あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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17.彼女の影で、彼らが色々目論む話

 自らへ挑みかかるリクームを見て、オレンジ色の胴着の男は不敵に笑った。

 

「ほう、来るか? 良いだろう。戦闘力18万を超えるパワーを試させてもらうとするか」

「せ、戦闘力18万だと!?」

 

 悲鳴のように、ジースが叫ぶ。到底信じられない数値だが、事実、目の前の男はギニュー隊長を無傷で倒している。自信に満ちた態度とも相まって、その言葉を疑う理由は無かった。

 

「止めろリクーム! 殺されるぞ!」

 

 グルドの制止に、リクームは欠けた歯で笑って言った。

 

「それでもこの野郎に一発入れてやる! 隊長の事は頼んだぜ!」

「リクーム! 駄目だあああ!!!」

 

 バータの顔が悲痛に歪む。謎の男はにやついたまま、迫るリクームの拳を避ける素振りすら見せない。

 

「うおおおお!!!!!」

 

 リクームは残された力を振り絞り、全身全霊の拳を叩き込む。その場の誰も、リクーム自身ですら効かないと確信していたが。

 

 

「ふっ、その程度の攻撃などおおお!?」

 

 余裕ぶった台詞の途中で拳を食らった男はあっさり吹き飛び、地面に倒れた。

 

 

「……えっ」

「……えっ」

 

 あまりに予想外の展開に、殴ったリクームも殴られた男も唖然とし、その場の全員が硬直する。

 

 しばし気まずい沈黙が流れた後、いち早く立ち直ったリクームが叫ぶ。

 

「こいつ思ったより弱いぞ!!」

 

 その言葉に、残りの3人もリクームに続く。

 

「やっちまえ!」

「ギニュー隊長の仇だ!」

「こいつ! 脅かしやがって!」

「ま、待てお前ら……ぐああああ!?」

 

 4人がかりで足蹴にされ、悟空と身体を入れ替えたギニューは混乱する。新しい身体の慣らしも兼ねて軽くあしらってやった後、正体をバラして大笑いする予定だったのだが。 

 

(バ、バカな! この身体は戦闘力18万以上のはず……! なぜ力を発揮できんのだ……!?)

 

 ボディチェンジ能力は彼の切り札だったが、悟空の身体の場合、その強さは気のコントロールや界王拳といった技術に依存する割合が高く、身体に不慣れな事もあり、現在のギニューの戦闘力は23000程度に止まっていた。

 

 奪った身体の力を使いこなせるとは限らないという欠点に、能力を多用していればどこかの時点で気付けていただろうが、そもそもフリーザ軍最強である彼より戦闘力の高い敵に遭遇する機会など、今まで無かったのだから仕方ない。

 

「おい、待ておめえら!」 

「ギニュー隊長!」

 

 ふらつきながらも起き上がった悟空の声に、4人の手が止まる。敵とはいえ、4体1で、しかも勘違いで痛めつけられているギニューの姿を見かねた彼が叫ぶ。

 

「よく聞け! オラは孫悟空で、そいつがそのギニュー隊長なんだ!」

 

 ギニュー隊長の声と姿で、悟空はそう叫んだ。一瞬の沈黙の後、絶叫する隊員達。

 

「ギニュー隊長が錯乱してしまったーーー!!!???」

「あ、あれ?」

 

 困惑する悟空を他所に、ますますヒートアップする隊員達。

 

「貴様のせいで!!!」

「ぐはっ!!」

 

 バータのドロップキックが炸裂し、吹っ飛ぶギニュー。起き上がろうとするが、重りでも載せられたように足が動かない。念動力による干渉だと気付いた彼がグルドの方を見ると、無数の岩石や先の尖った樹木が浮かび上がり、彼に狙いを定めていた。

 

「ジース! お前も合わせろ! クラッシャーボールだ!」

 

 いつになく殺意の高いグルドを前に、ギニューの額に汗が浮かぶ。

 

(怒ってくれるのは嬉しいが、流石にそれはシャレにならん!)

