あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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21.彼女が人造人間と戦う話 その1●

 父親の元へと全速力で飛翔していた金色の少女は、初めて地球に来た日の事を思い出していた。片目と尻尾を失い、今にも死にそうなほど、ボロボロになっていた父親の姿。

 

 あの日のように、今も父様の戦闘力は見る影もなく低下している。そして未来から来た少年の、父様は人造人間に殺されて、死んでいたという言葉。フリーザに心臓を貫かれ、血だまりの中に倒れ伏す父親の姿が想起され、ナッツの心を苛んでいく。

 

「嫌! そんなの嫌! 死なないで、父様!」 

 

 泣き叫ぶ少女の涙が、流れる風に飛ばされていく。吹き付ける風の冷たさが、身体から体温を奪っていく。

 

 地球で5年近くの年月を過ごして、悟飯と共に大抵の場所へは遊びに行った事のあるナッツだったが、地球でもかなりの北方にあたる、この辺りまで来た事は無かった。

 

 彼女は寒いのが苦手だった。身も凍えるこの感覚は、母様が死んでしまった、あの冷たい雨の日を思い出してしまうから。

 

 手袋が無く、肩まで剥き出しの戦闘服の防寒性は決して高くない。こんな時でなかったら、ブルマから持たされているお小遣いで、上着でも買いたいところだったけど。

 

「父様、父様……!」

 

 少し前から、温かなその気配はあまりに小さくなり、戦闘力の感知が苦手なナッツには、ほとんど感じ取れなくなってしまっている。わずかな父親の気配に縋るように、少女は寒さと恐怖に震えながら飛び続ける。

 

 そして到着の直前、探知されないよう戦闘力を消して黒髪に戻り、地上から接近したナッツの目に映ったのは、両腕をあらぬ方向に曲げ、倒れ伏す父親の姿だった。

 

「と、父様!」

 

 衝撃を受けながら、少女は恐る恐る父親に駆け寄り、その生存を確認して、ほっと息をつく。両腕は折られてしまっており、意識もないが、きちんと呼吸もしており、命に別状はない。

 

 彼女が想像していた最悪の事態よりも、遥かにましな状態だった。ナッツは顔を綻ばせて、父親の身体を抱き締めようとしたところで、両腕が折れている事に気付き、あわあわと動きを止める。

 

(良かった……けど何で? 意識が無いだけで、止めを刺された様子はないわ。その時間はあったはずなのに……)

 

 倒した敵を殺さず放置するという、戦場で育った彼女からすれば、常識外の出来事に、少女は困惑しながら、それをやったと思しき者達を見る。

 

 遠くに見えるのは三人組の、見た事の無い人造人間。一番強そうなジャケット姿の巨漢に、見た目はあんまり強そうじゃない黒髪の男と、戦闘後なのか、ボロボロの服装の金髪の女。

 

(もしかして、父様をやったのはあの女なの? それにしては、全然疲れてる様子がないわ。戦闘力は判らないけど、相当な強さと思っておいた方がいいわね……) 

 

 彼らはクリリンと何か話している様子だったが、遠すぎて話の内容までは聞こえない。

 

(一人だけ倒さず残して、尋問でもしているのかしら? それならすぐに殺される事はないだろうけど……仙豆は確か、クリリンが持っているのよね。早く父様を治してあげないと。……ついでに他の人達も)

 

 ナッツはそこで、周囲に倒れているピッコロ達に目を向ける。父親の気配だけを追っていた少女は、彼らの事までは気にしていなかったが、案の定全員倒され、意識を失っていた。

 

(父様がやられたくらいだから、無理もない事だし、逃げずに戦っただけ勇敢だわ。……もし父様を見捨てて逃げてたら、腕の一つも折ってやってたかもしれないけど……って、あの人は!?)

