あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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16.彼女が人造人間を連れ出す話

 20号に頭を叩かれた19号は、なおもナッツと悟飯から目を離せないまま反論する。

 

「し、しかし、未知のデータが……」

「やっとる場合かっ!? ……むっ!?」

 

 パワーレーダーに反応。20号がそちらに目をやると、少女の気を頼りに駆けつけた悟空達が、ナッツ達とは反対側、彼らを挟み込むかのように、空から降り立ったところだった。

 

「来たか、孫悟空とその仲間よ。どうしてこの場所が判ったのか知らんが、ちょうどいい。呼び出す手間が省けたというものだ……っ?」

 

 19号とのやり取りが無かったかのように、シリアスな口調で語り出す20号だったが、不意に言葉を詰まらせる。

 

「貴様ーー!!」

 

 憤怒の表情のベジータが、降り立つや否や凄まじい勢いで前に飛び出したのだ。

 

「無粋な奴め、良いだろう、孫悟空の前にまず貴様から……」

「うおおおおっ!!」

 

 すっ、と構えを取る20号の横を、突撃するベジータは無視して駆け抜ける。

 

「むうっ!? し、しまった!」

 

 思わず叫ぶ20号。後ろにいるベジータに対応すれば、正面の孫悟空達に背中を見せてしまう形になり、圧倒的に不利だ。正面から来ると見せかけて、こんな絡め手を使ってくるとは。

 

(戦闘経験は豊富という事か。サイヤ人の王子というだけはある……!)

 

 20号は己の中でベジータの脅威度を一段階引き上げながら、ひとまず背後にいる彼の対処を最優先とし、悟空達がすぐには動かないのを素早く確認してから、ベジータの方を振り向いて、再度驚愕する。

 

「な、何だと!?」

 

 そこで20号が見たものは、明晰な彼の頭脳をもってしても、理解不能の光景だった。ベジータは殺意混じりの一撃を、孫悟空の息子に対して繰り出していたのだ。少年は慣れた様子で辛くも回避し逃げ出すも、ベジータは容赦なく追いかけ拳を振るう。

 

「貴様! またオレの見ていない所で、ナッツにいかがわしい真似を!」

「違いますベジータさん!」

 

 頬を上気させ、熱っぽい目で少年を見つめる娘の表情から、二人の間の甘い空気を察した父親が、聞く耳を持たず悟飯を追い掛け回す光景を、20号は呆気に取られた様子で見つめていた。 

 

「あ、あいつら一体、何と戦っておるのだ……?」

「あんまり気にしない方がいいぞ……?」

 

 20号の呟きに、思わずアドバイスを入れてしまうクリリン。なおベジータは一見我を忘れているように見えるが、20号達に対してきっちり注意は払っているし、何かあれば正面のカカロットが割り込むだろうと判断した上での行動だ。

 

 そして逃げる悟飯を壁際に追い詰め、ビッグバンアタックの構えを取っている父親に向かって娘が叫ぶ。

 

「もう、父様! あんまり悟飯をいじめないで下さい! 人造人間もいるんですよ!」

「す、すまない……」

「あ、あれが、娘に付く悪い虫を追い払おうとする父親……」

 

 ナッツに怒られてしょんぼりしているベジータを見ながら、物凄い勢いで何かを学習しつつある19号。20号は頭痛を覚えながら、その光景を無視して話を進める事にした。

 

「孫悟空、今日こそ貴様への復讐という、ドクターゲロの悲願が果たされる日となろう。まずは人造人間19号が貴様の相手をする」

「……復讐ってのは、レッドリボン軍の事か?」

 

 悟空の返答に、20号はぎりりと歯を噛み締め叫ぶ。

 

「そうだ! 貴様のせいでドクターゲロの研究は台無しとなり、全てが失われたのだ! この無念、その命で償うがいい、孫悟空!」 

 

 激昂し、今にも戦闘を始めかねない20号の剣幕に、ナッツは慌てて言葉を挟む。

 

「ちょ、ちょっと待って!?」

「……何だ、ベジータの娘よ。貴様も一緒に戦うとでも言うのか?」

「そんな事はしないけど……」

 

 少女は言葉を詰まらせる。相手が二人掛かりで来るならともかく、1対1で戦いたいというのなら、これはカカロットの戦いだ。殺されそうにでもならない限り、邪魔をするのは失礼だし、彼もそんな事は望まないだろうと、同じサイヤ人の少女は思う。

