あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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21.彼女が彼らと別れる話

「チェンジ!!」

「っ!?」

 

 ナッツは倒れた悟空の身体のギニューから放たれた光が、自分に迫っている事に気付く。

 

(これが身体を交換する能力? もしこれを食らったら、私がカカロットの身体に入るの?)

 

 意外と悪くないかも、と一瞬思ってしまう。体格も良いし、何より戦闘力がとても高い。ギニュー隊長は扱いきれていなかったようだけど、時間を掛ければ何とかなるかもしれない。 

 

 けどそれだと、悟飯の父親がギニューの身体に入ったままになってしまう。それに父様も、私の外見が変わってしまうのは嫌だろうと、少女は思い直して叫ぶ。

 

「悪いけど、私の身体を渡すわけにはいかないわ!」

 

 迫りくる光に向けて、赤いエネルギー波を撃ち放つ。それはあっさり光をすり抜け、地上のギニューに直撃した。

 

「がはっ!?」

「ええっ!? カ、カカロット!?」

 

 予想外の現象に驚き、そして瀕死のカカロットの身体に止めを刺してしまったかと、思わず硬直するナッツに向けて光が迫る。

 

 それから短い間に、いくつもの出来事が同時に起こった。

 

 

 

「オ、オラの身体がーー!!!!!」

「隊長ーーー!!!!」

 

 身体を取り戻しに来た悟空と、ギニューを助けるべく急行していた隊員達とが、その光景に絶叫する。

 

「ギニュー隊長! ……良かったまだ生きてる!」

「あれが身体を入れ替える技か!」

「……狙われてるのナッツちゃんじゃね?」

「つまりナッツちゃんの身体に隊長が……?」

 

 それって犯罪なのでは……? と彼らは思ってしまう。確かにあの子の身体なら、ベジータ達も手が出せないだろう。今の状況を打開するには、それしか無いのはわかっているが。

 

「そういえば隊長、この後皆で温泉旅行に行くとか言ってたよな。つまり……」

 

 

 バータの言葉に、彼らは温泉で思い思いに寛ぐ自分達の姿を想像する。そこへ少女の声が響く。

 

(ようお前ら、遅くなってすまんな!)

(あ、隊長……?)

 

 そして彼らの前に現れたのは、肩にタオルを掛けた良い笑顔で全裸のナッツだった。前を隠さず堂々とエントリーする姿に、彼らは一様に股間を隠して悲鳴を上げる。

 

(いやああああ!!!!)

(男の人呼んでーーー!!!!!)

 

 

「や、やはりアウトなのでは……?」

 

 恐ろしい未来予想図に青ざめる隊員達。その隙をついて、ギニューの身体の悟空が飛び出した。

 

「悪い、ちょっと元の身体に戻ってくる!」

「あ、こら!」

 

 気を取り直した隊員達がその後を追う。とはいえ、悟空も彼らも負傷しており、到底間に合う速度では無い。

 

 

 

 足元で跳ねるカエルを見ながら、悟飯は葛藤していた。

 

「こ、このままだと、ナッツがお父さんの身体に……!」

 

 少年はそんな未来を、反射的に想像してしまう。

 

(ねえ悟飯。今日は約束してた、遊園地に行く日よ。この服どうかしら? 戦闘服はマナー違反だからって、ブルマが選んでくれたんだけど)

 

 精いっぱいにお洒落をしたナッツの服装は、とても可愛らしいものだったが、その身体と声は、彼の父親のものだった。想像の中で、悟飯は震えながら血の涙を流していた。

 

 絶望の未来を予感し、死んだ目になった少年の足元を、カエルが横切っていく。あれが身体を入れ替える技なら、このカエルを投げれば妨害できると直感してはいたのだが。

 

(けど、それをやったら、お父さんの身体にカエルが……!)