 

 少女の黒い瞳が、驚きに見開かれる。3年前に会ったきりの、未来から来たという、青い髪をしたサイヤ人の少年が、倒れた地球人達の中に混ざっていた。コルド大王に捕まっていた彼女を助けてくれた恩人で、確か未来でお姉さんを殺されたと言っていた人だ。

 

「未来からまた来てくれたのね! しっかりして!」

 

 ナッツは地面に膝をついて、意識の無い少年に呼びかける。ほぼ一撃で倒されたと思しき地球人達と違い、最後まで抵抗したのか、全身に傷を負っていた彼は、彼女の声を聞いて、薄く目を開けた。

 

 忘れもしない、誰よりも優しく美しかった姉と、目の前の幼い少女の顔立ちが、ぼんやりとした視界の中で重なった。守れなかった最愛の姉に、残された力を振り絞って呼びかける。

 

 

「に、逃げてください……姉さん、ナッツ姉さん……!」

「……えっ?」

 

 

 直後に彼は再び意識を失ってしまったが、その言葉を聞いたナッツの中で、一瞬のうちに、様々な出来事がフラッシュバックする。 

 

 20年後の未来から来た少年。名前は名乗れない。私が好きな飲み物を知っていた、青い髪のサイヤ人。まだ幼い弟の頭に、うっすらと生えてきた髪の色。

 

 私の事を、死んでしまったお姉さんと間違えて泣いていた人。赤ん坊の弟と、目の前の少年に感じる温かな気配は、別人とは思えない程にそっくりで。

 

 

 

 少女の中で、全てが繋がった。

 

 

 

「トランクス、あなた、未来から来たあの子だったのね」

 

 ナッツは慈愛に満ちた笑みを浮かべ、自分よりも年上の弟の頭を、優しくそっと抱き締める。そうしていつも弟にするように、小さな手でそっと頭を撫でた。

 

「ごめんなさいね、私はあなたのお姉さんなのに、寂しがってたあなたの事に、今まで気付いてあげられなくて」

 

 ふさふさの尻尾が、赤ん坊をあやす様に頬に触れる。3年前にトランクスが来ることなく、彼女がフリーザに尻尾を切られていた未来では、彼がそれを経験する事はなかったのだけど。

 

「こんなに大きくて、強くて格好良いサイヤ人になったのね、トランクス。とっても嬉しいし、あなたの事を誇りに思うわ」

 

 優しい姉の声と温もりを感じて、意識の無い少年の顔が嬉しそうに緩んだ。愛の奇跡だった。

 

 

 

 だが、彼に意識があったなら気付いていただろう。頭を撫でる少女の手が、怒りで小さく震え始めた事に。

 

 そう、強くて格好良くて、私よりも父様よりも背の高くなった、私の大好きなトランクスが、ボロボロになって意識を失うほどに傷つけられた。

 

 この子が生まれて、初めて会った日に、大切な愛おしい家族である彼を、命に代えても守ると誓ったのに。それなのに、あいつらが。

 

 表情の失せた顔で、ナッツはゆっくりと振り返る。三人組の人造人間。あいつらが、あいつらが私の弟をこんな目に。

 

 臨界を超えた絶対零度の怒りが、彼女の中で冷たく燃え盛る。ここまで怒りを感じたのは、いったい何年ぶりだろうか。毛を逆立たせた彼女の尻尾が、激しく振るわれ地面を叩き割った。

 

「あはっ、ははっ、あははははははは……!」

 

 子供とは到底思えないほどの、冷酷な殺意に満ちた笑い声。それは耳にした者に、彼女がこれまで10以上の星を蹂躙し、数えきれないほどもたらしてきた、否応の無い死を連想させるものだ。

 

 ナッツは倒れた弟に目をやって、一転、穏やかで優しい声を掛ける。

 

「待っててね。トランクス。あなたを傷つけた人造人間どもを、すぐに私が、皆殺しにしてきてあげるから」

 

 冷酷で凶悪な表情に、その瞬間は、同量の愛情と慈しみが混ざっていて、それが彼女を、いっそう恐ろしく見せていた。

 

 

 

 ナッツは立ち上がり、素早くその場を飛び離れる。長い髪と尻尾を風に靡かせながら飛翔しつつ、ブルマからもらったスカウターを外し、大事そうに戦闘服に収納する。

 

