フリーザの自室にて。画面に顔を向けて仕事に集中している息子の姿を、頬杖を突いてベリブルの淹れたコーヒーを飲みながら眺めるコルド大王が言った。
「そういえばフリーザよ。お前も年頃なのだから、こう、気になる女子の十人や二十人くらいはおらんのか? ベジータ王の息子も結婚して子供を作っておったし、ワシもそろそろ、孫の顔とか……」
その言葉を聞いたフリーザの額に、びきりと青筋が浮き上がる。自分をこんな目に遭わせたのは、そのベジータの娘だというのに。
そうだ。あの娘の事は、前々から気に食わなかった。奴の母親、身体の弱い死に掛けのサルに子供ができたと聞いた時には、せっかく減らしたサイヤ人がまた増えたのかと、ずいぶんイライラさせられたものだ。
だが、サルの小娘1匹など、その気になればいつでも殺せるし、ベジータと同じく、生まれつき高い戦闘力を持っているという話だったから、せいぜい死ぬまでこき使ってやろうと思った。
そして3年前、戦闘員として既に実戦に出ていたその娘が、両親と共に、フリーザ軍のパーティーに出席してきた時の驚愕は、今になっても忘れられない。
あのベジータが、娘の前で思いっきり顔を緩めて頭を撫でて、妻子のために甲斐甲斐しく料理を皿に取り分けて、スカウターで何十枚も、家族の写真を撮っていた。それどころか、周囲の戦闘員達に、親子3人の写真を頼んですらいた。
母親の方も、楽しそうにはしゃぐ娘の傍で、優しく微笑んで見守って、子供の姿を珍しがって寄ってくる戦闘員達に、娘の事を紹介していた。
そして娘の方も、惜しみなく注がれる愛情を受けて、とても幸せそうな様子だった。自分が親から愛されていると、信じて疑わない顔をしていた。あの娘は、自分が親から見捨てられるかもしれないなどと、想像すらした事がないのだろう。
『そうか、超サイヤ人ゴッドとやらがワシやクウラやフリーザよりも強いのなら、養子にしてしまえばいいのだ!』
父親の言葉が耳に蘇り、突然湧き上がった憎らしさと妬ましさに、フリーザの手の中で、酒のグラスが砕け散った。あの娘の笑顔を、滅茶苦茶にしてやりたいと思った。放っておいても長くないと聞いていた奴の母親を、わざわざ手を回して死地に送り込んだのは、それが理由だった。
「フリーザよ、聞いておるのか?」
「……興味ないよ、パパ」
つっけんどんな息子の返事に、むう、と父親は唇を尖らせる。フリーザもクウラも、もう子供がいてもいい歳だというのに、浮いた話の一つもないのだ。このままでは二人とも一生独身で終わってしまうのではないかと、心配だった。
綺麗どころのいる店にでも、連れて行ってやるべきかと思ったが、興味ないとか言ってるし、どうにも喜ばれるビジョンが浮かばない。ザーボン達は誘えば尻尾を振ってついて来たものだが、これが最近の若者という奴だろうか。
ザーボンといえば。そこで彼は基地の売店でこっそり売られていた、見つめ合うザーボンとドドリアが表紙の本を思い出す。絵が綺麗で面白そうだったので、試しに全巻買ってみたのだが、なかなかの力作だった。しかし内容はこう、何というか、独特のもので。そういう趣味がある事は、決して否定するわけではないのだが。
「はっ!?」
彼は何かに気付いたような表情で、息子に駆け寄り、その肩に手を置く。鬱陶しそうに振り向いた顔を、真顔で見つめながら言った。
「同性愛はいかんぞ。非生産的な」
「何言ってるのパパ!?」
フリーザが目を剥いて反論しようとしたその時、控えめな通知音と共に、室内に声が響く。
『失礼いたします、フリーザ様、ギニュー隊長がいらしておりますが……』
「ああ、ボクが呼んだんだ。通していい」
通常はこのように、警備兵が入り口を固めるこの部屋に入るには、彼の了解が必要なのだ。前の二人が、たまたま、宇宙にほんの一握りの例外だっただけで。
もちろん、一億以上の戦闘力を持つフリーザに、護衛の必要などないのだが、この宇宙で彼に恨みを持つ人間は、文字どおり星の数よりも多い。命を狙ってくるゴミの類を、いちいち相手にするのは面倒だった。
「おお、ギニュー隊長が来るのか? 奴とも長らく会っておらんかったな……どれ、久々に一緒に、喜びのダンスでも踊るとするか!」
楽しげに準備運動を始めた父親を、息子はジト目で睨みつけながら、釘を刺すように言った。
「ちょっとパパ、ギニュー隊長は今はボクの部下で、仕事の話で呼んだんだから、邪魔はしないでよね?」