 

「止めろグルド! オレはこいつと入れ替わったギニューだ! 悪かった! ちょっとしたおふざけのつもりだったんだ!」

「ふざけるな! そんな嘘で騙されるか!」

 

 頭に血が上ったグルドの横で、その言葉を聞いたジースは、何かを思い出そうとしていた。

 

「ちょっと待てグルド。隊長が昔、何か言っていた気がするんだ……」

 

 ギニュー隊長の切り札だという、とある能力。一度聞いたきりで使う所を見た事がないので、何かの冗談だと思ってすっかり忘れていたが。

 

 その隙に、ギニューは自らの念動力でグルドの能力に干渉し、拘束を逃れる。

 

「あっ、こいつ!」

「ええい! これでもまだわからんか!」

 

 そしてそのまま、彼は片膝を突き、両腕をそれぞれ斜め下に伸ばす。間違えようも無いそのポーズを目の当たりにした特戦隊の4人に、電撃のような衝撃が走った。

 

「あ、あああ……!!!」

「なっ……何だと!?」

「そんな!? なぜあいつが!」

「あ、あれは間違いなく、ギニュー隊長のファイティングポーズ!!」

 

 両足の位置や体幹のバランス、腕の角度に至るまで全てが完璧だった。そして何より、形だけでは決して真似できるはずのない、内側から滲み出る堂々とした威風があった。そのポーズが魂に染み付いているとしか思えない、完璧な練度。そんな事のできる人間は、この宇宙でギニュー隊長以外に存在しない。

 

 気が付けば、身体が勝手に動いていた。隊長の周囲に集まり、揃ってファイティングポーズを取る4人。

 

 

「「「「「みんな揃って、ギニュー特戦隊!!!!!」」」」」

 

 

 5人の心が一つになった、完璧なポーズだった。

 

「隊長おおおお!!!」

「申し訳ありません!!!」

「いや、オレの方も悪かった!!!」

 

 ひし、と抱き合って泣く彼らに向けて、あっはっは、と明るく呑気な笑い声が響く。ギニュー隊長の姿をした悟空だった。

 

「おめえら、面白え奴らだなあ」

 

 その笑い声に揶揄するような色は無かったが、彼らは無性に恥ずかしくなってしまい、赤面しながら悟空を怒鳴り付けた。

 

「うるさい! 見せ物じゃないぞ!」

「隊長の身体で間抜け面して笑うんじゃない!」

「別に照れなくてもいいじゃねえかよ。そのポーズ凄え練習したんだろ? 結構格好良かったぞ。地球でやっても、かなり受けるんじゃねえかなあ」

「そ、そうかな……」

 

 悟空の感性はどちらかと言えば子供っぽいのだが、それだけに純粋な心からの賞賛に彼らは悪い気はせず、再度顔を赤らめるのだった。

 

 

 それからギニューは部下達に事情を説明した。ベジータ達を追い詰めた際、強大な力を持つ謎のサイヤ人が現れ、正面からでは勝てそうになく、自ら重傷を負った上で身体を入れ替えたこと。横で聞いていた悟空が頷く。

 

「こいつがいきなり自分を傷付けた時には驚えたぞ。まさか身体を入れ替えるなんて思ってなかったからな」

「いや、お前には聞いてないからな?」

 

 律儀に突っ込むバータと悟空とのやり取りに苦笑しながら、ジースが隊長に問う。

 

「隊長、どうしてこいつを殺さずに連れて来たんです? まあ、結果的には良かったですけど……」

 

 戦闘力18万以上という男の身体だったが、ギニューが使っている今、スカウターに表示される戦闘力は23000程度に過ぎない。これなら元の身体に戻った方が強いだろう。苦々しい顔で、ギニューが応える。

 

「聞いておきたい事があったのだ。こいつの身体がこうも扱いづらいとは予想外だったがな……」

 

 サイヤ人という存在は危険すぎると、ギニューは改めて感じていた。戦う度にその戦闘力を増し続けるだけでなく、自ら月を作り上げ、戦闘力を10倍に高める大猿への変身能力まで持っている。まだ子供のベジータの娘ですら、部下達が束で挑んでも返り討ちにしてのけたのだ。

 

 それでも惑星ベジータは既に滅び、生き残ったわずかなサイヤ人達もフリーザ軍の下で管理できていたが、ここにきて強大な未知のサイヤ人が現れたのだ。地球から来たという、孫悟空という男。サイヤ人らしい名前ではないから、おそらく芸名か何かで、本名は別にあるのだろう。

 