 そして土埃をあげながら数㎞先に着地。鋭い目つきで空を見上げ、右掌に形成した眩い光球を全力で投げ上げ、拳を握りながら叫ぶ。

 

「はじけて、まざれっ!!!」

 

 瞬く間に遥か上空まで到達した光球が、少女の操作によって、目も眩むような光と共に弾け飛ぶ。そして大気中の酸素と混ざり合い、真昼の空になお明るく輝く、人工の月を創造する。

 

 驚き慌てる人造人間達の姿を想像し、嗜虐的な笑みを浮かべながら、ナッツは自ら作り上げた月を見上げた。地上へ降り注ぐブルーツ波が、大きく見開かれた目から、少女の身体に吸収されていく。

 

 慣れ親しんだ感覚と共に、サイヤ人の証である尻尾が、別の生き物のように動き出す。尻尾によって1000倍に増幅されたブルーツ波が、凄まじい速度で全身へと供給されていく。身体の内から溢れんばかりの力が湧き上がるのを感じたその時、ナッツの心臓が、ドクン、と大きく高鳴った。

 

「はぁっ、はあっ……」

 

 心臓の鼓動がさらに高鳴ると共に、変身を開始した少女の身体が小刻みに震えだす。自身の身体が発する熱量に、彼女は汗ばみながら息を荒げ、開いた口から伸びつつある鋭い犬歯が覗く。

 

 拳を固く握り締めたナッツの腕が、筋肉によってわずかに膨張する。いつしか白く染まった目で、なおも月の光を吸収し続ける少女の戦闘力が急激に高まっていく。

 

 下級戦士ならば、とうに理性を失っているだろうこの状態で、王族の血を引く少女は己の裡で増大する大猿の本能を受け入れ、自らの自我と一体化させて制御する。彼女の喉から、獣性混じりの唸り声が漏れ始める。

 

 そして月を見上げてから、およそ10秒が経過したその時、ナッツはばっと両腕を広げ、己の力を解き放つように絶叫する。

 

「あああああああああああっ!!!」

 

 ゴウッ! と全身から膨大な気が発せられると同時、彼女の骨と筋肉が内側から弾け飛ぶように膨れ上がった。台風さながらの気の奔流で岩石や土砂を巻き上げながら、なおも秒単位で増大していく筋肉の上から、まばらに尻尾と同じ色の獣毛が生え始める。

 

 大きな牙を外気に晒しながら、人の限界を超えて開かれた口が、頭蓋骨の変形と共に、鼻と一体化して前へと伸びていく。同時に白い瞳が赤の色を帯び始め、やがてその目が完全に赤く染まった時、少女の整った顔立ちは、強靭な牙の生え揃った肉食獣のものへと変貌していた。

 

『オオオオオオオオオオオッ!!!!』

 

 大気を震わす咆哮と共に、戦闘服とアンダースーツを内側から押し上げながら、ナッツの全身はなおも急激に成長を続ける。彼女の身体に合わせて大きさを増し、今やサイズが1メートルを超える黒いブーツの下で、増大する重量に耐え切れず地面が踏み砕かれていく。丸太のように膨れ上がった足にうっすらと生えた獣毛が、変身の進行と共にその密度を増し、発達した筋肉を茶色の毛皮で覆っていく。

 

 家ほどに体積を増した大猿の身体が周囲の岩山に激突し、更に巨大化していく体躯によって粉砕する。太く強靭となった尻尾が、鋭い風切り音と共に、背後からの敵を薙ぎ払うかのように振るわれる。

 

 極寒の荒れ地に生息していた、熊やヘラジカや狼といった動物達、食物連鎖の頂点であるはずの恐竜までも、突然の強大な獣の出現に怯え、崩壊していく地形の中、我先へと逃げ出していく。

 

 獰猛な激情と殺意に身を任せながら、変身を続けるナッツは一際大きな咆哮を上げた。

 

 

 

 時間は少し遡る。ベジータが18号に倒され、残りの仲間も17号に全滅させられた後、動けず一人残ったクリリンの元へと人造人間達が近づいてくる。

 

 怯えながらも身構えるクリリンだったが、17号の言葉は、予想外のものだった。

 

