酔っぱらったギネはひとしきりバーダックにくっついて甘えた後、彼の膝の上でくうくうと寝息を立て始めた。
バーダックは無言で酒を飲みながら、空いた手で彼女の頭を撫でている。そんな仲睦まじい夫婦の様子を、嬉しそうに見守っていたナッツは、ふと口元に手をあて、小さな欠伸を漏らす。
「ふわぁ……」
気付けば、辺りはすっかり暗くなっていた。少女は目をしょぼつかせる。特に戦闘などが無い時は、夜の9時には寝るよう父様から言われている。たくさん寝ないと、背が伸びないのだそうだ。
(父様、ナッパやラディッツより背が低いのを、気にしてるのよね。確かに背の高い方が大人らしいし、リーチも長くなるけど、別にそんなの関係無く、父様は強くて格好良いのに)
「おや、お姫様もおねむかい? アタシの膝で良かったら、貸してあげるよ?」
からかうように微笑みながら、ぽんぽんと自らの膝を叩くセリパ。アンダースーツから伸びた太腿の白い肌が、焚き火の炎に照らされていた。
正直なところ、ナッツはその申し出に甘えたかった。今日一日で、ギニュー特戦隊とフリーザを相手に激戦を繰り広げたのだ。途中で仙豆やナメック星人の治療による回復を挟んだとはいえ、気分的な疲れまで消えるわけでは無い。
それでも、大好きな母親がそのうち来るはずなのに、他の女性の膝で眠るというのは、何となく抵抗があった。
「ありがとう。けど、母様達が迎えに来るまで起きてるわ……」
「そうかい。まあ、好きにするといいさ」
セリパは少女の内心を見透かしたように、ふっと笑って、髪をかき上げる。その耳元で、きらりと光る金の耳飾りが、ナッツの興味を引いた。少女の視線に気付いたセリパは、耳飾りに手をやりながら口を開く。
「こいつが気になるのかい?」
「うん。きらきら光ってて、綺麗だと思うわ」
けれど、見栄えを気にするのは、あまり戦士らしくないと、ナッツは内心考えてしまう。攻めた星の住民が、同じように身を飾っているのを見た事がある。けれど、そういう人間は大抵弱くて、すぐに死んでしまうものだから、あまり良いイメージは無い。
(母様もああいうのは着けてなかったし、それにあれ、戦闘服とは違って、普通の金属よね? 変身する時に外さなきゃならないのは面倒だわ)
そんな事を考えていたナッツの顔を見て、セリパが面白そうに、にやにやと笑う。
「こういうのはあんまり戦士らしくない、とか、そんな風に思ってるだろ、お姫様?」
驚いた少女が、思わず叫ぶ。
「私の心が読めるの!?」
「違うよ。お姫様がわかりやすい顔をしてたし、アタシも昔はそんな風に考えてたから、気持ちはわかるのさ。けどね、お姫様……」
ずい、と、少女に身を近づけるセリパ。酒のせいか、やや赤らんだ顔に、どこか艶のある表情を浮かべていた。
「女らしい格好をする事が、戦場で役に立つ事もあるんだよ?」
「ど、どんな……?」
思わずどきりとして、しどろもどろになった少女が、反射的にセリパから顔を背ける。彼女は大人の女性が、こうした顔をするのを見た事がなかった。
「戦場でこういう格好をしてると、女目当ての腕自慢の奴らが向こうから襲い掛かってくるのさ。戦う相手に不自由しなくなる」
「おお……!」
言葉と共に、蠱惑的な表情から一変し、戦士らしい獰猛な笑みを浮かべるセリパに、少女は瞳を輝かせて、尊敬のまなざしを向けていた。
(この人、母様とは全然違うタイプの人だけど、格好良いわ……!)
