あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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6.彼女が月を直させる話

 時間は少し遡る。ナッツが悟飯の家で夕食をご馳走になりながら、悟空も交えて談笑していた時のこと。

 

「そういえば、ピッコロが壊した地球の月って、いつ元に戻るのかしら?」

 

 ふと浮かんだ疑問を口にした少女に、丼を抱えた悟空が答える。

 

「あれは確か、神様が直してるはずだぞ」

「えっ、自然に戻るんじゃないの?」

 

 確かに、壊れた物が何もせず元に戻るなんて、おかしいとは思っていたけれど。

 

「ボクはまだ会った事がないんだけど、ドラゴンボールを作ったのも地球の神様だって、聞いた事があるよ」

「地球の神様って、器用なのね……」

 

 ドラゴンボールを作れるということは、ピッコロと同じナメック星人なのだろう。仲良くなったツーノ長老達の事を思い出し、懐かしさに、少女は顔を綻ばせる。それに直接行って頼めば、月を早めに直してくれるかもしれない。

 

「ねえ、その神様って、どこに住んでるの? 一度会ってみたいわ」

 

 

 

 そして悟飯の家から帰って来た、次の日の昼下がり。ナッツは彼女にとっての正装である黒い戦闘服に身を包み、神様の神殿を目指して飛び立った。

 

「目印は凄く高い塔……あれの事ね」

 

 教えられた方角に向けて進むと、すぐにそれらしい建造物が見えてきた。天高くそびえる円柱は直径2メートル程度であまり太くなく、塔というよりは、とても長い柱のように思えた。

 

 雲を貫く塔の先端は見上げても全く見えず、どれほど高いか分からない。ひとしきり感嘆の声を上げてから、少女は首を傾げてしまう。

 

「神様はこの上に住んでるって話だけど……怖くないのかしら? この柱の下の方とか、地球人でも爆弾や大砲で壊せそうなんだけど……」

 

 もし倒れでもしたら、地上の損害も大変な事になるだろう。けど風が吹くだけで揺れそうな見た目の割には、しっかり立っているし。実際は多少壊れても、不思議な力か何かで無事なのだろう。たぶん。

 

 納得した少女が真上に向けて飛ぶと、1分ほどで塔の中腹に、居住スペースらしきものが見えてきた。人の気配を感じて乗り込んでみると、ナッツよりやや小さいくらいの、真っ白い猫が杖を持って、2本の足で立って少女を見ていた。

 

「こんにちわ。あなたが地球の神様かしら?」

「わしはカリン。神の神殿はこの塔の頂上じゃよ」

「そうなの? ありがとう!」

 

 天下一武道会で、2足歩行の喋る竜などを見ていたナッツは、喋る猫にも特に驚く事もなく。手を振って、さらに上空へと飛んでいく。

 

 ほどなくして、少女の姿が見えなくなった頃、隠れていたヤジロベーが物陰から出てきて息をついていたのだが、それはまた別の話だった。

 

 

 

 しばらく飛び続けても頂上は見えず、慣れない真上への飛行に半ばうんざりしていたナッツは、ようやく大きなお椀型の建造物が見えてきた事に笑みを浮かべ、一息に飛ぶ速度を上げる。

 

 そして塔の頂上に出た少女は、空からその全景を見下ろした。遥か上空に浮かぶ神殿は、半径100メートルほどの、白い石造りの円形状の舞台の上に建っていた。

 

 降り立って、物珍しそうに辺りを見渡すナッツ。高い舞台の縁からは、雲すら遠い眼下に見えて、地球全体が見渡せそうだった。

 

(地球人を全滅させるのなら、ここから攻撃を撃ち下ろすのが一番早くて楽でしょうね。あっさり終わり過ぎて、つまらなさそうだけど)

 

 フリーザ軍に所属していた頃の癖で、つい物騒な事を考えてしまうナッツ。もちろん、この住み心地の良い星を壊す気はないのだけど、試しに地上を見下ろしてみる。

 

