あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

81 / 104
17.彼女が人造人間との戦いを見守る話●

 戦いの被害を避ける為、街から離れる事になった一同。

 

 仏頂面で飛ぶ20号達の両側には、適度な距離を置いて悟空とベジータがいる。そして少し離れてピッコロも。彼らを逃がさず、おかしな真似をすればすぐさま攻撃できる態勢に、20号は内心舌打ちする。

 

 何もかもが予想外だった。孫悟空の元には、あの島での戦闘テストの後にこちらから攻め込むつもりが、何故か先手を打たれた上に、超サイヤ人という予想外のパワーアップまで遂げていた。

 

 今の戦力では超サイヤ人とやらに勝てない以上、どうにかこの場を逃れて17号達を起動させる必要があるのだが、この状況ではそれも難しい。何とか隙を探さねばならない。

 

 そんな事を真剣に考えている20号の隣を飛びながら、19号は買ってもらった600ページ程の分厚い少女漫画雑誌を、食い入るように読みふけっていた。開いたページの中では、少年が両腕を広げて、傷ついた主人公の少女の前に立ちはだかり叫んでいた。

 

 

『ボクが、君を守るから!』

『えっ……(トクン)』

 

 

 煌びやかなトーンに彩られたそのシーンを見た19号は、胸の裡にほっこりしたものを感じていた。ドクターゲロ、人造人間制作の第一人者が心血を注いで作成した最高傑作の人工知能の中に、今この瞬間、製作者の予想を超えた何かが芽生えつつあった。

 

(この感じ……似たようなやり取りを、最近見た覚えがある)

 

 確かあれは、ソン・ゴクウの息子とベジータの娘だったはずだ。19号は振り返り、後ろを飛ぶ悟飯達を高性能カメラアイで観察する。

 

「な、何なの……?」

 

 思わず身を竦ませる悟飯。気で実力を測る事はできないが、動きなどから自分よりも遥かに強い事は明らかな相手からじっと見つめられ、しかも相手の意図が判らず、少年は不気味さに軽く怯えてしまう。

 

「ちょっと! なに悟飯の事見てるのよ!」 

 

 凛とした声と共に、ナッツが反射的に彼を守るように前へ出て、19号をきっ、と睨み付ける。戦闘服を着た彼女の背中を、彼は一瞬とても格好良いと感じて安堵して、直後、庇われてしまった情けなさから、顔を曇らせて俯いた。

 

 その光景に衝撃を受けた19号の中で、人工知能が性能の限界を超えて駆動を開始。加熱する思考と警告音の中で、彼は思わず目を見開き叫ぶ。

 

「見えた!!」

 

 その瞬間、過負荷に耐えかねた19号の頭部が、ボンッ、と音を立てて爆発した。20号以外の全員が、は? という顔で注目する。

 

 驚愕した20号は、慌てて19号に近寄り、黒煙と火花を散らす彼の頭部の損傷具合を確認しながら叫ぶ。

 

「大丈夫か19号! くっ、おのれ貴様ら! いったい何の攻撃を!?」

「知らないわよ!? 何もしてないのに壊れたんじゃないの!」

「そこいらの家電と一緒にするでないわっ!?」

 

 そんな風にひとしきり、少女とぎゃーぎゃー言い争った後、ひとまず下に降りた20号は、取り出した工具で19号の修理を始める。当然隙だらけなのだが、何となく攻撃する気になれず、少し距離を置いて見守る悟空達。

 

「ふう。念の為、修理パーツを持ってきておいて良かった」

「ありがとうございます、20号」

 

 幸い大した損傷ではなく、応急修理を施されて復帰した19号は、頭を下げて感謝を示す。忠誠心に溢れたその動作に、ドクターゲロは内心、満足感と感動を噛み締めていた。

 

(うむ。反抗的な17号達とは大違いだ。さすがは私の最高傑作よ……)

 

「ところで20号、お願いしたい事が」

「どうした? 何でも言ってみろ」

 

 にこにこと笑う20号に、19号は真顔で言った。

 

「はい。素晴らしい少女漫画のアイデアが浮かびましたので、紙とペンを……」

「しっかりしろ19号!?」

 

 ドクターゲロは両手で20号の肩を掴み、がくがくと揺さぶりながら叫ぶ。

 

「お前の使命は何だ!?」

「ソ、ソン・ゴクウを倒す事です……」

「よし! 正常だな!」 

 

 ここで漫画だの言われていたら、危うく立ち直れない所だったが、そこさえ忘れていないなら大丈夫だろうと20号は息をつく。

 

