父親と共に地球に住み始めてから、およそ3ヶ月が経過して。6歳になったナッツは、概ねとても満足な日々を過ごしていた。
毎朝午前中は、父様と一緒に、重力室で訓練をする。かなり効率が良いトレーニングなのだけど、まだ身体が十分成長していないからと、午後からは別の事をするよう言われていた。
だいたい週に3回くらいは悟飯の家に行って、一緒に遊んだり、たまに勉強を教えてもらったりもする。チチさんに料理を習う事もある。
初めて一人で作った中華まんは、彼女の作る物には全然及ばない出来だったけど。悟飯はおいしいって言ってくれたし、父様もブルマも、凄く喜んで褒めてくれたのだ。
悟飯の家に行かない日は、家にあるたくさんの本を読んだり、飼われている動物達に餌をあげたり、ブルマに連れられて、街を色々見て回ったりする。本屋とか服屋とか、美味しい食べ物のお店とかだ。
ときどき、父様も訓練を休んで来てくれる事もあって。この間は悟飯も一緒に、遊園地に連れて行ってもらったのだ。
毎日3回、お腹いっぱい食べさせてもらえる食事はとても美味しいし、甘いおやつをもらえる事もある。メディカルマシーンのような、色付きの熱いお湯に入れるお風呂は、入ると疲れがお湯の中に溶けていくようで、とても気持ちが良い。
夜は着心地の良いパジャマを着て、大きなふかふかの温かいベッドで、父様と一緒にぐっすり眠る。地球に来たばかりの頃は、母様がいないのが寂しくて、夜中に泣いてしまう事もあったけど。今はもう、あまりそういう事はない。
月に一度の満月の夜は、アンダースーツとブーツだけを身に着けて、一晩中荒野で過ごす。戦闘があるわけでもないから、最初は裸で行こうとしたのだけど、ブルマに物凄く怒られて、最低限の衣服は、着けて行くよう言われたのだ。
周囲一帯は、ブルマが買い上げた土地なのだけど、一応近くに地球人がいないか、目を閉じて集中して、念入りに気配を探って、心の準備も済ませてから、目を見開いて月を見上げる。大猿の姿で力を振るっている時は、自分が確かにサイヤ人であると、強く意識する事ができて。
父様や母様だけでなく、地獄で会ったお爺様や、バーダック達を始めとする大勢のサイヤ人達も、同じ姿で戦って、多くの星を滅ぼして、宇宙中にその名を轟かせたのだと思うと、同じ血を引いている事が、とても誇らしかった。
そう。ナッツは概ね、とても満足していたのだ。ただ一つの事を除いては。
時刻は昼の3時頃。父親の焼き上げたおやつを、大喜びで食べていたナッツが、ふと真剣な顔で言った。
「……父様、少しいいでしょうか?」
「ああ。どうした、ナッツ。……何かまずい所でもあったか?」
お好み焼きの生地を追加で作りながら、エプロン姿のベジータは不安そうな顔で応えた。娘の手料理に感銘を受けた父親は、自分も料理を作って食べさせるという、妻との約束を守るべく。買ってきた料理本を片手に、材料も揃えて練習をしていたのだ。
キャベツをみじん切りにする。皮を剥いた人参を刻み、新鮮な豚肉をコマ切れにする。山芋の皮を剥き、それらを全て、小麦粉と水、天かすと卵、刻み生姜と混ぜ合わせる。
そして鉄板の上でじっくり焼き上げ、仕上げにソースと青海苔とおかかを掛ければ完成だ。マヨネーズはお好みで。慣れればもっとテキパキと、ハイテンションで作れそうな気もする。
材料もきちんと計った上で、料理本に書かれていた手順は、全て正確に実行した。娘に出す前に味見もしたが、その時に何か、見落としてしまっていたのだろうか……?
