あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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※注意:「キャラ崩壊あり」


エピローグ3.彼女の仇のその後の話
1.彼女の仇のその後の話(前編)


 惑星フリーザ本星。

 

 ナメック星での戦いの後、ギニュー隊長に救出されたフリーザは、およそ1年半の治療を経て、ようやく動ける状態にまで復活を遂げた。

 

 最新の医療技術でも再生できなかった身体の欠損を補うため、全身の半分以上を機械に置換していたが、その分戦闘力は大きく向上している。

 

 本来ならば、自分をこんな身体にしてくれた、あのサイヤ人共に、今すぐ復讐を遂げに行きたいところだが、万全に戦えるようになるまでには、まだ数週間を要すると医師達から言われている上に、今の彼には、他にやるべき事があった。

 

 それはフリーザ軍の現状確認と立て直しだ。フリーザ軍はその軍事力と恐怖によって、銀河の大部分を支配していたが、トップである彼が1年半もの間、動けず話せず、絶対安静の状態で、指示すらろくに出せなかった事で、各方面での侵攻計画が滞っているばかりか、支配下のあちこちの惑星で、反乱等が起こっている事が予測された。

 

 そこで彼は自室に篭り、溜まっていた報告書に目を通していた。画面に表示される大量の情報を、素早く確認して頭に入れながら、要所要所でメモを取りつつ、ときおり担当者達に通話で質問する。

 

 メールでも構わないが、画面越しでも顔を見せて話した方が、相手の反応や話す様子から、より精度の高い情報を得る事ができる。また、既に大々的に伝えられている彼の健在を、改めてアピールする狙いもある。実際に、彼が話した者達は、皆一様に安堵した様子で、士気が上がっている事が伺えた。

 

 現状は、彼が予想していたよりも、悪くはないようだった。組織内部の混乱は少なく、各地で起こっていた反乱等も、ギニュー特戦隊を先頭にした戦闘部隊の迅速な対応によって、概ね鎮圧されている。功績に応じて、後で臨時ボーナスでも出すべきだろう。

 

 しかしそれでも、1年半もの不在で溜まっていた仕事や、目を通さなければならない案件は多い。フリーザはそれらを、ろくに休息も取らず、てきぱきと片付けていく。

 

 組織の運営には、自信があった。仕事してるんだか遊んでるんだか分からなかった父親よりも、力が強いだけの兄よりも、自分の方が、余程上手くできるのだ。

 

 

 しばらく仕事をこなしていると、こんこんと、控えめなノックの音がした。誰が来たかは、その音だけで分かった。    

 

 がちゃりとドアが開くと、小柄で高齢で、穏やかな雰囲気の女性が、一礼して部屋の中へと入ってきた。皺の入った口元に、穏やかな笑みを浮かべている。

 

「お久しぶりです、フリーザ様。お仕事もよろしいですが、病み上がりのお身体で無理はいけませんよ?」

「……ベリブルさん。仕事が溜まっているのですよ」

「それでも、いったんご休憩なさいませ。そのお身体でも、食事は必要だと、お医者様から聞いておりますよ」

 

 ベリブルと呼ばれた高齢の女性は、てきぱきとテーブルの上に、軽食と温かい飲み物を並べていく。断れないなと、フリーザは、小さく息を吐く。

 

 戦闘服こそ着ているが、彼女自身の戦闘力は、平均的なフリーザ軍の兵士の、10分の1にも届かない。だが幼い頃から散々お世話になった教育係で、彼にとっては、宇宙でも数少ない、頭の上がらない存在だった。

 

 キリの良い所で仕事を切り上げて、テーブルの前に座り、10時間ぶりの食事を始めるフリーザ。全て手作りの彼女の料理は、昔と同じ味がした。半分機械の身体でも、味覚は残っていて、良かったと思った。

 

 向かい側に座ったベリブルは、食事をする彼の様子を、何も言わず、穏やかに微笑みながら見守っている。特に会話が無くとも、何故だかそれだけで安心できて、料理の温かさも相まって、疲れが取れていく気がした。

 

「……ごちそうさま。美味しかったですよ、ベリブルさん」

「どういたしまして。その食べっぷりなら、もう心配は無さそうですね」

 

 空になった食器を片付けながら、ベリブルは何気なく言った。

 

「コルド大王様も、ずいぶん心配しておられましたよ。フリーザ様が回復なされたと知って、もうすぐおいでになるそうで」

 