「むう。高すぎて全然見えないわね……」

「サイヤ人の娘よ。この神殿に何の用だ」

 

 威厳のある声に、少女が振り向くと、年老いて長い杖を持ち、白い法衣を着た背の高いナメック星人が、付き人らしき真っ黒な男と共に立っていた。

 

(今度こそ、本物の神様に違いないわね。服に大きく「神」って書いてあるし)

 

 あれで神様じゃなかったら、ただの不審人物だ。距離を置いているのは、私を警戒しているのだろう。

 

 神という割に、感じられる戦闘力はそれほど高くなかった。私や父様達が地球を攻めた時にも出てこなかったくらいだし、破壊神ビルスのような、強い存在ではないのだろう。

 

 ただ、枯れ木のような外見から漂う、どこか神秘的な雰囲気が、ナメック星で会った、最長老を思い出させた。とても大きかったあの人と違って、すっかり痩せているけれど。

 

 頼みごとをする立場というのもあって、少女は敬意を表して、丁重に礼をする。

 

「初めまして、地球の神様。私はナッツよ。今日ここに来たのは、壊れた月をまた作り直してもらうためよ。あなたならそれができるって、カカロットから聞いたわ。やっぱりたまには、本物の満月が見たいの」

 

(悟空の奴、余計な事を……!!)

 

 少女の言葉を聞いて、地球の神は顔を引きつらせる。ピッコロが壊した月は当然、直す用意はしてあった。地球の神として当然の事だ。サイヤ人の襲来が終わった時に自分が生きていたら、すぐに直すつもりだったのだが。

 

 神は少女の腰に巻かれた尻尾に、苦々しい視線を向ける。それに気付いたナッツが言った。

 

「大猿化した私がカカロットのように、理性を失って暴れるのを心配しているのね? 大丈夫よ。私や父様はエリートだから、変身しても理性があるの。人里離れた場所で軽く運動するだけで、地球人は傷付けないって約束するから」

 

 サイヤ人の少女の言葉に、神は内心考え込んでしまう。確かにあまり長期間、月を壊れたままにはしておけない。お月見ができないとか、男狼が人間の姿になれないとか、月灯りが無いと夜道が危ないとか、地味に困っている人間は結構多いのだ。

 

(その尻尾を、永遠に生えないようにするなら……)

 

 以前悟空に使った手を、駄目元で口にしようとしたその瞬間、神は己の死を確信した。

 

「!?」

 

 地球の神としての能力が、全力で警告を発していた。尻尾は何かと邪魔であろうなどと口にすれば、自分は確実に殺されてしまう。

 

「? どうしたの? どこか具合でも悪いの?」

 

 急に顔色を変え、大量の汗を流し始めた神を、心配そうに見つめるナッツ。

 

「な、何でもないぞ。だが、少し考えさせて欲しい。地球の民の安全を考えると、万が一が……」

「もう、大丈夫って言ってるじゃない」

 

 難色を示す神に、少女は頬を膨らませる。地球の神様が、まさかこんなにケチだなんて。

 

 ふと思いついたナッツは、右の掌を空へと向ける。満月をイメージしながら軽く力を集中すると、掌の上に、眩く輝く球体が浮かぶ。

 

 少女は目を細めて、満足そうにパワーボールを眺めながら、冷酷な笑みを浮かべて言った。

 

「あなたの代わりに、私が毎日、月を作ってあげてもいいのよ。とりあえず、今日はここで月を見たい気分ね」

「馬鹿な、月を作るだと……!?」

 

 長年地球を管理してきた神は、ナッツの作り出した球体が、確かに月の要素を含んでいる事を看破する。長くは保たないだろうが、おそらくはあと一押しで、この場に満月が完成する。

 

 大猿と化した少女の重量で、崩壊する神殿とカリン塔が神の脳裏に浮かび、慌てて叫ぶ。

 

「ま、待て! やめろ! わかった! わかったから!」

「そう? じゃあお願いね」

 