「ねえ悟飯、面白そうだわ。何かノートとか持ってない?」

「流石に持ってきてないよ……」

「そこ! 探すんじゃない! おのれベジータの娘! 貴様らと出会ってから、せっかくの19号が訳の分からんバグを……!」

「知らないわよ!? 何もしてないのに壊れたんじゃないの!」

 

 再びぎゃーぎゃーと言い争いを始める彼らの姿を、ヤムチャは呆れた様子で見ながら呟いた。

 

「おい、あいつら放っておいてもいいんじゃないか……?」

「いや、一応犠牲者が出てるし……悟空の事狙ってるらしいし、止めないと……」

 

 応えるクリリンもどこか半信半疑で。その時、どこか弛緩した雰囲気に苛立ちを感じたベジータが叫ぶ。

 

「いい加減にしろ貴様ら! もう修理は終わっただろう! カカロットと戦いたいならとっとと始めやがれ!」

「あ、ああ。すまない……」

 

 思わず謝ってしまってから、20号は辺りの様子を確認する。岩山が多く、いざとなれば身を隠せる場所に事欠かない。気を発さず視認されなければ見つかる事の無い人造人間にとって、隠れるも逃げるも自在の場所だ。逃走を考えている彼にとっては、申し分のない地形だった。

 

 ドクターゲロは19号に小声で話し掛ける。

 

(いいか19号、お前のパワーでは今のソン・ゴクウに勝てる可能性は低いが、貴重なお前の人工頭脳のデータは、この瞬間にも研究所にバックアップが送られている。後でボディは作り直してやるから、お前は私が逃げる時間を稼ぐのだ)

(わかりました、20号)

 

 密談を終えた20号は、憎き復讐相手をびし、と指差しながら叫ぶ。

 

「さあやれ19号よ! 孫悟空を殺せ!」

「はい、20号」

 

 表情を引き締め、ざっ、と前に出る19号。わずかな所作から、今までの言動からは想像もつかない程高い実力を感じ取っていたピッコロ達は、にわかに警戒を強める。

 

 そして戦いの予感を感じ取ったサイヤ人の少女は、悟空に向けて活き活きとした表情で叫ぶ。

 

「カカロット! サイヤ人の強さを見せてやりなさい!」

「お、お父さん! 頑張って!」

「はあああああっ!」

 

 声援を受けた悟空は超サイヤ人と化し、全力で気を解放する。自身の2倍近い数値をパワーレーダーで確認し、今更ながら怖くなった19号の額から、冷却水の滴が流れ落ちる。

 

 そこで彼は、ふと思い付く。ソン・ゴクウの特徴は、ドクターゲロが日々殴っているサンドバッグに貼られた写真で良く知っている。だが今目の前にいる輝く金髪と青い目のこの男は。

 

(外見データが一致しない……! こいつはソン・ゴクウのそっくりさんに違いない……!)

 

 ドクターゲロからの命令は、ソン・ゴクウを倒す事だ。危うく別人と戦って、命令違反をしてしまう所だった。であれば、本物のソン・ゴクウはどこにいるのか。

 

 彼はその場にいる人間達を、一人一人確認していく。チビで鼻と髪の毛が無い。絶対違う。目が3つある。絶対違う。黒目黒髪だが、逆立った髪型で背が低い。微妙に違う。少年と少女、尊い。

 

 そしておもむろに動かした視線が、ヤムチャの上で止まる。黒目黒髪、男性、長身、オレンジ色の胴着、地球人離れしたパワーなど、およそ90%以上の特徴が一致している。19号は不敵な笑みを浮かべて呟いた。

 

「まちがいない、ソン・ゴクウだ……」

「オレかよっ!?」

「違うわボケがっ!? 顔を見ろ顔を! 孫悟空はあっちだ!」

 

 ドクターゲロが指差した先には、先程から放置されていた臨戦態勢の悟空。全身から溢れんばかりの金色のオーラをフィンフィンフィン……と放出している彼の姿を見て、19号の額から、冷却水の滴が流れ落ちる。彼は20号に向けて、深々と頭を下げながら言った。

 

「20号、どうか私にヤムチャを始末させてください」

「オレかよっ!?」

「一番楽なところを言うでないわっ!? 孫悟空と戦え! 孫悟空とっ!」

 

「い、一番楽なところ……」

「気にするなよヤムチャ。正直オレ達だって似たようなもので……」

「そ、そうだぞ。オレも太陽拳と気功砲でどこまでやれるか……」

 

 20号が19号の襟首を掴んで叫び、彼らの言葉を耳にして落ち込んでいるヤムチャを、クリリン達が励ましている中、

 

「はぁ、はぁ……」

 

 その一方で、悟空が小さく息を切らしているのに気付いたナッツは、不思議そうな顔になる。

 

(? まだ戦ってもいないのに、どうしたのかしら?)