 父親の名前を聞いて、食後の紅茶を飲んでいた、フリーザの手が止まる。1秒前までリラックスしていた表情が、思いっきり嫌そうに歪んでいた。

 

「……フン。パパは超サイヤ人に負けたボクの事なんて、どうでもいいに決まってるさ」

「フリーザ様、決してそのような事は……」

「いいや。たとえボクが死んでたとしても『じゃあ、フリーザを倒したあの超サイヤ人を我が娘に』とか言ったに決まってる」

「いくらコルド大王様でも、そこまでは……」

 

 いつになく頑なな彼の様子に、ベリブルが心配そうに言った。

 

「……フリーザ様、コルド大王様と、何かあったのですか?」

 

 

 

 時代は少し遡る。30数年前、フリーザがまだ、父親から軍を受け継ぐ前の話だ。

 

 当時はコルド大王とベジータ王、共に星の収奪を生業としていた二つの勢力の長が、手を結んだ時期だった。

 

 三度の飯と同じくらい戦いを好み、ほぼ全員が優秀な戦闘員の資質を持っているが、商売が下手で技術力も低かったサイヤ人達と、征服した惑星の販路を持ち、技術力にも長け、強襲用の小型ポッドや戦闘服、メディカルマシーン、スカウトスコープなど、戦いをサポートする様々な装備や物資を提供できるコルド軍との相性は抜群で、同盟からわずか数年で、彼らの版図は銀河の半分以上にまで広がっていた。

 

 数えきれないほどの惑星を陥落させて売り払った事で、コルド軍は空前の好景気に沸いていた。

 

 そして今日もコルド大王は、ベジータ王やニコちゃん大王と一緒に、銀河一の高級キャバクラを貸し切りにして遊んでいた。銀河中から集められた魅力的な美女達に、最高の酒と料理で歓待されて大騒ぎしながら、ついでのように、今後の方針を話し合っている。

 

 別のテーブルでは、護衛としてついて来ていた、ドドリアにザーボン、ギニュー特戦隊、パラガスを含むエリートサイヤ人達、ニコちゃん大王の付き人といった面々も、全員コルド大王の奢りで遊んでいた。

 

 ここぞとばかりに高い酒を飲みまくるドドリア、様々な種族の絶世の美女に囲まれて、表面上はクールに振舞いながらも、内心テンション最高潮で連絡先を交換しているザーボン、酔いながらも見事なポーズを披露するギニュー特戦隊に、女性達と共に歓声と拍手を送るサイヤ人達と、ニコちゃん大王の付き人。

 

 そんな騒がしくも楽しい時間が終わり、コルド大王は酒精で顔を赤らめながら、上機嫌で家に帰り、私室でパジャマに着替えて、角用の穴が開いたナイトキャップを被って寝ようとしたところで、ベジータ王から聞いた話を思い出す。

 

 酔っぱらったベジータ王が、ふと漏らした話によると、1000年に1度現れるという超サイヤ人は、フリーザ一族とも渡り合える強さで、そこからさらに進化した超サイヤ人ゴッドは、その名のとおり、神々にも比肩する存在だという。   

 

 コルド大王は、いつになく真剣に、腕組みしながら考える。我が一族は宇宙最強でなければならん。何故ならその方が、箔がついて格好良いからだ。魔人ブウと破壊神ビルスの存在は知っているが、片方は封印されているし、もう片方は寝てばかりで滅多に起きてこないので、不戦勝扱いでいいだろう。

 

 しかし、超サイヤ人ゴッドが破壊神ビルスとも戦えるとすれば、サイヤ人が我が一族を差し置いて、宇宙最強という事になってしまう。どうしたものかと、彼は5分ほど熟考した後に、良いアイデアを閃いた。

 

「そうか、超サイヤ人ゴッドとやらがワシやクウラやフリーザよりも強いのなら、養子にしてしまえばいいのだ! それで我が一族は安泰で、兄弟が増えてあいつらも喜ぶだろうしな!」

 

 そしてコルド大王の豪快な笑い声が響く中、部屋のすぐ外、ドアの向こうで、ちょうど父親を訪ねてきた、幼い頃のフリーザが、屈辱と怒りに身を震わせていた。

 

「サイヤ人……あの野蛮な、パパの使い走りのサル共ごときが……!!」

 