 

 だがここは、人の大勢住んでいる街の真ん中なのだ。狙いの外れたエネルギー波が、どこかの建物に当たっただけでも犠牲者が出かねない。

 

「こ、ここは狭いし人が大勢いて、カカロットも思いっきり戦えないから、場所を変えた方が良いんじゃないかしら?」

「いや、ここでいいだろう」

「……?」

 

 悟空達は、その発言の意図をとっさに理解できなかったが、同じ悪人であるナッツとその父親は別だった。わざわざ場所を移動するよりも、邪魔な人間や建物を片付けた方が面倒が少ない。

 

 

(危ないから警察が来るまで、うちに隠れていなさい)

 

 

 ナッツの脳裏に、先程親切な言葉を掛けてくれた会社員達の顔が浮かぶ。次の瞬間、街の建物に視線を向けた20号の目から、大出力の光線が放たれた。

 

「! やめなさい!」

「ナッツ!?」

 

 とっさに割り込んだ少女の身体に光線が直撃し、爆発が少女の全身を包み込む光景に、少年が悲鳴を上げる。

 

「むうっ!?」

 

 想定よりも近距離で巻き起こった爆発に巻き込まれ、20号はたたらを踏みながら、なおも光線を放ち続ける。

 

「フン、愚かな。無駄に命を捨てるなど……!?」

 

 パワーレーダーに映るナッツの反応が消えていない。それどころか、まるで別人かと見紛うほど強大になっている事に、20号は驚愕する。

 

「はあああっ!!!」

 

 少女の叫びと共に、気の奔流が爆炎を消し飛ばす。そして現れた少女は、金色に輝くオーラで全身を包んでいた。20号が放つ光線は、気を集中させてガードを固めた彼女の両腕に受け止められている。

 

「な、何だ、その変化は……? データに無い……」

「じゃあ見ておきなさい! これが超サイヤ人よ!」

 

 ナッツは不敵に笑い、ガードを解いて野生の獣さながらの俊敏さで飛び掛かる。あえて光線をその小さな身体で受けながら、瞬く間に20号の眼前に迫ったナッツは拳を大きく振りかぶる。

 

「う、うおおっ!?」

 

 狼狽し、後ずさる20号の顔面に、砲弾のような勢いで少女の拳が着弾した。先の一撃とは段違いの威力に、たまらず吹き飛ばされる20号。上向いた彼の目から発射されたビームが、上空の雲を瞬時に霧散させた。

 

「まったく、危ない事をしてくれるわね……」

 

 ナッツは肩で息をつき、腕の痛みに顔をしかめる。見ると光線をガードした腕の一部が、黒く焦げて出血している。大したダメージではないが、じくじくと痛いので舐めて誤魔化す事にする。

 

 戦闘服の方は、光線を受けたのが短時間だったのもあってか、少し亀裂が走っている程度で、大した損傷はない。これがフリーザ軍で採用されている戦闘服なら、あっさり貫通して肌を焼いていただろうけど。

 

(流石ブルマの作った戦闘服は、防御力が段違いだわ)

 

 まるで彼女が守ってくれたようで、少女は嬉しくなって笑みを浮かべる。一方、よろよろと身を起こした20号の方は、予想外の事態に汗を浮かべていた。

 

「お、おのれ……超サイヤ人だと? ベジータの娘が、これほどのパワーを身につけていたとは……!」

 

 超サイヤ人、原理は不明だが、呼び名からしてサイヤ人の新たな変身形態なのだろう。仮に孫悟空やその息子、ベジータまでもが、同等のパワーアップを行った場合、エネルギー吸収装置をもってしても、19号や自分の手には負えない可能性が高い。

 

(制御のためにパワーを落とし過ぎたのが仇となるとは……何とかこの場を離れて、危険を承知で17号と18号を動かせばまだ対抗できる数値だが、あの娘が大猿に変身すればそれすら危うい。16号まで目覚めさせるしかないのか……?)