 言ってすぐにパワーボールを消したナッツは、数秒前とはうって変わって、にこにこと可愛らしい笑みを浮かべていた。その様子を見て、神は大きなため息をつく。

 

(本気では無かったのか……まったく、なんて娘だ)

 

「自分で月を作れるなら、最初からそうすれば良かったではないか」

「だから言ったでしょう? 私は自然の月が見たいのよ」

 

 愚痴りながらも、神は神殿の中から、小さな月の模型を持ち出してくる。本物の月と全く同じ形に、細部まで作り込まれたそれを、興味深そうに眺めるナッツ。

 

 神が手にした杖を振り上げると、模型の月は眩く輝き、サイズを増しながら勢いよく空へと飛んでいく。やがて遥か彼方で一際大きく光ると、太陽の光に掻き消されて、それきり見えなくなってしまった。

 

 何かを探るように集中していた神が、閉じていた目を開いて言った。

 

「よし、これであの月が、以前と同じ軌道に戻ったぞ」

「ありがとう、神様! ところで、今日の月は……」

 

 もしかして、いきなり満月ではないだろうかと、期待に尻尾をぱたぱたと振る少女の質問に、仏頂面の神が答える。

 

「まだ上弦を過ぎた辺りだ。満ちるのは数日先になる」

「むう……仕方ないわね」

 

 言いながらも、嬉しそうな顔で、空を見上げるナッツ。満月も楽しみだし、それまで毎晩、月を眺めて楽しむのも良さそうだ。

 

 そこで用が済んだとばかりに、神殿の中に戻ろうとした神を見て、思い出したように、少女が言った。

 

「そういえば、あなたもナメック星から来たの? 私もこの間、ナメック星に行ったのだけど」

「……そうらしいな。だが私に、そのナメック星の記憶は無い。何百年も昔、気が付くと幼い頃の私は、一人この星にいたのだ」

 

 かつかつと、遠ざかっていく神の後ろ姿に、ナッツは言葉を投げかける。

 

「じゃあ、あなたはきっと、ナメック星の異常気象から逃れてきたのね」

「……異常気象だと?」

 

 軽い驚きを含んだ声と共に、神の歩みが止まった。

 

「ええ。ナメック星は大昔の異常気象で、一度壊滅してしまったの。そこでただ一人生き残った、最長老って人が子供をたくさん生んで、数百年掛けてナメック星を復興させたのよ」

 

 少女の言葉を聞いた神は、驚愕にその身を震わせる。最長老という名前だけは、生き返った直後に、界王様から聞いた事があった。だがあの時は状況が切羽詰まっていて、詳しい話までは聞けなかったのだ。

 

「し、知らなかった……私の両親が迎えに来なかったのは、やはり……」

 

 神は杖を持たない方の手で、しわだらけの顔を覆った。その姿を見て、ナッツの胸にも、悲しみが込み上げてくる。

 

 この地球の神様は、親を失くして、ずっと一人で生きてきたのだ。

 

 両親を失ってしまう悲しみは、痛いほどに理解できた。もし私が一人ぼっちになって、誰も私を愛してくれる人がいなくなったら。自分がどうなってしまうか、わからなかったし、想像すらもしたくなかった。

 

「とても残念だけど、そうでしょうね。あと、ナメック星人には性別がなくて、一人で口から卵を生んで増えるらしいわ」

「し、知らなかった……い、いや確かに、ピッコロ大魔王の奴は、そうして魔族を増やしていたが……」

 

 次々と明らかになっていく真実を前に、地球の神は、自分が数百年生きていながらも、生まれ故郷であるナメック星の事を、全く知らない事に気が付いた。忘れかけていた故郷への郷愁が、強く心に湧き上がって来る。

 

 ピッコロの奴はナメック星に行ったらしいが、奴に頭を下げてでも、話を聞きに行くべきかと、難しい顔で神が考え込んでいたところで、ナッツが爆弾を投下する。

 

「ねえ、神様。生まれ故郷の星に、行ってみたらどう? 長老達もあなたに会えたら、きっと喜ぶと思うのだけど」

「なっ……!!!」

 