「心配するな。どいつもまだ生きている。早く仙豆ってやつを食わせてやるんだな。すっかり回復するんだろ?」

「……えっ?」

「もしもっと腕を上げる事ができたら、また相手になってやると言っておいてくれ」

 

 驚くクリリンを尻目に、悟空の居場所も聞かないまま、去って行こうとする17号達。

 

「よし、これであのじじいへの義理は果たしたな。自由の身だ」

「で、孫悟空の所に行くわけ? その前に私、新しい服が欲しいんだけど」

「クルマも欲しいし、もう少し賑やかな所までは飛んでいくか。16号、やっぱりお前は戻るのか? 付いてくるなら歓迎するぞ」

「…………」

「さっきから小鳥ばっかり見てさ、本当、変わった奴だよ」

 

 クリリンはしばらく呆然と彼らを見送っていたが、誰も殺されず、話が通じそうな雰囲気を感じて、人造人間達を追いかける。

 

「ま、待ってくれ! お前たちの目的は一体何なんだ? 悟空を殺す事か?」

「そうだな。孫悟空はこの世で一番強いんだろ? ゲームみたいなものだ」

「……そんな事は止めてくれって言っても無駄か?」

「無駄だ。オレ達は孫悟空を殺すために造られた」

 

 寡黙な16号が、それだけははっきりと口にした。明確な拒絶の意思を感じて、何も言えず、実力差から、悔しそうに黙り込むクリリン。

 

 そんな彼の姿をじっと見ていた18号が、何を思ったか、クリリンの頬にいきなり軽くキスをした。 

 

「!!」

「じゃあね」

 

 顔を赤らめ、唇の当たった個所に手をやるクリリン。その様子を面白そうに眺めながら、口笛を吹く17号。 

 

「何だ、ああいうのが好みだったか?」

「バーカ」

 

 そうして人造人間達がその場を離れようとした時、クリリンは突如、恐ろしく不吉な気配を感じた。凄まじい勢いで大きくなり、同時に禍々しさを増していく悪の気配。

 

「!?」

 

 反射的にその方角に身構えるクリリン。同時に16号もそちらに向けて警戒を開始する。気を感じ取る機能を持たない17号と18号が、怪訝な目で彼らを見る。

 

「おい、どうした……」

 

 17号の声に重なるように、獣の咆哮が鳴り響いた。その正体を知るクリリンの顔が青ざめる。

 

 岩だらけの荒野の遥か遠くに、人型の小さな何かが見えた。それは咆哮し身をよじりながら、瞬く間にその大きさを増していき、黒い戦闘服、茶色の毛皮、肉食獣めいた顔などの特徴が明らかとなっていく。

  

 数kmはあるだろう距離を考えると、まるで大型の恐竜のような、凄まじいサイズであることは明白だった。信じられないといった顔で、18号が呟いた。

 

「な、何なのあれ……?」

「90%以上の確率で、ベジータの娘のナッツだ」

「娘だって? 確かに服は似ているが、あんな大きな娘がいるようには見えなかったぞ」

 

 16号の言葉に、軽口で返す17号。

 

「あれはサイヤ人の大猿形態だ。弱点の尻尾を切れば元に戻るが、そのパワーは人間時の10倍になると言われている」

「ベジータには尻尾なんて生えてなかったけど……どこかで切られてたってわけか。あんな姿になられてたと思うと、ぞっとするね」

 

 醜い獣の姿に、18号はわずかに嫌悪感を滲ませる。一方クリリンは、ナッツの咆哮に含まれた、凄まじい怒りの感情に気付いていた。

 

「な、ナッツ、あいつ……」

 

 彼は両腕を折られ、倒れたままのベジータに目を向ける。父親を敬愛している彼女があんな光景を見れば、その犯人を殺そうとする事は明白だと思った。

 

 実際に彼女が激怒している理由は、弟であるトランクスを傷つけられたからなのだが、飛行機でやってきたブルマが20号に撃墜される事のなかったこの歴史では、クリリンはまだ彼の正体について知る由もなかった。

 