 

 そしてカエルに入ったギニューは、身体の入れ替えなどできなくなる可能性が高い。どちらを選んでも最悪の選択を前に、悟飯は動けず震えていた。

 

 

 その時、横合いから伸びた手が、躊躇せずカエルを掴み取った。

 

「ギニューの野郎、よくもこのオレを騙してくれやがったな……!!」

「ベジータさん!?」

 

 戦闘の気配を察知して駆けつけた父親は、周囲の状況から、おおよその事情を理解していた。

 

 娘の身体を奪われる。父親はそんな未来を、反射的に想像してしまう。

 

(と、父様、私、トイレに行きたいんですけど、どうすれば……)

 

 最愛の娘がカカロットの身体でもじもじしながら、恥ずかしそうに語りかけてくる光景。その横では娘の身体に入ったギニューが服に手を掛け、下品た笑みを浮かべている。

 

(くっくっく、ベジータ、貴様の娘はなかなかの上玉だな……)

 

 当のギニューが知ったら名誉棄損だと訴えそうな光景だが、娘の危機に頭に血の上った父親にとって、それは限りなく現実に近いものだった。そしてそんな事態になれば、自分は発狂死するという確信があった。

 

 カエルを掴んだ手を大きく振りかぶりながら、父親は叫ぶ。

 

「ギニュー!! てめえには!!」

 

 横目で少年を見る。フリーザと戦う上でカカロットの戦闘力は惜しいが、娘とどちらを優先すべきかは、火を見るより明らかだった。絶望の未来を回避すべく、父親は決断する。

 

(カカロット、貴様の犠牲は無駄にはしない!)

 

「こいつがお似合いだーー!!!!」

 

 娘へと迫る光の先端へ向けて、父親は渾身の力でカエルを放り投げた。

 

 

 

 放り投げられたカエルを見て、悟空と隊員達が目を剥いた。

 

「ちょっ!? ベジータ!?」

「何いいいい!?」

 

 隊長を助けなければ。彼らは目線を合わせ、即座に動き出す。

 

「「「うおおおお!!!!」」」

 

 リクーム、バータ、ジースの3人が、全力で悟空へ追いつき、力を合わせてその身体を前へと蹴り飛ばした。

 

「さっさと行きやがれーーー!!!」

「サ、サンキュー!?」

 

 勢いで悟空の身体は急加速し、彼自身も力を振り絞って飛ぶも、割り込むにはまだ一歩足りない。カエルとギニューが入れ替わるまであと1秒未満。この場に居るのがたとえフリーザであろうと、間に合わない時間。

 

 

「止まれーーーー!!!!!!」

 

 

 グルドの絶叫と共に、時間が停止する。彼はそのまま加速し、勢いのまま、停止した悟空に激突した。グルドは激しく消耗しながらも、時の止まった隊長の身体を前へと押し出していく。

 

 そしてその身体が空中のカエルを弾き飛ばした瞬間、彼の体力は限界を迎え、時間が動きだす。光が、ギニュー隊長の身体を直撃した。辺りが一瞬、閃光に包まれる。

 

 

 

「ど、どうなったの……?」

 

 光が収まった後、ナッツは自分の身体に異常がない事を確認して呟いた。その時、急上昇してきた父親が、娘を見て叫ぶ。

 

「ナッツ! 無事か! ……中身はギニュー隊長じゃないよな!?」

「は、はい、父様。私はナッツです」

「良かった……!」

 

 感極まった父親に抱き締められ、その温かさと、自分を心配してくれた事に、少女は嬉しくなってしまう。

 

「もう、父様ったら……」

 

 父親を抱き締め返した娘の目に、ギニューの周囲に隊員達が集い、気遣わしげに声を掛けているのが見えた。

 

「隊長! 大丈夫ですか!」

「ああ、お前達のおかげでな……危うくカエルにされてしまう所だった……」

 

(あれはギニュー隊長本人ね。という事は、カカロットは……) 

 

 少女は倒れた父親の様子を確認している悟飯を見た。視線の先で、少年が嬉しそうに叫ぶ。

 

「お、お父さんだ! 元のお父さんに戻ってる!」

「良かったわね、悟飯!」

「うん! 凄く怪我してるけど……」

「ご、ごめんなさい……色々あって、手加減できなくて……」

 

 気まずそうに謝るナッツに、悟空は痛みを堪えながら笑顔を見せた。

 