 この男は何とか無力化できたが、他にもフリーザ軍が把握していないサイヤ人がいて、密かに力をつけている可能性もある。それを思うと、少しでも情報を得ておきたかった。

 

 そこでスカウターを操作していたリクームが手を上げ、質問する。

 

「ナッツちゃ……あいつらの反応はフリーザ様の宇宙船の方に向かってますが、ドラゴンボールは大丈夫ですかね?」

「心配するな。宇宙船から離れた場所に埋めておいた。知らなければ絶対に見つけられんはずだ」

 

 

 ちょうどその頃、フリーザの宇宙船の近くで。

 

 ナッツは悟飯が取り出した液晶付きの丸い機械を、不思議そうな顔で眺めていた。

 

「何それ、時計?」

「違うよ。これはドラゴンレーダーって言って、ドラゴンボールの場所を示してくれるんだ」

「すごーい!」

 

 ぱたぱたと尻尾を振りながら、少女が感嘆する。液晶に表示された7つの反応は、宇宙船からやや離れた場所にあった。それを見たベジータが面白くなさそうな顔になる。

 

「ギニューの奴め。しっかり用心して隠してやがったな」

「早く行きましょう、父様!」

 

 嬉しそうに父親の手を引いて、娘は飛んで行った。悟飯とクリリンもその後に続く。

 

 

 そして再び、ギニュー達のいる場所で。

 

 悟空とギニューが岩に腰掛け、向かい合っていた。逃げ出したり暴れたりしないよう、悟空の周囲は特戦隊の4人が固めている。また悟空の腹部の傷は、隊長が後で戻るからと応急処置を施され、包帯が巻かれていた。

 

 そして情報を聞き出すべく、ギニューが問い掛ける。

 

「まず、貴様は何のために現れた? 目的はフリーザ様への復讐か?」

 

 問われた悟空は、ギニュー隊長の顔できょとんとした顔になった。周囲の4人が思わず吹き出しかけてしまうほど、レアな表情だった。

 

 だが今は任務中でここはシリアスな場面なのだと、各々が気持ちを引き締めたところで、悟空がさらに爆弾を投下する。

 

「そもそも、フリーザってどんな奴なんだ? オラそいつの事、よく知らねえんだけど」

「知らねえで来たのかよ!?」

「グルド、ちょっと静かにしろ」

 

 耐えきれず突っ込んでしまった部下を諌めるギニュー。確かになかなかのジョークだったが、フリーザ軍で披露するにはネタが不謹慎である上に、今は任務の最中だ。

 

 しかしとぼけているのか。フリーザ様を知らない人間なんて、いるはずがないだろうに。ましてやこいつはサイヤ人で、惑星ベジータを滅ぼしたフリーザ様には恨みがあるはずだ。

 

 だが目の前の男はどこまでも本気っぽい無知オーラを放っている。自分の身体にそんな顔ができる事を、ギニューは初めて知った。一生知りたくなかったが。

 

「貴様! フリーザ様を知らんというのか! この宇宙の支配者だぞ!」

「地球じゃ聞いた事がねえなあ。偉い人なのか? あの王様みてえに」

 

 この時悟空が想像していたのは、地球にいた喋る犬の国王だが、ギニューはまた違う意味で受け取った。

 

「ベジータ王のことか? まさか貴様、王に仕えていたエリート戦士達の生き残りか!」

 

 何か息子が辺境の惑星に送られて助けに行ったら宇宙船が故障して帰れなくなったとか、そんな感じなのか? 最終的にその子供が伝説の超サイヤ人になったりするのか?

 

 色々想像してわなわなと打ち震えるギニュー。その時、悟空がぽんと手を叩いて言った。

 

「思い出した! フリーザって、ナッツの母ちゃんを殺した奴だな!」

 

 次の瞬間、話を聞いていた4人がお通夜のような表情になった。

 

「? どうしておめえらが落ち込むんだ? フリーザって奴の仲間なんだろ?」

「色々あるんだよ……」

 

 死んだ目で呟くバータに、悟空がしみじみとした様子で言った。

 

「おめえらも大変なんだなあ」

「大変だぜ。いっつも一番厄介な星に送られるしよ」

「まあ、オレ達はエリート部隊だからな。バータ、これが終わったら休暇取れよ」

「ヤードラット攻めが終わったらな……」

 

