あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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9.彼女が再び、彼らと戦う話(中編)

 ナッツは戦闘力を限界まで高め、歓喜の表情で、身構えるギニュー達へと突撃する。

 

 強敵を前に、戦闘本能に突き動かされながらも、同時に少女は頭の中で、彼らを打ち負かすための戦術を冷静に組み立てていた。

 

(まず相手の戦力の、削りやすい所から削っていく!)

 

 それは彼女が両親から教えられ、また実際に、幾多の戦場を経験した中で学んだ原則だった。

 

 ナメック星の戦いでは、戦闘力はこちらの方が上だったにも関わらず、彼ら4人の巧みな連係の前に、敗北寸前まで追い込まれてしまったのだ。

 

 まして今回は、彼らの要であるギニュー隊長がいる。少しばかり戦闘力で勝っていたところで、全く油断できる相手ではない。

 

(まあ、それだから楽しいんだけど!)

 

 微笑んで、地を蹴りさらに加速しながら、ナッツは気を集中し、右の掌に、巨大な赤いエネルギー弾を形成する。

 

「受けてみなさい、ギニュー隊長!」

 

 勢いのまま、投げ放つ。たとえ彼といえど、まともに食らえば只では済まない威力だ。避けるにせよ防ぐにせよ、必ず一瞬の隙ができる。その隙に脇を抜けて、他の人間から狙わせてもらう。

 

 そうして先に4人を倒してから、最後にギニュー隊長と1対1で戦う。それが彼女の考える、最も堅実で有効なプランだった。

 

 対してギニューは、両腕を構えてガードしながら、迫りくるエネルギー弾に向けて、正面から突撃した。想定よりも早い爆発に、ナッツもまた巻き込まれてしまう。

 

「なっ!?」

 

 意表を突かれ、爆風を思わず手で防いだ少女の眼前に、既にギニューが迫っていた。両腕を軽く焦がしながらも、大した痛手を受けた様子はない。勢いのままに繰り出される拳を反射的にガードしたナッツの身体が、衝撃で小さく後ろに下がる。

 

「……先に部下達から狙う。確かに有効な戦術だが、オレが見逃すと思ったか?」

 

 彼はそのまま肉薄し、息もつかせぬ猛烈なラッシュを叩き込む。ナッツは猛攻を捌きながら、離脱して他の隊員を狙う隙を伺っていたが、受けた両腕が痺れるほどの攻撃の威力に、次第にその顔を綻ばせていく。

 

「じゃあ、先にあなたから倒させてもらうわ!」

 

 少女は笑みを浮かべて反撃を開始する。小柄な体躯を活かして凄まじい速度で死角を狙うナッツの動きに、ギニューもまた同じスタイルで応じ、地上と空中を目まぐるしく瞬時に移動しながら、両者は打撃とエネルギー波をぶつけ合う。

 

 ナッツの身長は、ギニューの半分にも満たない。冗談のような体格差がありながらも、パワーもスピードも少女の方が上回っていた。

 

 ギニューはその莫大な戦闘経験によって彼女の動きをある程度先読みできていたが、それでも戦闘力の差を埋め合わせるには足りず、攻防を重ねるうちに、次第にダメージが積み重なっていく。

 

 このまま押せるかとナッツが思った、その時だった。あるかなしかの気の緩みを捉えた隊長が、視線で合図を飛ばす。そして待ち構えていたかのように少女の真横に飛び込んできた巨漢は、彼女から見れば、一瞬の間に現れたようにしか見えなかった。

 

「えっ!? ど、どこから……?」

「リクーム! イレイザーガン!」

 

 そして彼の口から放たれた高威力のエネルギー波を、ナッツはまともに食らってしまう。エネルギーの奔流に飲み込まれ、戦闘服の一部を砕かれながら大きく弾き飛ばされた少女は、空中で何度も回転しながら体勢を整え、リクームに向けて微笑み掛ける。

 

「今のは、ちょっとだけ痛かったわ」

「じゃあ、もっと痛くしてやるぜ?」

 

 言ってリクームは、隊長の隣に並んで、同時にナッツに突撃を掛ける。その無謀さに、少女は目を見開く。いくら彼がタフネスに優れているとはいえ、戦闘力18万の彼女の攻撃を受ければ、一撃で戦闘不能になるのは避けられないはずだ。

