あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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※2019.1.9 後半部分を加筆修正しました。


4.彼女が休息を取る話

 安全な距離まで下がった後、ベジータは娘を下ろし、顔や手足に付いた血を拭ってやりながら、真剣な様子で傷の具合を確認する。

 

 戦闘力の差によるものか、小さな傷こそあちこちにあるが、骨や内臓に異常はない事を知り、安堵の息をつく。 

 

「……大きな怪我は無いな。念のため、帰ったらすぐメディカルマシーンに入るぞ」

「あれ、退屈で溺れそうで苦手なんですけど……わかりました」

 

 心配をかけた事への反省か、元気のない様子の娘に、ベジータは優しい声で言葉を掛ける。

 

「しばらくナッパの戦いを見ていろ。参考になることが多いはずだ。その後で残った奴とまた戦わせてやるから、次は上手くやれ」 

 

「はい、父様!」

 

 少女は明るく微笑み、言われたとおりに観戦を始めた。

 

 

 

「はああああっ!!」

 

 戦士達の前に出たナッパが気を解放し、大地が震え出す。

 

「こ、こいつ、さっきのやつよりも……」

「天さん! ボクの超能力が効かない!?」

 

「さあて、どいつから片付けてやるかな……」

 

 そして戦いが始まり、ナッパは凄まじい強さで戦士達を圧倒していった。

 

 

(さすがナッパ、私とは大違いの実力ね……)

 

 戦いを見守る少女が最も感銘を受けたのは、ナッパの圧倒的なタフネスだった。

 

「さよなら、天さん……!」

「気功砲!」

 

 捨て身の攻撃を続けて食らうも、びくともせずに戦闘を続けるナッパ。

 

「……ふう、おどかしやがって」

「まっ、まさか……奴は不死身か!?」

 

(私があんな攻撃を食らっていたら……死にはしないだろうけど、危なかったかも。やっぱりタフで頑丈なのは大事ね。背丈とか筋肉とか、見た目だけなら父様よりも強そうだし)

 

 

 ナッツは自分の身体を見る。

 

 体格は小柄で、鍛えられてはいるものの、肉はあまりついておらず、

 すらりとした手足は年相応にか細く、リーチも短い。

 

 少女はため息をつき、憧れの目でナッパを見つめる。

 

「ナッパの身体って、いいですよね……」

 

「おおぅ!?」

 娘の爆弾発言に、壁ドンされる直前のような声をあげるベジータ。

 

「おおお、お前まさか、ナッパを……!? 俺は絶対に認めんぞ!」

「違います!? 父様よりも年上じゃないですか!」

 

 

 

 それから戦闘は続き、残り3人となったクリリン達が追い詰められ、

 

「悟空ーー!!早く来てくれーーーっ!!!! 頼むーーーっ!!!」

 

 その叫びに興味を持ったベジータはクリリン達を問いただす。

 

「カカロット……やはりドラゴンボールで生き返っていたか。だがラディッツにさえ勝てなかったあいつが来て、今更どうなるというんだ?」

 

「この間とは絶対に違う! もっともっと、ずっと強くなってるさ!」

「貴様ら……孫悟空を舐めるなよ……!」

「お父さんはきっと来るよっ! お前達なんかやっつけてくれるんだ!」

 

「その割にはちっともやってこないじゃねえか! 怖くて逃げちまったんじゃないのか?」

 

 

 クリリン達の言葉と必死の表情に、嘘はないとナッツは直感した。

 

(カカロット……こいつらがこれだけ頼りにするのなら、もしかして、私と同じくらい強かったりするのかしら?)

