あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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5.彼女が彼と出会う話

 ついに3時間が経過するも、悟空は現れない。

 

 

「やっぱり現れなかったじゃねえか!」

 

 テンションが上がったナッパは戦闘服を脱ぎ、半裸となった。

 その姿を見た少女が赤面する。

 

「やっぱり凄い身体……」

「ナッパ!! 俺の娘に汚いものを見せるんじゃない!!!」

「す、すまねえお嬢……」

 

 ガチギレした父親に怒鳴られたナッパが慌てて戦闘服を着直し、

クリリン達との戦闘が再開された。

 

 戦況は一方的で、尻尾を握られても動じないナッパを相手に成すすべもない3人。

 

 

 ナッツはその中で、積極的に戦おうとしない悟飯に苛立っていた。

 

(あいつ、カカロットの息子って聞いたけど、本当にサイヤ人なの? 

 尻尾も無いし、さっきから怯えて逃げてばかりじゃない。つまらないの)

 

 そしてピッコロがナッパの攻撃から悟飯を庇い、その命を落とす。

 

「死ぬなよ……悟飯……」

「ピッコロさーん!!!!!」

 

 3人の中で最も強かったピッコロの死に、ナッツはため息をつく。

 

 

(私の相手はあの2人か……毛の無い奴は危ない技を使うからすぐ殺すとして、

 それで残るのはあの情けない奴。すぐ終わりそう)

 

「うわああああーーーーっ!!!」

 だがその時、悟飯の戦闘力が急激に高まり、その場の全員が驚愕する。

 

「戦闘力2800だと!?」

「魔閃光ーーーーーっ!!!!」

 

 両掌を額の上で組み合わせて放ったその一撃は、ナッパには際どいところで弾かれてしまうが、

 

 

「い、今、戦闘力2800って……あいつが……? やるじゃない……!」

 

 見ていたナッツの心には、強い衝撃を与えていた。少女は目を輝かせる。

 スカウターに表示されたその戦闘力は地球の戦士達の誰よりも高く、限りなく彼女に近い。

 

 そして彼は、彼女と同じくらいの歳に見える。

 

 両親も、ナッパも、ラディッツも、そして他のフリーザ軍の戦士達も、彼女の周りにいるのは

大人ばかりで、同年代の人間は誰もいなかった。その事実を、今改めて気付かされた。

 

 理由も判らず、少女は思わず歩き出す。驚き何か言おうとするナッパの横を通り過ぎ、

気が付いた時、ナッツは少年の前に立っていた。

 

 今の一撃で疲弊したらしく、肩で息をつく少年が、ナッツを見る。

 

 近付いて判ったが、彼女の方がわずかに背が高い。その事実に、何か勝ったような気分になり、

それはともかく話し掛けようとして、ナッツは重大な事実に気付く。

 

 

(こういう時、何を言ったらいいのか、わからないわ……!)

 

 彼女は自分と同年代の戦士など見た事が無かった。

 

 背は低くとも、グルドとか、さっきの見えない力を使うチビとか、あいつらは大人だろうと、

何となく見て判った。だが、目の前の少年は、正真正銘、自分と同年代だ。

 

 彼女の両親は、戦いについてのあらゆる事や、目上の相手への礼儀作法については

教えてくれたが、こういう場合の立ち居振る舞いについては、全く教わった覚えが無かった。

 

 ぶっちゃけ両親のどちらもそれについては知らなかったので、教えようがない。

 その知識が必要になる局面があるとも、思われていなかった。

 

 

(どうしたらいいの? 黙りこくって変な奴だと思われたらどうしよう? 

 いっそいきなりパワーボールでも使って、力の差を見せつけた方がいいのかしら?)

 

 とりあえず相手を怯えさせれば有利。父親の教えだった。

 

 縋るような、助けを求める目で、ナッツは父親を見る。

(父様、教えてください……!)