 

 20号ことドクターゲロは、超サイヤ人の存在を知らなかった。彼が観測していたのは、ベジータ達が初めて地球に来た時の戦いが最後で、ナメック星はおろか、地球に来たフリーザ親子との戦いや、その後の修行の状況などもスルーして研究を続けていた。

 

 その間の彼らのパワーアップぶりを考えると、これは明らかな失態だが、ドクターゲロにとっては、彼らの実力を侮っても仕方のない事情があった。

 

 マッスルタワーに配属されていた人造人間8号は、エイジ750年の時点で完成している。そしてエイジ767年の現在、最新型の人造人間は20号。つまり彼は17年間で12体、およそ1年半に1体ものハイペースで人造人間を制作しており、その中でも最も優れたパワーを持つ13号は、エイジ757年、孫悟飯が生まれた年に完成していたのだ。

 

 その当時の地球において、否、たとえ現在であろうとも13号のパワーは圧倒的で、たとえ当時の孫悟空やピッコロ大魔王が100万人いようとも余裕で勝てるスペックを備えていた。

 

 自分の才能に恐怖しつつも勝利を確信したドクターゲロは、ここで興が乗って、どうせなら限界まで強化してやろうと研究を続け、セットである14号と15号を制作して合体機能まで搭載した。数値上の最大スペックは、サイヤ人達の使う戦闘力換算で150億以上。いざ孫悟空を抹殺せんと高笑いしながら起動した瞬間、致命的な欠点が明らかになった。

 

 強い事は強いが、彼ら3体は全く制御が効かず命令も聞かず、孫悟空だけでなく、地球そのものまで破壊してしまいかねなかったのだ。

 

 彼の目的はあくまで復讐であって、世界を滅ぼす事では無い。緊急停止スイッチで辛くも13号達の暴走を食い止め、地球を救ったドクターゲロは、泣く泣く彼らを研究所の地下深くに封印した。

 

 その反省から、次に作った16号はパワーを多少犠牲にしてでも、気性の荒さを徹底的に抑えたが、今度は逆に穏やか過ぎて、虫も殺せない性格になってしまったのでやはり封印した。

 

 そして次の17号と18号は、勧誘したちょいワルの双子の姉弟という、人間をベースにした意欲作だった。制御できないのは人工知能が原因かと感じた彼は、完全機械ベースよりもパワーが落ちるのを承知の上で、別方向からのアプローチを試みたのだ。とにかく制御さえできれば、孫悟空には余裕で勝てる。

 

 とはいえ孫悟空を殺すという命令に従わせるためには、人格の調整がどうしても必要になる。前回の反省を活かして、おそるおそる悪寄りに調整した結果、案の定起動と同時に制作者を殺そうとしてきたので、ドクターゲロは死んだ目で緊急停止スイッチのボタンを押した。一応再調整はしたのだが、直っているかは五分五分で、再び起動させて試す気にはなれなかった。

 

 19号。これまで散々人格面で失敗してきたドクターゲロは、開き直って人工知能の開発に己の全てを注ぎ込む事にした。優し過ぎるのも悪すぎて逆らうのも無しだ。とにかく忠誠心が高く、きっちり命令を聞いてくれればそれでいい。

 

 出力が高過ぎて制御困難となる永久エネルギー炉は取っ払って、代わりに新開発のエネルギー吸収装置を搭載する。出力は16号達とは比較にならない程に落ちてしまったが、これでも孫悟空(サイヤ人編)が1万人いても殺せるパワーはあるのだ。そして徹底的に電子頭脳を調整し、ついに起動当日。

 

 慣れた様子で緊急停止スイッチのボタンに手を掛けながら、固唾を飲んで見守る彼に対し、19号が「おはようございます、ドクターゲロ様」と挨拶して頭を下げた瞬間、彼はその場に崩れ落ちて号泣した。十数年に渡る苦労が、ようやく報われた瞬間だった。

 

 嬉しさのあまり、狼狽える19号に抱き付いてキラキラ光る背景をバックにダンスでも踊るかのようにスローモーションでくるくる回ったその晩、彼はとっておきのシャンパンを開け、19号のグラスにも高級オイルを注いでやって大はしゃぎした。

 

 そして信頼できる忠実な手駒を手に入れたドクターゲロは、更に念には念を入れて、19号に命じて自分を人造人間20号へと改造させた。

 

 あわよくば19号が追い詰めた孫悟空を自らの手で殺す為、また自らの寿命に不安を感じ始めており、万が一19号がしくじった場合でも、失敗作の17号と18号の身体を再利用するセル計画の実行や、次の人造人間を作る時間を確保する為でもあった。

