あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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4.彼女がちやほやされる話

 殺風景な地獄の荒野を、ナッツは祖父と共に歩いていた。

 

 目指す先はフリーザ撃破記念パーティの会場で、近づくにつれて、同じように会場に向かうサイヤ人達が増えていく。彼らは手に手に酒や食べ物を持ち寄っていて、気の早い者は既に顔を赤くして騒いでいる有様だったが、誰もそれを止めようとはしない。

 

 彼らをさんざん酷使した挙句に惑星ベジータごと全滅させた憎きフリーザが倒されただけでも十分に記念すべき出来事だというのに、それを成し遂げたのが同じサイヤ人だという事で、誰も彼もが子供のようにはしゃぎたい気持ちで一杯だったのだった。

 

 そして戦いの様子は大型モニターで中継されていたから、超サイヤ人となった少女の顔をほぼ全員が知っているわけで。

 

 ついでに戦闘だけではなく、混血の少年とのあれこれもしっかり発信されていて、良く言えば素朴、悪く言えば野蛮で甘酸っぱい恋愛事などに縁の無いサイヤ人達に理解不能の衝撃を与えて、スカウターで録画された映像データが早くも高値で取引されていたりもしたわけで。 

 

 彼らにとっては大英雄兼映画スターに等しい、そんな王族の少女に、近くを通るサイヤ人達がついつい目をやってしまうのは、ある意味当然の事だった。

 

「あれって、フリーザを倒した超サイヤ人じゃね……?」

「何で地獄にいるんだ? 死んだのか?」

「頭の輪っかが無いぞ! 生きたまま来たんだ!」

 

 遠巻きに騒がれて、気恥ずかしさにほんのり顔を染めて祖父の後ろに隠れて歩くナッツ。そんな彼女に、彼らの一人が意を決して声を掛ける。

 

「さ、サイン下さい!」

「え、ええっ!?」

 

 頭を下げつつ差し出された男の手の上には、会場設営に使うのだろうか、黒の油性ペンがあった。おどおどと受け取りながら少女は尋ねる。

 

「い、いいけど……どこに書くの?」

「戦闘服にお願いします!」

 

(ペンなんて持ったの、ずいぶん久しぶりね……。母様に勉強を教えてもらった時以来だわ)

 

 書きやすいようしゃがみ込む男の白い戦闘服に、緊張しながらさらさらと綺麗な字で、ナッツは自分の名前を書いてあげた。

 

「……これでいいのかしら?」

「あ、ありがとうございます! 俺一生これ使います!」

「……壊れたらちゃんと新しいのに換えないと駄目よ。危ないんだから」

 

 感動に打ち震える男にやや引きながら、良い事をしたとにっこり笑うナッツ。その様子を見て、周囲のサイヤ人達が我も我もと一斉に押し寄せた。

 

「ちょ、ちょっと、あなた達……!?」

「ええいお前ら! 孫から離れんか!」

 

 ベジータ王が叫ぶも騒ぎは収まらず、それどころか話を聞き付けた者達が次々に加わっていき、ナッツ達は身動きが取れなくなっていた。

 

(ど、どうしよう……この人数にサインなんてしてたら、それだけで1日が終わっちゃうわ……)

 

 敵ならば殺せばいいのだが、サイヤ人は仲間であり同胞だ。どうすればいいのかと悩む少女の耳に、目の覚めるような大きな声が届く。

 

 

「お前ら、お嬢が困ってるだろうが!!! ちょっと離れてやれ!!!」

 

 

 喧噪の中でもよく通るその怒号に、一瞬皆の動きが止まる。ナッツはその声に、聞き覚えがあった。

 

(……あれ? この声って……?)

