしているのかと思ったが、どうやら通信機能が壊れているようだった。
「……まあ隊長から通信来ない時点で、おかしいとは思ってたけどよ」
部下思いのギニュー隊長が、この状況で安否確認の一つもよこさないとは考えづらかった。全速力でこちらに急行しながら、「全員無事か!?」だの「オレが行くまで持ちこたえろ!」だのとスカウターに叫んでいる姿が脳裏に浮かび、おかしくなってしまう。今頃は返事が無い事を、とても心配しているはずだ。
その時、ずしん、と背後で地面が震えると同時に、バータの全身が、巨大な影に覆われた。警告音と共に、スカウターに表示された戦闘力は4万強。
振り向いた彼の目に映ったのは、全身の毛皮を血で赤く染めながら、嗜虐的な笑みで彼を見下ろす大猿の姿。リクームの必殺技の影響か、ただでさえボロボロだった戦闘服は半壊し、左側の肩掛けから胸部に当たる部分が丸ごと吹き飛んでいる。
アンダースーツもところどころ焼け焦げ、破れてその下の毛皮を晒している。人間ならば致命傷になりかねないほどのダメージを負い、大きく息を切らしながらも彼女は健在で、薄闇の空に輝く小さな人工の月も、まだ消える気配はない。
『しぶといハエが、まだ一匹生き残ってたみたいね。すぐに叩き潰してあげるわ』
獣の顔を邪悪に歪めながら宣言するナッツに、バータは軽い調子で言った。
「ナッツちゃん、無理しないで帰って休んだ方がいいんじゃないの? これ以上暴れたら、ギニュー隊長やフリーザ様が来るかもしれないぜ?」
『お前達を殺してから、そうさせてもらうわ』
どうやら向こうはまだやる気らしい。短時間で自分達を皆殺しにできる自信があるのだろう。まあ普通、この状況ならそう思うはずだ。4人の中で動けるのは負傷した自分一人だけで、手負いとはいえ全員でも倒せなかった大猿相手に、何ができるというのか。
だからと言って、ここで引くわけには行かなかった。ジース、リクーム、グルド。3人とも20年来の付き合いで、共に何度も死線を潜り抜けてきた仲間達だ。自分と同じで馬鹿なのが玉に瑕だが、とても愉快で良い奴らなのだ。
一人も殺させるわけにはいかない。隊長が来るまで持ちこたえるだけの、簡単な仕事だ。この程度の修羅場なら、以前にも経験がある。バータは不敵な笑みを浮かべ、大猿の目を真っ直ぐに見据えて言った。
「ナッツちゃん、もう少しオレと、遊んでもらうぜ……!」
バータが飛び立った一瞬後、彼がいた場所を、巨大なブーツが踏み砕く。ナッツはその足で大地を蹴って飛び上がり、バータを追ってさらに加速する。
『はははっ! どうしたのかしら? 動きが鈍ってるわよ!』
彼女が狙っているのは、単純な体当たりだ。激突すればそれだけで致命傷になりかねない大質量と速度に追われ、距離が縮まっていくが、バータは避けるそぶりすら見せず、振り向いて、ただ一言を口にした。
「ナッツちゃん、宇宙一のスピードを見せてやるよ」
『……何ですって?』
ナッツは訝しむ。明らかに彼女の方が速度で勝っているこの状況で、一体何を言っているのか。すぐにハッタリと判断し、さらに加速して目の前の男を轢き潰さんとして、激突したと思った瞬間、手ごたえが無い事に困惑する。
気配を探ると、バータの気配は彼女の後方にあった。わずかに苛立った様子で、大猿が彼の方へと振り向いた。
『……今、何をしたの?』
バータはにやりと笑って、返答とした。何も難しい事はしていない。ギリギリまで動きを見切った上で、激突する寸前でわずかに軸をずらし、急停止したにすぎない。あとはナッツが、勝手に通り過ぎていっただけだ。先の言葉と相まって、超スピードで避けたように見えるかもしれないが。
全身が痛むのを感じながら、バータは見せかけだけの余裕を崩さない。彼の背中を、流れた血が滴り落ちる。この程度の動きですら、今のバータには負担が大きい。
『まだそんな力を残していたのね』
