あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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8.彼女達が、家族になる話(前編)

 悟飯の部屋にて。

 

 スカウターに収録されたナッツの画像を見終わった悟飯は、着けていたスカウターを、少女に返却する。

 

 それを受けとりながら、ふとナッツは、思いついた事を口にする。

 

「そう言えば、悟飯は生まれた時、戦闘力いくつくらいだったの?」

「えっ!?」

 

 予想外の質問に、一瞬口をつぐんでしまう悟飯。そもそも計測すらしていないので答えようがないのだが、少年の沈黙を、彼女は別の意味に解釈してしまう。

 

(……そういえば、強いから忘れてたけど、悟飯は下級戦士の生まれだったわ!? わ、私ったら、何て失礼な質問を!?)

 

 もし戦闘力2とかだったとしたら、恥ずかしくてとても口にできないのも頷ける話だ。ナッツは目を伏せながら、元気づけるように、少年の肩に手を置いて言った。

 

「ごめんなさい、悟飯。……大丈夫よ。今のあなたは立派なんだから、恥ずかしい事なんてないわ」

「何言ってるのナッツ!?」

 

 その後二人が、ひとしきり話し合って誤解を解いた後、気になっていた事を、悟飯が訪ねる。

 

「そもそも、ナッツ達の言う戦闘力って何なの?」

「持っている力を、客観的に表すために数値化したものよ。今の私の戦闘力が、大体100万を少し超えたくらいね。フリーザみたいな例外を除けば、宇宙全体でも、滅多にいない数字よ」

 

 えへんと胸を張るナッツに、少年は疑問を投げかける。

 

「それは凄いと思うけど……気の大きさを、そんな正確に、数字で表す必要があるの?」

「もちろんよ。敵の戦力を正確に測れなかったら、任務の難易度を決める時に困るじゃない」

 

 それを聞いて、悟飯は理解する。確かに、ナッツのいたフリーザ軍のような軍隊だったら、情報の共有のために、戦闘力のような概念はとても便利だろう。逆にもしそれが、無かったとしたら。

 

 

「敵の強さはどのくらいだった?」

「ああ、とてつもなくバカでかい、大きな気を持ってやがったぜ……」

「正確に報告しろバカー!!」

 

 

 となってしまうだろうし、そうならないためにも、戦闘力のような、客観的な数字が必要なのだろうと思った。

 

「確かに、便利かもしれないね」

「でしょう? せっかくの機会だから、私が判りやすく教えてあげるわ。何か書く物ない?」

 

 そこで紙とペンを受け取ったナッツは、鼻歌を歌いながら、さらさらと綺麗な字で人の名前とその戦闘力を書き込んていく。

 

 悟飯はたまに彼女と勉強する際、少女がノートを取る様子を何度も見ているのだが、戦闘民族でありながら、ナッツにはそうした姿も、割と様になっているところがあった。

 

(身体が弱かったっていう、お母さんの影響なのかな……)

 

 一緒に戦いに出た事は、数える程しかなかったけど、たくさん本を読んでくれて、勉強も教えてくれたと、嬉しそうに話していた覚えがある。

 

「できたわ! これが戦闘力の一覧表よ!」

 

 そうしてナッツが書き上げた表の一番上には、彼女の父親の名前と、戦闘力1000万(超サイヤ人になったら5億!)という記載があり、その少し下に載っている悟空は、戦闘力999万くらいと書いてある。それ以降は戦闘力の順番に、謎の少年やコルド大王などが載せられている。彼女自身の名前は、フリーザ第二形態の少し下に、100万という数字と共に書かれていた。

 

 またナッパやラディッツなど、彼女がよく知る人間の横には、デフォルメされた可愛らしいイラストまで付いていて、それが割と良く似ていた。ちなみに一番下はサイバイマンの1200だ。

 

「ドドリアって人は見た事あるけど、この戦闘力18000のキュイって誰?」

「悟飯は見てないわね。ナメック星で卑怯な手を使って来たけど、父様があっさり倒したの。最後は汚い花火みたいだったわ」

「死んだ人を悪く言うのは駄目だよ、ナッツ」

 

 そんな風な会話の中、悟飯は気になった事を口にする。

 

「ところでナッツ……ボクの戦闘力が、どこにも書かれてないんだけど……?」

 

 彼の指摘に、少女は難しい顔になって言った。

 

「……あなたの戦闘力は、正直とても読みづらいのよ。こうして向かい合っている限りでは、私と同じ100万程度に感じられるんだけど……」

「なら、ナッツの隣に書いてくれれば……」

「けどあなた、3年前のナメック星の時点で、戦闘力200万近くはあった第三形態のフリーザを、あと一歩の所まで追い詰めていたわよね? 父様達も援護していたとはいえ、あの瞬間は、最低でも160万には達していたはずよ」

