「お前達に、頼みがある」
その言葉と、目の前で緊急停止スイッチを破壊した16号の行動に、唖然とする17号と18号。
「な、何のつもり? あんた、ドクターゲロの手下なんじゃ……」
混乱する18号達の顔を、彼は真っ直ぐに見つめて語り掛ける。
「博士の事を、殺さないで欲しい」
「はぁ?」
予想外の言葉に、思わず素の声を上げる18号と、その表情を不敵なものへと変える17号。
「気付いてたのか。あのじじいの調整とやらが、上手くいっていなかった事に」
「ああ。そしてお前達が博士を恨んでいる事は、大体想像がつく。だからお前達は孫悟空の仲間達を倒したら、どこへなりとも行くといい。あの緊急停止スイッチが無ければ、博士を殺さずとも、お前達は自由の身になれるはずだ」
それを聞いた17号は、面白そうな様子で尋ねる。
「それはずいぶん良い話にも思えるが、どうかな? あいつを生かしておいたら、またスイッチを作り直されるんじゃないか?」
「博士にはお前達が、独自に孫悟空を追って行ったとでも伝えておく。後は時期を見て、返り討ちに遭ったと報告するつもりだ。お前達が死んだとなれば、わざわざあれを作り直そうとは思わないだろう」
「わからないよ? もしあのじじいに全部バレて、私達を捕まえようとしたらどうするのさ?」
「なるべくそうはならないよう努力するが、万が一気付かれても、心配する必要は無い」
「なぜだ?」
「あの緊急停止スイッチを使うには、対象からおよそ10メートル以内まで近づく必要がある」
「!?」
17号達は衝撃を受ける。それは間違いなく、ドクターゲロが何としてでも隠しておきたい情報のはずだ。事実、彼らは今まで、たとえ地球のどこに逃げても、ドクターゲロがその気になれば、また眠らされてしまうものとばかり思っていた。
「お前達は人間ベースでほとんど機械の部分がなく、かつパワーレーダーにも反応しない。いかに博士でも、広い地球のどこにいるかも判らないお前達の居場所を特定するのはほぼ不可能だろう。博士は愚かではない。そんな事に時間を掛けるくらいなら、諦めて新しい人造人間を作るはずだ」
静かな口調で応えてから、16号は深々と頭を下げて続ける。
「それに、お前達が忠実な人造人間になったと思い込んで、博士は本当に嬉しそうだった。できる事なら、がっかりさせないでやって欲しい。頼む」
彼の言葉に、戸惑った様子を見せる18号。
「ど、どうする? 17号」
「そうだな……」
17号は考える。自分達を騙して人造人間へと改造した、ドクターゲロへの恨みは確かにある。できるなら殺しておきたいとは思うが、仮にここで提案を蹴った場合、目の前の16号との戦闘は避けられない。あの大きな体格を見る限り、耐久力とパワーはそれなりにあると見ていい。自分達よりも旧式の人造人間に負けるとは思わないが、それでも瞬殺とはいかないだろう。
そして戦闘が長引けば、騒ぎを聞き付けたドクターゲロと、あの19号とかいう太っちょも駆けつけて、2対3の戦いになる。そうなれば頭数で負けている上に、あの2人も人造人間である以上、決して油断できる相手ではなく。たとえ勝てたとしても、自分か、双子の姉である18号のどちらかはやられてしまうかもしれない。
それに加えて、あの心配症のじじいが、緊急停止スイッチの予備をいくつも作っている可能性も否定できない。その場合、自分と18号はあっさり停止され、今度こそ、二度と目覚める事はないだろう。
ドクターゲロへの恨みは確かにある。だがそうしたリスクと自由を天秤に掛けた場合、命賭けで殺害を実行しようと思えるほどでは無かった。
「オレはそれで構わないと思うが、18号はどうだ?」
17号は一応聞いてみたが、姉も同じような事を考えていたのは、その表情で判った。
「……まあ、ちょっと釈然としないけど、いいよ。せっかく目覚められたんだしね」
「ありがとう。感謝する」
言って安堵の表情を見せる16号。厳つい大男である16号だが、そうした顔には、不思議と愛嬌が伺える。
「いいさ。それより、良かったら聞かせてくれ。お前はどうしてドクターゲロに、そこまで義理立てする? 人間だった頃、あいつに恩でもあるのか?」
17号の問いに、16号は迷いなく応える。
「博士には、オレをこの世界に作り出してくれた恩がある。オレは無から作られた」
「……アンタ、変わってるね。それに本当? 人間にしか見えないよ」
18号は呆れた顔で彼の腕に触れてみるが、少なくとも表面の手触りからは、あまり機械らしさを感じない。
「本当だ」
言って彼は自分の左腕を掴み、それを半ばから切り離して見せる。その光景と切断面の機械部分を見て、目を丸くする18号。
「へえ、本当に機械なんだ。それに思いっきり忠実だし……あのじじい、これのどこが失敗作なんだか」
