超サイヤ人に変身したトランクスの姿に、その場の全員が驚愕する。
「あ、あれは、超サイヤ人!? あの人、髪の毛が青いのに、サイヤ人なの……?」
「おそらく、混血なんだろうが……親は誰なんだ?」
「あいつの気、悟空やベジータに匹敵……いや、それ以上か?」
注目の中、少年はナッツの前に立つ悟飯が、複雑な顔で自分を見ている事に気付く。
無理もない、と彼は思った。本来の歴史なら、本来の歴史なら、父さんと悟空さんが戦って、フリーザ達の気を引き付けている間に、怒りによって超サイヤ人に覚醒した悟飯さんが、一瞬の隙を付いて、姉さんを助けていたはずなのだから。
悟飯さんには悪い事をしてしまったが、未来ではとても仲の良い恋人同士だったのだから、このくらいで二人の関係が、変わってしまう事はないだろう。
そう、必要以上に歴史を変えてしまわないよう、全てが終わるまで気を消して、父さん達の戦いを見守るつもりだったのだが。大切な姉さんが傷付けられるのを、黙って見ている事など、自分にできるはずが無かったのだ。
姉さんを抱き締めたまま、安堵に泣きじゃくる、若い母さんの声が耳に届いて、少年の怒りを更にかき立てる。今更引っ込んで、父さん達にこいつらの相手を任せるなど、できない相談だった。
一方、怒りと殺意に満ちた青い瞳に見据えられたフリーザは、ここで怯んでしまえば負けると感じ、少年に掌を付き出して、先制のエネルギー波を放つ。
「舐めるなあっ!」
戦闘力1億5千万のパワーによって、全力で放たれた攻撃が、トランクスに着弾し、大爆発が巻き起こる。
「きゃあああっ!?」
爆風に煽られるブルマを、とっさにベジータが抱き寄せて庇う。そして巻き上がった土煙が晴れ、少年の姿が消えているのを見たコルド大王が大笑する。
「やったなフリーザ! 所詮我々の敵ではないのだ!」
「黙っててよパパ!?」
どう見てもやれていない状況に、余計なフラグを立てるなと怒るフリーザ。
実際その時、攻撃を回避していたトランクスは、高台の上からフリーザ達を見下ろしていた。
ばばばっ、と素早く両手を複雑に動かし、最後に両手の親指と、人差し指を組み合わせる。特に意味はないが、姉さんが凄く格好良いと誉めてくれた動作だ。
「フリーザーーーっ!!!」
「!?」
あえて存在を知らせながら、少年は必殺のエネルギー波を撃ち放つ。
「くっ!?」
防ぐのは難しいと見て取って、フリーザとコルド大王は、迫り来るエネルギー波を、真上に跳躍して回避する。着弾したエネルギー波が爆発し、その音と煙に紛れて、先回りしていたトランクスが、瞬時にフリーザの眼前に現れる。
「なっ!?」
驚きの声よりも速く振り下ろされた斬撃が、フリーザの身体を真っ二つに切り裂いていた。少年の剣はなおも止まらず、縦横無尽に振るわれて、瞬く間にフリーザの肉体を細切れにしていく。
最後に、驚愕したままのフリーザの目の部分の欠片を睨みながら、トランクスは手を前に突きだし、吐き捨てるように叫ぶ。
「くたばれ!!!!」
そして放たれた凄まじい気の奔流が、細切れとなったフリーザの身体を、今度こそ一片の欠片も残らず消し飛ばした。
遠くからその光景を見ていたナッツは、ぱあっと顔を輝かせて快哉を叫ぶ。
「す、凄い! フリーザをあっという間に倒しちゃったわ!」
(それにあの素早く手を動かす技、凄く格好良いわ! 何ていう名前なのかしら?)
そんな事を考えながら、自分もばばばっ、と、見様見真似で手を動かす少女。ナッツは影響されやすい子供だった。
一方、父親と悟飯は、彼女から憧れの目を向けられている少年に、内心苦々しいものを感じていた。
(ちっ、どこのどいつだか知らないが、少しばかり戦闘力が高いからって、いい気になりやがって……)
(ちょっとばかり格好良い技が使えるからって……)
嫉妬交じりの目付きで少年を睨んでいた2人に、ナッツがにっこり笑いながら声を掛ける。
「ねえ、父様と悟飯も、そう思いますよね?」
その瞬間、焦った2人が同時に笑顔を作って言った。
「そ、そうだな!」
「う、うん! 凄いよね、ナッツ!」
はっはっは、と肩を組んで空笑いするベジータと悟飯。そんな彼らの一部始終を見ていたブルマは、くすりと小さく、笑い声をこぼすのだった。
地上に降りたコルド大王は、剣呑な目付きで自分を睨むトランクスを、感心した様子で眺めていた。
「素晴らしい強さではないか。我が子フリーザを、こうもあっさり倒してしまうとはな」
宇宙最強は、必ず我が一族でなければならない。それならもう、この超サイヤ人は養子にするしかないだろう。フリーザが死んでしまったのは残念だが、まあ地球にはドラゴンボールとやらがあるらしいし、行方不明のニコちゃんの奴を探すついでに集めて、生き返らせれてやればよかろう。
「歳はいくつだ?」
「? 17だ」
少年の返答に、コルド大王は真顔で頷いた。
「若いな……ではフリーザの弟という事になるな」
「何でだよ!?」
そこで話を聞いていたナッツが、わなわなと震えながら口を開く。
「あ、あなた……フリーザの弟なの……?」
「違います!」
むしろあなたの弟です! と叫びたいのを必死に堪えるトランクス。