 天地が引っくり返らんばかりの衝撃が、神を襲っていた。それは地球の神として、無意識ですら考えていなかった事だった。

 

「い、いいのか……!?」

「? ええ、宇宙船もブルマのお父様がまた改造してくれたし、片道3日くらいで行けるわ」

「今すぐ行く!! いや、ま、待て!? この星の神である私が、地球を留守にするわけには……!」

 

 強く逡巡する神に、ミスターポポがぽつりと言った。

 

「かみさま いってきて」

「し、しかしだな、今までそのような事は一度も……」

 

 そこで彼の方を見た神が、再度驚愕する。ミスターポポが、溢れる涙でハンカチを濡らして号泣していた。

 

 

「ミスターポポ るすばんする。かみさま いままで ちきゅうのため すごくがんばった。がまんしないで いってきて」

 

 

 300年以上の時間を共にしてきた付き人の、心からの言葉に、地球の神は、しばらく目を瞑って熟考し、やがて絞り出すように言った。

 

「では、留守を頼んでも良いだろうか……?」

「かみさま!」

 

 真っ黒な顔に喜びの表情を浮かべるミスターポポの隣で、ナッツも薄い胸を張って言った。

 

「大丈夫よ。私も留守番しておいてあげる。今地球には、強いサイヤ人が4人もいるのよ。こんな星を襲う命知らずはいないし、もし何か来たって、追い返してやるんだから」

 

 自信満々にそう告げるサイヤ人の少女を、神は見下ろして、小さく笑いながら言った。

 

「よろしく頼む。だが私のいない間に、地球を破壊するのではないぞ」

「しないわよそんな事!」

 

 冗談だと、地球の神は楽しそうな笑い声を上げた。数十年かぶりに、そうしたい気分だった。 

 

 

 それからすぐに、北の銀河の統括者である界王に、最悪クビを覚悟しながら念話で確認を入れた所、軽いノリで了解の返事が来て、神は拍子抜けしてしまう。

 

 代理の者にきちんと業務を引き継ぎして、念話で定時連絡をして、何かあった時にすぐ戻るなら、一ヶ月くらいは、管理する星を離れても問題ないから、楽しんで来いという事だった。

 

 手元の業務を急ぎで終わらせつつ、ミスターポポへの引継書を作りながら、まだ見ぬナメック星への旅へと、神は思いを馳せていた。

 

「うーむ、ナメック星への土産は何がいいだろうか……どこか菓子の美味い店でも知らんか?」

「知ってるけど、ナメック星人は、そういうの食べないらしいわ。水と太陽の光だけで生きられるって言ってたわよ。あと太陽も3つあるの」

「し、知らなかった……では土産は地球の水がいいのか……? 太陽の光もどうにかして……」

 

 生真面目に考え込む神に、ナッツはあっさり言った。 

 

「あなた自身が一番のお土産じゃないの? 最長老と同じ、異常気象を生き延びたナメック星人だもの。きっと凄く歓迎してくれるはずよ」

「そ、そうなのか……?」

 

 ナメック星人達から大歓迎を受ける自分の姿を想像し、神は思わず、頬を緩めてしまう。こんな嬉しい気持ちになったのは、いったい何年ぶりだろうか。

 

 

 

 これから2日後、地球の神はミスターポポ達に見送られ、ブルマから提供された宇宙船で、年甲斐もなく胸を躍らせながら旅立った。

 

 到着したナメック星で、ムーリを始めとする長老達は、最長老に近い年齢の、見た事の無いナメック星人の姿に驚愕する。

 

「ま、まさか、あなたはスラッグでは……? いや、ですが、あなたは我々と同じ、純粋な善の心を持っておられる……」

「私は、物心ついた時には地球にいて、自分の名前も覚えていないのだ」

「最長老様から、聞いた事があります。ドラゴンボールをも作れるあなたは、カタッツという龍族の者が、他の星へと避難させた子供なのでしょう」

 