自分達の前に作られた人造人間は、全て失敗作だったと聞いていた18号は、何て贅沢な話だと顔をしかめる。
「……博士から見れば、オレは失敗作なんだろう」
俯いて呟く16号の様子から、何か繊細なものを感じ取った17号は話題を変える。
「孫悟空の仲間達とやらが、そろそろ来る頃だな。餞別代わりにちょっと遊んでやるか」
「賛成。ベジータって言ったっけ。サイヤ人の王子とかいうの、強そうだし私にやらせてよ」
「彼らの事も、なるべくなら殺さないで欲しい」
16号の言葉に、双子の姉弟は、しばしきょとんと、そのそっくりな顔を見合わせる。そして二人同時に、おかしくてたまらないとばかりに吹き出した。
「あははははっ! あのレッドリボン軍のドクターゲロが作った人造人間なんて、どんな頭のおかしい殺人マシーンかと思ったら! まったく誰に似たんだか!」
「なるほど、納得がいった。お前は性根が優し過ぎて、あのじじいから失敗作と呼ばれていたのか」
「……そんなところだ」
16号は一拍置いてから応える。本当はそんな事を、博士は気にはしていなかった。命を奪う事は嫌いだが、それでも孫悟空を殺すという使命は、忠実に守るつもりでいたのだから。
彼の内心に気付かず、18号達は会話を続ける。
「私は別にいいよ。弱い奴をいたぶったりする趣味は無いし」
「そうだな、殺すまでの事は無い。生かしておけばそのうち、強くなってまた楽しめるかもしれないからな」
「…………」
その時、16号もまた、彼らの言葉に小さな驚きを覚えていた。彼にとっては兄にあたる13号達は、パワーこそ凄まじかったものの、全く命令を聞かず、地球をも滅ぼしかねない程に凶悪な性格だったと聞いている。それと比べれば、彼らはどれほど善良だろうか。
おそらくドクターゲロが望んだのは、命令に忠実かつ冷酷な人造人間で、博士に言わせれば、忠誠心の無い彼らもまた失敗作なのだろうが。少なくとも16号には、とてもそうには思えなかった。
「? どうしたの、16号?」
18号の問い掛けに、彼は小さく微笑みながら応える。
「お前達のことを、良い奴だと思っていた」
「……はあ?」
予想外の言葉に、間の抜けた声を上げる18号。人造人間に改造される前の彼らは、札付きの不良で、お世辞にも真っ当とは言い難い人生を歩んできた。流石に重犯罪にこそ手を出してはいなかったが、少なくとも良い奴だなどと、真正面から言われた事が無かった程度には。
そんな彼女は怒るでも照れるでもなく、思わず目の前の彼の今後を心配した。
「あんた、良い奴過ぎて人を見る目が無いよ? まあ、あの博士に恩を感じるくらいだから、ちょっと基準が甘いのかもしれないけど。そんなんじゃ外の世界で大変だよ? 私らみたいな悪い奴に騙されたりするかもしれないし」
「いや、お前達は良い奴だ」
「だから違うって! もう!」
そのやり取りを見た17号は、明るい笑い声を上げる。
「ははっ、なあ16号。良かったらオレ達と一緒に来ないか? お前とは気が合いそうだ。同じ人造人間同士、気ままな旅でもしようじゃないか」
「そうだね。あんた放っておいたら危なそうだし。あのじじいと一緒にいても、ろくな事にならないよきっと」
彼らの提案に、16号は顔を綻ばせて応える。
「申し出はありがたい。それも悪くはなさそうだが……やはりオレは、博士について行く」
その返答に、彼の決意の強さを感じ取って、肩をすくめる18号。
「まあ、あんたがそういうなら無理は言えないか」
「嫌になったらいつでも来いよ。それじゃあ、そろそろ行くか」
言って外へ向かおうとする17号達の背中に、16号は声を掛ける。
「すまないが、先に行っていてくれ。オレは博士と話がある」
「構わないさ。戻ってくる前に、全員片付けておくよ」
彼らが出ていった後、16号は地下のドクターゲロの元へと向かいながら、パワーレーダーで外にいる者達の情報を、改めて確認する。いくつもの強者達の反応の中で、一際大きいのはおそらくベジータとピッコロ。そしてもう一人、ピッコロよりやや大きい、未知の戦士の反応がある。
だが全員合わせても、17号と18号がいれば何ら問題はないレベルだ。博士がそれだけで、失敗作と断じた自分まで目覚めさせるとは思えない。
むしろ彼は遥か遠く、今この瞬間も研究所から遠ざかっていく3つの反応から、何か気掛かりなものを感じて、地下へと向かう足を早めるのだった。
一方、その頃。ナッツと悟飯は、心臓病が悪化し、ぐったりとした悟空の身体を二人で抱えながら、パオズ山へと全速力で飛行していた。
「カカロット、しっかりして。もう少しで、薬を飲ませてあげるからね」
「はぁっ、はぁっ……」
