あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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23.彼女が仇と向き合う話

 自分を倒すというベジータの発言に、フリーザは可笑しそうに笑った。

 

「ふふっ、野蛮なサイヤ人にしては、なかなか気の利いたジョークですね……いやはや、あなた達親子には、さんざん楽しませてもらいましたよ」

 

「……何だと?」

「楽しんでいたですって……?」

 

 疑問の声を上げる父親と娘を見下しながら、フリーザは心底楽しそうに叫ぶ。

 

「そうですとも! あの女が死んだ後、残されたサル2匹がゴミのような戦闘力をいじましく高めていく様は本当に面白かった! どれほど強くなろうと、下等生物のサイヤ人ごときがこの私に勝てるはずがないというのに!」

 

「あ、あいつ……!」

「何て奴だ……!」

 

 その発言の非道さに、悟飯とクリリンが顔を強張らせる。

 

 そしてナッツは言い返そうとしたが、怒りのあまり、声すら出なかった。照りつける太陽の下で、少女は雨の音と寒さを感じていた。母親を失ったあの日のどうしようもない苦しみの元凶が、彼女の眼前で高笑いを上げていた。

 

 解けた尻尾の毛が逆立ち、少女の内面を反映して、狂った蛇のように蠢く。子供とは思えぬほどの殺意に満ちた昏い瞳が、憎んでもなお飽き足らぬ仇を睨み付ける。ぎりりと食いしばった歯の隙間から、獣のような唸り声が漏れる。

 

 ナッツは乱れた呼吸を強引に整え、血を吐くような声で、3年前に誓った言葉を叩き付ける。

 

「殺してやるわ、フリーザ……!!」

 

 満月をイメージして、力を集中する。今の私には尻尾がある。大猿に変身して、叩き潰して、踏み潰して、グシャグシャにして、バラバラに食い千切ってやる。母様の受けた苦しみを、何百倍にもして味あわせてやる。

 

 その様を想像し、残酷に顔を歪ませる少女の上向けた掌を、父親が押さえつけた。

 

「ナッツ、落ち着け。今変身すれば、奴の思う壺だ」

「何故ですか!? 父様!?」

 

 怒りを隠さず食って掛かる娘に、父親は静かな声で告げる。 

 

「相手の力を見誤るなと教えたはずだ。今のお前が大猿になっても奴には勝てん」 

 

 それは娘を案ずる父親が、特に大事だと教えていた事だった。勝てない相手に無策で正面から挑むほど、愚かな事は無いと教わったことを思い出し、少女はわずかに、冷静さを取り戻す。

 

「で、でも父様……今は少しでも、戦闘力を高めた方が……」

 

 フリーザには敵わないとはいえ、変身すれば戦闘力が10倍になるのだ。人間の姿のままでいるよりは、遥かにマシではないのか。疑問に思う娘に、父親が説明する。

 

「確かに大猿は強力だが、巨大化すれば攻撃を避けるのも、隠れる事も難しくなる。真っ先に狙われて殺されるぞ」

「あっ……」

 

 ナッツは特戦隊との戦闘を思い出す。戦闘力で上回った状態でも、攻撃を避けられずダメージが蓄積していき、敗北寸前まで追い込まれてしまった。変身すれば生命力も耐久力も格段に上昇するとはいえ、それでもフリーザの戦闘力を相手にどこまで保つか。

 

「それに大猿の攻撃は破壊の規模が大き過ぎる。一緒に戦うオレ達を巻き込む事を警戒して、思うように動けなくなるだろう。オレにも尻尾があれば良かったんだがな」

「父様、そんな……」

 

 巨体を活かした広範囲への攻撃は大猿の強みの一つだが、それは人間サイズの味方との共闘を困難にしていた。攻撃に巻き込むどころか、うっかり踏んだり身体をぶつけただけでも致命傷になりかねないのだ。当然、全力など出せるはずがなく、下手をすれば付け入る隙を与えるだけになってしまうだろう。

 

 彼女の父親やギニュー特戦隊レベルの戦闘経験があれば、大猿化しても味方を巻き込まずに戦えるかもしれなかったが、今のナッツはその域にはない。だからといって一人で戦った場合、戦闘力の差で殺される事は明白だ。

 

(けど、それじゃあ一体どうすれば……!)