 

「お父さん、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

 

 同じく気付いて心配そうな悟飯の顔を見た父親は、笑顔で返事をする。

 

「じゃあ、とっとと始めるとするか!」

 

 叫んだ悟空は、地を蹴り19号へと突撃する。あまりの速度にその場の大半の人間がその姿を目で追えず、現れては消える無数の残像だけが、彼の動きを遅れて示していた。

 

「うああああっ!?」

 

 話がどう転がったのか、20号とジャンケン勝負をしていた19号は向かってくる悟空に動転しながら拳を繰り出すも、残像は一瞬で掻き消え、19号の背後に出現した悟空が、振り向きざまに痛烈な肘打ちを背中に叩き込んだ。

 

 飛ばされた19号の身体が岩山に激突し、崩壊させるも、すぐに土煙の中から、頭を悟空に向けた19号がロケットのように飛びだした。

 

「はあっ!」

 

 高速で迫り来る19号を両手で受け止め、気合いと共に頭上へ蹴り上げる悟空。彼はそのまま飛び上がり、空中で捕捉した19号の全身に猛烈なラッシュを叩き込む。

 

「ぐわああああっ!?」

 

 19号も焦った様子で反撃を繰り出すも、悟空はその全てを回避しながら、なおも攻撃の手を緩めない。連続する凄まじい打撃音を聞きながら、彼らの戦いを見上げていた天津飯達が、呆然とした顔で呟いた。

 

「あ、あれが超サイヤ人か……とんでもないパワーだ。オレ達とは、まるでレベルが違いすぎる……」

「このままあっさり勝てるんじゃないか?」

 

(すまん19号、また後で作り直してやるからな……!)

 

 ヤムチャがすっかり安堵し、20号が密かに逃げるタイミングを伺っている中、同じく戦いを見守っているナッツは、どこか不安げな顔を隠せない。

 

「……そうかしら?」

「うん、お父さん、どうしたんだろう……?」

 

 悟飯の呟きに、ピッコロが応える。

 

「お前達も気付いたか」

「ええ、カカロットは、父様と同じくらい強いはずなのに……」

 

 少女の見守る先で、悟空はなおも19号を圧倒する戦いを見せていたが、小さく息を切らせ、大量の汗を浮かべた彼の表情に余裕は無い。

 

(あの19号って奴、確かに強い事は強いけど、そこまで圧倒的って感じじゃないわ。父様はもちろん、大猿になってない私でも、そこそこ戦えそうな程度なのに、どうして……) 

 

「カカロット、何をやってやがるんだ……? 最初から全力で飛ばして、なおあのザマなのか?」

 

 ベジータも怪訝な様子を見せる。

 

「くっ、ひゃあああああ!」

 

 そしてその時、押し込まれていた19号が苦し紛れに放ったパンチが、悟空の胴体に深々と突き刺さった。

 

「……がはっ!?」

 

 一瞬の硬直の後、ごほごほと、苦しそうに咳き込み始める悟空。

 

「えっ!?」

「えっ!?」

 

 苦悶する彼を前に、攻撃をした19号の方が予想外の展開に目を丸くし、逃げようとしていた20号も思わず驚愕する。

 

「か、カカロット!」

 

 悲鳴のようなナッツの叫びに、我に返った20号が拳を握って叫ぶ。

 

「い、今だ! そのままやってしまえ19号! 信じてたぞ!」

「はい、20号!」

 

 返事と共に、猛然と攻撃を開始する19号。

 

「くっ……!」

 

 悟空も反撃するが、その様子は先程までの攻防とは逆に、19号の繰り出す攻撃を彼は避けられず、逆に悟空の反撃はことごとく回避されている。

 

「お父さん……!」

「だ、大丈夫よ、悟飯、きっと……」

 

 呟くナッツが震える少年の手を握るも、彼女もまた不安な様子を隠せなかった。

 

(カカロット、一体どうしたっていうのよ……!)