「謝る事はねえよ。油断して身体を奪われちまったオラが悪いし、ドラゴンボールを守るためだったんだろ? こうして元に戻れたんだから、オラは全然構わねえさ」

「カカロット……」

「そうだぞナッツ。油断しやがったカカロットが悪い」

 

 口を挟んだ父親に、悟空はむっとした様子で言った。

 

「じゃあベジータおめえ、ギニューがいきなり目の前で自分の身体を傷付けて光ったと思ったら身体が取られてたとか、知らずに防げるのかよ?」

「……少なくともオレはもう取られん」

「知らなかったら無理なんだよな?」

 

 痛い所を突かれたベジータは、ぐぬぬと拳を震わせて叫ぶ。

 

「うるさいぞカカロット! 治療してやらんぞ!」

「さっきナッツの分も仙豆やっただろ!」

「ぐっ……!」

 

 言葉に詰まる父親から、娘が身体を離し、静かな声で告げる。 

 

「父様、カカロットの事をお願いします」

「……お前はどうする?」

「私にはまだ、やる事がありますから」

 

 父親が娘の視線を追うと、こちらを見上げているギニュー特戦隊の姿があった。全員負傷しており、厄介なグルドも疲労困憊している。ナッツが大猿になれる事も考えれば、万が一にも危険は無いだろうが、それでも娘の事は心配だった。

 

「お前の好きなようにしろ。ただオレもこの場で見させてもらう。それほど長くは掛からないだろう?」

「はい、父様。ありがとうございます」

 

 そして二人は地上に降り立ち、瀕死の悟空の傍に立ったベジータが腕を組んで、娘の姿を見守り始める。重症の父親を見かねた悟飯が声を掛ける。

 

「お、お父さん、大丈夫? やっぱりベジータさんに頼んで、すぐ治療した方が……」

「いや、悟飯。後で構わねえ。オラはまだ大丈夫だ」

「ど、どうして……?」

 

 倒れたまま痛みを堪え、戸惑う悟飯の頭を撫でながら、悟空はギニュー特戦隊の方を見た。 

 

「あいつらとは、ちょっと色々あってな。見ておきてえんだ。あ、クリリン、おめえはドラゴンボールを頼む」

「わ、わかった……」

 

 ギニューが持ち出し、岩陰に落ちていたドラゴンボール。ナッツと睨み合う特戦隊の方を警戒しながら、クリリンが回収を始めた。

 

 

 そして少女はギニュー特戦隊に、悲しそうな目を向けていた。サイヤ人の戦士としては、自分でもどうかと思う感情だけど、昔の自分に優しくしてくれたおじさん達も、彼らが慕うギニュー隊長も、できるならば、殺したくはなかった。

 

「……あなた達、もう引くつもりはないの? その状態で戦ったら、今度こそ本当に死ぬわよ」

「生憎だが、そういうわけにはいかんな……!」

 

 腹部を大きく負傷したギニュー隊長が、前に進み出る。確かに任務の達成はほぼ不可能だが、ここでむざむざ引いた場合、ナッツに敗北してボールを奪われる原因を作った部下達が処罰される可能性があった。それに大恩あるフリーザ様からの信頼を、裏切るわけにはいかなかった。

 

 ギニュー隊長の戦闘力は明らかに下がっているのに、むしろ先程よりも強くなっていると、ナッツは感じていた。心と身体が一体となったその佇まいには一部の隙もなく、殺さない限り、止められないように思えた。

 

「どうしてよ! フリーザなんかの為に、死ぬ事はないじゃない!」

 

 少女の悲痛な叫びに、ギニューはゆっくりと両手を広げていく。そして両足を広げ、開いたつま先で立つ。そのポーズは彼自身も驚くほどの、会心の出来栄えだった。

 

「こ、これは……!?」

 

 あまりの威圧感に押され、ナッツが思わず後ずさりそうになってしまう。彼女が過去に見た時よりも、日々の研鑽と決死の覚悟によって、そのポーズは遥か高みに達していた。

 

「す、凄え……!!」

「ギニュー隊長……!!!」

 

 部下達が瞠目し、思わず涙する。銀河最高クラスのスペシャルファイティングポーズを見せつけながら、ギニュー隊長が高らかに宣言する。

 