ナッツの声が警戒の色を帯びる。容易に殺せる存在ではなく、戦える力を持った敵だと認識される。望む所だった。
大猿が咆哮しながら、満身創痍の彼に飛び掛かる。あとどれだけ動けるだろうかと考えながら、バータは飛翔を開始した。
それからおよそ120秒間、彼はナッツを翻弄してのけた。
空を舞う軌道が弧を描いた次の瞬間、直線に、ジグザグに、目まぐるしくその動きを変える。加速に減速、時に急停止したかと思えば、一瞬で最高速度を叩き出す。軌道も速度も全く予測できない青の流星が、命を燃やして飛翔する。捨て身の覚悟に加え、仲間の命を背負っているという事実が、彼に限界を超えた動きを可能とさせていた。
『こいつ、死にぞこないのくせに……!』
業を煮やした大猿の喉から、唸り声が漏れる。フリーザはともかく、ギニュー隊長は彼の言うとおり向かってきているはずだ。まだそれらしき気配は感じられなかったが、早くこいつらを片付けて、父様達を連れて逃げなければならない。
それともいっそ、諦めるべきなのか。後々の事を考えると、4人はこの場で仕留めておきたかったが。そこまで考えて、ナッツは倒れたまま動かない3人に視線を向け、悪魔のように笑った。
『気が変わったわ。あなたのお友達から殺してあげる。そこで一生、飛び回ってるといいわ』
これ見よがしに大きく開かれた口の中に、赤い光が収束していく。確実に止めを刺すべく、時間を掛けて出力を高めていく。
「やめろーーーー!!!!!」
バータは半ば罠だと知りながら、大猿の顔へ向かって飛ぶ。あれを撃たせるわけにはいかない。全力でぶつかってやれば、せめて狙いは逸らせるはずだ。
大猿の顔に蹴りを叩き込もうとしたその瞬間、赤い瞳が彼を捉える。ナッツは首を動かし、バータに向けて至近距離からエネルギー波を撃ち放った。
彼は辛くもそれを回避し、掴まんと伸ばされた巨大な腕にあえて飛び込み、手の甲を蹴って離脱したところで、大猿の身体の後ろ、彼にとっての死角から、長大な尻尾が風を切って振るわれた。
「がっ……!?」
直撃を受けて弾き飛ばされ、体勢を崩したバータを大猿が掴む。逃がさぬよう強く握り締めながら、ナッツは込み上げる邪悪な歓喜に笑う。
『ようやく捕まえたわ。さんざん手こずらせてくれたけど、これでもう終わりよ』
「は、放せ……!」
大猿の両手からバータは必死に逃れようとするが、脱出できるほどの力は残されておらず、加えられる圧力に、全身の骨が軋んでいく。
『じっくり苦しめてやりたいところだけど、あまり時間がないの。手早く潰してあげる』
両腕の筋肉が膨れ上がり、骨が砕ける音と共に、悲鳴が上がる。それを聞きながら、ナッツは暗い喜びに浸っていた。
母様が殺されたあの日から3年間、ずっと戦闘力を上げ続けて、ようやく自らの手で、フリーザ軍の幹部を殺せるところまで来たのだ。
こいつらを殺して、いつか父様と一緒にフリーザを殺して。それから全ての惑星フリーザを徹底的に破壊して、フリーザ軍の奴らを皆殺しにしてやる。にこにこと友好的に振舞っておきながら、母様を助けてくれなかった奴らなんて、全員死ぬべきだ。きっと凄く、楽しいに違いない。
薄暗い空の下、そのサイヤ人の少女は、復讐心と、破壊衝動と、湧き上がる底無しの憎悪に、心地良くその身を委ねていた。
そんな彼女の様子を、離れた場所で見ている者達がいた。
クリリンは震えながら目を逸らしている。やられているのは敵とはいえ、理性を保ったまま、醜い感情に支配された大猿の姿が恐ろしかった。悟空や悟飯のように、理性無く暴れる方が、まだマシだと思った。
悟飯は溢れる涙を拭おうともせず、嗚咽を漏らしながら、彼女を見ていた。恐くて泣いているのではない。確かに今のナッツの姿は恐ろしいが、それ以上に、彼女の事を可哀想だと思っていた。
ほんの数時間前、家の中ですっかりくつろいで、楽しそうに笑っていた、彼女の姿を思い出す。
(おいしい!! 何これ!?)