 

「あ、あんたは……!」

 

 声の主の巨漢を見た者達が慌てて全力で離れて行くも、それでも半数以上の者は再び騒ぎ始める。禿頭の男はそれを見て、額に青筋を浮かべて笑った。

 

「ようしお前ら……警告はしたからな?」

 

 巨漢は気を集中させ、揃えた右手の人差し指と中指を、クンッ、と跳ね上げた。

 

 瞬間、周囲数百メートルが爆発した。

 

 

 

 土煙がゆっくりと晴れていく。騒いでいたサイヤ人達は全員吹き飛ばされ、地面に倒れて呻いていた。

 

 立っていたのは3人のみで、土煙を吸い込んだのか、ごほごほと咳き込むベジータ王と、何が起こるのかを予想し、とっさに息を止めていたナッツ。

 

 そして爆発の中心にいて、未だぼんやりと姿が隠れている大きな男の姿を、少女はじっと見つめていた。

 

「この技は、やっぱり……」

 

 地球でも街一つを一瞬で消し飛ばしていた、彼の得意技。侵略を早く済ませたい時は便利だけど、あっさり終わりすぎてつまらないと思った覚えがある。

 

 やがて土煙が完全に晴れ、露わになった男の姿を見て、ナッツは幼い顔に喜びを浮かべながら駆け出した。

 

「ナッパ!」

「お嬢!!」

 

 向こうも駆け出してきて、ナッツは彼の胸元に飛びついて、ひし、と抱き合った後、そのまま抱っこされる体勢になる。

 

「助かったわ、ナッパ。……けど大丈夫なの、これ?」

「この程度でくたばるような柔なサイヤ人は地獄にいませんぜ。パーティが始まる頃には目を覚まして、頭も冷えてるでしょうよ」

 

 笑う巨漢に、少女もにっこり笑って向かい合う。

 

「ねえナッパ、あなたも私達の戦い、見てくれてた?」

「当然でさ。ベジータ王子もお嬢も、いつの間にか凄え強くなってて驚きやしたぜ」

「……そうね。自分でもまだ、信じられないくらいだわ」 

 

 ナッツは思わず、遠い目になっていた。

 

 父様も私も、ナメック星に着いてからの数日で、戦闘力がいったい何倍になったというのか。何の変身もしていない素の私ですら、戦闘力が15万にも達している。ザーボンやギニュー特戦隊を相手に絶望していた頃が、遠い昔のようだった。 

 

 最長老とか超サイヤ人とか、詳しく説明すると長くなりそうなので、少女は話題を変える。 

 

「そうそう、父様と母様が言っていたわ。ナッパには子供の頃からお世話になったって」

「あいつらが、そんな事を……」

「私もそう。ラディッツと一緒に、たくさん遊んでくれたわよね」

 

 そこで少女は、辛そうに目を伏せる。

 

「ごめんなさい。母様が死んでから、私、あなたに冷たい態度ばっかりとっていたわ。今思い出すと、ナッパはずっと私を心配してくれていたのに」

 

 私を励まそうと、美味しそうな食べ物を持ってきてくれたり、昔のように遊んでくれようとしたりしていたけれど。その度に断ったり無視してしまった覚えがある。悪い事をしてしまったと、罪悪感が心を苛んでいた。

 

 そんな彼女の顔を見て、慌てた巨漢が叫ぶ。

 

「お嬢! 俺は気にしてないですぜ! お嬢はまだ小さくて、親を亡くしたばかりだったんだから仕方がねえです!」

「……ありがとう、ナッパ。それと、あなたに言っておきたい事があるの」

 

 小さく微笑みを浮かべながら、少女は彼の目を真っ直ぐに見る。夜のような、黒い瞳。驚愕が、ナッパの心を揺さぶった。彼の5分の1も生きていない少女が、年齢よりもずっと、大人びて見えた。

 

「ナッパ、私、強くなったの。私一人の力じゃないけど、フリーザにだって勝てるくらい」

 

 言った少女の全身が、金色のオーラに包まれる。スカウターが無くとも肌で感じられる圧倒的な戦闘力に、これが超サイヤ人かと、ナッパは内心気圧される。

 

 けれど、ナッツの顔に浮かぶ穏やかな表情は、彼が知っている、皆から愛されて、幸せに暮らしていた少女のものだ。

 

「それだけじゃないわ。友達だってできたのよ。あなたも地球で会った、悟飯っていうカカロットの子供よ。あれから色々あって仲良くなったの。とっても強いし、それだけじゃなくて優しい子なの。私はもっと、サイヤ人らしく悪い感じでもいいかなって思うんだけど……。それに彼から、遊園地に行こうって誘われてるの。どんな所かよく知らないんだけど、悟飯と行くなら、きっと楽しいわ」

