あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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6.彼女が宴を楽しむ話(前編)

 地獄の荒野のあちこちに、肉体労働の勤めを終えたサイヤ人達が集まっている。

 

 辺りは既に暗くなりかけていたが、あちこちで火が焚かれており、光源の確保と同時に、温かな空気と、持ち込まれた食料を調理する良い匂いが漂っていた。

 

 椅子やテーブルなどといった物は無く、皆地面に座っていたが、そんな事を気にするサイヤ人など地獄にはいない。

 

 

「サイヤ人がフリーザに勝利した、このめでたき日を祝して!」

 

 

 何かボロボロになっているベジータ王が音頭を取り、集まった面々が一斉に手にした杯を掲げる。

 

「「「「乾杯!!!!」」」」」

 

 ナッツもバーダック達と一緒に、ジュースの入ったコップを打ち合わせる。本来ならばフリーザと戦った彼女は主賓でベジータ王の近くにいるべき立場なのだが、本人が恥ずかしがって辞退したのだ。

 

(昼間みたいに騒がれたんじゃあ、ゆっくり話すどころじゃないしね)

 

 喧噪の合間に、ちらほらと話し掛けてくる者達はいたが、近くでナッパが睨みを利かせている事もあってか、昼間のようにもみくちゃにされるような事はなく、落ち着いたものだった。

 

 果物のジュースを口にしながら、少女は治療を受けているバーダックの方を見る。

 

「大丈夫? お爺様から随分いいのをもらってたけど」

「あ? こんなの怪我の内に入らねえよ」

 

 強がるバーダックに、ギネが無言で包帯を強く巻き付けた。

 

「痛てて! おいギネ、もっと優しくだな……」

「まったく、王様と喧嘩なんて、馬鹿な事するからだよ」

 

 ギネはため息をつきつつも、甲斐甲斐しく手当を続けている。ちなみにボロボロ具合はバーダックの方がやや高い。

 

「畜生、やっぱりあいつ結構やりやがる……」

 

 もう少しいけると思ったんだが、と呟くバーダックに、金の耳飾りを着けた女戦士、セリパが呆れた様子で頭を振る。

 

「言っておくけど、ベジータ王とやり合える時点でおかしいんだからね?」

「オレ達だと一撃でやられちまうだろうからなあ」

 

 水色の戦闘服を着たトーマが、彼女の隣でおどけたように言った。

 

 そんな彼を、セリパがキッと睨みつける。

 

「アンタはもっと根性見せな。この中じゃあバーダックの次に強いんだから」

「いや無理だって。もう一度死にたくはねえよ」

 

 誤魔化すように笑いながら、トーマがセリパの持った杯に酒を注ぐ。

 

「バーダックが無茶するのは、昔から変わらねえよなあ」

 

 突き出た腹を持つパンブーキンが、焼けた肉に美味そうに噛り付く。 

 

「……」

 

 寡黙なトテッポが、無言でうんうんと頷いた。

 

 そんな彼らの姿を、ナッツは楽しそうに眺めている。

 

 この人達は、バーダックとチームを組んでいたらしい。昔はギネさんも入っていたけど、結婚してからは子育てに専念していたそうだ。

 

 戦闘力はバーダック程ではないけれど、全員から歴戦のサイヤ人の戦士としての、風格のようなものが感じられた。きっと父様達と同じくらい、多くの星を滅ぼしてきたのだろう。

 

 視線に気づいたのか、セリパが少女に微笑み掛ける。

 

「アンタとベジータ王子が、ドドリアの奴を殺してくれたんだって? おかげでスッキリしたよ」

「倒したのは父様で、私は止めを刺しただけなんだけど……」

「それでもだよ。あの野郎、ちょうど月が沈んだタイミングで襲ってきやがって……!」

 

 据わった目で傾ける彼女を、まあまあとトーマが窘める。

 

「あんまり飲みすぎんなよ、セリパ。こないだこの子の母親と、皆でボコってやったからいいじゃねえか」

「あれでよく生きてたよな、あいつ」

「……(うんうん)」

 

(ドドリアの奴、ここでも恨みを買ってたのね……)

  

 その光景を想像して、ほんの少しだけ同情しながら、ナッツは彼らに声を掛ける。

 

「ねえ。良かったら、あなた達の昔の話を聞かせて欲しいわ。ツフル人との戦いとか、私、本でしか読んだ事ないの」

「ああ、ツフル人とか懐かしいね。あれから何年経ったんだか」

「今から40年くらい前って、本には書いてあったわ」

 

 少女の発言に、その場の全員が顔を引き攣らせた。

 

「……ま、待った。待ってよ。40年って、まだそんなに経っちゃいないだろ?」

 

 焦った様子のセリパが、助けを求めるかのように言った。

 

「確か戦いが終わったのが、バーダックの息子が生まれる、10年ちょっと前くらいだよな……」

 