 

 苦悩する娘の頭を、父親が優しく撫でた。

 

「心配するな。お前は一人じゃない。全員で戦うぞ。オレが前に出るから、お前達は援護しろ」

「はい、父様!」

 

 それだけで、少女の表情が明るくなった。状況が絶望的なのはわかっていたけれど、父様がいれば、何とかなるような気がした。

 

 深い愛情と信頼を込めた瞳で、父親を見つめるナッツ。その様子を見て、フリーザが忌々しげな表情になった。

 

「なるほど。あなた達がギニュー隊長をどう倒したのか不思議でしたが……そこの娘が、醜いサルになったというわけですね」

「……そういうお前は、冷たい血のトカゲみたいよ」

 

 苛立ちを隠せない声で、ナッツが言い返す。変身した自分の容姿について、少女は特に気にしてはいなかったが、その声に含まれた侮蔑の響きが、彼女の神経を逆撫でしていた。悟飯の怯えた顔が一瞬思い浮かんで、さらに腹立たしくなったが、理由はわからなかった。

 

 ちなみにこの時点でジース達はナメック星を離れていたが、フリーザへの報告はまだ行っていなかった。報告すればすぐさま戻って戦えと命令される可能性があったため、せめてギニュー隊長の治療を済ませてから、と考えていたのだ。その責任は、当然彼ら自身で負うつもりでいる。

 

「しかしベジータさん、大丈夫なのですか? 正直尻尾を無くした今のあなたよりも、娘さんの方が強いでしょう?」

「何ですって……!」

 

 父親を馬鹿にされた事に怒る娘を、ベジータが手で制した。

 

「フリーザ、いつまでも昔のオレだと思うなよ……!!」

 

 ベジータは戦闘力を瞬時に跳ね上げ、全身からオーラを噴出させながらフリーザに挑みかかる。

 

「っ……!?」

 

 余裕の表情を見せていたフリーザが、予想外の速度で迫るベジータに一瞬驚愕し、とっさにその拳をガードして、強烈な威力に二度驚く。

 

「この、ベジータごときが!」

 

 反撃の拳をベジータは身を沈めて回避し、そのまま激しい肉弾戦が始まった。クリリン達の目に追いきれぬ速度で瞬く間に数十発もの拳や蹴りが応酬され、その一撃一撃が込められた威力で大気を震わせる。凄まじい戦闘力を持つフリーザに対し、ベジータは完全に互角に戦えていた。

 

「す、すげえ……!」

「ベジータさん、いつの間にあんな強さを!」

「父様、凄いです……!」

 

 悟飯達と共に、ナッツは尊敬の眼差しで、父親の勇姿を見つめていた。

 

(やっぱり父様はサイヤ人の頂点よ! カカロットがちょっとくらい上に行ったからって、すぐに追いついてみせるんだから!)

 

 娘の声に後押しされるかのように、父親の猛攻は勢いを増していく。父親が両の拳で繰り出すラッシュをフリーザが受け止め、そのまま力比べの様相となる。

 

「はああああ!!!!!」

「ぬうううう!!!!!」

 

 気合いの声と共に両者の戦闘力は更に上昇していき、50万を超えた時点でフリーザの最新式スカウターが耐えきれず爆発した。

 

 それをきっかけに、警戒したようにフリーザが手を放し、大きく飛び離れた。驚愕と疲労で息をつきながら、怒りに顔を歪ませる。

 

「たかがサイヤ人が、今のオレと互角だと……!!」

「戦闘民族を舐めるなよ、フリーザ。オレ達サイヤ人は、戦うごとにどこまでも強くなれる。そしてオレと娘は今日この日まで最前線で戦い続けてきたんだ。ろくに戦わずぬくぬくとサボっていた貴様と違ってな」

 