 その名前を聞いた瞬間、神は古びた記憶の片隅から、確かに同じ名前が浮かび上がるのを感じた。ゆっくりと、噛み締めるように、その名を呟く。

 

「カタッツ。それが、私の親の名前なのか……」

 

 それから神は3週間ほど、ナメック星人全員による、心からの歓待を受けながら過ごした。見慣れぬ多くの植物による、緑豊かな光景は、不思議と懐かしく、心地良いものだった。

 

 ぜひ最長老になって欲しいと誘いも受けたが、地球の事があるからと、神は丁重に辞去した上で、地球の話に興味を持った、デンデと共に帰還した。

 

 自分の寿命が近い事を悟っていた神は、この後デンデを正式な後継者として、かつて自分も学んだ、神としての教えを施していく事になる。

 

 二人の年齢は遥かに離れていたが、神がデンデに向ける穏やかで優しい眼差しは、まるで自分の子供を見るようだったという。

 

 

 

 時間は少し遡る。ナッツが地球の神を訪ねた、その夜のこと。

 

 自室の窓を開けた少女は、空を見上げて表情を明るくする。

 

「父様! 月が見えます!」

「ああ。綺麗なものだな」

 

 ナッツはこの時のために借りてきた、子供向けの天文学の本を開いて、載っている月の写真と、空に輝く実物を見比べる。

 

「満月になるまで、あと4日みたいですね。楽しみです」

 

 本物の満月なんて、もうしばらく見ていない。その美しさと、それを見上げて変身する時の、怒れる獣のような荒々しい激情と、溢れんばかりの力に満たされる感覚を思い出して、うきうきしていた少女は、ふと気付く。父様はまだ、尻尾が生えていないのだ。

 

 少し気まずそうに、娘は質問する。

 

「父様は、満月の時どうします?」

「この家に残るつもりだ。変身していないオレが近くにいたら、気になって好きなように動けないだろう? オレの事は気にせず、思う存分暴れてこい」

「わかりました、父様!」

 

 そこへ大量のお団子が乗った皿を持って、ブルマが部屋に入ってきた。

 

「ナッツちゃんの言ったとおり、本当に月が戻ってるのね。テレビでもやってたわよ」

 

 漂ってくる甘い匂いに、ナッツが顔を輝かせる。

 

「何これ? 凄くおいしそう!」

「月見団子って言うのよ。本当は十五夜の時に食べるんだけど、まあ、ナッツちゃんは予定があるみたいだから……」

 

 満月の夜の少女の予定について、ブルマは夕食の席で聞いていた。大猿になって暴れに行くという話に、一時は顔を引きつらせたものの、悟空と違って理性はあり、人里離れた場所で行うという事と、普段から訓練をしておかないと、いざという時に理性を保てなくなると、ベジータから説明されて納得した。

 

 そして何より、ナッツが尻尾を千切れんばかりに振りながら、とても嬉しそうにしていたので、罪の無い人を殺しに行くとか、そういう事でもない限り、できる限りは叶えてあげたかった。

 

「どこに行くか決まってるの? わかってるとは思うけど、目撃者が出るような場所は駄目よ?」

「うん。前に父様とカカロットが、戦った辺りにしようと思ってるんだけど」

「あの辺なら、確かに人目も無いでしょうね……」

 

 主だった都市から遠く離れており、人が住めるような場所ではなく、ただの荒野で利用価値も見るべき物も無い。とはいえ、物好きな人間が訪れる可能性もゼロではない。ブルマは2.3件電話を掛けてから、少女に笑い掛ける。

 

「大丈夫よ。念のため、うちの会社で土地を買い上げて、誰も近づかないようにしておくから。好きにするといいわ」

「ありがとう! ……でもお金は大丈夫なの?」

「オレも出すか? 足りるかはわからんが……」

 

 心配そうな父親と娘の前で、胸を張って笑うブルマ。

 