 食べ物に手を伸ばしたままの姿勢で、パンブーキンも硬直していた。

 

「カカロットの奴は、確か今……」

「……25歳だよ、バーダック」

 

 光の失せた目で、ギネが呟いた。

 

「え、じゃあ、オレ達今、全員50代……」

 

 言い終わる前に、トーマが蹴り倒される。その頭を足蹴にしながら、迫力のある笑みを浮かべるセリパ。

 

「アタシもギネもまだ20代だ。いいね?」

「アッハイ」

 

 震えながら頷く男性陣の横で、ナッツがきょとんとした顔で問い掛ける。 

 

「ギネさんは悟飯のお婆様なんだから、別に普通じゃないの?」

「……お姫様も、大人になればわかるよ」

 

 どこか困ったような顔で笑いながら、ギネは少女の頭を撫でた。

 

 

 そんな一幕があった後、ナッツは彼らの昔話を聞いていた。本で読むのとはまた違った、実際の戦場を体験した彼らの話は、彼女にとって興味深いものだった。

 

「え? 満月が出てから一斉に攻め込んだんじゃなかったの?」

「ああ。ツフル人の奴らも、満月の事は知ってたからな。何されるか分かったもんじゃないから、戦闘力の高いエリート戦士達が、先行して奴らの本拠地を奇襲したんだ」

「案の定、訳の分からないヤバそうな物が沢山あったって話だよ。使われてたと思うと、ぞっとするね」

 

 先行した部隊は、直前まで怪しまれないよう、奪った敵の兵士の服で変装までしていたという。サイヤ人がそんな事までしてくるとは思わなかったツフル人達は、大混乱に陥って、一部では同士討ちまでしていたらしい。

 

「そうしている間に月が昇って、外側で敵の目を引き付けてたアタシ達も大猿化して……その後は記憶が曖昧なんだけど、とにかく滅茶苦茶に暴れ回った事は覚えてる。それで朝になったら、ツフル人共は一人残らずくたばってたって訳さ」

「いいなあ! 私も参加したかったわ!」

 

 話を聞いている間、ずっと目をきらきらと輝かせていたナッツが、興奮のあまりその場で飛び跳ねていた。子供らしいその様子に、思わずセリパは苦笑する。

 

「あんなヒョロっちい奴ら、フリーザやギニュー特戦隊と戦ったアンタにとっちゃあ、退屈だと思うけどね」

「……そんな事無いわ」

 

 そこで少女は、小さく俯いた。

 

「だって私、そんなに大勢で戦った事なんてないのよ。母様は調子の良い時しか出られなかったし、ナッパやラディッツや父様も別の星で戦ってる事が多かったし。たまに父様達と組んで、それ以外の時は一人で星を攻めてたわ」

 

 ナッツが周囲を見渡すと、思い思いに笑い騒いでいる、大勢のサイヤ人達が目に入った。皆、彼女と同じ種族だった。そして全員の頭の上に、死者の証である、輪っかが浮かんでいた。

 

 活気に溢れたパーティ会場の中で、彼女はただ一人の生者だった。こうして会えた彼らとも、あと半日もすれば、別れの時が来てしまうのだ。

 

 言葉にならない寂しさを感じていたナッツの肩に、ぽん、と、誰かが手を置いた。少女が顔を上げると、セリパが優しい顔で微笑み掛けていた。

 

「あ……」

「元気出しなって。リーファの奴も、そのうちここに来るんだろ? 母親の前で、そんな辛気臭いツラ見せるんじゃないよ」

 

 それを聞いたナッツが、はっとした顔になる。両親も目が覚め次第、彼女の元へ案内すると、パーティが始まる前に連絡を受けていたのだ。

 

(そうね、母様を心配させるわけにはいかないわ)

 

 少女は自分に言い聞かせて、にっこり笑顔を作った。そうすると、不思議に気持ちも少し楽になった気がした。

 

「ありがとう。また昔の話を聞かせてくれる? ツフル人を倒した後、フリーザ達が来る前の話とか聞きたいわ」

 

 期待に満ちた表情で、ナッツは言った。確かほんの数年だが、サイヤ人が誰にも縛られず、自由に生きていた時代だ。

 

 きっと胸躍るような戦いに満ちていたに違いないと、楽しげに尻尾を振る少女に、トーマが当時の記憶を思い出しながら言った。

  

「宇宙船の技術を奪って、月があって裕福そうな惑星を片っ端から攻略してたな。正確な数字じゃないが、確か最初の一年間で、500以上は落としてたと思う」

「凄い! 昔は月のある星がそんなに多かったのね!」

「ああ。どこでも攻め放題だったよ。やり過ぎてまだ攻めてない星にすら、『満月の夜は不吉』なんて話が広まる始末さ」

 

 グラスを片手にくつくつと笑うセリパ。ナッツは誇らしい気持ちになって、満足そうに頷いた。

 