 あいつら瞬間移動とか反則だろ……とグルドに慰められながら愚痴るバータを見て、悟空が気の毒そうな顔になった。

 

「そんなに大変なら、畑仕事くらいなら紹介してやれるぞ?」

 

 麦わら帽子を被ってクワを振っている自分達を想像し、バータが苦笑する。引退した後なら悪くないかもしれないが。

 

「いや、辞める気までは無いんだ。何だかんだで自由な職場で、戦いばかりの仕事もオレ達に合ってる」

 

 両隣のジースとリクームも、それぞれ頷いた。

 

「そうそう。大変な分、給料は物凄く良いからな」

「最新の戦闘服が支給されて、怪我してもすぐメディカルマシーンで治してもらえる職場なんて他にないぜ」

「うむ。それに手柄を挙げれば、ボーナスで星がもらえるのだ」

 

 高値で売り払うもよし、開発して収益を上げるもよしだ。ギニュー自身もそれで手に入れた環境の良い星に別荘を建てて、特戦隊の保養地として利用している。去年は海水浴にスイカ割りとバーベキューが大好評だったが、今年は何が良いだろうか。

 

「……と、話が逸れたな。次の質問だ。地球にはお前の他にもサイヤ人はいるのか?」

「オラの息子の悟飯ってのがいるぞ。ナッツの奴と同じくれえの歳で、さっきおめえらも会ったはずだ」

 

 リクームは思い出す。ベジータに止めを刺そうとしていた自分を不意打ちして、攻撃を中断させた少年の姿。確かに黒目黒髪で、尻尾こそ持ってはいなかったが。

 

「あいつ……サイヤ人だったのかよ。道理でなかなか強かったわけだ」

「だろ? 少し見ない間に凄え強くなってて、オラも驚いた」

「子供の成長は早いよなあ」

「あいつナッツちゃんを庇ってたよな。骨のある奴だ」

「仲良さそうだったよな。……まさか付き合ってたりするのか?」

 

 バータの言葉に、全員が悟空に注目して。 

 

 

「んー、そのうち結婚するんじゃねえかな」

「「「「はあああっ!?」」」」

 

 

 当の悟飯が聞いたら真っ赤な顔で否定するだろう台詞だが、目の玉が飛び出さんばかりに驚いている4人がそんな事情を知るはずもなく。次の瞬間、怨嗟の声が巻き起こった。

 

「ちくしょうおおお!!! あの時止め刺しておけばよかった!」

「ガキの癖に彼女持ちかよ! 羨しいじゃねえか!」

「待て、まだ子供だし何も無いだろうよ。それはそれとして殺そう」

「任務だから仕方ないな。超能力で苦しめて殺そう」

 

 フリーザ軍の最強部隊所属で人当たりも良い彼らは全員それなり以上にモテるのだが、それとこれとは別の話だ。可愛がっていた親戚の娘が取られたような感覚と、リア充許さねえという気持ちが合わさって気炎を上げる部下達を隊長が窘める。

 

「お前ら、そこまでだ。その子供の母親は誰だ? 他に女のサイヤ人もいるのか?」

「いや、チチは地球人だぞ」

「こいつ、自分の妻を乳扱い……?」

「いや名前だろうがよ」

 

 漫才を始めたジースとグルドを放置して、ギニューは考え込む。

 

「混血児か……それほどの強さとは、厄介かもしれんな」

 

 サイヤ人と他種族との混血は、生物学的には可能と判明していた。とはいえ過去に生まれた子供は極めて少数で、特に戦闘力が高かったというデータは残っていないが、地球人とは相性が良かったのだろうか。

 

 純血のサイヤ人がほとんど残っていない以上、何代もすれば血は薄まるだろうが、先祖帰り等で強大な戦闘力を持つ子供が生まれる可能性もある。今のうちにフリーザ様に進言して、手を打っておくべくだろうか。

 

「ところで、オラも気になってたんだけどよ。フリーザって奴はドラゴンボールで何を叶えるつもりなんだ?」

 

 悟空に質問されたギニューは考える。今はこちらが尋問している最中だが、どうもこいつはさっきから情報を隠す様子がなく、サイヤ人らしくない、純朴な性格をしていると感じていた。これが演技だとしたら大したものだが、おそらくそれは無いだろう。

 

