あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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15.彼女が人造人間と遭遇する話

 街の上空から人造人間達の姿を探しつつも、ナッツの表情は晴れない。

 

「悟飯、怒ってるかしら……」

 

 いくら超サイヤ人になれないからといっても、あの父様の尻尾を切った奴を助けてこいだなんて、足手纏いのような扱いをしてしまった。悟飯だって、本当はもっと勉強したいところを、この日の為に頑張って訓練してくれていたというのに。

 

 そこまで考えたところで、少女は頭を振って気持ちを切り替える。こんな心境では、人造人間を見つけても満足に戦えない。悟飯が殺されてしまうよりは、私が嫌われる方がずっとましだし、後でしっかり謝ればいいだろう。 

 

 胸の奥がちくりと痛むのを感じながら、ナッツは人造人間達が向かったと思しき場所に降り立つ。そして身を隠しながら周囲を確認していた時、遠くの方から微かな叫び声が聞こえた。戦場で育った少女にとって馴染み深い、人間の断末魔だ。

 

「! 人造人間!」

 

 ナッツは戦闘力を隠しつつ、緊張した面持ちで、素早くその場へと走り出す。現場に到着した彼女が見たものは、破壊された車と、運転していた人間と思しき死体。他にも2人死んでいるが、犯人であろう人造人間の姿は見当たらない。

 

(治安の悪い星ならともかく、この平和な地球で、偶然この日この場所で3人も殺されるなんて有り得ない。まず間違いなく、人造人間の仕業だわ。けど……)

 

 物陰から冷静に現場を観察しながら、ナッツは違和感を覚えていた。3人の死体はどれも、素手で殺されたようにしか見えなかったのだ。わざわざ近づいて殺すより、エネルギー波の一つも撃った方が楽なのに。

 

(まさか撃てないって事はないでしょうし……どういうつもりなのかしら?)

 

 そもそも、たった3人だけ殺して行った目的もよく判らない。自分達をおびき寄せる作戦かとも思ったが、それにしてはあまりに地味過ぎる。少女は頭を捻るも、手掛かりがまるで足りなかった。

 

「……こういう時は、目撃者から話を聞くべきね」

 

 以前ブルマに勧められて読んだ、推理小説の内容をナッツは思い出していた。眼鏡よろしくスカウターの位置をくいっと手で直してから、少女が付近を見渡すと、ビルの1階の窓の奥で震えている、会社員らしき2人の男が見つかった。スーツ姿の中年と、上司らしい白髪の男。

 

 てくてくと窓に近付いて、ナッツは声を掛ける。

 

「こんにちわ。おじさん達」

「なっ……子供!? お、おい、嬢ちゃん! ここは危ないぞ!」

 

 成長が遅いサイヤ人の常で、外見は5.6歳くらいの、変わった服を着た子供にしか見えないナッツの姿を見た男性は、恐怖も忘れて、慌てて窓から身を乗り出して警告する。その様子を見た彼女は、思わず小さく微笑んでしまう。

 

(本当に地球人ったら、私をただの子供扱いするなんて、警戒心が足りないんだから)

 

 それでも、心配してくれる彼らの態度に好ましいものを感じながら、ナッツは現場を指し示して質問する。 

 

「ねえ、誰がこれをやったか知ってる?」

「あ、ああ。帽子を被ったじじいと、白くて丸い顔の太っちょだ」

 

(あんまり強そうな感じじゃないわね……)

 

 戦闘民族の少女は、ついそんな事を考えてしまう。違う歴史の話とはいえ、超サイヤ人の父様を倒すくらいだから、ナッパよりも背の高い大男とか、そういうのを想像してたのだけど。

 

「いきなり道の真ん中に現れて、声を掛けた奴らをあっさり殺したんだ。道の真ん中にいたから、車に乗った奴がクラクションを鳴らしたら、そいつも殺されて、それで、気が付いたらまたいなくなってた」

「行き当たりばったりね……」

 