 許せない、と思った。そもそも養子にしても、種族が変わるわけではないから、根本的な解決になっていないし、強いからと言って、実の息子を差し置いて養子を取るなど、自分が父親から、役立たずと言われたようなものだった。

 

 忘れられないこの日の出来事は、フリーザが元々持っていた、サイヤ人への反感をさらに強める事となり、後に彼が軍を引き継いでからの、彼らへの冷遇に、惑星ベジータの消滅へと、繋がっていく事になる。 

 

 

 

 回想シーンが終わり、その内容を見ていたベリブルが、額にうっすらと汗を浮かべて言った。

 

「……まあコルド大王様は、大らかな方でございますから」

「大らかの範囲超えてるよね!?」

 

 彼の父親は、宇宙有数の凄まじい戦闘力を持っていながらも、どこか大雑把な性格なのが、玉に瑕だった。とにかく細かい事を気にしないから、コルド軍の経営もいい加減で、仕事の大半を部下に丸投げして、自分は取引先と接待ゴルフや宴会で遊んでいる有様だった。

 

 そして何より、そんないい加減なやり方でも、組織としては上手く回って成果も出していたのが、几帳面な性格のフリーザには、理解不能で腹立たしかった。

 

 戦闘力が圧倒的に格下のベジータ王や、何かよく判らない、大王を名乗る頭が尻の生き物とも、笑って対等に付き合っていたのも気にくわなかった。こちらの方が格上なのだから、きっちり臣従させてしまった方が効率的なのに。

 

 これなら自分の方が上手くできるからと、軍を譲るように言ったら、一部だけのつもりだったにも関わらず、あっさり全て押し付けてきた時には、提案した彼自身が驚愕した。普通幼い子供に言われたからといって、自分の全てを譲る宇宙の帝王がいるだろうか? 

 

 それに信じられない事に、ちょうど武者修行に出ていた兄の事をすっかり忘れていたらしく、何故か自分が後で恨まれる羽目になってしまった。軍を半分渡すと提案したが聞いてもらえず、今は別方面で、独自に軍を立ち上げているという。

 

 そんなどこまでもいい加減な父親の事を、彼は嫌っていた。

 

 

 

 仕事の続きをしていたフリーザの耳に、騒々しい足音が聞こえてきた。そしてノックも無しに、バーン! と勢い良くドアが開かれた。誰が来たかは、その音だけで分かった。

 

「久しぶりだなフリーザよ! 元気にしていたか?」

 

 部屋に入ってきたのは、フリーザの第二形態にそっくりな、身の丈3メートル近い巨漢だった。特注サイズのアロハシャツに、麦わら帽子とサングラス、腰回りには浮き輪を着けて、サーフボードを担いでいた。どこかのリゾート惑星で、思いっきりエンジョイしてきた様子だった。

 

 そんな格好をしていながらも、彼の姿に、宇宙の帝王に相応しい、威風堂々とした迫力がある事は、フリーザも認めざるを得なかった。年齢のせいか、口元に小さく皺が見えるが、それがむしろ、威厳を醸し出している。背が高いと得だと、フリーザは内心思った。

 

「……少し前まで、ボクは絶対安静だったんだけど?」

「おお、そうだった! だがいつの間にか随分と、男前になったではないか!」

 

 身体が半分機械になった息子の、見様によっては醜い顔を、彼は気にせず豪快に笑い、手にしていた土産のチョコを押し付ける。チョコの箱はすぐさまベリブルへ渡り、彼女は一礼して、すぐに中身を高価な絵入りの皿に盛りつけ、二人分のコーヒーを準備した。

 

 身の丈3メートル近いコルド大王がいても、室内は全く手狭ではなかった。もちろんフリーザの部屋が広いというのもあるが、それだけではない。

 

 フリーザ軍の基地の全ての設備は、コルド大王のような、あるいはそれ以上の大柄な者から、ギニュー特戦隊のグルドのような小柄な者まで不自由なく使えるよう、バリアフリー化が徹底している。こうした福利厚生の充実と、働きに応じた評価と賃金を与える事によって、銀河中のあらゆる種族から、見所のある者を、戦闘員としてスカウトできるのだ。

 

 これもフリーザが軍を引き継いだ後で、成し遂げた多くの成果の中の一つだった。

 

 座ってチョコを頬張っていたコルド大王が、ふと何かに気付いたように、室内をきょろきょろと見渡して、不思議そうな顔で言った。

 