「むう、わかった……」
コルド大王が、すごすごと背中を丸めて部屋の隅へと移ったその時、丁寧なノックの音がした。
「フリーザ様! 特戦隊隊長ギニュー、ただいま参りました!」
入室してきたギニューが、身体の半分を機械に置き換えたフリーザの姿に驚愕する。直後に彼は腰を直角に曲げて頭を下げ、喉から振り絞るような声で謝罪する。
「……申し訳ございません! 私めが不甲斐ないばかりに、フリーザ様をそのようなお姿に……!!」
ギニューの心の中に、悔恨と罪悪感が満ちていた。自分は敬愛する主君を助けられなかったばかりか、敵であるベジータの娘を鍛えるような真似までしてしまった。先の失態も合わせて、到底許される事では無い。
「かくなる上はこのギニュー、腹を切って詫びる所存です! ですからどうか、部下達にはどうかお慈悲を……!!」
堅く目を瞑りながら、決死の覚悟で言い切ったギニューに、フリーザは席を立ちながら、穏やかな声で言った。
「頭を上げなよ、ギニュー隊長。あのサイヤ人共は、君達が太刀打ちできるレベルじゃなかった。撤退して君を無駄死にさせなかった、部下達の判断は正解だよ」
ナメック星で、ドラゴンボールをギニュー隊長に預けてからの出来事は、全て報告書を読んで把握していた。ベジータ達にドラゴンボールを奪われてしまったのは、確かに彼らの失態だが、どの道、ナメック語で願う必要がある以上、殺されてもその事を黙っていたナメック星人達が、彼の不老不死の願いを、叶えようとするはずがなかった。
邪悪だとか何とか言われて、ナメック星人達に好印象を持たれなかった時点で、不老不死を得るという計画は、最初から失敗していたのだ。それを考えれば、彼自身すら死に掛けるような状況下で、結果的にギニュー特戦隊という戦力の要が失われなかった事は、むしろプラスの出来事だった。
「それにギニュー隊長。ボクは自分の命の恩人を、無下にするつもりはないよ」
フリーザの言葉に、ギニューがはっと顔を上げる。そう、敗北の屈辱と怒りで、助けられた時はついキツい目を向けてしまったが、あのまま全身がバラバラの状態で放置されていては、衰弱死しない自信はあったが、そのうちベジータ達かナメック星人共に見つかって、止めを刺されてしまう恐れがあった。1年半の療養生活の中で、彼は助けられた時の事を、何度も思い返していた。
こうしてわざわざ言葉にしているのは、彼の忠誠心を煽る狙いが主だが、それでも感謝しているのは本当だった。笑顔を向けられたギニューは、たじろぐように言った。
「フ、フリーザ様、しかし私めは、あろうことか、敵であるベジータの娘に、ポーズの指導をしてしまいました……! あの娘の才能は本物です! このまま伸び続ければどうなってしまうのか、この私にも計り知れません!!」
うん、ボクにもさっぱり判らない。フリーザは心の中で、遠い目をして呟いた。ポーズ云々も彼の報告書に書かれていたのだが、その部分は読んでて頭が痛くなったので読み飛ばした。
というか、そんな事黙っていればいいじゃないかと思う。スカウターでやり取りは記録されているけど、直接報告されなければ、気付かなかったフリができるんだから。
能力も忠誠心も申し分ないが、不器用で真面目過ぎる。それがフリーザの、ギニュー隊長に対する評価だった。理解不能なポーズへの拘り等も含め、ある意味扱いづらい面もあるが、そんな人材でも、上手く使ってやるのが、上に立つ者の務めだった。
彼は部屋の外の警備へと、通信で命令する。
「残りの4人も外で待機してるんだろう? ここに通してくれ」
『はっ!』
そしてすぐに、緊張で身体を強張らせながら入室してきたジース達は、隊長の横に並んで、深々と頭を下げて訴える。
「フリーザ様! どうか、隊長の命だけは勘弁してください!」
「オレ達がベジータ達に勝てなかったのが悪いんです!」
「お、お前達!? 何を言っている!? 止めろ!」
「静かにしてくれないかな? うるさいのは好きじゃない。全員顔を上げるように」
フリーザの言葉に、全員が口を噤み、背筋を伸ばして直立する。彼はそれを満足げに眺めてから、口を開いた。
「まずは、ボクが動けなかった間、ろくに休みも取らず、反乱の鎮圧に励んでくれたようだね。ご苦労だった。良い働きぶりだよ」
全員が処刑されかねないと思っていたジース達が、労いの言葉に驚きに思わず息を呑むが、彼としては当然の評価だった。彼らの献身的な働きが無ければ、トップが不在のフリーザ軍は、反乱を抑え切れず、今以上の大打撃を受けていたはずだ。