 白髪の方の男性の言葉に、ナッツはそんな感想を抱く。ぎこちないわ。全然効率的じゃない。こんな街一つくらい、一瞬で壊せる力を持っているでしょうに。

 

 そこでナッツは、ふと思い出す。幼い頃、両親に連れられて初めて戦場に出た日、心配そうな2人に見守られながら、群がる敵兵を様々な方法で殺して、自分の力を試していた時の事を。

 

「……試運転? 性能テスト?」

 

 そういえば、この日以前に、おかしな殺人事件があったというニュースは聞かない。もしかすると人造人間は、今日初めて起動したのかもしれなかった。仮に実戦経験が無いとすれば、いくら強くても、その行動は極めて読みやすい。

 

 そこまで考えて、少女は慌ててぶんぶんと頭を振る。

 

(いやいや、敵をそんな風に甘く見ちゃ駄目よ。負けたら地球が危ないんだから、油断せず十分用心して掛かるべきだわ)

 

 その時、白髪の男性が、心配そうな顔で彼女に呼びかける。

 

「嬢ちゃん、親はどこに……いやそれより、殺人犯がまだ近くにいるかもしれないから、中に入りなさい。警察が来るまで、うちで隠れているといい。親御さんは後で一緒に探してあげるから」

 

 そんな事態をまるで理解していない、しかし思いやりに溢れた言葉を聞いたナッツは、きょとんと、毒気を抜かれたような顔になってしまい、それからくすりと、とても嬉しそうに笑った。

 

「お、お嬢ちゃん?」

 

 戸惑う彼らに、少女はとても上機嫌な様子で言った。

 

「大丈夫よ。安心して。そいつらは父様と私が、すぐに倒してきてあげるから」

「お、おい!?」

 

 慌てる彼らを尻目に、ナッツは人造人間を見つけるべく、風を切って駆け出した。その速度は地球人の目からは、まるで一瞬でその場から消え去ったようにしか見えなかった。

 

「えっ? あ、あの子は?」

 

 二人の会社員は辺りを見渡した後、互いに顔を見合わせ、しばし呆然としていたのだった。

 

 

 

 一方その頃、スカイカーを人造人間に撃墜され、海に落ちて溺れていたヤジロベーは、駆けつけた悟飯によって救出されていた。

 

「ヤジロベーさん、大丈夫ですか!」

「ごほっ、あ、あのガキやりやがった!」

「違います!? やったのはナッツじゃないんです!」

 

 悟飯は彼を陸地まで運びながら、犯人は人造人間だと必死に説明する。そして地上に下ろされて人心地ついたヤジロベーは、安心したように息をつく。

 

「いやー、助かったぜ悟飯! それにさっきも助けてくれてあんがとよ! おめえがあのガキを止めてくれなかったら、あのビックバン何とかで殺されるとこだったからな!」

 

 笑顔の彼にばんばんと背中を叩かれながらも、どこか沈んだ様子で悟飯は言った。

 

「……ナッツは許してくれるそうですよ。今は幸せに暮らしてるけど、あの時ベジータさんの尻尾が切られてなかったら、きっと地球を滅ぼしてたって」

「結果論じゃねえか!? ま、まあ、それでもうオレが狙われないってのなら良いけどよ……」

 

 そこで会話は途切れ、二人の間に沈黙が流れる。何も言わず、暗い顔で動こうとしない少年の様子を不思議に思ったヤジロベーが、気遣うように問い掛ける。

 

「どうした、悟飯? オレは飛べないから行かねえけど、おめえは人造人間の所へ向かった方が良いんじゃねえか? それともどっか悪いのか?」

「それが……その……ボクも行くってナッツに言ったんですけど、ヤジロベーさんを助けて来てって言われて……きっとボクが弱いから、ナッツが気を遣って遠ざけてくれたんです……」

「あ、あのガキがそんな事を……? マジかよ……?」

 

 彼の言葉に、悟飯は小さく笑って応える。

 