 話しながら、ベジータは自分でも、自らの力に驚いていた。サイヤ人は戦うたびに、また死の淵から蘇るたびに力を増すが、リクームとの戦いで死に掛けた時の自分の戦闘力は、せいぜい3万程度だったはずだ。死力を尽くした戦いだったとはいえ、一度に10倍以上のパワーアップを果たすなど、普通なら考えられない。

 

(きっかけはおそらく……カカロットだろうな)

 

 最強のサイヤ人として鍛え続け、父親である王を超えたと自負する自分ですら、一月前は18000程度の戦闘力しかなく。サイヤ人の戦闘力は、このくらいが限界だと見なされており、ギニュー特戦隊やフリーザといった面々と比べると、大猿への変身を抜きにした素の戦闘力では、どうしても劣ってしまうと感じていた。 

 

 そんな自分にとって、戦闘力12万を誇るギニュー隊長の攻撃を、あっさり止めて見せたカカロットの姿は衝撃的だった。しかもさらに底知れぬパワーを隠していると、一目見て直感的に理解できた。サイヤ人は、あそこまで強くなれるものかと思った瞬間、自分の中で、枷が外れるような感覚があった。

 

 ベジータ自身は気付いていなかったが、それは彼が今まで鍛え続け、そして思い込みから発揮できていなかった、潜在能力の覚醒とも呼べるものだった。

 

(感謝するぞカカロット。下級戦士である貴様が、このオレにサイヤ人の強さを教えてくれるとはな!!)

 

 サイヤ人の王子の顔に、獰猛な笑みが浮かぶ。思えばあいつは地球でも、オレの戦闘力を超えて見せていた。今までのオレに足りなかったものは、あいつのような、競うべきライバルなのかもしれない。

 

 一方、フリーザは怒りに身を震わせていたが、すぐに冷静さを取り戻し、不気味なほど、にこやかに微笑んだ。

 

「驚きましたよ。短い間にずいぶんと腕を上げたものですね、ベジータさん。これはもしかすると、私も危ないかもしれません」

「ちっ、余裕ぶりやがって。知っているぞ。まだ変身があるんだろうが」

 

 吐き捨てるように言ったベジータに、フリーザは意外そうな表情になる。

 

「おや? どこでそれを知ったんです?」

「ザーボンが言ってたのよ。お前も変身型の宇宙人だって」

 

 ナッツの言葉に、フリーザはため息をつき、ゆっくりと首を振った。

 

「ザーボンさん、人の秘密を喋るとは、困ったものですね。前触れなく変身して、あまりのパワーに絶望するあなた達の顔を見たいと思っていたのに」

 

 その気持ちがわかってしまった事が、少女は腹立たしかった。星を攻める際、大猿に変身した自分の姿に、ゴミのような人間達が怯える姿を見るのが、彼女は好きだった。

 

 弱者を顧みないという点で、自分達サイヤ人とフリーザが同じである事を、認めたくなかった。こんな奴は、一刻も早く死ぬべきだと思った。

 

(今、父様に尻尾があれば、間違いなく殺せているのに……!)

 

 腰に巻かれた尻尾の先端が、少女の苦悩を反映して、迷うように揺れる。私なんかに生えていても仕方ないのに。渡せるものなら、今この瞬間、自分の尻尾を切っても、悔いはないというのに。

 

「まあ、知っていても絶望的な事には変わりませんがね。光栄に思いなさい、見せてあげましょう、私の変身を!」

 

 フリーザが全身に力を込めると、身に纏っていた戦闘服が、バラバラになって弾け飛んだ。その光景に、ナッツとベジータが驚愕する。

 

(大猿になっても破れない戦闘服を、内側から粉々に!?)