「いらないわ。カプセルコーポレーションは、世界一の大企業よ。父さんや私の特許でいくらでもお金が入って来るから、むしろ使って世の中に戻さないと、皆が迷惑するのよ。今回の件も、向こうの方が喜んでたくらいだもの」

「……向こうって誰だ」

「あの辺の土地を管理してる、政府関係の人達よ」

 

 さらっと口にするブルマに、感心した顔のナッツと、もう実質、こいつが地球の支配者なんじゃないかという目を向けるベジータ。

 

 

 それから三人は、大量のお団子に舌鼓を打ちながら、新しく作られた月を見上げていた。

 

 戦場でも無い場所で、落ち着いた気分で月を眺めるのは、父親と娘にとって、ずいぶん久しぶりの経験だった。

 

 以前の時は、母親もいて、幼いナッツを抱き上げていた。遠征先での、本格的な侵攻の前夜。戦闘も無い夜の静けさの中で、満ち掛けた月をただ見上げていた。あの頃が、彼らの人生の中で、一番幸せな時期だった。

 

 思い出して、ナッツの黒い瞳に、うっすらと涙が浮かぶ。少女が目元に手をやろうとしたところで、ブルマがハンカチで、その涙を拭った。驚いた顔の少女に、お団子の皿を差し出して、優しい声で告げる。

 

「ほら。まだまだいくらでもあるから、全部食べちゃっていいわよ」

「うん、ありがとう……」

 

 少女はお団子を口にして、それから隣のブルマにもたれかかって、肩をくっつけた。ブルマの方も身を傾けて、肩を寄せ合う形になる。

 

 それを見た反対側の父親が、焦った顔でぐいぐいと身を寄せてくるのが、何だか少しおかしくて、ナッツとブルマは、顔を見合わせてくすりと笑うのだった。




 ユンザビット高地で食べ物ろくに無くて辛かった発言とか、神様ナメック星の事知らな過ぎ問題。いや多分日照時間も短かったんでしょうけど。

 ナメック星編の後、原作でその辺りの事を神様に教えてくれそうな人が誰もいないんですが、一応自分はブルマの家でナメック星人達が暮らしてた時期に、故郷を想った神様が彼らを訪ねてナメック星の事とか聞いてたんだろうと解釈してます。

 で、この話ではナメック星がまだ残ってるのでこういう流れになりました。何も知らないまま寿命が近くなって、地球のためにピッコロさんと融合するのは、神様的には満足だったんでしょうけど、もう少し神様個人に救いがあっても良いと思ったので書きました。


 デンデもドラゴンボールが作れるという理由でいきなり地球の神を任されてましたけど、たぶん原作ではミスターポポとピッコロが死ぬほど頑張って仕事教えたんだと思います。この話では前任者からきちんと引継してもらいました(遠い目)


 前回のミスターサタンの活躍と比べると、今回はこう、しっとりしたジャンル違いの話でして、あっちを気に入ってくれた方には申し訳ないのですが、どっちも自分の好みでして、今後も書きたい物を書いていって、自分以外にもそれを好きになってくれる人がいたらいいなあ、というスタンスで書いていくつもりですのでご了承ください。

 あと前回はたくさんの評価と感想とお気に入りをありがとうございました。皆サタンそんなに好きかと思いました。自分も割と好きです。あのシーンのサタン、ナッツも悟飯も警官隊も、強盗まで含めてあの場の全員を救ってるって読み返して気付いてこの人凄えと思いました。こんなのもう一度書けるのか自分って気分になってますが、まあ何とか頑張ります。

 それと誤字報告も、ありがとうございます。「満面の笑顔」が誤用って今日初めて知りました。ただ、これを「笑顔→笑み」に直すと箇所によっては読む時にテンポが悪くなって、かといって代わりの良い表現も思いつかなかったので、申し訳ないのですが報告があった箇所の一部はそのままにしています。今後は使わないようにしますのでご了承ください。


 次の話は、連休終わったのでちょっと先になるかもです。書く内容は大体決まってますので、気長にお待ちくださいませ。
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