「いえ、とても美味しかったのですけど、それとはまた、別の話なんです」
「? どうした、何でも言ってみろ」
父親からそう言われるも、言いづらそうな感じで、少女は口を開く。
「その、地球に来てから、全く実戦をしていません。この際、弱い相手は嫌だとか、贅沢は言いませんから、どこかの星で戦いたいなあって……」
物心ついて以来、彼女はほとんど常に戦いの中で生きてきたし、戦闘民族として、それに喜びを感じていた。
今の穏やかな暮らしは、もちろんとても心地が良いけれど、このままでは戦いの勘が鈍ってしまいそうで、身体がうずうずしてしまうのだった。
悟飯や父様、カカロットとも模擬戦はしているけれど、お互い殺す気の無い戦いは、勉強にはなっても、あくまで練習であって。解消されない闘争本能を、ナッツは持て余しつつあった。
「攻める予定だった星のリストもありますし、二人でちょっと回ってきませんか?」
娘の要望を聞いて、父親は考え込む。ナッツが喜ぶなら、適当な星を滅ぼす事に異存は無いが、銀河パトロールに目を付けられると、厄介そうだと思った。
銀河パトロールといっても、フリーザ軍を恐れて野放しにしていた程度の組織で、戦力的には全く大した事はない。が、銀河レベルで犯罪者を取り締まっており、その組織力や情報収集能力には、侮れないものがあった。
フリーザ軍を抜けた事は、既に知られているだろう。その上で自分達が新たに犯罪を犯せば、地球にまで奴らが押し掛けてくる可能性があった。
もちろん返り討ちにするのは容易いが、1人や2人殺しても、また来る事は明白で、そんな事を繰り返していれば、住まわせてもらっている、この家に迷惑が掛かるかもしれなかった。
一ヵ所に止まらず、自由気ままに適当な星を襲いながら、放浪するような生活ならば、こうした心配は要らなかったのだが。
父親は最近の、娘の様子を思い出す。この星に来てから、ナッツは毎日楽しそうで、笑っている時の方が多くなった。歳の近いサイヤ人の友人もできて、いつの間にか、料理まで作れるようになっていた。
あのガキの事を抜きにしても、食事の質は最高で、環境も良く、サイヤ人への恐怖や偏見のない、この地球以上にナッツが幸せに暮らせる星は、おそらく宇宙に存在しないだろう。
特に金に困っているわけでも無いのに、星の侵略などして、地球でのナッツの生活を、台無しにするわけにはいかなかった。
だが。同じサイヤ人として、娘の気持ちも、とても良く理解できるのだ。戦いたい盛りの子供が、いきなりこんな平和な星で、戦いから離れて暮らせと言われても、戸惑ってしまうだろう。
彼自身は、カカロットという競い合える相手を見つけた事もあって、実戦への欲求は収まっていた。
悟飯の奴が、もう少し戦いに積極的だったら良かったのだが。一瞬考えて、慌てて頭を振る。あんなガキに、まだナッツを任せるわけにはいかない。
理由を伝えて、我慢してくれと頼めば、物分かりの良いナッツは、おそらく聞いてくれるだろう。だが父親として、娘のしたがっている事は、可能な限りさせてやりたかった。
何か、良い考えは無いだろうかと、父親は追加のお好み焼きを作りながら考えるも、すぐに浮かんで来るはずもなく。とりあえず焼けた分を、娘の皿へと乗せながら言った。
「……そうだな、考えておくから、いつでも出られるよう準備しておけ。あと熱いうちに食え」
「はい、父様! 凄くおいしいです!」
自分の作った料理を、嬉しそうに頬張る娘を見て、たまにはオレが食事を作っても良いかと、照れ混じりの笑みを浮かべながら、父親は思ってしまうのだった。
父親はそれから一両日悩み抜くも、なかなか良い考えは浮かばない。
切羽詰まった彼は、一人でこれ以上考えても仕方ないと、家主であるブルマに相談を持ちかけた。夕食後、彼女の自室で勧められた缶ビールを片手に、ありのままを説明する。