 

 戦闘服は頑丈だが、壊す事自体は、ある程度の力があればできる。だが今フリーザは、戦闘服に手も触れず、ただ全身から発散されるパワーのみで砕いてのけたのだ。

 

 クリリン達も驚いているが、戦闘服の強度を知るナッツ達の驚きは一層大きかった。彼らの顔を見て、フリーザは満足そうに笑い、そして変身を開始する。

 

「はああああ!!!!!」

「くっ……!」

 

 叫び声を上げると同時に、急激に高まり始めたフリーザの気が大気を動かし、暴風となって吹き付ける。思わず顔を庇うナッツ達の前で、その肉体が、内側から大きく膨れ上がっていく。

 

「があああ!!! ぐっ、ああああああ!!!!!」

 

 上半身、両腕、そして下半身の順に、身体の部位が倍以上にサイズを増すと共に、戦闘力も飛躍的に高まっていく。頭の両脇に生えていた角の向きが変化し、ゆっくりと上向きに伸びていく。

 

「はあっ、はあっ、はあっ……」

 

 急激な変貌の反動か、片膝をつき、大きく息をついていたフリーザが立ち上がる。変身前はベジータと同程度の、戦士としては小柄だったその体躯は、今や3メートル以上の巨人と化していた。

 

 そしてその戦闘力を感じ取った少女は、自分の感覚が、おかしくなったのではないかと思った。

 

「ひゃ、100万以上だなんて……! 有り得るの!? こんな戦闘力が!?」

「くっくっく、こうなってしまったら、前ほど優しくはないぞ。何せパワーが有り余っているんでな……」

 

 フリーザはすっ、と片手を上げる。危険を察知したベジータが叫ぶ。

 

「避けろーーー!!!!」

 

 直後、彼らの周囲、直径200メートルほどの範囲が爆発した。

 

 

 

 

 爆発が収まった時、その範囲内の大地は消滅し、一面の海と化していた。ただフリーザの立っている場所のみが被害を免れている。

 

 ベジータ達はとっさに飛び上がって攻撃を避けていたが、守るようにデンデを抱えた少女の額から、血が流れていた。

 

「だ、大丈夫?」

「……心配ないわ。岩の欠片が当たっただけよ」

 

 今心配すべきは、この程度の傷では無い。少女は爆心地に立つフリーザを睨み付ける。

 

「今のはほんの挨拶代わりだ。この程度の事はサイヤ人にだってできる」

 

(確かにできるけど、威力が段違いじゃない! 今のを食らったら父様だって……!)

 

「フリーザ、貴様、よくも娘の顔に傷を……!」

「親馬鹿ぶりは相変わらずだな。だが別に、そのくらい良いだろう?」

 

 言いながら、フリーザはナッツの方を見上げて、にやりと笑った。

 

「……っ!?」

 

 背筋が震える予感と同時に、とっさにデンデを突き飛ばす少女。次の瞬間、地上にいたはずのフリーザの角が、ナッツの腹部を貫いていた。内臓を破壊され、口から大量の血が零れ出す。 

 

「どっちにせよ、全員死ぬんだからな」

「ぐ……ふ、フリーザぁ……!」

 

 血を吐き、激痛に喘ぎながらも、それでも攻撃しようとするナッツ。震える掌に赤いエネルギーが収束する。

 

「おっと、危ない危ない」

 

 フリーザが頭を大きく振ると、角に刺さっていた少女の身体が外れる。ナッツは飛ぼうとするがそれすらできず、水面に落下して水柱を上げた。

 

「ナッツ!!!」

 

 顔色を変え、娘を助けに向かおうとした父親の前に、笑みを浮かべたフリーザが立ちはだかる。

 

「急がなくてもいいだろう、ベジータ。もう助かる傷じゃない」

「フリーザ!! 貴様あ!!!」

 

 激昂した父親が飛び掛かり、怒りのままに先程を上回る猛攻を加えるが、フリーザは巨体に似合わぬ身のこなしで、その全てを回避する。

 

「くっ、デカい癖にちょこまかと……そこをどきやがれ!!」

「心配しなくても、すぐに同じ所へ送ってやるさ。家族3人で仲良く暮らすといい」

 

 余裕を滲ませ、反撃に移ろうとするフリーザ。その顔面に、死角から飛び込んできた小さな影が、痛烈な回し蹴りを叩き込んだ。

 

「……何?」

 

 フリーザは蹴られた顔を押さえて、乱入者を睨む。そこにいたのは、戦闘服を着た黒髪の少年だった。彼は今、自分でも制御できないほどの怒りに駆られていた。

 