 

(もしかして、隊長の為に、捨て身で隙を作るつもりかしら? そんなの返り討ちにするだけだし、むしろ頭数が減る分、私には好都合なのだけど)

 

 そう思っていたナッツは、いざ2対1の接近戦を始めて、すぐにその厄介さに気付く。主に彼女と打ち合うのはギニュー隊長で、リクームの方は体格とリーチの差を活かして、間合いの外から攻撃を仕掛けてくる。

 

 まともに食らっても、今のナッツには大した威力ではないが、何発も食らえば流石に痛い上に、集中力を削がれてしまい、その隙にギニュー隊長の攻撃を受けてしまう。

 

 反面、ナッツがリクームを狙おうとしても、それをすれば隊長に致命的な隙を晒してしまうだろう位置に、巧みに引かれてしまう。業を煮やしてエネルギー波を撃っても、攻撃よりも回避を意識して立ち回る彼にはなかなか当たらず、命中し掛けた一発は、すぐさま割って入ったギニューに弾かれる始末。

 

「はあっ、はあっ……」

 

 次第に被弾が増えていき、少女は息を荒くする。とはいえ、そこまでダメージを受けたわけではなく、まだ余裕はある。一旦距離を置いて立て直そうとしたナッツの後頭部に、凄まじい速度で飛び込んできた青い影が。勢いのままドロップキックを叩き込む。

 

「ぐっ!?」

 

 衝撃に一瞬体勢を崩しながらも、すぐさま少女は裏拳で反撃するが、攻撃を仕掛けたバータは一瞬で離脱を果たしている。そして攻撃を外したその背中に、ジースのクラッシャーボールが直撃し、爆発した。再び、吹き飛ばされるナッツ。

 

 そして飛ばされた先には、既に先回りしていたギニューとリクームが待ち構えており、一瞬たりとも少女に休む隙を与えない。複数人を相手にする事には慣れているが、ここまで練度の高い連携を見た経験は無かった。

 

 先のクラッシャーボールにせよ、少し間違えば接近していたバータに当たってもおかしくなかったはずで、普通なら同士討ちを恐れて使えないが、ジースはいとも容易く、彼女の小さな身体をピンポイントで狙って見せた。

 

(これが、本気のギニュー特戦隊……!)

 

 戦いの興奮と共に、ナッツの心に湧き上がるのは、強敵に対する賞賛と尊敬の念だった。同じ強敵との戦いでも、フリーザを相手にした時は、両親を殺された怒りで楽しむ余裕などまるで無かったが、今は違う。

 

 4人掛かりで繰り出される格闘とエネルギー波による波状攻撃は一部の隙も無く、じわじわと少女にダメージを与えていくが、それに怯む事無く、むしろ嬉しそうに、ナッツは反撃を返していく。

 

 その大半を引き受けているギニュー隊長にも、決して余裕があるわけではない。攻撃で少女の気を引き付けている部下達のサポートが無ければ、とっくに倒されていても不思議ではなく、これ以上戦闘を長引かせるのは危険だった。

 

 決着をつけるべく、彼は構えた右拳に、全身の気を集中させる。ナッツの背筋に、ぞくりと冷たいものが走る。あの一撃は、食らってしまえばただでは済まない。

 

(けど、来ると分かってれば!)

 

「うおおおおおっ!!」

 

 裂帛の気合いと共に、拳を振りかぶったギニュー隊長が少女に突撃する。ナッツはまず避けようとするが、その瞬間、三方から放たれたエネルギー波が同時に着弾し、彼女の動きを一瞬阻害する。

 

 避けるタイミングを逃したナッツは、迫るギニューに対して自らもまた拳を構え、獰猛な笑みを浮かべて叫ぶ。

 

「勝負よ! ギニュー隊長!」

 

 そして少女も前へ飛び出し、二人の拳が激突せんとした、その瞬間。

 

 

「きええええええっ!!」

 

 

 それまで機を伺っていたグルドの、渾身の金縛りの術が、ピンポイントで少女の右手の動きのみを、瞬き程の時間だけ鈍らせていた。当然ナッツも彼の動きは警戒していて、迂闊に近付けさせないよう動いていたのだが。

 

(あんな距離から、私の動きに干渉できるなんて!)