「ナッツは良い子なんですよ。ただ敵とか関係の無い人の命を、何とも思っていないだけで」

「それ大問題なんじゃねえかなあ……」

「……地球で暮らすために、犯罪者にはなりたくないそうなんで、大丈夫ですよ、きっと」

「頭は回る分、却って厄介でねえかそれ……? バレなきゃやるって事だろ?」

 

 そこで少年は、額に小さく汗を浮かべて目を逸らす。今でも彼女がたまに口にする、二人でどこかの星で遊ぼうという提案は、おそらく自分が承諾すれば実現するだろうという確信があった。おそらく銀河パトロールに見つからないよう、周到に目標や方法を選んだ上で。

 

 様々な経験を経て、多少は丸くなったとはいえ、今でも彼女の本質は凶暴なサイヤ人で、平和な暮らしと同じくらい、戦うのも殺すのも好きなのだという事を、少年はよく理解していた。

 

「か、彼女が何か悪い事をしそうだったら、ボクが止めますから、だ、大丈夫ですよ、きっと……」

「おめえも大変だなあ……」

 

 声に同情の色を滲ませて、しみじみと呟くヤジロベーに、悟飯は自然と、言葉が口をつくのを感じた。

 

 

「良いんですよ。好きでやってる事ですから」

 

 

 あの可愛らしくも、強くて格好良いサイヤ人の少女と共に過ごす時間は、彼にとって掛け替えの無いものだった。

 

 照れたように小さく笑う少年の顔は、とても幸せそうなもので。ヤジロベーは彼がナッツに抱いている感情を、直感的に理解できてしまう。

 

「ま、まさかおめえ、あのサイヤ人のガキを……?」

 

 顔を赤く染めて、小さく頷く悟飯の姿に、彼は頭を殴られたような衝撃を受けた。

 

(れ、恋愛って奴なのか……? わからねえ!)

 

 カリン塔に住むようになる以前から、自然の中で世捨て人めいた暮らしを送ってきたヤジロベーは、そうした経験とは縁が無かった。それもよりによって、あのおっかないサイヤ人の事が好きだなんて、全く理解できなかった。

 

「……止めといた方が良いんじゃねえか? あいつサイヤ人だぞサイヤ人。まあ見た目は子供だけどよ、親父と一緒で化け物になるんだぞ?」

 

 大猿化したナッツの姿を思いだし、彼は思わず身震いする。身の丈15メートルにも及ぶ、戦闘服を着た巨大な獣が、まるで人間のような表情で牙を剥いて笑い、真っ赤な目で自分を見下ろしている光景は、そうそう忘れられるものではない。

 

「……ボクだって、半分はサイヤ人です。尻尾があれば、変身だってできます」

「まあ、そうだけどよ……」

 

 そこでヤジロベーは、目の前の少年も、同じ大猿の姿に変身していた事を思いだす。そしてあの恐ろしい大猿の少女を倒したのも、彼だった事も。

 

(意外とお似合いだったりするのか? それにこのお坊っちゃんとくっつけば、あのおっかねえガキも、少しは丸くなるかもな……)

 

 自身の平穏のためにも、地球の平和のためにも、ここは一肌脱ぐべきかもしれない。そう考えたヤジロベーは、少年に声を掛ける。

 

「まあ、良いんじゃねえか、うん。オレにはわからねえけど、おめえが好きになるくらいだから、まあ良い所もあるんだろうな」

「はい。ああ見えて、結構寂しがり屋で甘えん坊なんです……。でも、冷たくて怖い感じの時もそれはそれで……」

 

(こいつマジでぞっこんなんだな……) 

 

 嬉しそうに少女の事を語る悟飯に、彼は軽く引きながら続ける。

 

「だったらおめえ、今すぐあのガキの所に行ってこいよ。足手纏いって言っても、オレ程じゃないだろ?」

「け、けどボク、超サイヤ人にもなれないし、ナッツの方がずっと強くて……」

 

 がっくりと肩を落とす悟飯を見て、ヤジロベーは考える。同じ男として、惚れた女より弱いのが嫌だという気持ちは、少し判らないでもなかった。

 