(ねえ、悟飯。私、あなたの友達になってもいい?)
ナッツは決して良い子ではなく、悪い事をいっぱいしてきたけど、それでもまだ自分と同じ小さな子供なのに、お母さんを殺されて、ああまで人を憎むようになってしまったのが、無性に悲しくて、涙が止まらなかった。
今の彼女の姿は、とても見ていられないものだったけど、それでも自分まで目を逸らすのはいけない事だと思ったから、辛いと思いながらも、彼は彼女を見守っていた。そんな少年の肩に、誰かが手を置いた。
「えっ……?」
「…………」
顔を向けた悟飯が驚く。いつの間にか、彼女の父親が隣にいた。少年と同じ痛ましい思いを抱えながら、何も言わずに娘を見ていた。
そして同じ思いを持つ者は、彼らだけではなく。
今まさに彼女に殺されようとしているバータは、激痛の中、3年前のナッツの姿を思い出していた。あの頃の彼女は、いつも幸せそうで、誰にでも明るく笑い掛ける子供だった。それが母親が死んだあの日から、笑顔を失い、身内以外のフリーザ軍の人間を、親の仇でも見るような目で睨むようになったのだ。
そして今、憎い仇を殺すのが楽しくてたまらないという様子の彼女を見て、やりきれないと思ってしまう。おいしそうにフルーツパフェを食べていたあの女の子が、こんな風になってしまったのは、確かに自分達フリーザ軍のせいだ。
彼女の母親を無謀な任務に追いやったのはドドリアだが、それはたまたまフリーザ様が彼に命じたに過ぎない。より確実を期すべく、特戦隊に暗殺指令が下されていた可能性だってあったのだ。
仮にそうなっていた場合、自分達は悩みながらも、それでも反抗して粛清されるよりはと、彼女の母親を殺す事を選んだだろう。それを思うと、決して無関係とは言えなかった。
(母様を殺されたのよ! 私も父様も、許せるはずがないじゃない!)
あの子はずっと、辛い思いをしてきたのだ。そしてきっとこれからも。自分が殺される事で、復讐心が少しでも和らぐのなら、それはそれでいいかとバータは思った。
死を覚悟した彼は、遠くに倒れた仲間達を見る。おそらく無理だとは思うが、最後にできる限りの事はしておきたかった。痛みを堪えながら、口を開く。
「ナッツちゃん、今さら虫の良い頼みだとは思うけどよ、殺すのはオレ一人で勘弁してくれないか?」
心底不快そうに、ナッツは彼を睨み付けた。より強まった圧力に、また骨が折れる音がした。
『喋って良いって、誰が言ったのよ』
憎悪に塗れた声。バータは激痛に呻きながらも、言葉を続ける。
「……お前の母ちゃんの事は、本当に悪かったと思ってる。けど信じてくれ」
岩山にでも叩き付ければ、この煩わしい声は止まるだろうか。虫を見るような彼女の目が、続く言葉を聞いた瞬間、驚愕に見開かれる。
「オレ達の誰も、リーファさんの事を殺したいなんて、思っちゃいなかったんだ」
その名前をバータが口にしたのは、意図があっての事ではない。覚えていた名前を、当たり前のように話したに過ぎない。
だがその一言は、息ができなくなるほどの衝撃を、少女の心にもたらしていた。
母様の名前。辛い思いをするだけだから、父様も私も、今まで口にしなかったのに。よくもぬけぬけと、お前なんかが母様の名前を。
殺してやる。心に満ちる感情のまま、バータに止めを刺そうとしたナッツの動きが止まる。
名前をきっかけに、母親と過ごした頃の記憶が、娘の胸に溢れ出していた。そのほとんど全てが、掛け替えのない幸せな思い出だった。
記憶の中にいる母様は、病弱だったけど、強い人だった。生まれつきの病気に苦しみながら、フリーザ軍で大きな功績を上げて、私を生んで育ててくれた。
ほとんどの時間は、家の中にいるだけだったけど、本当は本を読むよりも、戦いの方が好きだったのを知っている。
たまに身体の調子が良い日に、父様や私と一緒に戦場に出た時は、私よりも嬉しそうにはしゃいでいたくらいだ。