 

「オレは特戦隊隊長、ギニュー!! フリーザ様は我々を親子二代で厚遇して下さったし、オレ達が好きな時に好きな場所でポーズを取ることも許して下さったのだ! その恩に報いる為にも、引くわけにはいかん!!」

 

 

「そんな理由で……っ!!」

 

 台詞はともかく、ギニュー隊長のポーズの凄まじさに、その価値を知る少女は完全に呑まれ、気圧されてしまっていた。

 

 

 

 そして傍から見ていたクリリンには、その素晴らしさが全く理解できなかった。

 

「……あ、あいつら一体、何と戦ってるんだ?」

 

 倒れた悟空が目を丸くして感嘆し、その横でベジータが、苦々しい顔をしている。

 

「おお……何か凄いぞあれ!!」

「……奴らのあのセンスだけは、昔から理解できん」

 

 そしてギニュー隊長のポーズを見つめる悟飯の目には、子供らしい憧れの色が宿っていた。

 

「な、なんだろう……少し、格好良いような……!!」

 

 そしてその両手が頭に伸び、ポーズらしきものを取ろうとしているのを見たクリリンが慌てて止める。

 

「悟飯! 考え直せ! そっちに行っちゃ駄目だ! 学者さんになるんだろう!?」

「そ、そうですよね、クリリンさん……」

 

 学者さんはポーズを決めて叫んだりしない。名残惜しいと思いつつも、少年は己の知る常識に従い、脳裏に浮かんだポーズを封印した。

 

 後にグレートサイヤマン1号のポーズと呼ばれる事になるそれが、10年以上先の地球で悪人相手に披露される事に、この場の誰もまだ気付いていなかった。

 

 

 

「……そう。引く気は無いってわけね」

 

 ナッツの顔が、引き締まった戦士のものとなる。相手がやる気である以上、戦わなければ失礼だ。それにこうしている間にも、フリーザがこの場に来てしまうかもしれない。早めに決着をつける必要があった。

 

 そして戦いの前に、ギニュー隊長が見せた素晴らしいポーズに対し、こちらも返礼する必要があった。それを怠れば、たとえ戦闘力で上回っていようとも、気持ちの上で負けてしまうと少女は感じていた。

 

 ゆっくりと胸に手を当て、王族に相応しい高貴なポーズを取る。手足の角度も意識して、言われたとおりに、ビシっと気合いを入れる。今までで最高の出来栄えだと、確信できた。凛とした声で名乗りを上げる。

 

「私の名前はナッツ!! サイヤ人の王子、ベジータ父様の娘よ!!」

 

 

 そのポーズを見たギニューは、脳と心臓を同時に吹き飛ばされたような衝撃に襲われていた。

 

「なああああっ……!?」

 

 腕や足、顔の角度、指先や目線に至るまで、全てが美しく、洗練されていた。それだけではない。王族としての高貴さと戦闘民族の力強さ、それに加えて成長途中の少女の可憐さまでもが、輝きとなって彼女の内面から溢れ出すようだった。たとえギニューが形だけ真似しても、これを再現する事は不可能だろう。それはまさしく、彼女のためのポーズだった。

 

 彼女自身の練度は、自分はおろか、ジース達と比べても遥かに劣る。それは問題ではない。恐るべきは、十にも満たぬ子供の時点でこの域に達しているという事だ。これからさらに研鑽を積めば、どれほどの実力となる事か。

 

(この娘、天才か……!!!)