 

 勢いのわずかに鈍った彼女の拳を、ギニューは首を傾けて回避し、撃ち出される直前の大砲のように、拳を構えながら言った。

 

「悪いな」

 

 一瞬後、彼の全力を乗せた拳がナッツの戦闘服の腹部をあっさり破砕し、小さな身体を貫かんばかりに、深々と突き刺さった。少女の口から、大量の鮮血が溢れ出す。

 

「がっ……ご、ほっ、ああっ!?」

 

 激痛と衝撃に息もできず、苦悶の声を上げながら、それでも震える手を上げ、エネルギー波を放とうとしたナッツの眼前で、ギニューの姿が消えうせる。高速で瞬時に彼女の背後に現れた彼の掌に、紫色のエネルギーが収束していく。

 

「だがオレは、フリーザ様のために、負けるわけにはいかんのだ!!」

 

 そして至近距離から放たれた渾身のエネルギー波が、動けぬ少女の背中に叩き付けられ、瞬く間にその全身を飲み込んだ。

 

 

 

 遥か彼方で、ナッツを巻き込んだエネルギー波が着弾し、大爆発を巻き起こす。ギニューは彼女の戦闘力を、スカウターで油断なく確認していた。およそ13万。かなり大きく低下しているが、自分もダメージを受けており、まだ気を抜ける状況ではない。

 

 部下達の状態を確認する。まともに被弾した者こそいないが、一瞬のミスも許されない戦闘のせいか、各々疲労の色が見える。特にグルドはすっかり消耗しきった様子で、大量の汗を浮かべて息を切らしており、心配したジースに声を掛けられていた。

 

「大丈夫か? グルド」

「ぜえっ、ぜえっ、な、何とかな……」

 

 格上の相手に術を掛けるべく、極度の集中を行った結果だった。あの様子では、もう一度同じ事を行うのは困難だろう。

 

「グルド。しばらく超能力は使うな。姿だけ見せて牽制を頼む」

「は、はい。すみません、隊長……」

「気にするな。お前はもう十分以上に働いた」

 

 言ってギニューは、改めて少女が飛ばされた方向を見る。爆風で巻き上がった土煙のせいで、彼女の状態が確認できない。すぐさま復帰してくる様子は無いが、あまり休息の時間を与えるわけにはいかなかった。

 

「よし、お前達! 休憩は終わりだ! こちらから一気に……!」

 

 続く彼の言葉が、轟音に掻き消される。ナッツがいると思しき地点から、先の大爆発にも匹敵する、竜巻めいた赤い気の奔流が湧き上がった。

 

 

「あはっ、あはははははは!!!」 

 

 

 歓喜に満ちた哄笑が、かなりの距離があるにも関わらず、はっきりと彼らの耳に届いていた。誰がそれを発しているかは、言うまでもない。

 

 一瞬で吹き払われた土煙の中心に、ボロボロの戦闘服に身を包んだナッツがいた。全身から立ち昇る真っ赤なオーラが、ばちばちと雷のように弾けている。

 

 彼女はとても愛らしい容貌をしていたが、そんな少女が口元を自らの血で汚し、狂ったように笑い続ける姿は、歴戦のギニュー特戦隊の目からしても、戦慄を隠せないほどのものだった。

  

(戦闘力は、落ちてるはずなんだがな……!)

 

 額に汗を浮かべたバータがそう思った瞬間、ナッツは彼らの方を見て、可愛らしく微笑んだ。

 

「おじさん達! さっきの凄かったわ! 私一瞬、死んだと思ったもの!」

 

 自らの命の危機を、さも楽しそうに語る少女に、ギニューは苛立ちを隠せない。

 

「これだから、サイヤ人は……!」

 

 こうまでダメージを与えれば、大抵の相手は怯んで隙を見せるか、もしくは撤退を考える。だがあのベジータの娘は、追い詰められた事で、ますます戦意を高めている。

 

 戦いそのものに喜びを感じる、戦闘民族。敵対すれば、これほど厄介な相手もそういない。生存本能を闘争本能が上回っているなど、まともな生物の有様ではない。フリーザ様が手を下さずとも、どこかの時点で自ら滅びていたのではないか。

 

 刺すような彼の視線の先で、ナッツは手の甲で口元の血を拭ってから、凄味のある笑みを浮かべて地を蹴り前に出る。

 