確かに下級の戦闘員が、目に余るほどの失態を犯した場合、見せしめも兼ねて処刑する事はあるが、そんないくらでも補充の利く人材と、最強部隊のギニュー特戦隊を一緒にするわけにはいかない。彼らは今まで任務の失敗など、ろくにした事がなかったから、その辺りの事が判らないのも、無理はないかもしれないが。
「特別に、臨時ボーナスと、2ヶ月間の休暇を出そう。好きに楽しんでくるといい」
処刑は無く、しかも久々の長期休暇がもらえるとあって、喜びにはしゃぐ隊員達。
「ヒャッハー!」
「流石フリーザ様だぜ!」
「し、しかしフリーザ様、任務の失敗は……」
どこまでも生真面目なギニュー隊長は、そのままではボーナスも休暇も、一人辞退してしまいかねない。そんな彼への言葉も、既に用意してあった。
「そうだね。休暇が終わったら、君達にしてもらいたい仕事があるんだ。ナメック星とヤードラット星での失敗は、そちらで挽回して欲しい」
「かしこまりました! 何なりとお命じください!」
フリーザは頷いて、部屋の大型スクリーンに、銀河の大部分にも及ぶ、フリーザ軍の支配区域の全体図を映し出す。いくつもの惑星やエリアが、彼自身の手によって赤く色分けされ、戦力や拠点の位置などの、細かい情報が表示されていた。
「このボクが伝説の超サイヤ人に殺されたとかいう、根も葉もないデマを信じた奴らの反乱は、君達のおかげで大体鎮圧されたみたいだけど、それで思いついたんだ。二度とこんな事が起こらないよう、もっと徹底的に締め上げる必要があるってね」
今代の宇宙の帝王は、冷徹かつ邪悪な笑みを浮かべながら指令を下す。
「将来的に反抗してくる可能性がある中で、特に手ごわそうな星のリストを送っておいた。金も兵器も人員も好きに使って構わない。全て壊滅させて、他の星への見せしめにするんだ。いいね?」
言葉を掛けられたギニューは、感動に打ち震えていた。これがフリーザ軍の将来の基盤を安定させるための、重大な作戦である事は明らかだ。失態を犯してしまった自分達に、このような大役を与えてくれるとは!
「はっ!! お任せください!!」
そして彼は部下達の方を向いて叫ぶ。
「お前達も聞いたな! フリーザ様は寛大にも任務に失敗したオレ達を許して下さっただけではなく、遣り甲斐のある新たな任務をも与えて下さったのだ!」
「「「「ありがとうございます! フリーザ様!」」」」
一斉に跪き、深々と頭を下げる彼らに向けて、フリーザは鷹揚に頷いてみせた。父親から受け継いだギニュー特戦隊は、当時から今に至るまで、フリーザ軍の最強部隊だ。その高い実力はもちろん、彼の指示が無くても動けるほどの高い戦略眼を有しており、その上気さくな性格と振る舞いで、フリーザ軍のイメージ向上にも貢献している。彼らに憧れて、フリーザ軍に志願する者も少なくないほどだ。
そこいらの戦闘員とは違って、フリーザ軍にとっては欠かせない人材であり、多少の失敗があろうとも、そうした能力と功績に応じて厚遇するのは当然のことだ。
そんな彼の振る舞いに、ギニュー隊長は小さく涙ぐみながら、溢れんばかりの忠誠心の赴くままに叫ぶ。
「慈悲深いフリーザ様に感謝を示さねばならん!! 行くぞお前ら!! 最高のスペシャルファイティングポーズをお見せするのだ!!」
「「「「おう!!!!」」」」
「えっ」
唖然とするフリーザの前で、特戦隊メンバーが、己の名を叫びながら、一世一代のポーズを決めていく。
「リクーム!!」
「バータ!!」
「ジース!!」
「グルド!!」
「ギニュー!!」
「「「「「みんな揃って!!!!! ギニュー特戦隊!!!!!」」」」」
あのギニュー特戦隊の、目の前でのスペシャルファイティングポーズ。しかも今日のポーズは、彼らにとって生涯最高とも言える出来栄えであり、イベント会場などで見せる普段のそれとは、もはや別次元のレベルに達していた。
その価値を知る者なら、感動のあまり失神していても何らおかしくない光景なのだが、彼らのノリを全く理解できないフリーザにとっては、非常に反応に困るものだった。全く悪気が無く、彼らなりの忠誠心の現れである事は確かだから、叱責するわけにもいかないが、この状況、どう応えてやるのが正解なのか。
内心頭を抱え、額に汗を浮かべるフリーザを救ったのは、父親の豪快な笑い声だった。