苦しげに荒い呼吸を繰り返す彼の姿が、病に苦しむ母親を連想させて、少女はにわかに、心細くなってしまう。どんなに強いサイヤ人も、病気には勝てないのだという事実は、幼かった彼女の心に、はっきりと刻み込まれていた。
未来から届いた薬があるという彼の家までは、もう後ほんの数分という所まで来ているが、苦しむカカロットの戦闘力が、刻一刻と弱まっていくのも、またはっきりと感じられた。
「お父さん! お父さん!」
悟飯の悲痛な呼びかけに、彼女もまた、胸を締め付けられるような、不安と痛みを感じてしまう。家族を失ってしまう事の辛さを、ナッツは既に2度経験していた。あんな辛い思いを、悟飯には決してさせたくなかった。
「カカロット、本当に、死んじゃ駄目なんだからね……」
少女が涙声で呟いた、その時だった。彼女の耳に、この場にいない人間の声が届く。
『ナッツちゃん、聞こえる? 大変みたいね』
「えっ? ブルマ?」
少女は驚きに、目を瞬かせる。彼女の声は、出発前に持たせてくれたスカウターから聞こえていた。確か通信機能に加えて、映像を送る機能もついているという話だったけど。
『連絡が遅れてごめんなさいね。ちょっと色々手配してて。孫くんの事なら心配ないわ。チチさんにも連絡して、薬を準備してもらってるし、孫くんの病気に合わせた薬なんだろうから、きっと大丈夫よ』
「うん……ありがとう、ブルマ」
不安に苛まれていた少女の顔に、小さく笑みが浮かぶ。ブルマは戦う力は無いけれど、大好きな人間が自分を励ましてくれる事が、今の彼女には、何より心強かった。
『それと、ベジータ達は人造人間を追ってるわ。一度見つけて逃げられたらしいけど、北の方にあるドクターゲロの研究所に向かってるみたい。大まかな場所は調べて教えておいたから、すぐに見つけ出せるはずよ』
(カカロットを追っては来ていないみたいね……)
少女は安堵の息をつく。大猿になれば負けない相手とはいえ、変身には時間がかかってしまう。また接近が戦闘力で感知できない人造人間を相手に、動けないカカロットを不意打ちから守りきれるかと言えば、あまり自信が無かったのだ。
いっそ最初から月を作って変身しておこうかとも思ったのだけど、カカロットの容体が悪化しつつある状態で、変身の為に足を止めるという選択は、心情的にできなかったのだ。
『人造人間はベジータ達に任せておけば大丈夫よ。全部終わって孫くんの具合も良くなったら、皆で美味しい物でも食べに行きましょう』
そこでブルマは声色を変えて、叱責するような強い口調で言った。
『だから孫くん、聞こえてる? もし悟飯くんやチチさんを悲しませたら、絶対に許さないんだからね』
「わ、わりぃ……」
胸の痛みに大量の汗を浮かべながらも、苦笑して返答する悟空。その様子が何だかおかしくて、また返事をする元気はあると判った安心感もあって、ナッツと悟飯は、顔を見合わせて笑った。
その時、スカウターの向こうから、あー、あー、と舌ったらずな声が聞こえてきた。聞き間違いようのないその声に、少女が反応する。
「トランクスもいるの?」
『ええ、お姉ちゃんの声が聞こえたのね。頑張ってって言ってるのよ、きっと』
なおも聞こえる声に、可愛らしい大事な弟の存在を感じて、ナッツはじんわりと、心が温かくなるのを感じていた。
「トランクス、私、頑張るから。ブルマと一緒に、おうちで良い子にしているのよ?」
きゃっきゃっ、と元気の良い返事に、少女は思いっきり頬を緩めてしまう。
(何て良い子なのかしら……! きっと将来は凄く素直で、優しくて姉想いで強くて格好良い子になるに違いないわ!)
一方、その頃。ベジータ達に合流した未来から来た少年は、盛大なくしゃみをしていた。
「はっくしょん!」
「……どうした、風邪か?」
「い、いえ。大丈夫です、ベジータさん」
「ならいい……それはそうと、そろそろ名前くらい名乗ったらどうなんだ」
「そ、そうですね。この戦いが終わったら……」
特にイベントが発生しなかったせいで、正体を明かすタイミングを逃した弟が、父親とそんなやりとりをしている事などつゆ知らず、明るい声でナッツは叫ぶ。
「さあ、もう少しよ! カカロット! 悟飯!」
陽が高く昇り、綺麗な青空が広がる景色の向こうに、小さくパオズ山が見えてきていた。
ちょっと遅れてしまいましたが更新です!
17号達の未来と現在で性格と強さが変わり過ぎ問題については、ドクターゲロの調整が上手くいったかどうかの違いだと解釈してます。永久エネルギー炉はパワーと性格面の調整が難しいっぽいので、大失敗したパターンが絶望の未来なんだろうなあと。
かなりのんびりペースなのですが、それでも感想、評価、お気に入りなどありがとうございます。続きを書く励みになっております。
次の話は、今度こそ16号とドクターゲロのあれこれです。また少し遅れるかもしれませんが、どうか気長にお待ち下さいませ。