「おっと、言い忘れていた。ワシの養子にならんか? 宇宙一に近いその力こそ、我が一族に相応しい」
「それを先に言え! あと養子の件は断る!」
「まあそう焦るな。この地球よりもっと素晴らしい、全ての星も思いのままになる」
「興味がない」
きっぱりとした拒絶に、コルド大王は眉をひそめる。最近の若者は欲が無い。クウラとフリーザを見習えと思う。二人とも幼い頃からガツガツしていて、軍を率いて支配権の拡大に励んでいたほどだ。
まあ息子達は息子達で、いつまで経っても浮いた話の一つも無いのが親として心配だったが。この若者は、そっちの方はどうだろうか。
「では女はどうだ? 宇宙中のどんな美女だろうと思いのままだ。その歳なら、気になる女子の十人や二十人くらいはおるだろう?」
その言葉を聞いて、トランクスの脳裏に浮かんだのは、10歳近く歳の離れた姉の姿だった。
彼が物心ついた時には、彼女は既に、人造人間との戦いで大怪我をして、戦う力を失っていて。車椅子の上で、いつも儚げに微笑んでいた。
けれど、姉は不自由な身体でも、いつも彼の事を、一番に気に掛けてくれていた。手に入る乏しい食糧で、とても美味しい料理やおやつを作ってくれたし、厳しい修行で倒れた時には、一晩中付きっきりで看病してくれた。
そして何より、死んだ父さんの息子で、血の繋がったたった一人の弟の事を、彼女は心の底から、愛してくれていたのだ。
姉には既に、恋人がいたけれど、それでも彼にとって、彼女は世界で一番、優しくて綺麗な、憧れの人だった。
そこまで考えた所で、人造人間に殺されて、変わり果てた姉の姿を思い出して。泥のような眼差しで、少年は呟いた。
「……興味が、ない」
「ふむ、では仕方が無いな」
地雷だったか、とコルド大王は考える。あれは手酷い失恋でも経験した奴の目だ。本命の女にこっ酷く振られた時のザーボンが、ちょうどあんな感じの目をしていた。
説得に失敗してしまったのなら、仕方ない。見所のある若者だが、殺してしまうしかないだろう。しかしその気で見てみると、少年の佇まいには、驚くほど隙が無い。
フリーザを一瞬で倒したのも、頷ける強さだ。これは正面からでは、厳しいかもしれない。搦め手を使うべきだろう。
そこで彼は、少年の剣に目を向ける。フリーザの身体をあっさり切り裂いていた事からも、かなりの切れ味を秘めているのがわかる。あれさえ奪えれば、残りの超サイヤ人相手にも、かなり優位に立てるだろう。知略を見せる時だ。
「ところでその剣、ちょっと見せてはもらえんか?」
「断る」
渾身の知略をきっぱり断られるも、コルド大王はめげずに続ける。
「どうした? 私に剣を渡すのは怖いか?」
「…………」
一人称まで変えてのあからさまな挑発に、物凄く嫌そうな顔で、剣を投げ渡すトランクス。その光景を遠くから見ていたナッツが驚愕し、震える声で言った。
「そんな!? あの凄い剣を渡しちゃうなんて!? あ、あの人、コルド大王に騙されてる……きっと殺されちゃうわ……」
少女が見守る中、剣をキャッチしたコルド大王は、しげしげと間近で確認する。正直剣の良し悪しはさっぱり判らなかったが、その切れ味は確かだったから、さも詳しそうな顔で言い放つ。
「なるほど……確かに素晴らしい剣だ」
「オレの剣だからな?」
まんまと剣をゲットしたコルド大王は、得意げに小さく笑って言った。
「ところで、貴様がフリーザに勝てたのは、この剣があったからこそだとは思わんか?」
「返せオレの剣」
「そうよ! 早くその人に返しなさいよ!」
二人の声を聞き流しつつ、彼は既に、己の勝利を確信していた。
「つまりこの剣がなければ、貴様はワシに勝つ事は……」
ゆっくりと、自信に満ち溢れた様子で、コルド大王は奪った剣を振り上げる。太陽を背に逆光を受けた身の丈3メートルの威容は、少女の目には、まるで絶望の象徴のように見えていた。
「あ……あ……」
「できんのだ!!!」
「きゃあああああっ!?」
コルド大王が少年に剣を振り下ろした瞬間、凄惨な光景を予想して、少女は両手で顔を覆い隠す。
「なっ!? ま、待て!?」
直後にコルド大王の焦った声と、まるでエネルギー波が人体を貫くような音が聞こえてきて、ナッツは目を覆ったまま、訝しげな顔になる。
どきどきしながら、少女が指の隙間を開けて確認すると、腹部に大穴を開けたコルド大王が、白目を剥いて倒れているのが見えた。
「あ、あれ?」
もしや目の錯覚かと、ナッツはごしごしと目をこすってから、改めて確認するが、やはりコルド大王が死んでいる。ようやく事態を理解した少女が思わず叫ぶ。
「……良い所見逃しちゃったわ!?」
剣を取り戻したトランクスは、きゃーきゃー騒ぐ幼い姉の声に癒されながら、大きく息をつく。
(父さん達は、こんなのと戦ってたのか……!?)
強さはともかく、未来で戦ってきた人造人間達とは全く異質の存在だった。もしかしたら死んだフリをしているかもしれなかったので、彼は追撃のエネルギー波を撃ち込んで、丁寧に死体を消滅させたのだった。
次の話にこの部分まで入れると、ちょっと長くなりそうなので投稿しました。