「はっはっは! 久しぶりだなお前達! しばらく見ないうちに、ずいぶん腕を上げたではないか!」
部屋の隅、ギニュー達の死角に控えていたコルド大王が、高笑いしながら堂々とした足取りで前に出る。
「こ、コルド大王様!? なぜここに!?」
「回復した息子の顔を見に来たのだ! それはそうと、これはワシも負けてはいられんな!」
コルド大王はノリノリで右手の人差し指を天高く掲げ、やや古いながらも、かつての宇宙の帝王に相応しい、貫録のあるポーズを取る。
「おお……!」
「久々に見たぜ……!」
感嘆の声を漏らすギニュー達に、彼は朗らかに笑いながら告げる。
「フリーザに軍を譲ってから時間が余ってしまってな! 最近は社交ダンスの教室に通っておるのだが、今度お前達もどうだ?」
「そ、その……」
ギニューはジト目のフリーザが、父親からは見えない角度で、出て行けとばかりに手を振っているのを見た。
「そのお話はまた後で! ではフリーザ様! 我々はここで失礼します! 必ずや戦果をご期待ください!」
そして彼らが退室した後、フリーザが嘆息して、勝手に口を挟んだ父親に、何か言おうとしたその時だった。
「素晴らしかったぞフリーザ! お前に軍を譲ったのは正解だった! ワシはああいう難しいのが苦手でな!」
コルド大王は大笑しながら、息子の頭を乱暴にわしゃわしゃと撫でる。
賞賛された事に、フリーザは一瞬呆然とした後、鬱陶しそうにその大きな手を払い除ける。
「……やめてよパパ。いくつだと思ってるのさ」
「んー? まあいいではないか!」
払い除けられながらも、なおも手を伸ばそうとする父親の顔を、仏頂面で見つめながら、フリーザは言った。
「……ところで、これからボクを負かした超サイヤ人に復讐するために、地球に行くんだけど、できればパパも、来てくれないかな? ボクもパワーアップしたけど、ちょっとばかり、厳しいかもしれなくてね」
息子に頼られた父親は、満面の笑みを浮かべて口を開く。
「よしわかった! 我が一族は最強でなければならんからな! それでこそ我が息子よ!」
大きな手で息子の背中を叩きながら、コルド大王は上機嫌な様子だった。
「お前と戦場に出るのも久しぶりだな! そうだ、せっかくだから、クウラの奴も呼ぶか?」
「……いいよパパ。ボクとパパの二人だけで十分さ」
そうして連れだって部屋を出ていく二人の背中に向けて、ベリブルが静かに一礼した。その口元に、笑みを湛えながら。
「行ってらっしゃいませ、フリーザ様、コルド大王様」
少し駆け足ですが、フリーザ様の話はこれで終わりです。フリーザ様が主人公の母親を殺した理由とか、原作と比べるとキャラ崩壊気味ですが、この話では親子関係を重視してますので、こういった形になりました。
ちなみに判りにくいですが、ナメック星編の第6話で、ベジータのスカウターに記録されていたナッツの成長記録を見せられたフリーザ様がブチ切れてたのはこの展開の伏線です。あと30話でナッツに倒される直前のやりとりとか直球ですね。
次の話からは、いよいよセル編に突入します。ちょっと更新は遅れるかもしれませんが、一応大まかな話の流れは考えてますので、何とかじっくり書いていきたいと思います。気長にお待ち下さいませ。
それと毎回ですが、評価、感想、お気に入り、誤字報告等ありがとうございます。続きを書く励みになっております。頂いた評価のおかげで久々にランキングに載れたのがとても嬉しかったです!
あと、ごりロット様に描いて頂いた主人公のイラストを前書きに掲載しました! 流血注意ですが、物凄く悪そうで格好良くて素晴らしい出来栄えですので、よろしければ是非ご覧ください。
もしイラストを描いてみたいなあという方がいらっしゃいましたら、いつでも大歓迎ですのでメッセージなりでご連絡下さい!
・「同性愛はいかんぞ。非生産的な」
お隣の某作品へのリスペクト。解る人だけ解れ。
本当はベジータ王に言わせたかったけど、シチュが思い浮かばなくて断念しました。
・喜びのダンス
原作でギニュー隊長がドラゴンボールを7つ揃えたフリーザ様の前で見せようとしたダンス。フリーザ様は汗を浮かべてまたの機会にと断っていた。
ギニュー隊長、嫌がってる人にそういうの見せようとする人じゃないと思うので、フリーザ様が彼らのポーズとかも含めて嫌とかやめろとかは一切言ってないし、気取られないようにもしている気遣いが伺えるのです。