 

 

 視線を向けられたベジータは普段の娘の言動から、真剣にその意図を察しようとする。

 ナッツが欲しがるものや望むものといえば、戦闘に関するもので間違いない。

 

(私が殺していいですか、と聞いてるんだろうか? わざわざ確認するなんて、行儀のいい娘だ)

 

 笑顔で親指を立て、頷いて見せた。

 

 

 

 父親の反応を見て、ナッツは覚悟を決めた。

 

(戦闘力は多少落ちるけど、仕方ないわね……)

 

 最初が肝心だ。月を作れるサイヤ人は一握りと聞くし、逆の立場なら自分は目の前の相手を

深く尊敬して忠誠を誓うだろう。

 

 少年が驚き慌て、大猿になった自分の前に跪く光景が脳裏に浮かぶ。

 あれ、なんかそれ違わない? と一瞬思うも他に良い考えもなく。

 

 ナッツは掌を上に向け、満月をイメージしながら力を集中する。

 

 少女が歴史を変える2秒前、目の前に立ったまま何も言ってこないナッツの様子を

不審に思った悟飯が口を開く。

 

 

「あの……君は?」

 

 悟飯の方も山奥育ちで、物心ついてからはすぐに叔父に誘拐され、助けに来た父の友人にも

誘拐された挙句にサバイバル生活と修行を強要され、同年代の友達などいなかった。

 

 だがさすがに母親であるチチの教育の分、ナッツよりは常識を心得ていた。

 

 声を掛けられたナッツは、単純な見落としに気付き、冷や汗をかく。

(名前! そうか、まずは名前ね! 焦って肝心な事を忘れていたわ……!)

 

 まだお互いの名前すらも知らないのだ。恥をかく所だったので、一つ借りを作った形になる。

(こいつ、戦闘力は私より下でも、こうした事に手慣れてるのかしら……)

 

 

「わ、私の名前はナッツ! サイヤ人の王子、ベジータ父様の娘よ!」

 

 胸に手を当て、王族っぽい高貴で華麗なポーズと共に宣名する。

 こういう時にはポーズが大事だと、昔どこかでフルーツパフェをご馳走された時に聞いたのだ。

 

 

 ベジータは無言でスカウターの録画機能をオンにし、その光景を宇宙船に送信して保存する。

 数年後にその映像を見せられ、羞恥のあまり絶叫するナッツについてはまた別の話だ。

 

 

「う、うん……」

 少年は若干引いた様子だったが、ナッツは緊張で気付いていない。

 

「それで、あなたの名前は?」

「ご、悟飯……」

 

 悟飯。サイヤ人らしくない、地球風の名前だ。ライスとか呼んだら駄目かしらと

ナッツは思うも、カカロットや少年の母親が付けたのだろうその名前に敬意を示す事にした。

 

「悟飯、うん悟飯ね。良い名前じゃない」

「あ、ありがと……」

 

 会話は成立した。次は何を話すべきだろうかと、ナッツは考える。

 

 ここまで真剣になったのは、任務の最中、戦闘力10000を超える傭兵に追い掛け回され、

月を作る機会を窺いながら逃げ回った時以来だ。

 

(まず戦闘力を聞くべき? スカウターで見ればわかるけど、変動が激しいし。あの力は

 普段から出せるのかしら)

 

(攻略した惑星の数? 戦闘力からして2つか3つは滅ぼしてると思うけど、聞き返されたら

 私が自慢するみたいで何か嫌だわ)

 

(普段食べてる物? 私は携帯食料があれば生きていけるし、向こうもたぶん

 似たようなものよね)

 

(誰から訓練を? これは当然カカロットよね。私と同じで、生まれた時から英才教育を

 受けてきたに違いないわ)

 

 

 生まれて初めて自分に並ぶ少年と向き合って、聞いてみたい事は次々と浮かんできたが、

何から話したらいいのか、ナッツにはわからず、結果、ずっと悟飯の顔を見つめる形となる。

 

 夜の闇のような、少女の黒い瞳に間近から見つめられ、悟飯は顔を赤く染めて目を逸らす。

 ナッツはその反応を、少年が退屈したものと誤解し、何か話さなければと、慌てて口を開く。

 