「それじゃあ、続きをしましょうか?」

「全員構えろ! 今度こそ止めを刺す!」

 

 ギニューの号令に応じて、突撃してくるナッツに少しでもダメージを与えるべく、全員がエネルギー弾の集中砲火を浴びせかける。

 

 並の軍隊なら、それだけで壊滅するだろう爆撃の中を、少女は長い黒髪を靡かせながら、一切の怯えも見せずに突き進む。

 

 視界を埋め尽くす爆炎を踏み越え、飛来する無数のエネルギー弾を、跳躍して回避し、地面ギリギリに身を沈めてやり過ごし、腕を振って打ち払い、あるいは身体に当たるに任せ、とにかく速度を一切落とさないまま、受けるダメージを最小限に前進し続けたナッツは、ギニュー達の予想を遥かに超える速度で、全身から黒煙を噴き上げながら、爆炎を割って彼らの眼前に躍り出る。

 

 あまりの勢いに一瞬たじろぐギニューを、少女はきらきらと輝く瞳で見つめる。戦闘民族としての本能を、自分でも抑えきれないといった壮絶な表情で、握った拳を突き付け宣言する。

 

「楽し過ぎて、今は何も考えられないの。だからまず、一番強いあなたからよ。ギニュー隊長」

 

 言葉と共に、人の姿をした小さな獣が彼に襲い掛かった。

 

「させるかよっ!」

 

 すぐさま隊員達が援護に入り、先ほどの状況が再現される。だが今回は、少女の勢いが違った。リクームにどれだけ強かに殴られようと、バータとジースの攻撃を受けようと、一切頓着せず、ただひたすらギニューのみを全力で攻撃し続ける。

 

 ギニューの方も、少女の猛攻を何とか捌きつつ反撃しているが、後先を一切考えていないかのような攻撃に、蓄積されたダメージも相まって、一瞬の隙を晒してしまう。それを見たナッツが、獣のように犬歯を見せて笑った。

 

「そこっ!」

 

 すかさず懐に飛び込んだナッツが、目にも止まらぬほどの拳の連打をギニューの腹部に叩き込む。リーチの短い彼女の手足は、裏を返せば、振る速度が速いという事でもあり、至近距離から超高速で繰り出されるラッシュは、小柄な体躯に見合わぬパワーと相まって、まさに必殺とも言える破壊力を実現していた。

 

「がはあああっ!?」

 

 たまらず苦悶の声を上げ、ふらふらと、おぼつかない足取りで後ずさるギニュー。この機を逃さず、少女が一気に勝負を決めようとした、その瞬間だった。

 

「ギニュー隊長おおぉぉ!!!」 

 

 飛び込んできたリクームが、決死の覚悟でナッツを羽交い絞めにする。

 

「なっ!? 離しなさい!」

 

 力任せに右腕を振り解いた少女が、リクームに痛烈な肘打ちを叩き込む。その一撃で肋骨を何本も折られながらも、隊長を除いて、特戦隊随一のタフネスを誇る彼は怯まず叫ぶ。

 

「隊長、今のうちに!」

「……すまん!」

 

 ギニューは辛くも息を整えながら、抱えられたナッツを、リクームの身体ごと上空に蹴り飛ばす。なおも暴れる少女を拘束しながら、リクームは全身の気を高めていく。

 

「リクーム……ウルトラ……」

 

 その彼の動作に、ナッツは覚えがあった。ナメック星で、大猿化した彼女に止めを刺すべく使われた技。こんな密着した状態で、あれを食らったら。

 

 焦った少女は、逃れようと肘を何度も彼に叩き付け、頭突きで顎を砕くも、彼女を拘束する腕の力は、一切緩む様子がない。彼の全身を包むエネルギーが、危険な域まで高まっていく。

 

「止めなさい! 離して! 手加減できなくなるわよ!」

 

 ギニュー隊長ならいざしらず、他の隊員にとって、彼女の全力は容易に致命傷となり得る。殺すつもりまでは当然無かったから、彼への攻撃は力を抑えていたのだが。

 

 そこでリクームは、激痛を堪えながらも、少女に向けて、不敵に笑ってみせた。

 

「悪いな、ナッツちゃん。隊長の前で、情けない真似はできなくてよ!」

「このおっ!!」

 