説明しながらも、あまり色良い言葉はもらえないだろうと、彼は考えていた。以前ナメック星で初めて会った時、彼女はナッツが星の侵略をしていた事を、酷く怒っていたのだ。
ところが、同じくビールとツマミを口にしながら話を聞いていたブルマは、彼らの事情を聴き終ってから、あっけらかんと言った。
「要は、ナッツちゃんが戦いたいって話でしょ? させてあげても良いんじゃない?」
「……意外だな、お前はそういうのに、反対すると思っていたが」
「孫くんだって、いつも強い奴と戦いたがってたし、サイヤ人って、そういうもんなんでしょう? もちろん、きちんと真面目に生きてる人達に、迷惑を掛けないんだったらの話だけどね」
新しい缶ビールを開けて、空のグラスに注ぎながら、ブルマは笑って続ける。
「フリーザ軍はもう抜けたんだから、星の侵略にこだわる必要は無いでしょう? レッドリボン軍とか、ピッコロ大魔王とか、倒しても誰も文句を言わないような、悪い奴と戦えば良いのよ」
「誰だそいつら……待て、ピッコロ大魔王は、あのナメック星人の事か?」
「そうよ。正確にはあいつの親だけど。世界征服して、ピッコロ記念日とか作ろうとしてたけど、孫くんに倒されたの」
「何がしたかったんだそいつは……?」
そこでベジータは考える。壊滅させても問題の無い、宇宙の悪の筆頭といえば、少し前まで彼らが所属していたフリーザ軍なのだが。
「フリーザ軍とは、ナッツは戦い辛いだろうな。知り合いが多過ぎる」
生まれてからずっとフリーザ軍の基地で暮らしてきた娘には、かかりつけの医師や住んでいた基地の職員を始めとして、親しく付き合ってきた人間は、かなり大勢いる。
母親が死んでしまってから、心を閉ざしたナッツはそうした付き合いを一切断っていたのだが、彼らの方が娘を心配していたのは、傍で見ていても明らかで。あのギニュー特戦隊ですら、戦いの手は抜かないまでも、同情する素振りを見せていた。
復讐を果たして母親とも再会して、すっかり明るくなった今のナッツが、優しくしてくれた昔の知り合いを殺せるかと言えば、否だろう。娘が嫌がる事を、させるつもりはない。
だが、フリーザ軍の悪人を狙えと言われても、困ってしまう。悪人や賞金首は、それこそ星の数ほどいるのだが、大抵はどこかに潜伏している。
自慢ではないが、星を丸ごと潰すのならともかく、隠れている奴を捜索したり追跡したりする自信は、全く無かった。そんなのは、サイヤ人の仕事ではない。
それを聞いたブルマが、少し考えてから言った。
「あんたの言ってた銀河パトロールって、地球にも来てるのよ。ジャコっていう隊員が、たまにうちにもサボりに来るわ」
「こんな宇宙の果てにまで、ご苦労な事だ」
「その辺のハエの10万匹に1匹は、銀河パトロールの監視ロボットって話よ。以前試しに調べてみたから間違いないわ。こんな星にまで、とんでもない情報収集力よね」
「奴ら、そんな事までしているのか……おい、ブルマ、何を言おうとしている? まさか……」
「そのまさかよ」
ブルマはグラスに残ったビールを一息に呷ってから、ベジータが思わず気圧されるような、凄みのある笑顔で言った。
「悪党共の居場所が判らないなら、あいつらに教えてもらえばいいんじゃない?」
それから数日後の、良く晴れた日の昼下がり。カプセルコーポレーションの広大な敷地内の、木々が生い茂る森の中。
普段着姿のナッツは、涼しげな木陰に横たわって、気持ち良さそうに昼寝をしていた。良い夢でも見ているのか、その表情は穏やかで、尻尾が時折、気まぐれに揺れ動いている。
そこへ飼われている茶色の猫がやってきて、彼の居場所を占領している顔見知りの新参者を見つけると、不機嫌そうな声で鳴いた。それから前足で何度もつつくも、起きる気配が全く無い。
猫はしばらく少女の周りをうろうろしてから、仕方が無いとばかりに、寝ているナッツに引っ付いて丸くなると、そのまま目を閉じて微睡み始めた。