「そういえば、ドドリアとザーボンはどうした? 休暇か?」

「……死んだよ。ナメック星で」

 

 画面に顔を向けたままのフリーザが、気まずそうに言った。彼らは父親から預かった、優秀な部下達だった。死なせてしまった事を、叱責されるのではないかと彼は思っていたが、コルド大王は、真顔で重々しく頷いた。

 

 

「そうか。ドドリアの奴は大酒飲みで、健康診断の結果に怯えていたからな……ザーボンの奴は、ついに女に刺されたか」

 

 

 同時刻、地獄からそのやり取りを見ていた二人が、脳溢血と痴情の縺れを死因にされた事に、脱力して崩れ落ちる中、一緒に見ていた兵士達は、コルド大王様らしいと爆笑していたが、それはまた別の話だ。

 

 

「違うよ!? 直接最後を見たわけじゃないけど、たぶんベジータに殺されたんだ」

「ベジータ王の息子か。あの二人を倒すとは、ずいぶんと強くなったものだ」

 

 父親の口から、サイヤ人を評価する言葉が出た事に、フリーザは内心、苛立ちを覚える。

 

「まあ、気にするな。死んでしまったものは仕方が無い」

 

 そしてこの台詞だ。この父親は情に厚いようで、他人の生き死にに、それほど執着しない。惑星ベジータを無断で破壊して、お気に入りのサイヤ人達を絶滅させた時も、特に何も言われなかった。それが宇宙の帝王たる者の、器という事なのかもしれないが。

 

 たとえ自分が死んでも、大して気にせず、養子を取るとか言い出しかねない、そんな父親の事が、彼は嫌いだった。




 というわけで、前々から予告していたフリーザ様の話です。コルド大王のキャラは、一応原作を自分なりに解釈した結果です。

 それと毎回書いていますが、評価、感想、お気に入り、誤字報告などありがとうございます。続きを書く励みになっております。

 作者はお気に入りが1つか2つ増えただけでも大喜びする小市民で、高評価など頂こうものなら数日間は何かにつけて思い出して感激し続けるくらいの単純な性格ですので、よろしければどうか良い感じにお願い致します。

 この話はあと1話か2話でまとめて、そこからセル編に行く予定です。遅くなるかもしれませんが、気長にお待ちくださいませ。


・コルド大王
 自分の中のイメージは、バブル期のカリスマ社長みたいな感じです。従業員全員の顔と名前を覚えてるタイプ。頭使うのはそこまで得意じゃないですが、それは自覚していて組織運営とか難しい事は頭良い部下にぶん投げてました。それで実際上手くいってたあたり、人を見る目はある感じです。フリーザ様に軍を全部投げたのも、息子なら上手くできるだろうという信頼からだったりします。

 ブロリー劇場版のベジータ王、建物に宇宙船ぶつけられたりで明らかに様子がおかしいのに、コルド大王に対して両腕広げて歓迎の素振りを見せてたので、たぶん普段だったらコルド大王も応えて抱擁とかしてたんじゃないかなと。劇中のサイヤ人達も、フリーザ様の事は悪く言ってもコルド大王については触れていなかったので、良好な関係だったと勝手に解釈しました。

 性格についても、原作での数少ない出番とかフリーザ様との会話を見た感じ、単純に冷酷なだけの人という感じはしなかったのです。フリーザ様が目の前で殺された直後に、殺したトランクスを養子を取ろうとして断られて、騙して剣奪ってドヤ顔できんのだからの即死の流れは何と言うか、半分面白枠の人だったんじゃないかなあと。

 あと駄目押しで我が一族は宇宙最強でなければならんとか言いながら復活のFで「破壊神ビルスと魔人ブウにだけは手を出すな」って言ってた事が判明したので、自分の中ではこういうキャラで確定しました。一応原作準拠なのです。


・フリーザ様
 むしろキャラ崩壊タグの対象はこの方だったりするのですが、この話は親子関係を重視してますので、こういう流れになってます。解釈違いだったらすみません……。


・ニコちゃん大王
 アラレちゃんの登場人物。「あの世界、コルド大王が宇宙規模の有名人だろうに、同じ称号を名乗るとか大丈夫なのか……?」→「友達なんじゃね?」って思ったのでこんな感じになりました。今も地球にいますが、特に本編には出ません。
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