 

「ね、ねえ、悟飯。あなた結構強いみたいだけど、何年くらい訓練したの?」

「えっと、1年前から……」

 

 少女の黒い瞳が、驚愕に大きく見開かれる。嘘や冗談とは思わなかった。目の前の少年が

とっさにそんな事を言う人間ではないと、ナッツはこの短い時間で理解していた。

 

「あははははは!!!! 何それ! 凄い!」 

 

心の底から湧き上がる純粋な歓喜に、ナッツは大笑する。

 

 同じくらいの歳で、同じくらいの戦闘力。だがずっと両親から訓練を受け、実戦を

繰り返してきた自分に、不安定とはいえ、たった1年で並ぼうとしている。

 

 とてつもない才能の持ち主と言えた。

 

 

 この少年の実力は、絶対これからまだ伸びるし、それに自分と同じ、黒い瞳と髪のサイヤ人だ。

尻尾だってそのうち生えるだろう。

 

 一緒に戦ったり、競い合ったり、殺し合ったり、色々なことを、この少年としてみたかった。

 

 熱に浮かされたような顔で、ナッツは心の奥から湧き出た言葉を、そのまま口にした。

 

 

「ねえ、悟飯。私、あなたがいいわ」

 

 

 その台詞に、娘の様子を録画していたベジータが真後ろに倒れる。

 数年後にこの映像を見せられ、羞恥のあまり絶叫するナッツについてはまた別の話だ。

 

 

「……え? ボク?」

 

 一方の悟飯は、そんな少女の内心など知る由もなく。

 強くて怖い何か変なサイヤ人の女の子が絡んできたとしか思えなかった。

 

 

「ええ、そうよ。私はあなたと戦いたいし、そうしてもっと強くなりたいの。

 ねえ、あなたもサイヤ人なら、この気持ち、少しはわかってくれるんじゃないかしら?」

 

 彼女と親しい人間は、両親を含め、全員がサイヤ人であり、彼らなりの常識を共有していた。

 悟飯もサイヤ人なら、この気持ちをわかって当然だろうと、ナッツは考えていた。

 

 

 しかし目の前の少年は、半分サイヤ人で、半分は地球人だった。

 

 悟飯は荒野で生きていた頃のことを思い出す。恐竜に追いかけ回されて、身を守るために

必死に逃げて戦って、いつの間にか、その恐竜より強くなった自分がいた。

 

 それに気付いた時、確かにとても嬉しいと思った。ピッコロと修行していた時も、自分が日々

強くなっていくことを、褒められる事とはまた別に、喜んでいる自分が確かにいた。

 

 けど彼は、彼女の言葉を、肯定したくはなかった。

 

 少年は自分を地球人であると考えており、そして何より、目の前のこの少女は、

サイヤ人達の仲間で。

 

 

「……わからないよ。ピッコロさん達を殺したやつらの言うことなんか!」

 

 

 声を荒らげる悟飯。少年の怒りと発言に、ナッツは困惑した。

 あの緑色の奴が、悟飯にとってここまで大事な存在だったなんて。しまった、と思った。

 

 大切な相手を殺されたこの少年は、自分達を決して許さないだろう。

 母親を失った少女は、その気持ちをよく知っていた。

 

 

 取りかえしの付かない過ちに、ナッツは顔を伏せる。

 彼と仲良くなって、一緒に戦えないのは、とても残念だと思った。

 

 

「そうね。じゃあ悟飯。私と戦いましょう。それで私を殺せば、あの緑色の奴の仇が討てるわよ」

 

 自分の認めたこの少年が、自分を殺す気で戦ってくれるというのなら、

それはそれで望む所だった。

 

 勝っても負けても、きっと一生の思い出になるだろうと、ナッツは嬉しくなった。

 

 

 

「違う。違うよ……。そういう事じゃないんだ……」

 

震える声で、悟飯が呟く。

 

 サイヤ人は憎らしいけど、上手く言えないけど、じゃあ殺して仇を討てばいいという、

その考えは間違っていると思った。

 