 ただ一つ明らかなのは、これから激怒した大猿が人造人間達に襲い掛かり、勝敗を問わず戦闘の余波で周囲一帯が破壊しつくされる事だけだった。倒れたままの仲間達に仙豆を与えて逃がすべく駆け出すクリリン。

 

「逃げろっ! 早く逃げるんだっ!」

 

 敵である彼らに警告の声を掛けた理由は、彼にも判らなかった。

 

 

 

 

 そしてサイヤ人の少女は、自身のもう一つの姿への変身を終えていた。全長15メートルの、血のように赤く光る目を持つ、二足歩行の肉食獣。彼女の種族が、滅んだ今も銀河中で恐れられる原因である、星を滅ぼす巨獣の姿。

 

 愛らしい人間の姿だった頃の面影は、その身に纏う戦闘服とアンダースーツ、背中まで伸びる長い髪、長く強靭な尻尾しか残っていない。

 

 動物的な衝動に突き動かされたナッツは毛皮と筋肉に覆われた両腕を高く掲げ、雷鳴のような咆哮を上げる。

 

『グオオオオオオオオッッ!!!!!!!』

 

 吼えながらその全身が、金色のオーラに包まれる。変身中に攻撃される可能性を考えると、最初から超サイヤ人になっておいた方が良いのだが。戦闘力24億にも達する今の状態に比べ、少女の元の戦闘力は480万程度に過ぎない。

 

 パワーの上昇量が大きすぎて、段階を踏んで変身しなければ、大猿の姿に慣れたナッツにとっても、その制御は困難だった。事実ナメック星で、超サイヤ人のまま大猿化した時には、一時とはいえ理性を失うという、王族として信じがたい、恥ずべき失態を、下級戦士の悟飯の前で犯してしまっている。それを考えれば、用心するのは当然の事だった。

 

 そして大猿の姿で超サイヤ人になると同時、今よりも遥かに強くなった先に、更なる変身があるという、いつものもどかしい感覚を覚えていた。

 

(たぶん伝説の、超サイヤ人ゴッドだと思うのだけど……今の私じゃあ、変身するのはとても無理ね。もっとたくさん訓練しないと)

 

 超サイヤ人3を経て、超サイヤ人4と呼ばれるその領域に彼女が至るのは、今から10年近く先の事になるのだが、それはまた別の話だ。

 

 ナッツは周囲の状況を確認する。こちらに気付いていると思しき、三人組の人造人間。倒れたままの父親と弟を、クリリンが運んで避難させているのを見て、金色の大猿の赤く輝く目が、一瞬だけ細められる。

 

 ともあれこれで、遠慮する必要は無くなった。ナッツは獣の顔に凶悪な笑みを湛えながら、人造人間達に巨大な拳を向け、地平線まで届く大音声で宣言した。

 

『人造人間ども、覚悟なさい! 今から1匹ずつ、惨たらしく皆殺しにしてあげるわ!』

 

 

 

 

 宣言と同時、邪魔な地形をその巨体で砕きながら、凄まじい速度で迫りくる大猿に人造人間達は身構える。

 

「あの化け物も金色に光り出した。16号、あれが何か知らないか」

「データには無い。だが変化した瞬間、奴の戦闘力が何十倍にも跳ね上がった」

「何十倍……どおりでベジータも、あのじじいの情報とは大違いの強さだったわけだよ。17号、ちょっとヤバいんじゃない?」

「だから良いんじゃないか。孫悟空がどれ程の強さか知らないが、あいつもなかなか楽しませてくれそうだ」

   

 そのまま前に出ようとする17号に、焦った様子の16号が叫ぶ。

 

「止めるんだ17号! 敵の戦闘力はあまりにも大きすぎる!」

「確かに、正面からパワーで勝つのは厳しいかもしれないが、要は尻尾を切れば良いんだろ? デカくて死角も多い分、やりようもあるさ」

 

 言って17号は、音を殺して岩山の間を素早く走り抜け、ナッツの背後に回り込む。大猿が大地を踏み砕きながら走る轟音に、顔をしかめながら並走し、数メートル上で揺れる、腰から伸びた長大な尻尾に狙いを定め、切断すべく手の先にエネルギーの刃を形成する。   

 

(気付かれた様子はない……もらった!)

