あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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23.彼女が人造人間と戦う話 その3●

 再び激突を開始するナッツと16号。

 

 戦闘力で上回り、圧倒的な巨体で人間さながらの技巧を駆使する大猿に対し、16号は永久エネルギー炉を限界以上に稼働させながら対抗する。

 

 咆哮と怒号が入り交じり、常識的にはあり得ない体格差を物ともしない激戦に、岩陰に隠れていた17号が喝采を上げる。

 

「いいぞ16号! よし、今のうちに尻尾を狙えば……痛っ!」

「さっきやられたの忘れたの? いいから逃げるんだよ」

 

 一見元気そうに見える17号だが、先程ナッツの攻撃をまともに受けたダメージで、その戦力は良くて半減しているだろうと18号は見抜いていた。自信過剰で無鉄砲なのは、昔からこの弟の悪い癖だ。

 

 彼の腕を引っ張りながら、気配を殺して離れようとした、その時だった。16号と戦っていた大猿が、突如彼らの方に顔を向け、間髪入れず口から赤いエネルギー波を撃ち放った。

 

「なっ!?」

 

 とっさに身を投げ出して地面に伏せた次の瞬間、今まで隠れていた岩山をあっさり破壊したエネルギー波が、ぞっとするような衝撃と共に頭上を通り過ぎ、遠くに着弾して大爆発を巻き起こす。人体を吹き飛ばすほどの爆風と降り注ぐ岩の欠片を必死にやりすごし、目を上げると、今まで隠れていた岩山が跡形もなく消滅し、その向こうで大猿が牙を剥きだして笑っていた。

 

『お前達2人も、逃げられると思わない事ね。こいつの後に殺してあげるから待ってなさい』

 

 直後、殴りかかった16号の攻撃を拳で受け止め、再び戦闘に戻るナッツの姿を見上げ、17号はあっけに取られた顔で呟いた。

 

「どうなってる? オレ達人造人間は、エネルギーで察知されないはずだろ?」

「……17号、あまり大声を上げるんじゃないよ。たぶん、聞かれてる」

 

 彼らの会話を、その尖った耳で捉えて、大猿は口元を歪ませる。彼らとの距離は100メートル以上離れているが、変身によって鋭くなった感覚は、足音までとは言わずとも、会話程度なら聞きつける事が可能だった。

 

 そして戦う16号の姿を見ながら、18号は考えを巡らせる。一見互角の戦いに見えるが、16号の方に、あの巨体にダメージを与える決定打がなく、このまま長引けば、遠からず彼が破壊されてしまうのは明らかだった。先程隙を見て、あの両腕から何か大技を放とうとしていた。カウンターを食らってしまっていたが、どうにかしてあの大猿に隙を作れれば……。

 

 彼女は身を乗り出し、ナッツに向けて大声で叫ぶ。

 

「この化け物野郎! そんな醜い姿になって、恥ずかしくないのかよ!」

「お、おい! 危ないぞ!」

 

 18号の挑発を、ナッツは鼻で笑い飛ばす。戦闘民族である彼女は、容貌に大した価値をおいていない。全く何も感じないわけではないが、10倍の戦闘力と比べれば安いものだ。

 

『これからその醜い化け物に殺されるのよ』

 

 余裕の笑みを見せる大猿に、18号は内心舌打ちしながら、なお諦めず言葉を続ける。 

 

「私達人造人間に勝てるつもりかい? サイヤ人ってのは自信過剰なんだね。あんたの父親もそうだったけど」

 

 次の瞬間、身の丈の倍はある岩塊が、高速で18号へと飛来した。大猿が尻尾で正確に弾き飛ばしたのだ。

 

「くっ!?」

 

 驚きつつも岩塊を拳で破壊した18号は、凄まじい殺気を感じて身を竦ませる。彼女を睨みつける大猿の顔から、人間らしい感情が消えていた。唸り声を上げながら鋭い牙を噛み締めるその姿は、怒りに燃えた野生の猛獣そのもので。