 

その言葉に、ナッツは悟飯の考えが理解できなくなり、苛立った。

少年が自分を判ってくれると信じていただけに、いっそう腹が立った。

 

 

「違わないわよ。相手が憎いのなら、殺せばいいじゃない……あなた、優し過ぎるのね。

 同情するわ。サイヤ人なのに、地球なんかに生まれたせいで、そんなになってしまって」

 

 悟飯とナッツ、互いに行き違った、2人の眼差しが交差する。

 

「……おかしいよ、君は。殺し合いを、喜んでするなんて」

「おかしいのは、あなたよ。サイヤ人のくせに、まるで頭でも打ったみたい」

 

 

 

 

 

 威嚇の声をあげながら悟飯と睨み合うナッツに、ベジータが声を掛ける。

 

「ナッツ、すまんが、そろそろ下がった方がいい」

「ああ、父様。どうしました?」

 

「近付いてるカカロットの戦闘力が5000と出ている、お前はもちろん、

 ナッパの手にも負えない数値だ」

 

「戦闘力5000!? ……本当だ。悟飯の父親というだけありますね……」

 

 戦闘にも入っていない時点で、この数値。ここからさらに戦闘力が上がるのなら、

父様でも楽しめるかもしれないわ、とナッツは思う。

 

 最強のサイヤ人である父親の本気の戦いが見られるかもしれないことに、少女は心を躍らせる。

 

 その結果起こる事は、当然決まっていた。

 自分の父親が負ける事は、全く想像すらしていなかった。

 

 そして父親が敗者に容赦をする性格ではない事を、彼女はよく知っていた。

 

 

 ナッツは悟飯に向けて、冷酷に笑って見せる。

 もうこの少年とは、殺し合うしかないと、彼女は諦めていた。

 

 

「ねえ悟飯。カカロットが父様と戦って死んだら、私と本気で戦ってくれるかしら?」

「お、お父さんまで……お前……!」

 

 怒りに震えながら、ナッツを睨み付ける悟飯。

 スカウターで戦闘力が上昇するのを確認し、少女は微笑んでみせる。

 

「もうやる気が出てるみたい。わかりやすいわね、あなた」

 

 

 

「……それとナッツ。そいつは危険だ。俺が手足の一本も折ってやる」

 

 娘への心配が半分と、悪い虫への私怨が半分で、ベジータが両手の指を鳴らしながら

悟飯へと近づく。

 

 怯える悟飯。自分の獲物に手を出されないよう、ナッツが口を開く。

 

「父様。過保護すぎます。今までの任務だって、ずっと退屈してたんですよ。

 私も父様と同じ、サイヤ人なんです。強い相手と戦えないことの方が辛いです」

 

 その言葉に、ベジータの目が見開かれる。

 一瞬、ナッツの顔に、彼女の母親の顔が重なって見えた。

 

「そうか……そうだったな……」

 

 しみじみと呟いた、その時だった。

 

 

 

「お嬢、こいつはどうします?」

 全員がその声の主を見る。放置されていたナッパが、暇潰しにクリリンを

追い詰めた所だった。

 

「クリリンさん!」

「そっちのは別に」

「そいつは必ず殺せ。絶対に逃がすな」

 

 ナッパはどこか気の毒そうな顔でクリリンを見る。

 

「運が悪かったな……」

「ちくしょおーーっ!!! 何でオレだけーーーっ!!!」

 

 

「せめて一撃で片付けてやるぜ!」

 そう言ってナッパが放った気功波を、割って入ったオレンジ色の胴着の男が弾き飛ばす。

「遅くなってすまねえ、クリリン!」

 

「ご、悟空……!」

「お父さん!」

 

 孫悟空の到着だった。




Q.2話で会ってるじゃん。
A.本当の意味で出会ったのはこの時って事で……(震え声)


悟飯視点。何か目の前でもじもじしているナッツ。

→声を掛ける。
 面白いからもう少し見ている。

※選択肢を間違えるか、時間オーバーで大猿が3体出ます。
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