 

「父様、私、そのカカロットとかいう奴を見てみたいです」

「お、おいお嬢……」

 

 上目遣いで父親を見つめるナッツに、ベジータはどう答えるべきか考える。

 

 父親として、娘の頼みはできるだけ聞いてやりたい。この間のサイバイマン30匹に比べれば、金銭的負担が0である分、遥かにマシな頼みではある。

 

 

(まあ、カカロットの目の前でこいつらを殺させて、絶望する顔を見るのも悪くない。それに……)

 

「? なんですか、父様?」

 不思議そうに首をかしげるナッツ。

 

(1人か2人は残してやると言ってしまった。このままだと、またすぐこいつが戦闘に出てしまうな……。平気そうに見えるが、もう少し休憩させてやるべきか)

 

「良かろう。カカロットが来るまで待ってやる。ただし、3時間だけだ」

「父様! ありがとうございます!」

「じょ、冗談だろ……!」

 

 ナッパは抗議しようとするが、ベジータが喜んでいる娘を指して見せるのに気付き、不承不承受け入れる。

 

「いいところだったのに……3時間だけですぜ、お嬢」

「うん、ナッパもありがとう」

 

 

 

 そうして、カカロットを待つ3時間の間に起こったことは。

 

 

 

 ナッツは大事なことに気付き、ナッパに質問する。

 

「ところでナッパ、カカロットって誰?」

「地球に飛ばされたラディッツの弟です、お嬢。奴と相打ちになって死にました」

 

「飛ばし子ってやつね。けど、それにしてはこの星は平和過ぎない? 確かに地球の戦士はそこそこ強いけど、月だってあるのに、今まで何をやってたのかしら?」

 

「どうも頭を打って、腑抜けになっちまったようでして」

「そんな事があるのね……」

 

 少女は想像する。自分がもし地球に送られて頭を打って、ついでに尻尾も切られて、この平和な星で穏やかに暮らす事になったら。闘争を好むサイヤ人としては到底耐えきれない境遇に、思わず身震いする。

 

「怖いわね……嫌よそんなの。地獄じゃない」

「まあ、変わり者のサイヤ人も、たまにはいるんですがね」

 

 バーダックの嫁さんとか、もし地球に来ていたら、すんなり馴染めたに違いないと、ナッパは昔を思い出して小さく笑った。

 

 

 そしてナッツはさらに大事なことに気付く。

 

「ちょっと待って。カカロットって死んだのに何であと3時間で来るの?」

 

「地球にはドラゴンボールという願いを叶える玉がありまして、オレ達はそいつでラディッツを生き返らせるために来たんです」

 

「ふーん」

「違うぞナッパ」

 

 違うらしい。まあ願いとか、難しいことは父様達が考えればいいか、とナッツは思っていたが、ふと気づく。

 

(あれ? カカロットが生き返ったのなら、母様を生き返らせることだって……)

 

 父様だって、母様には生き返って欲しいはずなのに。そこまで考えて、ナッツは晩年の母を思い出す。

 

 彼女の前では元気そうに振舞ってはいたものの、幾度も苦しそうに咳き込み、血を吐いて父親に介抱される姿を、幼いナッツは何度も目にしていた。

 

(生まれつきの治らない病気で母様は弱ってた。けど最後は戦って死ねたんだし、母様はもう、起こして差し上げるべきではないのよね。きっと父様も、そう考えているんだわ)

 

 3年前に死んだ母親の事と、ポッドの中で見た、父親の寂しそうな顔を思い出して、ナッツは少しだけ悲しくなった。

 

 

 

 先ほどの戦闘で娘の手足に付いた傷を見て、父親は心配そうな顔で口を開く。

 

「ナッツ。今更だが、その戦闘服は防御が薄過ぎないか? 今ならもっと最新型で、お前に似合いそうなのもあるんだが」

 

 ベジータはどこからともなく戦闘服のカタログを取り出して見せた。小さなサイズの戦闘服のいくつかに印がつけてある。どれも防御力の高さと安全性を強調している物だ。

 

「そこまで薄いでしょうか……?」

 

 ナッツは自分の姿を確認する。

 

 黒い戦闘服は肩や腰のパッドが無く、両肩が出るシンプルな物。紫色のアンダースーツには袖が無く、覆っているのは腿の半ばまで。またグローブを着けておらず、手足がほぼ剥き出しになっている。確かに、父様やナッパと比べると防御が薄いかもしれない、とナッツは認める。

 

「けど、私はこれが身軽で気に入ってるんです。何より、母様の選んでくれた物ですし」

 