何も知らなければ、それは一人と一匹が穏やかに休んでいる、大変微笑ましい光景だったのだが。
「あ、あれは、特別指名手配犯のナッツじゃないか……まさか地球に来ていたとは……」
隠れて見ているジャコにとっては、まるでいつも通り慣れた道で、いきなり怪物に出くわしたような心情だった。
銀河パトロールの隊員で地球担当である彼は、ブルマから話があると聞いて来たのだが。敷地内に見慣れぬ人間がいるのに気付いて、様子を見ようとしたところで、彼女の素性に気付いたのだ。
ジャコの手にする端末には、データ化されたナッツの手配書が表示されている。冷酷な笑みを浮かべた黒い戦闘服の少女が、今まさに撮影者にエネルギー波を撃たんとしている写真で、生死不問の文字と共に、かなり高額の賞金額と、数々の罪状が記載されていた。
その凶悪犯と、今現在平和そうに寝ている少女とは、まるで雰囲気が違っていたが、特徴的な長い黒髪と、何よりその尻尾が、今や宇宙に数人しか残っていない、凶悪な戦闘民族、サイヤ人である事を示していた。
彼女はまだ子供だが、既に強大な力を持ち、10以上の惑星を一人で滅ぼしている。正面から戦っては到底勝ち目などあろうはずがなく、冷や汗を流すジャコ。
「だ、だが、私が管轄する地球に潜伏したのが運のつきだったな……しかもすっかり油断しているぞ」
腰の光線銃に手を掛ける。意識のある時なら、避けられるか防がれるかしてしまうだろうが、今ならおそらく退治できる。頭か心臓に当ててしまえばいい。
彼は震える手で銃を少女に向けるが、万が一外したら、怒り狂った彼女に殺されてしまうと思うと、全く狙いが定められない。
「ま、待っていろ、凶悪犯め。すぐに本部から応援を呼んで来てやるからな」
小声でそう呟いてから、ジャコは背を向け、乗ってきた宇宙船に戻ろうとする。その瞬間、寝ていたはずの少女が、ぱちりと目を開けた。獣さながらの俊敏さで、音を立てず敵へと向かう。
驚いた猫の鳴き声に、彼が反射的に振り向いた時には、既に至近距離にいたナッツに足を払われ、倒れたところを馬乗りにされていた。
「あ、あわわ……」
怯えるジャコを、手配書に描かれていたのと同じ顔で、少女は見下ろしていた。かざした掌に、赤いエネルギーが収束していく。
「私の寝込みを襲うなんて、いい度胸じゃない」
彼女がフリーザ軍にいた頃は、敵地の中、一人で夜を明かす事も珍しく無かったし、睡眠中に襲撃を受けるのも日常茶飯事だった。その結果、たとえ熟睡している間でも、敵意や害意を向けられた瞬間、すぐに目を覚ます事ができるようになっていた。
「や、やる気か!? 考え直せ! 私は銀河パトロールのエリート隊員だぞ!」
この凶悪犯が、今更そんな言葉に耳を貸すとは思えないが、それでも死にたくない一心で彼は叫ぶ。その瞬間、少女はきょとんとした顔になった。
「……あなた、銀河パトロールなの?」
「そ、そうだ! 私を殺せば、本部から討伐隊が派遣されてくるぞ! メルスとか、そこそこやる奴が……」
言い終わる前に、少女は彼の上から飛び退いた。戸惑うジャコに向けて、焦った顔のナッツは深々と頭を下げる。
「ご、ごめんなさい! 私ったら、お客様になんて事を!」
口調まで変わって、先ほどまでの恐ろしげな様子が嘘のように、あわあわと可愛らしく狼狽えている少女の変化に、ジャコは頭の理解が追いつかず、ただ呆然としていたのだった。
それから立派な応接間へ案内されて。好物のミルクとチーズを振舞われるも、落ち着かない様子で高そうな椅子に腰掛けているジャコ。
彼の向かいには、笑顔でリラックスした様子のブルマと、真剣な面持ちのサイヤ人の王子が座っていた。これから何か、話があるらしいのだが。
(ベ、ベジータまでいるのか……娘の軽く十倍以上の罪状持ちで、あのフリーザ軍の中でも、指折りの危険人物だぞ……?)