「……本当にずいぶんと、仲良くなったようで」

 

 ほんのり顔を赤らめながら嬉しそうに少年の事を話す少女を、ほっこりしながら見守るナッパ。   

 

「それとブルマっていう親切な人が、私と父様を地球の家に住まわせてくれるらしいの。知ってる? 地球の食べ物って、信じられないくらい美味しいのよ。作り方を覚えて、いつか母様にも食べさせてあげたいと思ってるの」

 

 当分先の話だけどね、とナッツは笑って言葉を続ける。

 

「これから私は父様やブルマと一緒に暮らして、毎日美味しい物をいっぱい食べて、悟飯と一緒に訓練したり遊んだり、たまに勉強にも付き合ってあげて、気持ちの良いお風呂に入ってから、脆いけど着心地の良い服を着てぐっすり寝るの。平和な暮らしに飽きたら、こっそりどこかの星に戦いに出てもいいわね。きっとこの先は、楽しくて幸せな事ばかりなの」

 

 改めて、少女は澄んだ湖のような瞳で、真っ直ぐに彼を見つめて言った。

 

 

「だからナッパ。私の事は、もう心配いらないわ。今まで優しくしてくれて、本当にありがとう」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、ナッパは目頭が熱くなるのを感じて、気付けば涙が溢れ出していた。

 

 腕に抱いた少女、赤子の頃から知っている、母親を亡くして以来、暗い目で、ひたすら訓練を繰り返していた少女が、本当に幸せそうに笑っていた。    

 

 それだけではなく、最後に会った時から、まだ2ヶ月も経っていないというのに、一回りも二回りも、大きく成長しているように感じられた。芯の強さが感じられた。

 

 彼女がフリーザに迫る戦闘力を身につけた事よりも、そちらの方が嬉しかった。

 

「お嬢、立派になって……!」

 

 涙声でそれだけ言って、男は小さな身体を力いっぱい抱き締めた。

 

「ちょっと、ナッパ、苦しいわよ……」

 

 応えるその声にも、少しばかり涙が混じっていた。

 

 

 

 それからしばらくして、ナッツは地面に下ろしてもらうと、髪の色を黒に戻す。戦闘中ならともかく、普段からずっと超サイヤ人に変身しているのは、結構疲れてしまうのだ。

 

「そういえばナッパ。ラディッツにも会いに来たんだけど、今どこにいるかわかる?」

「あいつもこっちに向かってるはずですが……ほら、あそこにいましたぜ」

 

 ナッパが指差した先に、見覚えのある、背が高くて髪の長い、戦闘服を着た男がいた。その姿を見て、少女の心に、昔の思い出が蘇る。

 

 今よりも小さい頃は、よくサイバイマンと一緒に遊んでくれたのだ。あまり戦闘力は高くなくて、私の方が強くなってからは、少し気まずそうにしていたけれど。

 

「ナッパ、お爺様、ちょっと行ってきます!」

 

 黒い戦闘服の少女は、言葉と共に走り出し、あっという間に彼の目の前に現れる。

 

 そのあまりのスピードに、思わず顔を引きつらせるラディッツに、ナッツはにっこり笑って話し掛ける。

 

「ラディッツ、久しぶりね」

 

 彼が応えようとした、その時だった。

 

 

「どけ、バカ息子が」

 

 

 ラディッツの身体が、乱暴に突き飛ばされる。

 

「えっ……?」

 

 驚きに目を見開く少女の目に映ったのは、カカロットとそっくりな男の姿だった。




 あんまり話が進んでませんが、リハビリがてら投稿など。
 次でバーダックとラディッツとギネさんの話をやって、地獄の話は次の次あたりで終わって地球に行く予定です。
 投稿は不定期になるかもしれませんが、気長にお待ち下さいませ。

 また長らく休止している間もお気に入りに登録してくれた方々、自分でも気付いて無かった誤字を報告してくれた方、ありがとうございます。てっきり更新止まったから見捨てられて半分くらいに減ってるかと思ってましたので、逆に増えていて嬉しかったです。
 評価や感想等いただけると続きを書く原動力になりますので、よろしければお願いいたします。
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