 厳しく詰問するより、会話を続けて色々と聞き出した方が良さそうだ。フリーザ様の願いはベジータ達も知っているだろうし、答えても問題はなかろうと思った。 

 

「フリーザ様は永遠の若さと命を望んでおられる」

 

 その願いで悟空が反射的に連想したのは、ピッコロ大魔王のしわくちゃの顔だった。

 

「フリーザって年寄りなのか?」

「違う!! まだお若いが、宇宙を永遠に支配する為には必要なのだ」

「ふーん、それって楽しいのかな?」

「お前達サイヤ人も、似たような事を望んでいただろう」

「オラそういうの、よくわかんねえんだよなあ……」

 

 ピッコロやベジータみたいに強え奴がいて、チチも悟飯も、クリリン達もいて、毎日美味い飯が食えて、それでいいじゃないかと、悟空は心の底から思っていた。

 

「オラ達は仲間を生き返らせるために来て、ベジータ達にも願いがあるみてえだけど、願いは3つ叶うみたいだから、分けられねえのかな?」

「な、何だと!?」

 

(悟空よ、何を考えておる! フリーザの奴が不老不死など手に入れたら、とんでもない事になるぞ!)

(……やっぱり駄目かなあ、界王様)

(当たり前だ! フリーザは宇宙を脅かす悪なのだぞ! もう少し考えて物を言わんか!)

 

 悟空が界王と心で話している事に、ギニューは気付かない。それどころではない、とてつもない情報だった。すぐさまフリーザ様に報告しようと思ったが、寸前で思いとどまった。

 

 この男が嘘を吐いている様子は無いが、その言葉が正しいと確認したわけでもない。曖昧な報告で、万が一フリーザ様をぬか喜びさせてしまったら、自分はともかく部下達まで処罰されてしまうかもしれなかった。

 

 瀕死のベジータ達を復活させた方法についても聞きたかったが、そろそろフリーザ様も、ナメック星人から願いの叶え方を聞き出してお戻りになる頃合いだろう。ギニューは立ち上がり、部下達に号令を掛ける。

 

「尋問はここまでだ。ドラゴンボールの回収に向かうぞ」

「隊長、こいつはどうします? もう身体を戻しますか?」

「……いや、連れて行って後で戻す。ベジータ達と戦闘になるかもしれん。この扱いにくい身体でも、重傷のオレの身体よりはマシだろう」

「酷え言われようだなあ……」

 

 そこで悟空は良い作戦を思いつき、何気ない調子で言ってみた。

 

「扱い方を教えてやっから、ちょっとオラに身体を戻してみねえか? おめえらの言う戦闘力?って奴、たぶん100万くれえなら見せてやれるし、その後すぐ戻して良いから」

「それを聞いて誰が戻すか!?」

「……ちぇ。引っ掛からなかったか」

 

 本気で悔しがっている悟空を見て、特戦隊メンバーが呆れた顔になった。

 

「こいつ今ので騙せるつもりだったのかよ……」

「大物かもしれん……」

 

 そして彼らは悟空を連れて、ドラゴンボールの隠し場所へと飛び立った。 

 

 

 時間は少し遡る。

 

 ベジータ達の前に、掘り出し終えた7つのドラゴンボールが並んでいた。これでようやく願いが叶うのだと、感極まった様子でナッツが叫ぶ。

 

「さあ、ドラゴンボールよ!! 私の父様に不老不死を与えてちょうだい!!」

 

 それから数秒が経過するも、何も起こった様子は無い。

 

「あ、あれ? 父様、もう不老不死になったんでしょうか?」

 

 戸惑う娘に、父親が難しい顔で言った。

 

「ナッツ。オレ達も色々試したが駄目だった。合言葉か何かが必要らしい」

「地球のドラゴンボールには、そんなの無かったんだけどなあ」

 

 ナッツは考える。何でも願いが叶うのだから、確かに勝手に使われないよう、そのくらいの用心は必要だろう。現に今、フリーザは試練も受けずにナメック星人達を殺してボールを奪っている。

 

(フリーザの気配は、最長老の所に向かっているわね。隠れているツーノ長老達を見つけて、聞き出せればいいんだけど……)

 

 彼らの気配は感じられない。戦闘力を0にしているらしい。そう広い星でも無いし、自分があちこちで呼びかければ出てきてくれるかもしれない。

 