内心怯えながら、今すぐ帰りたいとジャコは思うも、部屋の入口付近には、お盆を手にしたナッツが、緊張した様子で立っている。
諦めて話を聞いていた彼は、ベジータの話が進むにつれて、次第に驚きの表情となっていく。
「……つまりお前達は、もう悪事は働かず、銀河パトロールに協力するという事か?」
「ああ、オレと娘は、今後はこの地球で平和に暮らす予定だ。手は出さないで欲しい。その代わり、殺していい賞金首や犯罪者の居場所を教えてもらえれば、オレ達が倒しに行ってやる」
ジャコは悩ましげに唸る。凶悪犯との取引は、前例がないわけではない。情報の提供や協力と引き換えに、罪を減免する事は、よくある話だ。
ただ今回の場合、問題はベジータ達が、かなりの凶悪犯だという事だ。例えばギニュー特戦隊が、いきなり銀河パトロールに投降してきたとして、信じる奴がどれほどいる? よしんば本気だったとしても、彼らの罪状の数からして、その減免には余程の貢献が必要となるだろう。
そんな彼の考えを見通していたかのように、ベジータはテーブルの上に、小型のデータチップを置いた。
「これは……?」
「フリーザ軍は抜けてきた。手土産として、オレが知っている情報は全て教える。持って帰って、本部で価値を判断すればいい」
ジャコは思わず、身を乗り出した。フリーザ軍の内部情報。当然ある程度は銀河パトロールでも集めているが、ベジータは子供の頃から20年以上もフリーザ軍に所属しており、あのギニュー特戦隊にも並ぶ、最上級の戦闘員だ。
持っている情報の質も量も、外部からこっそり探れる物とは、比べ物にならないだろう。喉から手が出るほど、本部は欲しがっているはずだ。
念のため、手持ちの端末で、ざっと内容を確認する。フリーザ軍の主だった戦力配置や、各惑星の基地の図面、命令書や今後の侵攻予定など。あまり難しい事は理解できないが、何となく本物らしいオーラが伝わってきた。
「返事は、本部の判断を仰いでからになるが……」
「それでいい、よろしく頼む」
そんなやり取りをしている父親を、ナッツは尊敬の眼差しで見つめていた。
(銀河パトロールを味方に付けるなんて、流石父様だわ!)
フリーザ軍の仕事をしていた頃は、見かけた事は無かったから、名前くらいしか知らないけれど。名前のとおり、銀河規模の警察組織という事だ。
数日前に父様とブルマから話を聞いて、いつ家に来るか分からないけど、もし出会ったら、ご挨拶して案内しなさいと言われていたのだ。
ナッツにとっては、戦う相手が誰だろうと構わなかった。ただもちろん、強い相手の方が嬉しいし、そうした奴らを倒して強さを見せつけていけば、サイヤ人こそが宇宙最強の戦闘民族だと、いずれ宇宙の誰もが理解できるようになるはずだ。
(けど、さっきは殺そうとしちゃったし、私のせいで、取引が駄目になったりしないかしら……)
不安になった少女は、帰ろうとしていたジャコに声を掛けて、再び頭を下げる。
「あの、先程は本当にごめんなさい。銃を向けられたもので、つい……」
「……気にするな。私も事情がよく分かっていなかったからな」
ベジータ達がいるなら最初から言っておけと、さっきブルマに文句を言ったのだが。そしたらあなたビビって来なかったでしょうと指摘されて、全く言い返せなかったのだ。
それにしても。彼はナッツの姿を、まじまじと見つめる。サイヤ人は戦闘そのものに喜びを感じる凶悪な種族だと聞いていたが、初対面の時はともかく、今の彼女は、ただの育ちの良い子供にしか見えなかった。
子供時代が長く、それは相手を油断させるための擬態という情報もあったが、少なくとも、話に聞く一般的なサイヤ人ならば、演技ですらこんな言動はできないだろう。
「この二人は大丈夫よ。もう3ヶ月も地球で大人しく暮らしてるんですもの。だから超エリート隊員のあなたから、何とか取り成してもらえないかって思ったの」
ブルマの言葉を受けて、ジャコは意を決した様子で言った。
「地球の住民からの保証もあるし……お前達が本当に更生するつもりなら、私からも本気で上に掛け合ってやろう」
「はい、ありがとうございます!」
更生ってどういう意味かしらと少女は思ったけど、それは後で調べてみる事にした。