「よ、よくもナッツを……! 許さないぞ……!!」

 

 悟飯の姿がふっと掻き消え、フリーザの懐に出現する。その速度を目で追えなかった事に、驚愕するフリーザ。

 

「うわああああああ!!!!!」

 

 少年はそのままフリーザの胸に、目にも止まらぬほどの拳の連打を叩き込む。その拳は子供らしく小さかったが、一撃一撃が身体にめり込むほどの凄まじい力に、たまらずフリーザが目を剥いた。

 

「ぐああっ!? こ、このガキ……!」

「だああああっ!!!」

 

 胸部へのダメージで思わず身を屈めたフリーザの頭部を、悟飯が全力で殴り飛ばす。フリーザは真下に飛ばされながらも体勢を整えようとするが、同じ速度で眼前に迫る悟飯が、手に収束させたエネルギー弾を、その顔面に叩き付け、爆発させた。

 

「な、何だと!?」

 

 背中から地面に叩き付けられるフリーザ。倒れた彼に向けて、少年は叫びながら無数のエネルギー弾を次々に放ち、途切れない爆発音が大気を震わせ、星を揺らす。

 

 そして悟飯の横にベジータも参戦し、ギャリック砲の構えを取る。

 

「いいぞ悟飯! 手を緩めるな! このままありったけの力で押し込んでやれ!」

「は、はい! ベジータさん!」

 

 そして悟飯も気を集中させ、二人は同時に、今だ爆発の収まらない地点に向けて、最大級の攻撃を解き放った。

 

「お前なんか死んじゃえーーーー!!!!!」

「くたばれフリーザー!!!!!」

 

 2つの強大なエネルギー波が着弾し、ひときわ大きな爆発が、フリーザのいた大地を消し飛ばしていく。

 

「はあっ、はあっ……」

 

 極度の疲労に襲われ、大きく息をつく悟飯を、ベジータは驚きの目で見つめていた。

 

(こいつ、怒りで我を忘れると、ここまでパワーを引き出せるのか……)

 

 一時的にだが、その戦闘力は今の自分をも上回っていた。カカロットの血を引くだけの事はあるということか。そこでベジータは、最愛の娘を思い出す。

 

「悟飯! 今のうちだ! ナッツを助けに行くぞ!」

 

 少年が返事をしようとした、その時だった。

 

「どこへ行くんだ?」

 

 いつの間に現れたのか、彼とベジータとの間に、全身から煙を上げるフリーザが割り込んでいた。全身を焼け焦がしながらも、その戦闘力は大して減っておらず、むしろ油断が消え、威圧感が増したようにさえ見えていた。

 

「さっきは少しばかり驚いたが、よくもこのフリーザ様の身体に傷をつけてくれたな……!!」

「あ……あ……」

 

 怒りを滲ませるフリーザに、少年は怯えて動けない。

 

「馬鹿野郎! 避けろーーー!!!」

 

 背後から襲いかかるベジータに向けて、フリーザは強烈な拳を振り下ろし、迎撃する。とっさにガードするも、ベジータは大きく弾き飛ばされてしまう。

 

 それを確認したフリーザは、未だ震える悟飯を睨み、少年の頭ほどもある拳で殴り飛ばした。悲鳴を上げながら落ちる悟飯にフリーザは追いつき、至近距離からのエネルギー弾を爆発させる。意趣返しのつもりか、それは先程の悟飯と同じ動きだったが、その破壊力は桁違いだった。

 

 

 

「ぐっ、あの野郎……!」

 

 吹き飛ばされたベジータは、攻撃を受けている悟飯を気にしながらも、娘を探して水面を見る。ちょうどその時、ぐったりとしたナッツの身体を抱えたクリリンとデンデが、水面から顔を出し、ベジータに叫ぶ。

 

「ナッツさんは大丈夫です! まだ生きてます!」

「そ、そうか……」

 

 安堵と共に、父親の表情が緩む。ナメック星人達の村で、重傷を負った娘が彼らの治療を受け、短い時間で完治した事を、彼は覚えていた。

 

「……頼んだ!」

「はい!」

 