 

(なるべくならば、制御できるか判らん17号達を目覚めさせるリスクは避けたい……! 見つからずに研究所まで戻って、新たに忠実でパワーの高い人造人間を作れればそれがベストなのだが……)

 

 彼がそこまで考えたところで、怒りに燃えるベジータの全身が、娘と同じ金色のオーラに包まれた。18号にも匹敵するだろうパワーレーダーの数値に、20号は顔を引きつらせる。

 

「オレの娘の肌に、よくも傷を付けてくれやがったな……!」

「い、いや、あれは自分から……」

 

 20号が気圧されている様子を見て、ナッツは再び提案する。

 

「カカロットと1対1で戦いたいのなら、場所を変えましょう? ……もしここでやる気なら、その時は私達全員で相手してあげるわ」

「……いいだろう」

 

 凄む少女に、ドクターゲロは頷いた。最悪なのは、この場で戦闘になって殺される事だ。孫悟空の実力が今のベジータと同等だとすると、19号が勝てる可能性は低いが、戦闘中に隙を見て、自分だけ逃げ出す事はできるだろう。苦労して作った19号を犠牲にする形になってしまうが、今この瞬間も奴の頭脳のバックアップデータは研究所に送られているから、自分さえ生きていればまた作り直せる。

 

「行くぞ、19号」

「はい、20号」

 

 19号は読んでいた雑誌を閉じながら応える。表紙には瞳の大きな漫画チックな少女と、雑誌名らしき4文字の平仮名が書いてあった。

 

「? 待て、何だその本は」

 

 問われた19号が指差した先には、小さな本屋があり、店頭には発売されたばかりの様々な漫画雑誌が平積みされていた。19号に金など渡しているはずがなく、勝手に持ってきた事は明白だった。

 

「返してこい!?」

「し、しかし、あのベジータの娘と同じ、未知のデータが……! 買って下さい!」

「貴様を作るのにいくら掛かったと思っとる! 余計なカネなど無いわっ!?」

 

(お、おのれ孫悟空! 貴様の息子達のせいで、せっかく制御できたはずの19号までよく判らんバグを……! 私には人工知能の才能は無いのか……?)

 

 これについては、むしろ逆で、そもそもただのロボットなら、命令に逆らうなどありえない。人造人間8号、かなり初期の段階から、ロボットに自意識を持たせる程に、ドクターゲロの人工知能の技術が卓越していたからこそ、暴走やら反逆を招いていたのだが。今に至るまで、彼はそれに気付いていない。

 

 店頭でひとしきりぎゃーぎゃー騒いだ後、とうとう折れてレジで代金を支払っている老人の姿をガラス越しに見ながら、ヤムチャ達は呆気に取られていた。

 

「あいつらカネ持ってたんだな……」

「オレ持ってきてねえ……」

「オレも……」

 

 決して貧乏というわけではなく、戦闘中に落としたり破損したら勿体無いという考えだったのだが、何か負けた気がして肩を落とすクリリンと天津飯。

 

(あの本って、そんなに面白いのかしら?)

 

 一方ナッツは、嬉しそうに雑誌を読んでいる19号の姿を、興味深そうに眺めていた。一連の戦いが落ち着いた頃、彼女はすっかり少女漫画にハマってしまう事になるのだが、それはまた別の話だった。




 13~15号、劇場版だとドクターゲロのコンピューターが完成させたって扱いなんですが、未完成品にナンバー振ってるのも何か変だなあと思ったので、この話ではドクターゲロが完成させてた事にしました。コンピューターは孫悟空抹殺の命令を刷り込む事に成功したって事で。

 あと19号はベジータに両腕やられてビビって逃げようとするあたり、原作の時点で割と感情豊かなんじゃないかなあと思ってこういう事になりました。命令に従わない=作り主の予想を超えたロボットを作れるって、逆にドクターゲロ凄いんじゃないかと思うのです。

 それと前回はたくさんの感想とお気に入りをありがとうございます。もしよろしければ評価の方も頂けますとランキングとかに載れて作者が喜びますので、面白いと思って頂けましたらぜひお願いします。

 次回は悟空と19号との戦闘になる予定です。少し遅くなるかもしれませんが、気長にお待ち下さいませ。
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