 

 そこで少女は、一度言葉を切ってから、黒い大きな瞳で、悟飯の目を真っ直ぐに見つめて断言する。

 

「自由には扱えないみたいだけど、間違いなくあなたの中には、とても大きな力が眠っているのよ。きっと潜在能力という点では、私よりも遥かに上でしょうね」

「そ、そんな事無いよ!」

 

 少年は必死に反論する。確かに昔から、自分は怒って無我夢中になると、信じられないような力を発揮する事が何度かあった。

 

 だけど、自分は決して、戦うのが好きではない。人造人間との戦いに備えて修行しているのも、負ければ地球が滅茶苦茶になってしまうからだし、たまにナッツと組み手をしているのも、彼女の喜ぶ顔が見たいからに過ぎない。

 

 将来の夢は学者さんになる事で、本音を言えば、ずっと勉強だけしていたいと思っている。そんな自分が、戦う為に生まれてきたような、このサイヤ人の女の子よりも強い力を持っているだなんて、それだけで、ナッツの事を侮辱しているような気になってしまう。

 

 少女の方は、そんな彼の様子を見て、小さく笑った。この風変わりな、優しいサイヤ人の少年が何を考えているか、今のナッツにはお見通しだった。初めて会ったその日から、もう3年以上も付き合っているのだから。

 

「悟飯、そんな事を気にしなくても良いのよ」

「け、けど……!?」

 

 少年が再び否定しかけた瞬間、ナッツの全身が、いきなり金色のオーラに包まれる。一瞬で約50倍に膨れ上がった戦闘力と、少女の澄んだ青い瞳が発する威圧感に気圧されて、悟飯は言葉を中断させる。

 

 彼女は口元を吊り上げて、嗜虐的な笑みを浮かべながら、これ見よがしに、身体の前に回した尻尾で、彼の頬をゆったりと撫でた。その意味を理解し、額に汗を浮かべる悟飯の前で、超サイヤ人の少女は、顔を近づけながら言った。

 

「ねえ。今この時点でなら、あなたの潜在能力がどれだけあったとしても、おそらく私が勝つわ。私がそれをしないのは、何故だか分かる? 悟飯」

「……強い相手と、戦いたいんだよね?」

 

 それを聞いたナッツは、変身を解いて、先ほどまでの凄味が嘘のように、にっこりと笑った。

 

「正解よ。あなたならいずれ超サイヤ人になれるでしょうし、尻尾だってそのうち生えてくるはずだわ。そうなった時のあなたが、いったいどれほど強くなるかと思うと、考えるだけで、とてもわくわくして、私ももっと、強くなりたいと思えるの」

 

 戦いそのものに喜びを覚えるサイヤ人にとって、競い合える強い相手は、人生に彩りを与えてくれる、得難い存在だ。ましてフリーザやコルド大王よりも強くなってしまった今の彼女にとって、そうした相手はとても貴重で。

 

 いや、単純な強さだけではなく。この戦いよりも勉強が好きで、私の初めての友達で、ナメック星で一番苦しかった時、ずっと傍にいてくれると言ってくれた彼が、自分以上の力を持っている事が、たまらなく嬉しいのだ。

 

「人造人間との戦いも楽しみだけど、私にとっての一番はあなたよ、悟飯」

「な……っ!?」

 

 咲き誇る花のような、とびっきりの笑顔と共に、熱っぽい瞳で見つめられて、真っ赤になってうろたえた悟飯は、話題を逸らすように叫ぶ。

 

「そ、そういえば! ナッツは生まれた時、戦闘力いくつくらいだったの?」

「大体300だったと聞いているわ。父様よりは低かったそうだけど、それでも生まれたばかりのサイヤ人としては、物凄く高い数値だったみたいよ。きっと父様も母様もエリート戦士で、強かったからね」

 

 そこで少女の脳裏に浮かんだのは、自分の将来の事だった。地獄で別れ際に、母親と約束したとおり、大人になったら結婚して、子供を生んで幸せになる事は、彼女の人生計画の中で、既に規定事項として定まっている。  

 

 そしてナッツはカカロットのように、地球人との間に子供を作る気は無かった。当然相手は、自分より強いサイヤ人しかいない。

 

 少女は目の前の悟飯をちらりと見て、さすがに少し気恥ずかしい気持ちになったが、ずっと傍にいるというのは、つまりは彼の方もそういう気でいるのだろうし、構わないだろうと思って、勢いのままに口を開く。