 フリーザに感付かれないよう、それだけを口にして、彼は再び、フリーザの元へと向かって行った。

 

 

「う、うう……」

 

 地面に叩き付けられ、呻く悟飯。その腕の上に、フリーザの巨体が勢いよく着地した。骨を踏み砕かれた少年が、激痛に顔を歪めながらも、フリーザを睨む。

 

「お前のせいで、ナッツはあんなに苦しんで……!!」

 

 自らの状態を顧みず口にしたその言葉に、フリーザは顔を顰める。

 

「ほう……お前、あんな野蛮なサルの娘を。物好きがいたものだな」

 

 そしてフリーザは悟飯の頭を踏み付け、少しずつ力と体重を乗せていく。

 

「まったく、またサイヤ人が増えてしまう所だった」

「あ、あああああ!!!!」

 

 頭蓋骨が軋み、少年の気がみるみるうちに小さくなっていく。その感触を楽しむフリーザの背に、駆け付けたベジータが渾身のエネルギー波を撃ち放つが、爆発が収まった後、フリーザはまるでダメージを受けていない様子でベジータを見る。

 

「後で殺してやるから待っていろ」

「く、くそったれが……!!」

 

 圧倒的な戦闘力の差を見せられながらも、それでもベジータは諦めず、空中からフリーザに向け、ほぼ捨て身とも言える突撃を開始した。

 

「うおおおーーーーっ!!!!」

 

 その無謀な攻撃にフリーザは苦笑し、迎え撃とうとする。

 

「やれやれ、待っていろと言ったのに。やはりサイヤ人は頭が悪いようだ」

 

 そして身構えたフリーザの膝裏に、突如飛び込んできた少女が、全力の拳を叩き込んだ。ダメージは無かったが、身体構造上、自然と膝が曲がり、体勢が崩れてしまう。

 

「……は?」

「隙ありよ、フリーザ。よくも悟飯をやってくれたわね」

 

 殺したはずの娘が、にやりと笑う。その声に、フリーザは思わず一瞬、意識を奪われる。

 

 直後彼の頭部に、勢いを乗せたベジータのキックが直撃し、その身体が大きく弾き飛ばされた。

 

 

 

 岩に激突したフリーザが、ふらつきながらも起き上がる。完全に虚を突いた一撃は、彼に少なからぬダメージを与えていた。そして困惑する材料がもう一つあった。

 

「な、何故あの娘が生きている……?」

 

 戸惑うフリーザの顔に、赤いエネルギー波がぶつかり、爆発する。飛んできた方を見ると、ベジータの娘がこちらに背を向けながら、挑発するように、その尻尾を振っていた。着ている戦闘服の腹部には穴が開いていたが、そこから見える肌には傷一つ無かった。

 

「こっちよ、フリーザ!」

「ま、待ちやがれ!!」

 

 逃げ出すナッツを、フリーザは全力で追う。どうやらメディカルマシーン以外の、もっと素早く回復できる手段を隠しているようだったが、どんな方法であれ、完全に殺してしまえば復活できないはずだ。

 

 少女は逃げながら、追ってくるフリーザの凄まじい戦闘力を感じていた。デンデによって治療され、死の淵から蘇った彼女の戦闘力は、現在6万程に達していたが、それでも今のフリーザに、到底通じる数字ではない。

 

(変身前のフリーザなら、私の大猿で殺せていたけど、今の私の役割はそれじゃない!)

 

 そしてフリーザはナッツに追い付く直前、背後から何かが迫る音を感じ取り、振り向いた。その瞬間、気で形成された鋭い円盤が、彼の尻尾の先端を切り飛ばした。

 

「う、うおおおおお!?」

 

 とっさに身を捻るフリーザの身体を掠め、気の円盤が飛んでいき、遠くの岩山を斬り飛ばす。そして気の円盤は1枚だけではなく、次から次へとフリーザに迫る。

 

 それを作り出しているのは、遠くに立つクリリンだ。攻撃のタイミングをナッツと打ち合わせていた彼の、高く上向けた掌に、また1枚、高速回転する丸い刃が形成される。

 