 意識を奪うべく、半分加減を捨てて振り上げたナッツの拳が、リクームの砕けた顎を直撃する。次の瞬間、発動直前だったリクームの技が暴走し、二人の身体を中心とした大爆発が巻き起こった。

 

 

 

 やがて爆発が収まった後、そこには大きく息をつく少女がいた。全身に軽く火傷を負っているが、致命的なものではない。自爆めいたリクームの攻撃に対し、とっさに自らも高めた気を爆発させ、相殺した結果だった。

 

 黒焦げになったリクームの身体が、地上へと落下していくのを、少女は見送った。驚いた事に、落ちながらもこちらに手を振っている。あの状態で戦う事はできないだろうけど、少なくとも、命の心配は無さそうだった。

 

 大きくエネルギーを消耗してしまったが、まず一人は倒せた。できるなら、手傷を負わせたギニュー隊長が回復する前に、仕留めておきたいけど。

 

 そこでナッツは、死角から飛来したエネルギー弾を手で弾き、タイミングを合わせて背後から強襲した青い影を、後ろ回し蹴りで迎撃する。青い影は気付かれたと見るや即座に自ら後ろに下がり、彼女の蹴りは掠めるだけで終わってしまう。

 

 少女の視線の先で、目にも止まらぬ速度で動いていた青い影が停止し、青い肌を持つ長身の男へ変化する。そしてナッツを挟み込むかのような位置に、エネルギー弾を撃った真っ赤な肌の男が現れる。

 

 バータとジースはそれぞれ腕を組みながら、余裕たっぷりな様子で笑って見せた。

 

「よう、ナッツちゃん、ちょっと見ない間に、また随分と強くなったじゃねえか」

「ちょっとオレ達とも遊んでいかないか? 退屈はさせないぜ?」

 

 無論彼らとて、今のナッツに正面から勝てるとは思っていない。二人の狙いは、ギニュー隊長が息を整えるまでの時間稼ぎと、それまでに可能な限り、彼女を消耗させる事だ。

 

(そのくらいの考えは、私にも読めるけど……!) 

 

 少女の目に映る二人は、自分達に背中を向けて隊長を狙おうものなら、只では済まさないと言わんばかりのプレッシャーを発していた。それにサイヤ人として、強者から挑まれた戦いを断るなんて、もっての外だった。

 

 さながら舞踏会でダンスを申し込まれた姫君のような気分で、ナッツは好戦的な笑顔を見せる。

 

「ちょっとだけね、おじさん達。この後は、ギニュー隊長が待ってるみたいだから」

 

 できるだけ早く彼らを倒さんと、気合いを入れて組んだ指を鳴らす少女に、対峙した二人もまた、戦闘力を限界まで高めて笑う。

 

「隊長は最近の激務でお疲れなんでな。もう少し休ませてやってくれ」

「そのかわりに、おじさん達が遊んでやるからよ!」

 

 言葉と共に、二人の姿が掻き消え、赤と青の色付きの影が、ナッツの周囲を縦横無尽に飛び回る。消えては現れ、現れてはまた消えながら、一撃離脱の攻撃を仕掛ける彼らの姿を目で追えず、少女は防戦一方に追い込まれてしまう。

 

(バータはともかく、ジースまでこんなに早く動けたの!?)

 

 種を明かせば、彼らはそこまでの速度で動いているわけではない。ただバータは、飛行速度の緩急と方向転換を巧みに使い分け、少女の視界を意識しながら移動する事で、見かけ上の超高速移動を実現していた。

 

 そして相方のジースは、彼と完璧に息を合わせて動いていた。ある時はナッツの目を逸らす囮となり、またある時はバータが囮となった隙に死角へ潜り込む事で、相方の動きをサポートしながら、自身もまた彼女の目を幻惑する事ができていた。

 

 無論、回避に重きを置いた彼らの攻撃は、ナッツにそこまでのダメージを与えられるわけではない。だがそれでもわずかな負傷は蓄積する上に、戦闘が長引いた分だけ、体力的にも精神的にも消耗していく事は避けられない。

 

(このまま削られたところに、ギニュー隊長までやってきたら……!)

 

 苛立ちと焦りから、少女は攻勢に出ようとする。

 

「はああああっ!」

 

 比較的動きの遅いジースに狙いを定め、被弾を覚悟で全速力の突撃を掛ける。何度も攻撃を食らいながら、とうとう彼に追いすがり、一撃を入れんとした、その瞬間だった。

 

 

「きええええっ!!」

 

 

 少女が追撃に夢中になっている間に、忍び寄っていた小柄な男が両腕を突き出し叫びを上げる。

 

(グルド!? まだ超能力を使えたの!?)