どうして女だと襲われるのかよくわからないけど、たぶん女性の戦士は数が少なくて目立つからとか、そういう理由だろうと、ナッツは一人で納得する。
(あ、これあんまり理解してないやつだね……)
ナッツの内心を察したセリパは少し考えた後、耳飾りを外し、少女に差し出した。
「ほら、ちょっと着けてごらんよ」
「ええっ!? い、いいわよ、私にはまだ早いし、恥ずかしいわ……」
「いいから。子供の頃からずっとそんな感じだと、いざ大人になった時どういう格好したらいいのかわからなくて、一からファッション誌とか読んで勉強する羽目になるんだよ……!」
遠慮し後ずさる少女を押さえつけ、セリパは妙に実感のこもった台詞を口にしながら、自分の耳飾りを着けさせる。
「むう……なんか落ち着かないわ」
耳たぶを押さえながら難しい顔をしているナッツの小さな身体を、セリパは強引にバーダック達の方に向けながら叫ぶ。
「ほら男ども! お洒落したこの子をどう思う?」
「ちょ、ちょっと……!?」
整った顔立ちの少女が真っ赤になってじたばたする姿に、酒の入った彼らは面白がって口々に賞賛を送る。
「似合う似合う! セリパの奴よりよっぽど可愛いんじゃねえか!」
「まさにお姫様だぜ!」
「……(こくこく)」
「あうう……」
褒められて気恥ずかしさに俯くナッツ。その横でセリパは調子に乗ったトーマの頭を小突きながら、口数少なく酒を飲んでいたラディッツに水を向ける。
「ほらラディッツ坊や、アンタはどう思う?」
言葉と共に彼の方へと向けられた少女の姿を、彼はじっと見つめる。背中まで伸びたボリュームのある長い髪に、夜のような黒い瞳。そしてその顔立ちは、雰囲気こそ全く異なるが、子供の頃の彼女の母親に、とても良く似ていた。
酒精の入った頭は、目の前の少女と、記憶の中の彼女を、ぼんやりと重ね合わせていた。子供の頃のベジータ王子の後ろを、どこへ行くにも付いて歩いていた彼女の姿。蘇る思い出の数々に、グラスの酒を一息に呷って彼は絶叫する。
「畜生ー!! せっかくチームに可愛い子が入ったと思ってたのに、あいつ昔から王子の事しか見てなかったじゃねえかー!!」
「ラ、ラディッツ……?」
目を白黒させるナッツと、そんな彼を指差して爆笑するセリパ達。そしてバーダックが無言で肩を抱いて酒を注ぐ。
「ラディッツ、とりあえず飲め。飲んで嫌な事は全部忘れちまえ」
「親父ぃ……!!」
だーっ、と男泣きを始めるラディッツを楽しそうに眺めながら、セリパは回収した耳飾りを着け直して言った。
「どうだい、お姫様? 綺麗な物着けてちやほやされるってのも、なかなか良いもんだろ?」
「うん。けど、皆酔ってたし、面白がって褒めてくれただけのような気がするわ。私なんてまだ子供で、あなたやギネさんや母様みたいに、素敵な大人の人達とは全然違うし……」
口にしてから、ナッツははっと後悔する。サイヤ人の戦士に素敵とか、あんまり嬉しい褒め言葉ではない。まだ未熟な子供の私は、そんな事でも嬉しいと思ってしまうけど、歴戦の戦士であるセリパにとっては、強さや勇ましさを褒めるべきだったのに。気を悪くしていないだろうか。
「ご、ごめんなさい。その、思わず言葉が出ちゃって……」
「いいんだよ。ありがとうね、お姫様」
しどろもどろに謝る少女の頭を、セリパは優しい顔でわしわしと撫でた。
(落ち着いた余裕のある大人の態度! やっぱり格好良いわ……!)