 

 苦戦している彼を今すぐ助けに入りたいと、ナッツは強く思ったが、同時に、サイヤ人として、それはしてはならないとも感じていた。これは1対1の戦いで、カカロットもまた、戦闘民族サイヤ人なのだ。

 

 まだ彼が戦う意志を見せている以上、負けそうだからと助けに入るのは、失礼を通り越して侮辱に等しいし、当然彼もそれは望まないだろう。

 

 サイヤ人の少女が唇を噛みながら見守る中、悟空は息を切らせながら、逃げるように19号から距離を取ると、両手を腰だめに構えて、身体に残った気を収束する。

 

「はあっ、はあっ、か……め……は……め……」

「おおっ、あれは!」

 

 悟空の両手に集まった、疲弊しているとは思えない凄まじい気の大きさに、歓声を上げる天津飯達。そして彼は額に大量の汗を浮かべながら、19号に向けて、乾坤一擲の一撃を撃ち放つ。

 

「波ぁーーーー!!!!!」

 

 撃ち放たれた純白の閃光を見て、ナッツは思わずガッツポーズを取る。

 

「やったわ! あれで19号とやらも終わりよ! 避けられるタイミングじゃないわ!」

 

 彼女の言葉に、内心ほくそ笑むドクターゲロ。

 

(バカめ、我々の両手には気功波の類を吸収する、新開発のエネルギー吸収装置が内蔵されているのだ! これで孫悟空のエネルギーを吸収すれば……)

 

 永久エネルギー炉ほどの出力は無いが、エネルギーの吸収速度と容量を度外視すれば、どんな格上相手だろうと仕留められる可能性を持つ自慢の試作品だった。

 

 当然その機能については、19号も聞かされてはいたのだが。ナッツに不意打ちを避けられたせいで、実際に使用された所を見た事は無く。迫り来る凄まじいエネルギーの奔流を前にした19号は、己の主を見つめ、透明な笑みを浮かべて言った。

 

「さよなら、20号……」

「おいいいいいいっ!? 私を信じんか!? 手だ! 手を前にかざせ、19号!」

「う、うわああああっ!?」

 

 そして19号が両手をかざした瞬間、その手に命中したかめはめ波が掌に吸収されてしまう。あまりの光景に、目を剥いて驚くナッツ達。

 

「な、何なの、今の……?」

「……カカロットの技のエネルギーを、吸い取りやがったのか?」

「そんなの反則だろ……」

「ま、まいったな、こりゃ……」

 

 弱々しく息をつく悟空と、愕然とするナッツ達を他所に、テンション最高潮のドクターゲロは叫ぶ。

 

「よし! 今のお前は究極のパワーを手に入れたのだ! やってしまえ、19号!」

「はい、20号!」

 

 叫びと共に、19号が悟空へと突進する。彼の力を吸収した影響か、その勢いは明らかに先程よりも強い。

 

「ご、悟空! 仙豆だ!」

「はあっ、はあっ、サ、サンキュー……!」

 

 とっさにクリリンが投げ放った仙豆を悟空は口にする。かなり小さくなっていた彼の気が、一瞬で復活する。それを見て悟飯は、ほっと胸を撫で下ろす。

 

「よ、良かった……これでもう大丈夫だよね?」

「……いいえ、まだよ」

 

 ナッツは険しい表情を崩さない。再び19号と戦い始めた悟空の動きは明らかに精彩に欠けており、仙豆で戻ったはずの気が、みるみるうちに落ちていく。そして19号が突如目から放った光線が悟空に着弾し、爆発の中で彼は苦悶の声を上げる。

 

「うわああああっ!?」

「お、お父さん!?」

「……やっぱり、体力が戻ってないわ。あの薬は瀕死の重傷でも治せるはずなのに……どういう事?」

 

 そして地上に落ちた悟空が胸を押さえ、苦しそうに呻いている姿に、病気で苦しむ母親の姿が重なって。少女は思わず目を見開いて叫ぶ。

 

「まさか、心臓の病気!? どういう事!? 薬を飲んだんじゃなかったの!?」

 

 それを聞いた悟飯は、震える声で呟いた。

 

「お父さん、ずっと元気だったから、飲まなかったんだ……」

「ちぃっ!」

 

 舌打ちしたベジータが飛び出し、ほぼ同時にピッコロも続く。

 

「悟飯! 私達も!」

「う、うん!」

 

 そして戦場へ割り込まんとした4人の行く手に、ばっ、と両手を広げた20号が立ち塞がる。悲願の成就を前にした彼は、顔に汗を浮かべながら決死の覚悟で叫ぶ。

 

「こ、ここから先は1センチも通さん……!」

「どきなさい!」

 