 

「だ、だからもし、私とあなたの間に子供ができたら、きっと物凄く強くなるに違いないわ」

「…………」

 

 もはや言葉も出ず、故障した機械のように、顔から湯気を吹き出して放心する悟飯。

 

 そして彼らの背後で、がたんという音がした。おやつを持って部屋に入ろうとしていたチチが、お盆を床に取り落とした音だ。

 

「な、ナッツちゃん……? その、子供を生むのは物凄く大変だし、そういう話はだな、きちんと大人になってから……」

「し、知ってます!」

 

 引きつった顔で無理矢理に笑みを作って放たれたチチの言葉に、さしもの少女も、顔を赤らめる事になったのだった。

 

 

 

 

 それから9時間後、部屋のベッドに横たわりながら、昼間の出来事を回想していたナッツは、思い出してまた、頬が熱くなるのを感じていた。

 

(確かに子供の話なんて、まだちょっと早かったかしら……)

 

 私は9歳で、悟飯はさらに1歳年下なのだ。それにサイヤ人である私の身体は、初めて悟飯に会った頃から、外見的にはほとんど変化がなく、私自身がまだ小さな子供のままだ。

 

 成長期が来たら一気に伸びるという話で、それを楽しみにしようと思う。そうして大人になったら、私も母様と同じように子供を作って、私が愛された分以上に可愛がってあげたかった。

 

 チチさんが言っていたように、子供を生むのは大変だと、本で読んだ事もあるけれど。私は身体の丈夫さには自信があるから、全然問題はないはずだ。

 

 そこで少女は、自分の思考の中で、何か引っかかるものに気付いた。

 

(子供を生むのは大変だから、身体が丈夫じゃないと……?)

 

 ナッツは少し考えて、その事実に気付いてしまい、青ざめた顔で呟いた。

 

「……じゃあ、私の母様は、どうだったの……?」

 

 思い出してみれば、何もかもが明らかだった。生まれつきの病気を抱えていたという母様は、それでも昔は父様達と、たびたび任務に出ていたらしいけど。私が生まれてから、母様が星を攻めに行った事は、ほんの数回しかない。母様の身体は、少しずつ弱っていって、戦いどころか、ベッドからも起き上がれない日が増えていたから。

 

 そしてナメック星のドラゴンボールが言っていた。母様は敵に殺されたのではなく、少なかった残りの寿命を、戦いの中で使い切って死んだって。

 

 

 

 つまり、私を生んだせいで、母様の寿命は。

 

 

 

「あ……あ……」

 

 ぼろぼろと、少女の両目から涙が溢れ出る。 父様や母様は、そんな事、一言だって言っていなかった。私が気付かないようにしてくれていたのだ。

 

「わ、私の、私のせいで母様が……!!」

 

 まるで降り注ぐ雨に打たれたように、ナッツは己の身体が冷えていくのを感じていた。慌てて毛布を深く被っても、身体の震えは治まらない。父様がいてくれたらと一瞬思ったけれど、たとえいてくれたとしても、どんな顔をして会えばいいのか。

 

 私を生まなければ、母様はまだ生きていられたかもしれないのだ。私が父様から、母様を奪ってしまったのだ。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい! 父様、母様……!」

 

 苦しさと悲しさと寂しさが、少女の心を苛み続ける。この場に両親のどちらかでもいれば、それは違うとすぐさま否定して、彼女の事を抱き締めて、その心を癒してくれただろうけれど。

 

 もしこの状況を知れば、即座に駆けつけるだろう父親は、誰も見ていない中庭で、彼を知る者が見れば驚愕するだろう、悲しげな瞳で、半分欠けた月を見上げていた。

 

 そして地獄にいる彼女の母親は、一部始終を目の当たりにしながら、言葉の一つも掛けられない事を嘆いていた。

 

 今、この場で少女を救える者は誰もいない。ただ一人を除いては。

 

「どうしたの、ナッツちゃん!?」

 

 部屋のドアを開いたブルマが、泣きじゃくる少女に、顔色を変えて駆け寄った。




ブルマとベジータが出揃うのは次の次の話になります。楽しみにしている方にはスローペースで申し訳ないのですが、ぶっちゃけベジータ側のハードルが原作よりも高くなってるので、段階を踏むのは大事だと思うのです。(将と馬)

それと評価、感想、お気に入り、誤字報告等ありがとうございます。続きを書く励みになっております。

次の話は、二人の交流の予定です。遅くなるかもしれませんが、気長にお待ちくださいませ。
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