 

 つい先ほど痛い目を見たナッツは思わずガードを固めるが、身体に異常が起こる様子はない。

 

「まさか、叫んだだけ!?」

「「どりゃああああ!!!!」」

 

 少女が動きを止めた隙を逃さず、赤と青の旋風が、同時に全力の拳と蹴りを叩き込んだ。

 

「ぐうっ!?」

 

 ふらつきながらナッツが振るった反撃の拳を、二人は素早く避けて離脱する。そしてグルドも逃げようとするが。

 

「逃がすものですか!」

 

 少女は両腕を胸の前で交差させる。グルドは半ば無駄だと悟りつつ、残されたわずかな力で時間を止めて、可能な限り遠くへと飛行する。そして時間が再び動き出すと同時に、ナッツが両腕を開いて叫ぶ。

 

「はあっ!」

 

 直後、彼女を中心とした半径数百メートルの全てを破壊の嵐が襲った。地球でナッパが一つの都市を消し飛ばし、また彼女の父親が悟飯達に使ったのと同質の、広範囲への攻撃を可能とする技だ。

 

 軍隊などをまとめて倒す時に有効だが、攻撃範囲に応じて威力は落ちてしまう。バータやジース相手には、ほとんど効果が見込めないのだが、超能力を使える分、戦闘力の低いグルドには、それで十分だった。

 

 爆発に巻き込まれた彼は、地面にうつ伏せに倒れたまま、起き上がれないでいる。これで2人。ナッツはなおも飛び回るバータとジースを、きっと睨み付ける。先ほどの一撃で、頭が冷えた気分だった。彼らの動きを目で追っていては、埒が明かない。

 

 少女は目を閉じ、深呼吸して心を落ち着かせ、彼らの戦闘力を探る事に集中する。散発的に攻撃を受けるが、それでも集中を続け、彼らの動きを視覚に頼らずじっくりと観察する。

 

「捕らえたわ!」

 

 ナッツはかっと目を開き、別々の方向に手を付き出して気を集中させる。直後、少女の両の掌から、バスケットボール大の無数のエネルギー弾が放たれた。片方だけで秒間数十発にも及ぶエネルギー弾の連射は、凄まじい勢いで命中した全てを破壊していく。

 

「うおおおっ!?」

「多過ぎるだろ!?」

 

 雨のように大量にばら撒かれるエネルギー弾は、到底避けられる物でなく、回避しようとした二人に数発が命中し爆発する。威力はそれほど大きくないが、立ち止まってまともに被弾し続けるのは危険だと思われた。

 

 二人は破壊の雨の降り注ぐ範囲から逃れようとするが、少女は後を追うように両手を動かして、彼らを追い立てる。そして十数秒後、別方向に飛んでいたはずのバータとジースが、お互いに顔を合わせて驚愕する。

 

「バータお前、あっちに逃げてたはずじゃあ!?」

「お前こそ! ってまさかこれは!?」

 

 スカウターを確認したバータは、彼らがちょうど、ナッツの真下に誘導された事に気付く。焦って上空を見上げると、既に彼女は二人に向けて、ギャリック砲を打ち下ろしていた。

 

 迫りくる赤いエネルギーの光に照らされながら、彼らは諦めたように、小さく苦笑する。

 

「やれやれ。またナッツちゃんにやられちまったな」

「子供の成長は早いよなあ。ギニュー隊長! 後はよろしく頼みます!」

 

 そして二人をギャリック砲が直撃する。爆発の後、彼らが死んでいない事を気配で確認したナッツは、小さく息をつく。さっきの技も、父親に習ったもので、星を攻める時など、一人で大勢を相手にするための技だ。それを一人に向けるなんて、今まで考えた事も無かったけど。

 

(やっぱり実戦は勉強になるわ。戦闘力は私の方が高かったけど、それでもおじさん達は強かった)

 

 少女は地面に降りて、自分の状態を確認する。戦闘服は所々がひび割れていて、アンダースーツもあちこち擦り切れてしまっている。全身の負傷と体力の消耗で、戦闘力は半分程度に落ちてしまっていた。