 怒号と共に、飛び掛かったナッツと悟飯の拳が顔面に、ベジータとピッコロの蹴りが胴体にそれぞれ着弾した。

 

「ぐわあああぁああぁあっ!?」

 

 そして20号の身体が勢いよく吹き飛ばされる先で、倒れた悟空の身体からエネルギーを吸い取っていた19号が目を剥いた。

 

「ちょ、ちょっと!? ああああっ!?」

 

 さながらピンボールの球のように、激突した人造人間達の身体がそれぞれ別方向に弾き飛ばされ、激突して土煙を上げる。そして解放されるも起き上がれず、苦しげに胸を押さえて喘ぐ悟空に皆が駆け寄っていく。

 

「カカロット、しっかりして!」

「お父さん……どうして? 具合が悪いんだったら、戦いはベジータさんに任せれば良かったのに……!」

 

 少年の叫びを聞いて、ベジータは蔑んだような顔となり、ナッツは目を伏せて、悲しそうに語り掛ける。病が身体を蝕もうと、ずっと戦いたがっていた、母親の姿を思い出しながら。

 

「悟飯……それは違うわ」

「違うって何が!?」

 

 問い返す悟飯に向けて、悟空はなおも息を荒げながらも、息子を心配させまいとするかのように、小さく笑いながら告げた。

 

「そ、そうだな……オラだってこの日が楽しみだったし、オラと戦いに来てくれたんだから、他の奴に任せたら悪いなって思って……し、心配かけて悪いな、悟飯……」

「……っ!」

 

 悟飯はその言葉の意味が、全く理解できない事に衝撃を感じていた。強い相手との戦いが何より好きというのが、サイヤ人の本能だというのは、父親や友人の姿を見て知っているけれど。

 

 彼らの傍にいながらも、少年はどうしようもなく、強い疎外感を感じていた。父親だというのに、友達だというのに、戦いを望む彼らの気持ちがわからない。自分にも同じ、サイヤ人の血が流れているはずなのに。 

 

「……早く薬を飲まさないと! 悟飯! どこに置いてあるの?」

 

 ナッツの言葉に、苦悩していた彼は慌てて顔を上げる。

 

「は、はっきりとは判らないけど、うちのどこかにあると思う」

「じゃ、じゃあオレが悟空を家に連れて行こうか? 情けない話だが、この中でオレが一番楽らしいし……」

 

 おずおずとヤムチャが手を挙げるが、少女は鋭い目で、辺りを見渡しながら言った。

 

「……駄目よ。私が人造人間なら、弱ったカカロットを逃さないわ」

「そ、そういえば、あいつらどこに……?」

 

 クリリンが彼らの飛ばされていったと思しき辺りに目をやるも、人造人間達の姿は見えない。

 

「不利と見て逃げやがったのか?」

「わからん。そう思わせて、隠れて隙を伺ってるのかもな……」

 

 気を発さない人造人間が、姿を隠したという状況の厄介さに、ベジータとピッコロが、苛立たしげな様子になる。

 

「全員でいったん、悟空に薬を飲ませに戻るか?」

「……奴らはまだこの近くにいるはずだ。できるならここで仕留めておきたい。この先1人1人、いつどこに現れるか判らない人造人間共に闇討ちされる可能性を考えたらな……」

 

 ベジータの言葉に皆が顔を引きつらせる中、かすかに焦りの混じった彼の表情を見た娘は気付く。人造人間の標的となる可能性があるのは、自分達だけとは限らない事に。

 

(もしかしたら、戦えないブルマやトランクスが狙われるかも。そんな事になったら私は……!)

 

 その想像のあまりの恐ろしさに、少女は思わず強い寒気を感じて震える。同時に、もはや声も出せず、胸を押さえて苦しむ悟空と、彼を必死に励ましている悟飯の姿を見て、ナッツは胸が締め付けられるような気持ちになってしまう。

 

(こうしている時間は無いわ。病気で死んだら、ドラゴンボールでも生き返れないかもしれない……!)