母様は私に、たくさんのものをくれた。王族として恥ずかしくないくらいの知識も、戦場で生き延びるための戦い方も、身体に流れるサイヤ人の血も。
そして何より、たった3年間だったけど、一生忘れられないくらい、愛してもらった。
父様が寂しがるから、自分の分まで、生きて欲しいと言われた。きっとあの時、自分の命がもう長くない事を、知っていたのだろう。
ああでも、寂しいのは、私も同じです。もう一度、会いたいです。母様。
いつの間にか、暗い感情も、その身を駆り立てていた怒りも、全てまっさらに洗い流されていて。今のナッツは、母親を亡くした、ただの小さな子供だった。
自分の手の中で、痛そうな顔をしている人を見る。昔、パーティーで、欲しかったビンゴの景品を譲ってくれた、優しいおじさんだった。他のおじさん達も、遠くに倒れている。
私は今、何をしようとしているのだろう。
『どうして……』
震える声は、幼子のようで。
どうして、こうなってしまったの。とても幸せだったのに。みんな大好きだったのに。どうして。
「ナッツちゃん……」
震える両手からは、すっかり力が抜けている。少女の変化を感じ取り、バータが声を掛けたその瞬間、とてつもなく不吉な予感がナッツを襲った。
『!?』
大猿が即座にその場を飛び離れた刹那、彼女の尻尾があった場所を、真っ直ぐに飛ぶ紫色の影が貫いた。
その影の正体に気付いたナッツは戦慄する。全く気配を感じさせずに接近していたそいつは、もう隠す必要はないとばかりに、凄まじい戦闘力を発している。
(まさか、こいつも戦闘力のコントロールを!?)
その男はバータの最高速にも迫る速度で飛翔し、驚く大猿の顔付近まで一瞬にして肉薄する。遠くに倒れた3人、そして今まさに殺されようとしているバータを見て、ぎりりと歯を食いしばる。
「部下が世話になったようだな!!!」
怒りの叫びと共に、ナッツの顔面に、全力の拳が命中した。
爆発のような轟音と衝撃が大気を震わせ、大猿の巨体が冗談のように軽々と吹き飛んで地を滑り、激突した遠くの岩山を破壊する。
放り出されたバータの身体を抱えた男が、勇敢に戦った部下に小さく笑顔を見せた。
「無事か、バータ。良くやったな」
「た、隊長……」
ギニュー隊長。最大戦闘力12万を誇る、フリーザ軍最強の戦士がそこにいた。
「酷くやられたものだな。あのサイヤ人め……」
ギニューはバータの状態を確認し、折れた骨を念動力で固定する。乱暴な応急処置だが、しばらくの間、仲間の身体を運ぶくらいはできるはずだ。
そして遠くに倒れる3人の身体に手をかざすと、彼らの身体が宙に浮き、あっという間に、彼の元へと引き寄せられた。
「バータ。こいつらを連れて下がっていろ。オレはフリーザ様からの任務を遂行する」
その視線の先には、よろよろと起き上ろうとする、満身創痍のナッツの姿。
「ギニュー隊長……!」
「止めろ」
あの子を殺さないで下さいと、続けようとしたバータの言葉が、硬い声に止められる。
「それ以上口にすれば、オレはお前を罰さねばならなくなる」
フリーザ様直々の命令への反逆、それに対する処罰は死以外に有り得ない。そんな事をさせてくれるなと、隊長の目が告げていた。
「……わかりました、隊長」
バータは表情の失せた顔で、3人の身体を抱えて一礼し、飛び去っていく。その姿を見送りながら、ギニューは考える。
部下達が、あのベジータの娘に思い入れを持っているのは知っていた。私情で手を抜くような奴らではないから、問題は無いと思っていたが。
バータの反応からすると、殺される直前で情けをかけられたか。子供らしいその甘さに、個人的には感謝したいところだったが、任務となれば話は別だ。
高い実力を持ちながら、どこの星の軍隊にも馴染めなかった彼らを、大らかな心で受け入れて下さったコルド大王様。そしてその息子で、今も自分達を厚遇して下さっているフリーザ様。あの二人には、返しきれないほどの恩がある。その意向に逆らうなど、考えられない事だ。