「それでこそ戦闘民族サイヤ人だわ。それでたくさんお金を稼いで、皆豊かな暮らしをしていたのね」

 

 その言葉に、全員が気まずそうに少女から目を逸らした。

 

「えっ? ど、どうしたの?」

 

 戸惑うナッツに、沈んだ顔のパンブーキンが言った。

 

「……あの頃はあんまり食う物が無かったな……」

「何で!?」

 

 全く予想外の台詞に、混乱するナッツ。

 

「惑星を滅ぼして売ったら、お金になるんじゃないの?」

「売り手が付かなかったり、買い叩かれたりしてたんだよ」

「物を売るとか買うとか、誰もやった事なかったからな……」

 

 当時を思い出して、トーマとバーダックが渋面になる。

 

「それでポッドの燃料にも困るようになった頃に、コルド大王から誘いが来て、一緒に仕事をすることになったんだ」

「売れそうな価値の高い星の情報をもらって、滅ぼした星を代わりに売ってもらってたのね」

 

 ギネの言葉に、頷くナッツ。フリーザ軍でも同じような仕事をしていたから、この辺りの事は、彼女もよく知っていた。

 

「メディカルマシーンが使えるようになったのは大きかったな。あれで死ぬ奴がかなり減ったし、死ななければ治るから、ある程度無茶もきくようになった」

 

 それを聞いたギネは、バーダックの顔に残った傷を、悲しそうな目で見て言った。

 

「……それでも、バーダックは無茶し過ぎだったよ」

「やらなきゃ全滅するって状況ばっかりだったんだ。仕方が無いだろ」

 

 バーダックが呟き、重くなりかけた空気を察したセリパが、いやらしい笑みを浮かべて言った。

 

「何より、大猿になっても破れない戦闘服が支給されたのが、アタシ達にとっては有難かったね。……男どもはガッカリしてたようだけど」

 

 面白がるようなセリパの視線から、ばつが悪そうに目を逸らすトーマ達。

 

「ギネ、あんたも昔はバーダックから、じろじろ見られてたんじゃないのかい?」

 

 言われた彼女は真っ赤になりながら、頬に手を当てる。

 

「う、ううん……。バーダックはあたしが服着るまで、ずっと後ろ向いててくれてたから」

「おい何言ってんだ止めろ」

 

 トーマ達は、え?マジかこいつ、って言いたげな顔でバーダックを見た。

 

「バーダックお前さあ……純情過ぎるだろ……」

「これが結婚できる男の顔か……」

「……(頭を振る)」

「うるせえぞテメエら!」

 

 酒のせいか、わずかに赤くなった顔でバーダックは怒鳴り声を上げる。

 

 その時、やり取りを聞いていたナッツが、首を傾げて言った。

 

「ねえ、戦闘服があったら、どうして男の人がガッカリするの?」

「えっ」

「えっ」

 

 その場の全員が、え?マジなのこの子、って言いたげな顔でナッツを見た。

 

「え、えっと、ナッツちゃん? 戦闘服が無かったら、変身が解けた時に、その、裸になるっていうのは分かるよね?」

「? 何か問題なの? メディカルマシーンとか、みんな裸で堂々と入ってるわ」

 

 純粋な目でそう言われて、思わずギネはたじろいだ。

 

(女の子を育てた経験は無いけど、こういう羞恥心とかって、普通自然に身に付くんじゃないの……?)

 

 3歳の頃に母親を失い、そこから周囲が大人の男ばかりの環境の中で、戦いに明け暮れていた少女は、そうした感覚とは縁が無かった。

 

「ど、どうしよう? 教えた方が良いのかな?」

「……別にいいと思うよ。何かあってもアイツの孫なら責任は取るよ、きっと」

「オレは関係ねえだろうが!?」

「ねえ、結局どうなの? 父様も似たような事を言ってた気がするけど、よく判らないの」

 

 ギネは額に汗を浮かべながら、曖昧な笑みを浮かべて言った。

 

「お、大人になれば分かるんじゃないかな?」

「ふうん」

 

(誤魔化されてる気がするけど、ギネさんは良い人だし。きっとまだ、私が知るべき事じゃないんだわ)

(この子はまだ小さいし、これから成長するうちに、そういうのもきっと分かってくるよね)

 

 なお、この先も長らく彼女がそうした概念を理解する事は無く、悟飯とベジータと、ついでにこれから生まれる彼女の弟も頭を抱える事になるのだが、それはまた別の話だった。




 ちょっと予定より長くなってますが、次かその次の話かでエピローグ2、地球編に行きます。悟飯の家に遊びに行ったり父親とブルマと3人で服買いに行ったりします。

 コルド大王と組む前のサイヤ人の話は独自解釈です。
 戦闘民族がいきなり自分達で惑星売ろうとして上手くいくか、というと微妙だろうなあと思ったので、この物語だとこういう感じになりました。
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