 

 切迫した事態の中、少女は表情を引き締めると、父親の顔を見上げて、凛とした声で言った。

 

「父様、私がカカロットを家まで運びます。さっきの奴らが追って来ても、私が大猿に変身すれば、まとめて返り討ちにできますから」

 

 娘の言葉に、父親は一瞬虚を突かれたような表情を見せる。戦力的にそれが一番理に叶っていると、先程から頭では理解していたのだが、彼女の事が心配で、言い出せなかったのだ。

 

 だが決意に満ちた、どこか母親の面影を思わせる戦士の顔を見て、彼女の成長に内心嬉しさを感じながら、父親は頷いた。

 

「わかった。ならオレ達は人造人間共を探す。……くれぐれも気を付けろよ、ナッツ」

「はい、父様」

 

 そして彼は、項垂れている悟飯を親指で示して言った。

 

「そいつも連れていけ。腑抜けているが、お前が戦う事になった時、カカロットを運ぶ事くらいはできるだろう」

「もう、父様! ……行きましょう、悟飯」

「う、うん……ピッコロさん、お願いします。気を付けて」

「心配するな。こっちは大丈夫だ。それとだな……」

「?」

 

 少年に向けて、ピッコロはゆっくりと、言葉を選びながら言った。

 

「お前は孫の奴とは違う。だがそれを気にする必要は無い。お前は争いこそ苦手だが、十分に凄まじいパワーを秘めていて、いざという時には立派に戦える戦士だ。だから無理をして、そこのサイヤ人のようになろうとしなくていい」

 

 尊敬する師からの気遣いの言葉を聞いた少年の顔が、ぱあっと明るくなる。悟飯は沈んでいた自分の心が、すっかり軽くなったのを感じていた。

 

「はい! ありがとうございます、ピッコロさん!」

 

 元気よく返事をする少年の姿を見て、ナッツは安堵すると同時に、ピッコロの言葉で彼が立ち直った事に、内心頬を膨らませる。だがすぐに、それどころではないと思い直し。

 

「行くわよ、悟飯!」

「うん! ……お父さん、もう少しの辛抱だから!」

 

 そしてベジータ達が見守る中、二人は両側から悟空を支えて飛び立ち、薬を求めてパオズ山の家を目指すのだった。

 

 

 

 一方その頃、ドクターゲロと19号は、目立たないよう岩山の間を走りながら、遥か北方にある研究所へと向かっていた。

 

「ええい覚えておれ! 17号と18号さえ目覚めさせれば……!」

 

 言いながらも、彼の脳裏に浮かんだのは、ベジータ達が地球を攻めて来た日、スパイロボットで記録していた戦闘の映像だった。あの孫悟空が、大猿化したベジータの強大なパワーを前に、成す術もなく倒される姿。そして今日、超サイヤ人となったナッツの腰に巻かれていた尻尾。

 

(あのベジータの娘……人間の状態なら19号や私でも倒せるだろうが、大猿とやらに変身されれば、17号達2人がかりでも到底勝てん。……16号を目覚めさせるしかないのか?)

 

 それは彼にとっては、なるべくならば避けたい選択だった。自らの手で封印した、16号の顔が脳裏に浮かぶ。人格が穏やか過ぎるのが欠点のあいつは、反抗的な17号達と異なり、決して危険というわけではないのだが。

 

「20号! 置いてかないで下さい! ……ああっ!?」

 

 この世の終わりのような19号の叫びに、20号は思考を中断される。

 

「どうした!? まさかもうベジータ共が追って来たか!?」

 

 とっさに後方を確認するも、彼らの姿は無く。

 

「買ってもらった雑誌がありません! すみません、落としてしまいました!」

「後で店ごと買ってやるわっ!?」

 

 忠誠心や性能は申し分無いのに、このバグはどうにかならないものかと、ドクターゲロは額に青筋を浮かべて叫ぶのだった。

 

 

 

 

 一方その頃、未来から救援に来たトランクスは、悟空達の気を頼りに辿り着いた戦場跡で立ち尽くしていた。

 

 移動したのか、そこにはもう誰もいなかったが、激しい戦いが繰り広げられたであろう痕跡の中に、異様な物を発見したのだ。

 

 それは平仮名4文字の題名の、600ページほどの分厚い少女漫画雑誌。

 

「な、何だ、この雑誌は……? みんな、一体何と戦ってるんだ?」

 

 戦いの場にそんなものが落ちている意味不明さに、トランクスは怖気を感じながら、シリアス顔で呟くのだった。




 色々あって投稿が遅れてしまいましたが、その間更新を待って下さっていた方々、評価や感想、お気に入りを下さった方々、本当にありがとうございます。
 今後は以前のような投稿ペースは難しいかもしれませんが、エタらないよう毎日少しずつ書き進めていくつもりですので、どうか気長にお待ち下さいませ。


 それとこちらは、阿井 上夫様から頂いていた悟飯とナッツのクリスマス画像です。12月中に公開できずすみません……! そして心温まる支援絵をありがとうございます!

【挿絵表示】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。