「……悟飯、お前、今歳はいくつだ?」

「? 9歳です……」

「その歳で強えだの弱いだの気にするのは、まだ色々早えだろうがよ」

「えっ?」

 

 きょとんとした顔の悟飯に、彼は大きく息をついて言った。

 

「お前くらいの歳の頃は、大抵女の方が成長も早くて強えんだ。けど何年かすれば、すぐに身体も大きくなって逆転する」

 

 ヤジロベーが語っているのは地球人の子供の話で、サイヤ人に単純に適用できるわけではないのだが。ともあれ悟飯は顔を輝かせる。

 

「ぼ、ボクも、成長したらナッツより大きくなれるでしょうか?」

 

 今でもほんの少し、彼女の方が背が高いのを、少年は内心とても気にしていた。

 

「当たり前だ。おめえらの父親同士を比べてみろよ。どう見たっておめえの親父の方がデカいだろうがよ。あのサイヤ人は正直チビな方だし、ガキの方もそうデカくはならないだろ」

 

 身長の低さを気にしている当人が聞いたらブチ切れそうな発言に、悟飯はこくこくと頷いた。ベジータさんには悪いけど、確かにそうだ。ナッツのお母さんが長身だったという話は聞かないし。

 

「……それで大きくなったら、ナッツよりも強くなれるでしょうか?」

「それはおめえの頑張り次第だけどよ。正直ガキの頃の悟空よりも、おめえの方が段違いに強えし、いけるんじゃね? それであのガキを実力でぶっ倒してよ、素敵よ悟飯! なんて言われたりするんじゃねえの?」

 

 くねくねしながら裏声で話すヤジロベーの姿は大変面白いものだったのだが、悟飯は正直それどころではなかった。彼の言葉をきっかけに、少年の脳内で、悟飯に実力で倒されたナッツのシミュレーション映像が映し出されていた。普段の観察とイメージトレーニングの応用で、その精度は無闇に高い。

 

 

『負けちゃったわ。やっぱり私の見込んだとおり、強いわね、悟飯……』

 

 ボロボロになって大の字に倒れた少女は、敗北したというのに、どこか嬉しそうな顔をしている。熱っぽい目で、彼に向かって囁いた。

 

『知ってる? 勝った方は、負けた方を好きにしていいのよ?』

 

 

 唐突に、少年が自分の顔を殴り飛ばした。

 

「おい大丈夫か!?」

「ヤジロベーさん! ボクを殴ってください!」

「だから大丈夫かおめえ!?」

 

 つい不埒な事を考えてしまった自分をなお殴ろうとする悟飯と、慌ててそれを止めようとするヤジロベー。そこから時間は少し遡る。

 

 

「どこに隠れてるのかしら……?」

 

 会社員達と別れたナッツは、戦闘力を落として隠れながら、街の中を探索していた。だが気の扱いが苦手な少女にとって、長時間戦闘力をゼロに落とすのは難しい。ちらちらと不規則に現れる彼女の気を、人造人間達は見逃さなかった。

 

 真っ白い顔で背が低く、太い体格の19号と、白髪の老人のような姿の20号が、きょろきょろと辺りを見渡す少女の姿を、上空から見下ろし観察していた。

 

「あれは、ベジータの娘か……」

 

 パワーレーダーの数値を確認しながら、20号は呟いた。想定以上の強さだが、大した事はない。たとえ大猿とやらに変身しようと、19号だけで十分対処できるし、そもそも変身する時間など与えはしない。

 

 相手が子供であろうと、孫悟空の仲間に対して容赦する気は無かった。まだこちらに気付いた様子はない。ここから一撃で殺す事も出来るが、両手に仕込んだエネルギー吸収装置のテストもしておきたかった。

 

「19号、まず私が行く。奴を瀕死にして、声も上げられなくした上でエネルギーを奪う。お前は周囲を警戒しろ」

「はい、20号」

 