 

 高く跳躍した17号が、尻尾を切断しようとした瞬間、ふっと、その巨体が、まるで幻のように掻き消えた。

 

「な、何だと!?」

 

 驚き左右を確認する彼の身体に、暗い影が落ちる。とっさに頭上を見上げた彼が目にしたものは、瞬間移動さながらの速度で真上に移動した大猿が、その巨体で月の光を遮りながら、頭上で組んだ巨大な両拳を振り下ろさんとする姿だった。

 

『なかなか上手く隠れてたけど、私が今まで何度尻尾を狙われたと思ってるの?』

「がっ!?」

 

 信じがたい程の力で全身を強打され、17号は深いクレーターを作りながら地面に激突する。そしてあまりのダメージに動けず呻く彼の上へと、狙いを定めたナッツの巨体が落下していく。

 

『まずは一匹ね』

 

 邪悪な笑みを浮かべた大猿が、落下の勢いのまま黒いブーツを踏み下ろした。

 

 

 

 衝撃で大地が地震のように震える中、18号は呆然とした顔で叫ぶ。

 

「17号!? 嘘だろ、あんなにあっさり……」

 

 そこで彼女は気付く。笑みを浮かべていた大猿の顔が、戸惑いを見せている事に。さっきまで横にいたはずの、16号がいない事に。

 

 

 

「じゅ、16号、お前!」

 

 倒れた17号が、驚きに目を見開いていた。17号が踏み潰される直前、とっさに割り込んだ16号が、自身よりも大きな黒いブーツを、頭上に掲げた両手で受け止め支えていた。

 

「殺させはしない。お前達は、無駄に命を奪わなかった」

『お前、あの大きな人造人間ね。いい度胸だわ……そのまま一緒に潰れなさい!』

 

 気を解放したナッツが、筋力と全体重をもって16号を踏み潰さんとする。彼の身体が地面にめり込み、軋んだ関節が嫌な音を立て始めるが、痛覚の無い16号は怯まず、永久エネルギー炉と人工知能をフル回転させる。

 

 そして身体を前にずらし、加えられた力を逸らしながら、大猿のブーツの先端を掴み取り、ナッツ自身の力をも利用しながら、その巨体を宙へと持ち上げた。

 

『……なっ!?』

「うおおおお!!!!」

 

 両足が地面から離れる感覚に驚愕するナッツを、16号は裂帛の気合と共に背負い投げた。地面に顔を向けた姿勢で宙を舞った大猿の頭が岩山に激突し、崩れた無数の岩石が降り注ぐ。

 

『ガアッ!?』

 

 苦悶の声を上げながらうつ伏せに倒れるナッツ。16号はその隙を逃さず、地面に投げ出された彼女の尻尾へと迫る。

 

『くっ!』

 

 ナッツは倒れたまま、後ろ足で地面を抉って蹴り飛ばす。大量の岩と土砂がわずかに16号の前進を阻み、同時に勢いで前方へ跳躍した大猿が、空中で素早く一回転しながら、距離を離して体勢を立て直す。

 

 頭から血を流し、息を荒げながら、少女は16号の、予想外の力に驚きを隠せない。

 

(あの人造人間、大猿化した私に迫るパワーだというの……?)

 

 どういう素材で出来ているのか、全力で踏みつけても壊れなかった、あの耐久性も侮れなかった。カッチン鋼の塊でも踏んでいるような感覚だった。だが何でもいい。弟と父様を傷つけた、人造人間は殺すまでだ。

 

 視界が遮られないよう、顔に流れた血を手の甲の毛皮で拭い、ナッツは怒りに満ちた唸り声を漏らしながら、赤く光る目で人造人間達を睨みつけた。

 

 

 

 17号を助け起こし、肩を貸す18号の元へと、16号が戻ってくる。

 

「た、助かった、16号。お前、あんなに強かったのか……」

「今のうちに、お前達は逃げた方がいい」

「……確かに、逃げた方がよさそうだね」

 