「お前に恨みは無いが、フリーザ様の命令だ。死んでもらうぞ」
ギニューの言葉に、ナッツは牙を噛み締めて唸る。またフリーザか。またあいつの都合で、私達は殺されるのか。
強い者は弱者を好きにできる。それはこの宇宙のルールだ。彼女自身も、今まで弱い奴らを好きに殺してきた。だからこれも、自分達の順番が来たに過ぎないと、言ってしまえばそれまでだが。
『だからといって、黙って殺されてやるものですか!!』
それに文句があるのなら、力で抗うしかない。そのために、私は強くなったのだ。
遠くで何かを叫んでいる、父様と悟飯の方を見る。
『私が時間を稼ぎますから、逃げて下さい!』
返事は聞かず、全身の痛みを堪えながら、ギニューに向けて走り出す。
これからする事は、さっきのバータと同じだ。幸いな事に、今の私はそう簡単には死なない。父様が生きていれば、いつかフリーザを倒して、母様の仇を取ってくれるはずだ。
母様。生きて欲しいと言われたけど、ごめんなさい。
『グオオオォォオオオォォオオ!!!!!!』
私を無視でもしようものなら、手足の一本はもらっていく。気迫を込めて咆哮しながら突撃し、巨大な拳を振りかぶる。ギニューもそれを迎え撃たんとする。
二人の拳が激突し、凄惨な死闘が幕開けるその直前に、何者かが、二人の間に飛び込んだ。爆発のような轟音と衝撃が大気を揺らす。次の瞬間、信じがたい光景に、二人は目を見開いた。
「何だと……!」
『あ、あなたは……!』
オレンジ色の胴着を着たその男は、広げた両手で彼らの拳を受け止めていた。
ギニューはどれだけ力を込めようと、止められた拳が1ミリも動かない事に戦慄する。ナッツもまた同様に、涼しい顔でギニュー隊長の攻撃を受け止めてのけた、彼の戦闘力に驚愕していた。
「なっ、何者だ、貴様!」
「ん? オラは地球から来た、孫悟空って言うんだ」
微妙にずれた回答を返しながら、悟空は大猿を見上げて感嘆の声を上げる。
「おめえ、ナッツだよな? ずいぶん強くなったなあ。今度オラと戦ってみねえか?」
そして彼女の全身の負傷に眉をひそめるも、すぐに笑顔に戻って言った。
「それと、よく頑張ったな。オラが来たからには、もう安心だぞ」
優しく労わるような声に、ナッツは気持ちが緩んでいくのを感じていた。
このシーン、彼女の母親の名前を出すかどうかで二か月くらい悩みました。出すと決めた後で、割と有名なキャラと名前が被ってる事に気付いて変えるべきか更に悩んだのですが、これ以上に相応しい名前が浮かばなかったのでそのままにしました。
あと前回の戦闘シーンが凄く評判良くて高評価とか沢山もらえて嬉しかったです。今後の戦闘シーンのハードルが上がってしまった気がしますが、どうにか何とかするつもりです。
今後の更新は日曜夜になる予定です。その方が余裕持って書けますので。場合によってはさらに遅れるかもしれませんが、エタる事だけはしないつもりですので、気長にお待ちくださいませ。
それとたくさんの誤字報告、ありがとうございます。自分今までこんなの見逃してたのかと……。
【リーファ】
ナッツの母親。名前の元ネタは一応リーフレタス。イメージ的には葉っぱ。半端者。儚い。病院の窓から見える木の葉とかあんな感じ。
しかし葉っぱは全ての野菜に存在し、その成長に欠かせない、命を育む者とも言える。
エリート戦士の家に生まれ、高い戦闘力を持ちながらも生まれつきの病気でインドア系に為らざるを得なかったが、本当は戦いたくてうずうずしていた所で幼少期のベジータと出会い、色々あって実家から連れ出された。その経緯もあり、彼に深く感謝している。
娘と夫が大好きな残念美人。読書経験豊富だけど世間知らずの箱入りで微妙にどこかズレていて大事なことを知らなかったり。