「気円斬ーーーー!!!!」

 

 連続して投擲させる刃を、フリーザは顔に汗を浮かべながら回避するも、その集中を削ぐように、少女の放った赤いエネルギー波が直撃し、避け損ねた円盤が強固な肌を浅く切り裂き、出血させる。

 

「ぐっ、こ、このっ!?」

 

 フリーザはその場を飛び離れ、なおもエネルギー波を放つナッツを無視して、危険な技を使うクリリンへと肉薄する。

 

「う、うわあっ!?」

 

 至近距離からの1枚をあっさり回避し、フリーザは怯えるクリリンを殺すべく手をかざす。

 

「よくも、このフリーザ様の尻尾を切ってくれたな……!!」

 

 そして全力のエネルギー波でクリリンを消し飛ばさんとしたその時、彼は顔の前に両手を広げ叫ぶ。

 

 

「太陽拳!!!」

 

 

 周囲が一瞬、強烈な光に包まれる。目の前で太陽が発生したかのような、爆発的な光量が、フリーザの目を焼いていた。

 

「ぐわあああっ!? 目、目がっ!?」

 

 一時的に視覚を失ったフリーザがたまらず目を押さえる。

 

「今だベジータ!! 攻撃してくれーーー!!!」

 

 クリリンは叫びながら、駄目押しの円盤を投げるが、フリーザは風を裂くその音だけで見切って回避する。

 

「な、何て奴だ……!?」

「こんな攻撃を何度も食らうか……!」

 

 痛む目を両手で押さえながら、フリーザはクリリンの声がした方を睨む。その無防備な背中に、ここぞとばかりに飛び込んだベジータが、勢いのまま拳を叩き込んだ。

 

「ぐっ、べ、ベジータか!?」

 

 フリーザは腕を振って反撃するが、見えないままの一撃は当然に宙を切る。そしてベジータは次々に位置を変え、ろくに防御もできないフリーザの全身に猛攻を加えていく。

 

(はははははっ! いいザマだなフリーザ! 痛みでろくに目が見えないだろう?)

 

 声を出さぬまま、ベジータが哄笑する。地球で悟空から同じ技を受けた事のある彼は、フリーザの今の状態をよく理解していた。

 

「お、おのれ!!」

 

 フリーザの反撃が、避けようとしたベジータの身体をわずかに掠める。

 

「ちっ、もう目が見えてきやがったか……」

「ベジータ!! ただでは済まさんぞ!!」

 

 目を開き、怒りのままに叫ぶフリーザの頭上に、小さな影が現れ、組んだ両拳を全力で振り下ろした。

 

「がっ!?」

 

 フリーザは落下しながら、自分に攻撃を加えた者を、驚きの目で見ていた。

 

 デンデに治療され、復活した悟飯がそこにいた。

 

 

 

 

 水面に落ちたフリーザが、大きく水柱を上げる。

 

 そこへ駆けつけたナッツが、嬉しそうに少年へと声を掛ける。

 

「悟飯! あなたも治療してもらったの」

 

 少女の言葉が中断される。悟飯が泣きそうな顔で、彼女の身体を、強く抱きしめていた。

 

「ナッツ、君が無事で、本当に良かった……!!」 

「え、ええっ!?」

 

 いつになく積極的な少年の行動に、ナッツが驚き、わたわたしながら顔を赤らめる。悟飯に向けられた父親の殺気を感じ、少女は慌てて、名残惜しそうに身体を離した。

 

「こ、こんな事をしている場合じゃないのよ、悟飯? フリーザはまだ……」

 

 次の瞬間、フリーザの落ちた水面が爆発し、一瞬で周囲の海水を全て蒸発させた。高温の蒸気が吹き上がる中、大気に晒された水底に立つフリーザが絶叫する。

 

「よくも好き放題やってくれたな!! 覚悟しろよ貴様ら!!」

 

 その戦闘力は、変身した直後よりはやや削れていたが、それでもなお圧倒的なものだった。

 

「父様達の攻撃をあれだけ受けて、まだ足りないの……?」

 