 

 ギニューは生まれて初めて、自分以上の才能を見た。内心の動揺が、完璧なポーズに、一瞬の隙を作ってしまう。そして戦闘民族の少女は、それを見逃さなかった。

 

 飛び出したナッツの身体が、空中で反転し、瞬く間にギニューの背後を取る。反応した彼が振り向き渾身の一撃を叩き込むも、少女の姿はかき消え、彼の頭上に出現した。驚愕するギニューに、薄氷の勝利を掴み取ったナッツが叫ぶ。

 

「私の勝ちよ!! ギニュー隊長!!」

「お、おのれえええ!!!!」

 

 そしてナッツは彼の首筋を蹴り飛ばし、その意識を刈り取った。フリーザ軍最強の男が、ゆっくりと地面に倒れていく。

 

 

「ギニュー隊長おおお!!!」

 

 最後まで戦った隊長の身体に、隊員達が縋り付く。彼らに向けて、少女が呟いた。

 

「……あなた達も、まだやるのかしら?」

 

 ジースはしばし葛藤した後、首を振って、静かな口調で言った。 

 

「隊長もオレ達も、これ以上は戦えない。一旦撤退すべきだろうな」

「……大丈夫なの?」

 

 後でフリーザに処罰されるのではないか。少女の心配に、リクームが笑って応えた。

 

「何、ここで無理してギニュー隊長が死ぬ方が、フリーザ軍にとっては痛手だもんな」

 

 面白くなさそうな顔で、グルドが続ける。

 

「調子に乗るなよ。怪我を治したら、またすぐに戻って来てやるからな」

 

 そしてバータが、何かを覚悟したように言った。

 

「隊長が指示できる状態じゃないから、オレ達が勝手に撤退したって事で、フリーザ様には後でオレ達の首でも何でも差し出して、わかってもらうさ」

「そんな……!」

 

 震えるナッツ。重くなり掛けた雰囲気の中、悟飯に支えられた悟空が、心配そうな声で言った。

 

「おめえら、クビにされたらオラの所に来いよ。畑仕事はしてもらうけど、飯くらいは食わせてやっからさ」

 

 微妙に事態を理解していない発言に、バータが目を丸くし、そしてツボに入ったのか、大きな声で笑い出した。

 

「は、ははっ! お前良い奴だな! まあ、その時はよろしく頼む」

「おう。いつでも待ってるぞ」

 

 

 戦いを見ていた父親は、娘がギニュー隊長を倒した事を内心喜びながらも、その決着の不可解さに、どうにも釈然としない気持ちを抱えていた。彼に理解できたのは、自分の娘が宇宙一可愛いという事だけだ。

 

「……さっきのあれは、ギニューの奴が驚くほど凄かったのか? くそっ、スカウターがあれば保存しておけたものを!!」

 

 悔しがる父親に、気絶した隊長を抱えたジースが声を掛ける。

 

「ベジータ、さっきの映像、後でお前のポッドに送っておくから。ナッツちゃんが成長した時にでも見せてやれよ」

「な、何っ!?」

 

 父親の顔が一瞬綻び、そして一転、怫然とした表情となる。

 

「……礼は言わんぞ」

「お前のためじゃないさ。きっとナッツちゃんも喜ぶだろうからな」

 

 後ろ姿で手を振り、ジースが歩み去っていく。数年後、この時の映像を見せられた少女が真っ赤になって絶叫する事になるのだが、それはまた別の話だ。

 

 

 ナッツに見送られ、彼らは飛び立とうとしていた。彼らは敵同士であるため、当然言葉は無い。

 

 そんな中、彼らは名残惜しそうにこちらを見ている悟飯に気付いた。

 

「ん? どうした少年?」

「あ、あの……」

 

 悟飯は恥ずかしそうにしながらも、やがて意を決して言った。

 

「その、さっきのその人のポーズが、凄いって思って。また見てみたいなって……」

「ほう……!」

 

 敬愛する隊長を賞賛され、彼らの顔が綻んだ。そしてフリーザ軍のイメージ向上の為、ファンサービスも彼らの業務の一つだ。

 

「生憎、隊長は見てのとおりでな。その代わり、あのスペシャルファイティングポーズには、到底及ばねえが……」

 

 しゃがんで悟飯と話していたリクームが、気合いと共に、自慢のポーズを披露する。

 

「ギニュー特戦隊!! リクーム!! とうっ!!」

「す、凄い……!」

「いや待て少年……オレの方が凄いぞ」

「オレだって!」

 

 目を輝かせる少年に向けて、競うように次々とポーズを披露する隊員達。ナッツも昔を思い出しながら、懐かしそうにそれを見ていた。 

 