 そして20号は音も立てず、ナッツからやや離れた場所に降り立った。少女の背中に狙いを定め、貫かんと手刀を構えて一気に距離を詰める。

 

 気を感じて相手の位置を探る事に慣れ過ぎた彼女には、気を発さず全力で動く人造人間の不意打ちに対応する事など不可能だ。彼の手刀が、少女の小さな背中を貫いた。

 

 20号がニヤリと笑うが、次の瞬間、その表情が驚愕へ変わる。背中を貫かれた少女の姿がぶれ、ふっと掻き消えたのだ。残像だと気付いた彼は狼狽し、辺りを見渡し叫ぶ。

 

「なっ、バカな!? どこに……」

「ここよっ!」

 

 次の瞬間、20号に後ろに現れたナッツが、彼の頭部に痛烈な回し蹴りを叩き込んでいた。

 

「うおおっ!?」

 

 軽快な打撃音と共に吹き飛ばされ、道路に激突してアスファルトに大きくヒビを入れた20号は、よろよろと起き上がり、蹴り飛ばされた首元を押さえる。ダメージ自体は大した事は無かったが、内心の混乱は大きかった。

 

「……ベジータの娘、なぜ私の攻撃が判った? 我々のボディは気を発していない。たとえ寸前で気付いたとしても、貴様の身体能力で避ける事は不可能のはずだ」

 

 20号の疑問に、彼女はふふんと薄い胸を張って応える。

 

「だって私を殺そうとして、あんなに敵意を向けてたじゃない。たとえ寝ていてもあれに気付けないようじゃあ、戦場では生き残れないわ」

「……非科学的な事を」

 

 20号は唸り、ほんのわずかな物音や空気の動きなどを、無意識のうちに察知しているのだろうと仮説を立てる。

 

 実のところ、ナッツが敵意や悪意に対して敏感な理由はそれだけではなく、他人からの優しさや愛情を求める心の裏返しで、半ば第六感めいた能力なのだが、本人もそれに気付いていない。

 

「20号、大丈夫ですか?」

「不意を突かれただけだ。大した事は無い」

 

 20号と、上空から降りてきた19号の2人を、きっ、と睨み付けてナッツは叫ぶ。

 

「お前達が人造人間ね。何を考えてるのか知らないけど、この地球を滅茶苦茶になんかさせないわ!」

 

 宣言と共に、少女はビシっ、とポーズを決めて気合いを入れる。ギニュー隊長に言われたとおり、毎日少しずつ、鏡の前で5分間の練習を続けた彼女のポーズ力は、未だ特戦隊員達には至らぬまでも、3年前とは格段の進歩を遂げていた。

 

 仮にこの場にギニュー隊長がいれば、その上達ぶりを見て感動に打ち振るえるだろうポーズを前に、20号はただ、ナッツの言葉に眉をひそめる。

 

「地球? 何を言っている。我々の目的は、レッドリボン軍を滅ぼした孫悟空の命だ」

「そ、そうなの?」

 

 予想外の発言に、少女は目を丸くする。つまり弟やブルマに手を出すつもりは無いという事だ。だがすぐに、未来から来た少年の事を思い出して、ぶんぶんと首を振る。

 

 あの人は確かに人造人間が父様達を殺して、地球を滅茶苦茶にしたと言っていたのだ。お姉さんが死んでしまったと泣いていたあの人と、敵である人造人間と、どちらの言う事を信じるかなど、言うまでもない事だった。

 

「それでも、好き勝手にはさせないわ。カカロットは同じサイヤ人の仲間だし、悟飯の父親でもあるのよ」

 

(とはいえ、私1人で戦うのは危険だわ。父様達が来るまで、時間を稼がないと……)

 

 戦闘力を隠すのを止め、構えを取るナッツを見て、20号は余裕の笑みを浮かべる。

 

「貴様のパワーで我々をどうにかできるとでも? 言っておくが、大猿とやらに変身しても、到底我々には及ばんぞ」

「……?」

 