それから更に数日後。本部から戻ってきたジャコは、難しい顔をしていた。
「一応信じてはもらえたのだが……引き換えに、この星を攻略させるよう言われた」
彼は端末を開き、ベジータ達に示す。東の銀河の凶悪犯達が根城にしている、難攻不落の惑星の資料だった。
惑星全体に無数の防衛施設が設置されており、宇宙船やポッドで近づこうとしても、全て撃墜されてしまう。そして地下深くにいくつもの要塞が存在し、軌道上からの攻撃も物ともしないそこに、一騎当千の凶悪犯達が大勢潜んでいる。
正面から攻略するなら、数十隻の宇宙艦隊で防御施設を潰した上で、犠牲を覚悟で地上戦力を送り込むしかなく、膨大な数の犠牲が出ると試算されており、無数の犯罪者達が拠点にしていると分かっていても、おいそれとは手が出せない場所だった。
「……正直私は、断っても仕方ないと思っている」
こんな星の攻略を命じるなど、死んで来いと言うのと同じだった。済まなそうな顔の彼を他所に、目を輝かせ、感嘆の声を上げるナッツ。
「凄い! この星、全部私達で片付けてきて良いんですよね!」
「えっ」
まるで遊園地にでも行くような様子で、大はしゃぎする少女の頭を撫でながら、父親は冷静な目で資料を確認していた。
「ブルマ。オレ達のポッドを、できるだけ頑丈に改造してくれ。着陸さえできれば、あとはどうにでもなる」
「必要になると思ったから、前もって準備はしておいたわ。ついでに速度も上げておくから、明日の朝まで休んでおいて」
「助かる。ああ、壊したくない物や、殺したらまずい奴はいるか? オレの方で、できる限りは配慮する」
父親と娘の顔に、怯えや恐怖、気負いといったものは欠片も無い。そこでジャコは、二人が滅ぼしてきた惑星の数が、合わせて100を超える事を思い出す。彼らにとっては、多少手応えがありそうだというだけで、今までしてきたのと、大体同じ事なのだろう。
あの星にいるのは、手の付けられない凶悪犯共のはずなのだが。これからこの親子に押しかけられる彼らに、ジャコは心底同情してしまうのだった。
それからの事は、語るまでも無い。およそ4日後、犯罪者達が巣食っていた惑星は、ナッツが大喜びで暴れ回った結果、抵抗空しく当然のように壊滅し、結果としてその一帯に平和が戻った。
銀河パトロールは、その結果に少々引きながらも、約束どおり彼らの罪を減免した上で、賞金首や犯罪者の情報を提供していく事になる。
2ヶ月に1度ほど、ナッツは戦闘意欲を持て余す度に、父親と共に、そして慣れた頃には一人で、期待に胸を躍らせながら、彼らの元を訪問していく。そしていつしか、宇宙中の犯罪者達の間で、好戦的なサイヤ人の少女の噂が、恐怖と共に語られる事になるのだが、それはまた別の話だった。
銀河パトロールとのやり取り、時期はともかく、原作でも似たような事はあったんじゃないかと思ってます。界王様いわく、相当のワルだったベジータを入隊させるくらいですし、過去の罪状については、司法取引で減免済だったんじゃないかなと。
……銀河パトロール自体が組織的にガバって説は、この話では採用しない方向でひとつ……(絶滅爆弾の誤使用で星一つ滅ぼしたジャコから目を逸らしながら)
あと主人公について、やってる事はともかく、本人の主観的には悪のままです。狙う相手が、たまたま悪党になっただけなので。ジャコから更生とか言われて調べても「今までと同じで、好きに生きているだけで、更生したつもりはないのだけど……」って首を傾げてる感じです。
・お好み焼き
ベジータ様のお料理地獄ネタで結構前から仕込んでいたのですが、反応無かったのが寂しかったのでここに元ネタ書き足しました……!
それと評価、感想、お気に入り、誤字報告等、いつもありがとうございます。続きを書く励みになっております。
前にも書いたかもしれませんが、一人でコツコツ文章書いてると、「この話本当に面白いのかな……?」って不安になってしまう事があるのです。
そうした時にリアクション頂けると、たとえ感想一行でも作者は必ず喜びますので、この話に限らず、良いなと思った作品には是非何かしらしてあげて下さいませ。(更新止まった名作の数々を死んだ目で眺めながら)