「父様、私、ナメック星人達を探して、願いの叶え方を教えてもらってきます」

 

 飛び立とうとする娘を、父親が呼び止める。

 

「待て、ナッツ。まずはボールを移動させるぞ。この場所はフリーザにも伝わっているはずだ」

「わかりました、父様。どこへ運びましょうか?」

「そうだな……」

 

 父親は考えながら、ボロボロの戦闘服を着た娘を見る。酷い有様だった。無数の亀裂が入ったプロテクターは胸部分が半分吹き飛んでおり、その下のアンダースーツも所々破損して素肌が見えている。年齢が年齢だから誰も気にしていないが、もっと成長していたら、色々な意味で直視できない状態になっていたはずだ。

 

 一瞬彼女の母親の姿を想像してしまい、父親は頭を振ってから言った。

 

「奴の宇宙船でいいだろう。お前とオレの戦闘服を新品に換えておきたいしな」

「父様。私は別にこのままでも……」

「良いから着替えるんだ」

 

 真剣な顔で父親は言い、それから悟飯とクリリンの方を見た。地球製の胴着。ブルマに一度着せられた服よりは流石に丈夫なようだが、フリーザと戦闘になる可能性も考えると、防御面では全く物足りなかった。奴の戦闘力の前では誤差だろうが、こいつらがあっさり死んでしまっては娘が悲しむだろう。

 

「ついでだ。お前達にも戦闘服をくれてやる。防御面では少しはマシになるだろう」

「戦闘服って、それの事だよな……」

「あんまりイメージよくないなあ……」

 

 クリリンと悟飯が難色を示す。戦闘服は彼らにとっては、地球を侵略に来た恐ろしいサイヤ人の防具だ。

 

「今だけ我慢しろ。特に悟飯。お前もサイヤ人の端くれなら、一度くらいは着ておけ」

「別にボクはそういうの……」

「良い考えです、父様!!!」

 

 悟飯が驚いてナッツの方を見ると、彼女は期待に満ちた表情で彼を見つめていた。

 

(悟飯が戦闘服を……! そんなの、絶対凄く似合うに決まってるじゃない! 完全にサイヤ人の戦士に見えるに違いないわ!)

 

 その想像はあまりに魅力的で、少女は彼の両肩を掴み、嬉しそうに顔を近づけて言った。

 

「悟飯、あなたの戦闘服は私が選んであげるわ!」

「う、うん……」

 

 赤面する少年。あんまり気が進まないとは、流石に言い出せる雰囲気ではなく。

 

(ここまで喜んでくれるのなら、一度くらい着てみるのも悪くないかな……)

 

 彼女の笑顔の眩しさに、押し切られてしまう悟飯だった。 

 

「じゃあ早く行きましょう!」

 

 ナッツはドラゴンボールを2つ両脇に抱え、さらに1つを伸ばした尻尾で器用に拾って持ち上げる。その難しさを知る少年が思わず呟いた。

 

「わ、凄い……」

「でしょう? 思いどおりに動かせるよう、たくさん練習したんだから」

 

 誇らしげに胸を張る少女の後ろで、ボールを保持したままの尻尾が左右に揺れる。それを見た父親が眉をひそめて言った。

 

「ナッツ、今は構わんが、戦闘になりそうな時は腰に巻いておくんだぞ」

「はい、父様」

 

 不意打ちにも対応できるよう、本来は常時腰に巻いておくべきなのだが、尻尾がまた生えた事が嬉しいのだとわかっていたから、父親はそれ以上強くは言わなかった。

 

 

 そしてベジータ達がフリーザの宇宙船に向かってから、しばしの時間が経過した後。

 

 その場所に到着したギニュー特戦隊と悟空が見たものは、ドラゴンボールが掘り返されたと思しき跡だった。ギニューの顔が悔恨に歪む。

 

「し、しまった……! 奴らの仕業か!」 

 

 どうしてこの場所がわかったのか気になったが、それはこの際どうでもいい。ギニューは瞬時に思考を切り替え、スカウターでベジータ達の位置を確認する。

 

「……この座標は、フリーザ様の宇宙船か。すぐに取り戻しに行くぞ!」

「し、しかし隊長。今の我々では、奴らと戦うのは危険です。せめて負傷さえしていなければ……!」

 