 ナッツ達は身構えながらも、底知れぬフリーザの力を前に、決定力の不足を感じていた。

 

 少女の攻撃は牽制程度にしかならず、クリリンの気円斬も、見切られた今、命中は望めない。ベジータの攻撃では削れはするが倒すには至らず、望みがあるとすれば復活してパワーの上がった悟飯だが、その出力は不安定で、先程ナッツが殺されかけた時のような状況が無ければ、その全力を発揮できないだろう。

 

 対策を見いだせないまま、ついにフリーザが、凄まじい勢いで飛び上がり、ナッツ達に迫る。

 

 その時、彼女達とフリーザとの間に、長身の人間が飛び込んだ。その乱入者は、精悍な顔つきに、緑色の肌を持ち、白いターバンとマントを身に纏っていた。

 

「……何者だ。この期に及んで、生き残りのナメック星人だと?」

 

 フリーザは訝しむ。初対面のはずだが、見覚えがあるような気がしていた。彼の足止めをした、ネイルとかいうナメック星人と、とても良く似ている。服装やその威圧感の違いから、別人だというのは判るが、それでも一瞬、まるで同じ人物のように思えた。

 

 フリーザには知る由も無かったが、ドラゴンボールでナメック星に転移したピッコロはこの場に向かう途中で瀕死のネイルと出会い、請われて融合する事によって、遥かに力を増すと共に、その記憶の一部を受け継いでいた。

 

「貴様がフリーザか。なるほど、確かにとんでもない化け物のようだな」

「あ、あいつは……!」

 

 ナッツは地球で少年を庇って、目の前で死んだはずのナメック星人を、驚きの目で見つめていた。感じられるその強烈な戦闘力は、今のフリーザとほぼ互角に思えた。

 

(こいつが死んでから、まだせいぜい一月しか経ってないのに、一体どうやってこんな力を……カカロットといい、あの世って所は、そんなに凄い訓練のできる環境なの? それに……)

 

 ドラゴンボールで生き返ったと知ってはいたけれど、実際に死んだ人間が復活したのを目の当たりにして、少女は俯いてしまう。

 

(母様も、こんな風に生き返ってくれたら良かったのに……!!)

 

「ぴ、ピッコロさん!!」

「面倒を掛けたな、悟飯。お前達のおかげで、この通り生き返る事ができた」

 

 優しく頭を撫でられ、少年は満面の笑みを浮かべていた。その光景を見て、ナッツはまだ悲しいと思いながらも、心が楽になるのを感じていた。

 

(悟飯、あなたの大事な人は、生き返ったのね……)

 

 手を下したのはナッパだけど、自分達がこの少年にしてしまった、取り返しのつかない過ち。願いを提供してそれを償えた事を、少女は心の底から、嬉しいと感じていた。




Q.原作ベジータ、戦闘力3万程度でリクームにボコられてたのが1度死に掛けただけで第一形態フリーザと互角って、いくらなんでも上昇量ガバガバ過ぎでは?
A.「父様は凄いんだから!」

 というわけで理由付けしました。ベジータもサイヤ人の王子で天才で戦闘経験も豊富ですし、元からあれくらい強くなる素質はあったって事で。ベジータの戦闘力自体は原作から変わってませんが、娘の前だしフリーザには恨みもあるしで士気Maxで食らいついている状態です。

 あと書いてて原作クリリンに「お前ベジータに攻撃頼む前にさっきの気円斬撃てよ……」って思ったので撃たせました。けどフリーザ様なら見えなくてもあれくらい避けるよね。

 フリーザ様は強いし悪役ムーブがとても似合うので動かしていて楽しいです。この話では原作よりも露悪風味になってますが、主人公の仇ですのでそういう役割をしてもらっています。「こんなの原作フリーザ様と違う……」と思うファンの方もいるでしょうが、どうかご了承下さいませ。


 それとたくさんの評価やお気に入りをありがとうございます。気付けば評価バーは真っ赤でお気に入りも900近くで、ここまで来たかと感慨深い思いです。
 更新は遅れるかもしれませんが、気長にお待ちくださいませ。
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