 そこで17号は、自分を助けた16号が逃げる様子を見せない事に気付く。

 

「待て、16号、お前はどうするんだ?」

「奴を倒す。放っておけばオレ達だけでなく、博士も殺そうとするだろう」

「やめなよ! 殺されるって! あのじじいが心配なら、何とか連れて逃げるとかさ」

 

 嫌っているはずのドクターゲロを助けるような発言をしてまで自身を気遣う彼女に、16号は小さく微笑んだ。彼らを死なせたくは無かった。あの大猿のスピードからして、自分はともかく、この2人が逃げ切る事は、限りなく困難だと思われた。それに。

 

 16号は思い出す。大猿によって大地が崩れていく中、逃げようとする動物達が落石に飲まれていく光景と、その悲壮な叫びを、彼のセンサーは捉えていた。あれは、この地球の自然から外れた生き物だ。

 

 

「戦う時が来たのだ。孫悟空と出会う前に……」

 

 

 決意を込めた顔で、16号は言った。




 ようやくこのサブタイまで行けたのですが、キリの良い所まで書いてたらこんな長さに……ともかくお待たせしました! 皆様の評価と感想とお気に入りに支えられつつ苦労しながら楽しく執筆できました! 誤字報告もありがとうございます!

 次は2週間で行けるかどうか不明なのですが、既に話の流れは考えてますので気長にお待ちくださいませ!


 前回の更新の後に阿井 上夫様から頂いたイラストです!

【挿絵表示】

 可愛いですね! 次はあんまりご無沙汰しないようにしたいと思います!



・寒がりなのにどうして防寒性の低い戦闘服を?

 母親が選んでくれたデザインだからです。


・ブルマから持たされているお小遣いで、上着でも買いたいところだったけど。

 ナッツが同行するルートでは10歳の女の子に上着代をおごられそうになって死ぬほど焦るクリリン達が見れました。


・最後まで抵抗したのか、全身に傷を負っていた彼は

 この話のトランクスはナッツを殺された分、17号達に恨みがあるので原作より頑張りました。


・愛の奇跡
 
 シスコ〇? 家族愛です!


・パワーボールで作った月について

 久々なので再度書いておきますが、この話では壊せない設定です。根拠は原作でベジータが大猿悟飯相手に壊さず時間経過でしか消えないと言っていたからです。……ぶっちゃけ壊せたらほぼ無意味な技になっちゃいますのでこっちが良いかなと。

 ここからは自分の独自解釈なのですが、あれ見た界王様も月を作ったって言ってましたし、サイヤ人の月との親和性を活かして、本来神がやるような概念的な月の創造をやってるんじゃないかって超勝手に思ってます。この辺りは58話で神様とナッツが会った辺りでちらっと触れてたり。

 逆に壊せる根拠であるターレスのあれは、壊しやすいようにわざと不安定に作ってたってことでひとつ。前にも書きましたけどあれは月を壊しても大猿化がしばらく続く特殊効果の方が気になります。長時間残留するブルーツ波とか身体に悪そう。ターレスが見様見真似で覚えたので発現した意図しない効果なのかもしれません。
 

・戦闘力24億

 第一形態セルの最大値が20億くらいだそうです。つよい。


・超サイヤ人4

 色々ムチムチの予定です。乞うご期待。
(書けるのは何年後か計算して遠い目になりながら)


・即落ち17号
 
 一見クールそうですが原作でも制止無視して自信満々でセルに挑んで負けた後もまだ戦う気満々だったので大体こんな感じなんです……。


・背負い投げからの尻尾狙い

 16号vsセル戦のオマージュなのですが、原作では尻尾引き千切られたセルが「おうっ!」って声上げてて誰得だと思いました……。


・大猿によって大地が崩れていく中、逃げようとする動物達が落石に飲まれていく光景と、その悲壮な叫びを、彼のセンサーは捉えていた。

ナッツ「いやそれとばっちりじゃない!? 逃げ遅れた奴らが悪いのよ!」


・「戦う時が来たのだ。孫悟空と出会う前に……」

 ※起動してから約30分です。
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