 ジースが悔しげに言った。スカウターに表示されたベジータ達の戦闘力は、先の戦闘のダメージが全快しているばかりか、以前よりも高くなっている。特に今のナッツが大猿になれば、戦闘力は20万を超えるだろう。ギニュー隊長も含めて万全の状態なら、作戦次第でまだ勝算はあったが、今の状態で挑むのは、命を捨てるようなものだった。

 

「確かに、正面から挑むのでは勝ち目が無いな」

 

 その事実を認めた上で、ギニューは次の一手を考える。力押しだけでは達成できない任務など、今までいくらでもあった。これしきの事で、フリーザ様の信頼を裏切るわけにはいかない。

 

「オレが単独で潜入して、ドラゴンボールを回収する。もし見つかっても、この姿なら奴らも油断するだろう。お前達は近くで待機しておけ。何かあればスカウターで連絡するが、万が一の時はオレに構わず撤退しろ」

 

 その作戦を聞いた隊員達が、色めきだって叫ぶ。

 

「そんな! 隊長! 危険です!」

「オレの落ち度だ。フリーザ様がナメック星人からボールの使い方を聞き出して戻られた時、奪われてましたでは申し訳が立たん」

 

 無論フリーザ様なら、自らの手でボールを取り戻す事は簡単だろうが、持ち場を離れてボールを奪われた自分や、その原因となった隊員達が処罰を受ける事は避けられないだろう。それどころか、奴らが先に願いを叶えるなどしてしまった場合、怒り狂ったフリーザ様にその場で全員処刑される事すらあり得る。

 

「隊長、元はと言えばオレ達のせいで……!」

「いや、最初に相手の戦力を見誤ったのはオレだ。フリーザ様にボールをお届けする前に、オレが残って確実に仕留めておくべきだった。むしろよくあの状況で、4人とも生き残ってくれたな」

「隊長ぉ……」

 

 重苦しい雰囲気の中、悟空が何気ない調子で言った。 

 

「よし。そんなに危ねえなら、オラも一緒に行くぞ。おめえにやられて子分になったフリをしてやっから」

 

 実際に悟飯達に会ったら逃げる気満々で、笑顔で主張する彼にギニューが叫ぶ。

 

「だから騙されるか!!」

「……何で騙されねえんだ?」

「そういう台詞はもう少し頭を使ってから言え!!」

「使ったんだけどなあ……」

 

 どうして気付かれたのかと、心底不思議そうに首を傾げる悟空を見て、ギニューは頭が痛くなるのを感じていた。

 

「まあ、いざとなればこの身体を人質に取る。この男はあいつらに慕われていそうだ。オレが死ねば身体は戻せんと伝えれば、すぐに殺される事は無いだろう」

 

 ベジータやその娘はともかく、息子であるという少年には特に有効だろう。それを考えると、意外とすんなりボールを取り戻せるかもしれなかった。

 

 そして宇宙船へと歩き出したギニューは、ふと振り向いて隊員達に言った。

 

「この任務が終わったら、今年の休暇は温泉旅行なんてどうだ? 良ければ予約を取るが」

 

 隊長、それ死亡フラグですと彼らは思ったが、不吉だったので口には出さない。それに実際温泉旅行は魅力的だった。

 

「温泉! 最高っすよ!」

「卓球とか美味い料理もあるんですよね!」

「オラも温泉行きてえなあ」

「お前は黙ってろ!」

「隊長! お気をつけて!」

 

 隊員達の声援を受けて、ギニュー隊長は不敵に笑う。

 

「ああ、行ってくるとしよう。何、たかがボールを7つ持ってくるだけだ。こんな簡単な任務など、ここ20年で初めてかもしれんな」

 

 そして彼は戦闘力を0に落として宇宙船へと向かい、決死の潜入作戦を開始した。




 悟空とギニュー特戦隊って、性格的に絶対相性良いと思ってまして。原作ではグルドがあっさり死んで、リクームとバータもベジータに止めを刺されていましたが、せっかくの機会ですので絡めてみた次第です。

 そしたらナッツの出番が少なくなって、主人公どっちだと書いてて思いましたが、まあたまには、こういう話があっても良いんじゃないでしょうか。

 次の話では、ギニュー隊長が悟空の身体でナッツ達と会って色々ある予定です。更新は遅れるかもしれませんが、気長にお待ちくださいませ。
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