 それは死んだ母親が彼女に残した、数少ないものの一つだった。

 戦闘で何度か破損したことはあるが、その度にナッツは同じデザインの物を購入していた。

 

「そうか……そうだったな……」

 

 初めて戦闘服を着た時の、娘の嬉しそうな顔は今でも覚えているし、映像も残してある。あの時から、あいつの命がもう長くない事は、わかってはいたが。別れがああも突然とは、思っていなかった。

 

 ベジータはどこか遠くの、目の前ではない過去の情景を見るようにして、ため息を付いた。

 

 

 

 少女が暇潰しに渡されたカタログを捲っていると、父親の着ている戦闘服が見つかった。

 

 最新型の中でも一番値段が高く、防御力はもちろん耐熱耐寒、着用時の快適性に至るまで、全てが高性能だった。が、書いてある宣伝文句にナッツは顔をしかめる。

 

(『大猿に踏まれても大丈夫!』って、本当にテストしたんでしょうねこれ……)

 

 同時におかしくなって笑ってしまう。よりにもよって父様が大猿に踏まれるなんて、あるはずがないのに。

 

「どうした、ナッツ?」

 

 父様が変な顔でこちらを見ていたが、ツボに入ってしまい、何でもありませんと答えながらも、しばらく笑いが止まらなかった。

 

 有り得たかもしれない未来の話を、少女は知らないまま笑い続けた。

 

 

 カカロットを待つのに飽きた少女が昼寝をしていると、遠くから戦闘機の飛ぶ音が聞こえてきた。暇を持て余していたナッパが立ち上がり、ごきごきと首を鳴らして笑う。

 

「地球にもあんな軍隊があるとはな……いい暇潰しになりそうだぜ!」

 

 高速で飛翔し、戦闘機を次々に落としながら、ナッパは海へと向かっていく。

 そして迫り来る大艦隊を目の当たりにし、不敵に笑った。

 

「ナッツ、楽しそうだぞ。お前も行くか?」

「ふわあ……遠慮します。弱すぎです、あいつら」

 

 父親の傍で寝転がったまま、欠伸混じりでナッツが応える。

 

 飛翔するナッパに向けられる銃撃やミサイルの爆発音、墜落する戦闘機や撃沈される艦隊の断末魔。聞き慣れたそれらが彼女の眠気を覚ますことはなかった。

 

 

 

 その辺の岩に腰掛け、ナッツは父親の話を聞いている。

 

「ナッツ、さっきの戦いだがな。あそこで攻撃を防ぐのに尻尾を使うのは危なかった。握られたくらいでお前が怯まないのも知っているし、結果的には上手くいったが、逆に尻尾を狙われる危険もある。より強い攻撃を尻尾に食らったり、いきなり切られる事も警戒しておくべきだった。お前はまだ、尻尾を切られた経験が無いから知らんだろうが……あの痛みは想像を絶する。痛みで動けなくなっている隙を狙われたら、抵抗もできずに殺されてしまうだろう。そんな事になったらオレは……」

 

「眠いです……父様」

「待て起きろナッツ! 今大事な話をだな!」

 

 ベジータが肩を掴み揺さぶるも、ナッツは目を覚まさない。

 少女は難しい話を聞くのが苦手だった。

 

 ただとりあえず父親が心配してくれている事と、攻防に尻尾を使うのが危ないという事だけは理解した。




これで1~4話のリメイクは終了なのです。
4話のタイトルだけはどうしても直したいと思ってました……。

あとは5話以降をちょっとだけ直して、今回加筆修正した箇所との整合性を取ってからナメック星編に入ります。


ナッツの母親については、本編で出る予定はないです。

・才能に恵まれながらも生まれつきの病で戦場に出れず、憂鬱な日々を過ごしていた。
・幼少期のベジータにその戦闘力を見込まれ、護衛役として仕える事になった。
・居場所と役割を与えてくれた事に感謝し、片時も離れず仕え続けた。
・最後はフリーザの手で単身激戦区に送られ、敵軍を壊滅させながらも死亡。

こんな感じ。ベジータとは同年代のエリート戦士。
「戦いたいのに満足に戦えなかった」点がナッツと重なります。
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