 人造人間の態度に、少女は違和感を覚える。まるで彼らが今の自分の、たった480万程度の戦闘力しか見ていないかのような。

 

「……超サイヤ人の事を知らないの?」

「何だそれは。貴様らのデータは、地球に来た時の孫悟空との戦いで把握している。確かに凄まじい成長だが、それでも私と19号の敵ではない」

「ふうん……」

 

 少女の口元が吊り上り、嘲笑うような笑みを浮かべる。子供らしからぬその表情に、20号が気圧された様子を見せる。

 

「な、何だというのだ?」

「さあね……驚き慌てるお前達の顔を見るのが、今から楽しみだわ」

「くっ、こけ脅しを!」

 

 悪人の顔で笑うナッツに、20号が襲い掛かろうとしたその瞬間だった。

 

「魔閃光ーーー!!!」

 

 どこからともなく飛来したエネルギー波が20号に直撃し、その全身を爆炎が包み込む。そして驚くナッツの前に、一人の少年が降り立った。

 

「悟飯!?」

「ぬううっ!?」

 

 纏わりつく爆炎を、腕の一振りで振り払った20号は、彼に不意打ちを食らわせた少年を、憎々しげに睨み付ける。

 

「孫悟空の息子か……!」

「……そうだ」

 

 悟飯は真っ直ぐに、20号を睨み付ける。気丈な顔をしながら、その身体がほんの小さく震えているのを、近くにいるナッツは見逃さなかった。

 

 たとえ戦闘力が感じられなくても、こうして対峙すれば、おおよその実力は判るものだ。少なくとも、超サイヤ人になれない悟飯が、まともにやり合える相手ではない。少女はおずおずと、彼に声を掛ける。

 

「その、悟飯……さっきはごめんなさい。あんな事言っちゃって。決してあなたの事を、傷付けるつもりはなかったの」

「大丈夫だよ、ナッツ。気にしてないから」

「それで、あの、あまり無理しなくてもいいのよ。あなたが死んじゃったら、私、何をするか判らないわ……」

 

 剣呑な言葉と共に、気まずそうに顔を伏せる少女に、悟飯は微笑み掛ける。

 

「うん、正直言って怖いし、あんまり役に立てるとも思えないけど、それでも、君だけに戦いを任せて下がってるなんて嫌なんだ」

 

 少年の脳裏に、先ほどヤジロベーと交わしたやり取りが浮かび上がる。

 

「今のボクは、本当にまだ弱くて足手纏いかもしれないけど、そのうちきっと、君より強くなってみせるから」

 

 その言葉を聞いたナッツの顔が、首元まで赤く染まる。悟飯は知る由も無かったが、基本的に自分よりも強い相手を好むサイヤ人の女性に対して、その台詞は告白に等しい意味を持つ。

 

「う、うん。期待して待ってるわ……」

 

 恥ずかしそうに呟くナッツ。戦場であるにも関わらず、嬉しさのあまり、腰に巻いた尻尾の先端が落ち着きなく動いている。自分の言葉で、彼女がそんな反応を見せた事に、悟飯の方も戸惑いつつも顔を染める。

 

 眼前で繰り広げられる、彼らの甘酸っぱいやり取りを見ながら、蚊帳の外に置かれていた20号は、ぐぬぬと拳を握り締める。

 

「19号、奴らのエネルギーをいただくぞ」

 

 20号が呼びかけるが、白い顔の人造人間は返事をしない。ただ茫然と、悟飯とナッツの方を、食い入るように眺めている。

 

「……どうした、19号?」

 

 再度の彼の言葉に、19号は震える声で応えた。

 

「れ、恋愛というやつなのか……データに無い……」

「どうでもいいわっ!?」

 

 目の前で繰り広げられる未知の光景をガン見してる19号の頭に、20号は思わず叫びながら鉄拳制裁を入れるのだった。




 色々あってかなり遅くなってしまいましたが、エタらないようにはするつもりですので、次回も気長にお待ち下さいませ。
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