 

(ギニュー隊長が万全だったら、ほとんど勝ち目は無かったけど)

 

 気配を感じて振り返ると、そこに彼が立っていた。腹部に応急処置を施しており、戦闘力はおよそ8万。倒れたおじさん達の様子を、スカウターも使って確認している。

 

 状況は、あのナメック星の時と同じだった。すぐに怒って向かってくると思ったナッツは身構えるが、意外にも隊長は、静かな声で口を開く。

 

「……オレの部下達を、殺さなかったのは何故だ?」

 

 彼の言葉に、ナッツは言葉を選びながら応える。

 

「……おじさん達は、フリーザ軍の基地にいた頃、フルーツパフェをご馳走してくれたり、ビンゴ大会で景品を譲ってくれたり、私にとても、優しくしてくれたわ。だから殺したくないの」

 

「ナメック星で、オレに止めを刺さなかったのは? 部下達はともかく、オレはフリーザ様が嫌うサイヤ人である貴様と、慣れ合っていたつもりはない」

 

 厳密には、あの孫悟空だかカカロットだかいう男の身体を使っていた時、彼女からの恋愛相談を聞いた事はあるが、あれはドラゴンボールを取り返す任務の為だから例外だ。

 

 問われた少女は、少し困ったような顔で言った。

 

「そうね。あなたはいつも、私と距離を置いていたみたいだけど。おじさん達は、隊長のあなたの事が大好きで、とても尊敬してるって言ってたから。あなたが死んだら、おじさん達が悲しむわ。だから、私はあなたの事も殺したくないの」

 

「……そうか」

 

 ギニューは天を仰ぐ。自分と関係無い人間は、嬉々として星ごと殺す一方で、自分に好意的な人間に対しては、年相応の子供のように甘い。そのちぐはぐな有様を、言葉で攻めれば動揺を誘えるかもしれなかったが、彼や部下達が、その未熟さに救われたのも事実だったから、それをする気にはなれなかった。

 

 個人的な、あくまで個人としての考えならば。精神的に未熟な所はあれど、戦士として類稀な実力を持ち、彼が思わず我を忘れるような、途方も無いポーズの才能まで見せたこの少女の事は、嫌いではなかった。

 

「だが、今の貴様は我々の敵だ。わかるな」

 

 ギニューは拳を突き出し、堂々と身構える。自分はドラゴンボールも、フリーザ様の身も守れなかった。ならばせめて、かつてフリーザ様から命じられた、このヤードラット星の攻略は、あの方が動けるようになる前に、成し遂げておかねばならない。

 

「ええ。私が負けたら、この星は好きにするといいわ」

 

 言ってナッツも身構える。ヤードラット星の人達には、自分が負けるかもしれない事を伝えて、瞬間移動で避難してもらっている。

 

 大猿化も超サイヤ人への変身もせず戦う事は、少し後ろめたかったけど、相手があのギニュー特戦隊という時点で、防衛依頼など引き受ける人間は皆無で、星を捨てるしかないと、諦めかけていたようだったから、立ち向かうというだけでも、とても感謝してもらえて、無理はしないで下さいとまで、言ってもらえたのだ。

 

 できるなら、あの人達の依頼は達成してあげたかったし、それを抜きにしても、この戦いには勝ちたかった。

 

 サイヤ人の王族の少女は、凛とした顔で、対峙する男を見つめて言った。

 

「これで最後よ。ギニュー隊長。今度も私が勝たせてもらうわ」

 

 対して、フリーザ軍最強の男も、真正面から彼女を見て、鬼気迫る顔で応える。

 

「ほざけ。フリーザ様の、そして傷付いた部下達のために、貴様はここで倒させてもらう!」

 

 そして戦闘力を限界まで高めた二人が真っ向から激突し、最後の戦いが始まった。




 戦闘描写難しかったですが、何とかやりました!
 あといつも評価とか感想とかお気に入りとかありがとうございます! ついに評価人数が100人超えた時は嬉し過ぎてヒャッハーしましたし、今日も書いてる時にチラっと見たらお気に入り1件増えてて嬉しかったです!

 次の話が終わったら、フリーザ様の話を少しやって、それからコルド大王とかトランクスが出ます。時間は掛かるかもしれませんが、気長にお待ち下さいませ。
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