 そしてひとしきりポーズを見終わった後、興奮した様子の悟飯が、礼儀正しく頭を下げる。

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

 そんな少年に、バータは真面目な顔で言った。

 

「礼はいいんだ。それより、教えて欲しい事があってな」

「な、何ですか?」

「お前もしかして、ナッツちゃんの彼氏?」

「ち、違います!?」

 

 赤くなりながら否定するその様子で、気があると判断した彼らは、面白そうに笑いながら、少年の肩に手を回す。

 

「どこまで行ったんだ? お兄さん達に教えてくれよ」

「ひ、膝枕?」

 

 次の瞬間、4人が阿修羅のような顔になった。

 

「よし殺す!!」

「羨ましいじゃねえか!!」

「ええっ!?」

 

 フリーザ軍の最強部隊である彼らは全員結構モテるのだが、それとこれとは別の話だ。てめえその歳で青春しやがってと、詰め寄る彼らと悟飯の間に、ナッツが手を広げて割り込み叫ぶ。

 

「ちょっと! おじさん達! 悟飯に何してるのよ!」

「……おじさん達?」

「あっ」

 

 反射的に出た昔の呼び方に、ナッツが口を押さえるも、もう遅い。にやにやしながら、4人が近づく。

 

「今、何て言った? おじさん達、最近歳のせいか、耳が遠くてさ」

「もう1回言ってくれないかなあー?」

 

 真っ赤になった少女がぶんぶんと腕を振り回し、解かれた尻尾の毛を逆立てながら、威嚇するように叫ぶ。

 

「うるさい!! あなた達!! さっきの続きをしてもいいのよ!!」

「ナッツちゃん怖え!!」

 

 彼らは笑いながら隊長を回収し、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 

「覚えてなさい! 次に会ったら殺すから!」

「おうよ! また会ったらな!」

 

 彼らは揃ってポーズを決め、笑顔で飛び立って行った。その背中を眺めて、ナッツが呟く。

 

「……まったくもう、フリーザ軍の最強部隊の癖に、ふざけてばっかりなんだから」

「けど、良い人達だったよね」

 

 悟飯の言葉に、少女はとても嬉しそうに微笑んだ。

 

「ええ。とっても良い人達よ」

 

 そうでない彼らの一面も、彼女は身を持って知っていたけれど、それでもナッツの中で、彼らは皆、面白くて優しいおじさん達だった。

 

 

 小さくなっていく彼らを見送る二人に、父親が声を掛ける。

 

「ナッツ、悟飯。クリリンがナメック星人を連れてきた。願いを叶えるから早く来い」

「! わかりました! 父様!」

 

 もしかしたら、母様が生き返るかもしれない。期待を胸に駆けだそうとした少女が、ふと立ち止まって少年を見る。

 

「ところで悟飯。彼氏ってどういう意味?」

「今それを言うの!?」

 

 ナッツの後ろで、父親がぼきぼきと指を鳴らしている。答えられるはずもなく、顔を赤くして宇宙船の方へ逃げ出す悟飯を、少女が追いかける。

 

「ねえ、待ってったら!」

 

 本気で意味がわからない、といった様子の娘を見ながら、父親は複雑な思いでため息をついた。




【ナッツが考えたポーズは専門家の目から見ると凄い】
 
 第1話の過去編に張っておいた伏線をようやく回収できました。エタらないと決めていたとはいえ、この話を書く日が来るとは感無量なのです。気付けばギニュー特戦隊の話で10話以上使ってるのですが、彼らの話はじっくりやりたかったので書き終えられて満足しております。

 彼らのその後につきましては、最終回後のエピローグで描写する予定です。暗い話にはなりませんのでご安心下さい。

 話数的にはメインのフリーザ戦の方がおそらく少なくなってしまうのですが、あっちはあっちで密度と温度高めに書くつもりですので、気長にお待ち下さいませ。


 それと前回ランキングに載った際、たくさんのお気に入りをありがとうございます。読んで下さる方が大勢いるのはアクセス数でわかるんですが、反応が無いと「もしかして最近つまらないんじゃないのかなあ……」ってなってしまいますので、たまにこういうのがあると凄く嬉しいです。
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