ナッツはますます尊敬の度合いを強くして、きらきらした目で彼女を見つめていた。
なお、後ろから見ると、セリパの尻尾が嬉しそうにぱたぱたと動いているのが明らかだった。見ていたバーダック達がひそひそと語り出す。
「おい、ガチで喜んでるぞあいつ……」
「あのセリパ姐さんが……マジかよ……」
「そっとしておいてやれ。素敵なんて言葉、生まれて初めて言われたんだろうよ」
「……(無言で頭を振る)」
「あいつ昔、戦場で男と間違えられたのをずっと気にしてたからな……」
「聞こえてるよアンタ達!!」
蹴り倒されるトーマ。なおも暴れようとするセリパを、ラディッツが必至に宥めようとする。
そしてバーダックが、酒のグラスを傾けながら、少女に語り掛ける。
「心配するな、姫さん。あんたは将来、とびきり良い女になるさ。オレが保証してやる」
それはまるで、未来でも見たかのように、確信を持った口調だった。ただ彼の能力を知らないナッツや周囲の人間にとっては、子供への慰めとしか思えなかった。
「うん、ありがとう。……良い女って、どんな感じなの? 私は母様みたいな大人になりたいんだけど」
「大体あんな感じだ。ただ、胸は姫さんの方がデカくなるだろうな。こう、ボーンと」
「えっ? いや、母様だって結構大きいのよ……?」
戸惑う少女を前に、バーダックは陽気に笑いながら酒を呷る。その顔は既に、酒精でかなり赤く染まっている。
「……バーダックの奴、あれだけ酔うなんて珍しいな」
「カカロットと孫がフリーザと戦って、ラディッツの奴と仲直りできて、嬉しかったんじゃねえか?」
そんな彼を見て、トーマとパンブーキンがしんみりとする中、ナッツは自分のまだ小さな胸を押さえながら、複雑な顔をしていた。
胸が大きくて喜ぶのなんて、赤ちゃんや子供くらいのもので、母様より大きいとか、戦いの邪魔になるのではないだろうか。
「胸とかどうでもいいんだけど……背丈とか大人らしい雰囲気とかはどうなの?」
言葉の途中で、聞いていたセリパの額に青筋が浮かび、吹き出したトーマが再度蹴り倒されていたが、少女は気付かない。
そしてバーダックの方は、いよいよ酒が回ってきたようで。普段の彼ならば、決して口にしないだろう言葉を叫んでしまう。
「はあ!? 胸はデカい方が良いに決まってるだろうが! なあラディッツ!」
「お、親父、後ろ……」
おずおずと彼の背後を指さすラディッツ。嫌な予感がしたバーダックがゆっくりと振り返ると、そこにはさっきまでくうくう寝ていたはずのギネが、目だけは笑っていない笑顔を浮かべて立っていた。
「バーダック? ちょっと奥いこうか?」
いつの間にか、その手には大きな肉斬り包丁が握られている。一瞬で酔いの醒めた彼は、額に汗を浮かべて言った。
「待てギネ。話し合おう。オレは実際見た事を口にしただけで」
「どこで見たんだよ!? それに子供に何言ってるの!! あたしの胸じゃ不満か!!」
見る間にボコボコにされていくバーダックの姿に、ナッツはラディッツと抱き合ってがたがたと震えていた。
(こ、怖い……)
基本的に良い子だった彼女は、親から怒られた経験など無く、こうした事態に免疫がなかったのだ。そして遠巻きに囃し立てながら事態を見ていたトーマ達が、そろそろ助けに入るべきかと腰を上げた時。
「……何の騒ぎだ、これは」
「はい、おそらく夫婦喧嘩と思われます、ベジータ様。私も初めて見ました……」
ざわめきと共に、戦闘服に身を包んだ一組の男女が、寄り添いながらその場へと歩いてくる。彼らの姿を見たナッツの顔が、ぱあっと明るくなる。この宇宙で、一番大好きな人達だった。
「父様!! 母様!!」
少女は立ち上がり、満面の笑みを浮かべて、二人に向かって駆け寄っていった。
セリパさん、ニーハイとか耳飾りでお洒落しながら全体的に露出高めなのに手先はしっかりブーツとお揃いの白グローブで守ってるあたりが女戦士のファッションって感じで素晴らしいと思うのです(早口)
けど昔はそんなの気にせず男物の戦闘服着てたとかだと更に良いと思います。
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