 

 全長15メートルの巨獣が、地を蹴り彼女に迫る。

 

「あ……」

 

 巨体が地に下ろす影に包まれながら、18号は彼女を致命的に怒らせてしまった事を悟る。17号が姉を庇おうと前に出るが、振り上げられた巨大な拳の前では、2人まとめて潰されてしまうだろう事は明らかで。

 

 殺されると覚悟した瞬間、全力で飛翔し追い付いた16号が、大猿の顔に向けて両拳を一度に射出した。

 

『邪魔よっ!』

 

 ナッツは迫る両拳を頭突きで弾き飛ばし、拳の軌道を変更して16号に叩き付ける。彼が岩壁に叩き付けられたのを確認し、即座に18号達を殺そうとしたその瞬間、大猿の耳が異音を察知した。

 

『!?』

 

 即座に発生源に目を向けた少女が目にしたものは、弾き飛ばした16号の両拳がエネルギーの刃を放出しながら宙に浮き、ジェット噴射で飛翔しながら、真っ直ぐに自らの尻尾を狙う光景だった。

 

『うわあああっ!?』

 

 ナッツは悲鳴を上げながら飛びのき、今まさに尻尾を切断せんとしていた両拳に、とっさに手にした大岩を叩き付け、重量と衝撃で押し潰す。

 

『このっ、舐めた真似を……っ!?』

 

 その時、息を切らした少女は気付く。気を取られた一瞬の間に、16号の姿が消えている。周囲を見渡し、感覚を研ぎ澄ませて確認したナッツは、自らの下方から溢れ出した眩い光に気付く。

 

 大猿の脇腹付近に滞空した16号の両腕に、周囲の大気を歪ませる程の膨大なエネルギーが収束していた。16号は永久エネルギー炉を半ば暴走させながら、大猿の黒い戦闘ジャケットに勢いよく輝く両腕を突き入れる。

 

『このっ……!』

 

 自爆覚悟で、ナッツは口からエネルギー波を放とうとするが。

 

 

「ヘルズフラッシュ!!!!」

 

 

 それよりも一瞬早く、零距離から放たれた16号の必殺技が、その威力を大猿の巨体に余さず叩き込んだ。

 

 

 

 

 天をも焦がすような爆炎がようやく晴れた時、現れた大猿は酷い有様だった。

 

 攻撃を受けた戦闘ジャケットの腹部は跡形もなく消し飛んでおり、その下の紫のアンダースーツはもちろん、厚い毛皮も筋肉も赤黒く焼け焦げていた。

 

 衝撃が内臓にまで達したのか、大地に片膝をつき、咳き込んだナッツの口から、血の塊が溢れ出す。

 

 激痛に荒い息をつきながら、ナッツは油断なく敵の姿を探す。爆発で吹き飛ばされたのか、かなり遠くに人造人間の男の姿が見えた。立ち上がろうとしているが、ふら付き、全身からばちばちと青白い火花を散らしており、戦闘力は感じ取れないまでも、かなり弱っているだろう事は見て取れた。あの一撃に、それほどのエネルギーを込めたのか。

 

『よくも、やってくれたわね……』

 

 一方、彼女の方はまだ戦える。この程度の負傷なら、今まで何度も経験がある。大猿化した今の自分の生命力なら、命に関わるほどの怪我ではなく、この状態でも戦闘力14億程度はあるだろう。

 

 激痛と怒りが、大猿の纏う雰囲気を、いっそう凶暴なものへと変えている。このまま立ち上がり、人造人間に止めを刺しに行こうとした、その時だった。

 

「ナッツ! 大丈夫か!」

「姉さん! 大丈夫ですか!」

 

 駆け寄ってきたのは、彼女の大切な2人の家族。心配そうに自分を見上げる彼らの姿に、少女は心が安らぐだけではなく、全身を苛む痛みまでも、和らいだような気さえ感じていた。

 

『大丈夫よ。今の私は頑丈だから。このくらい大した事ないわ』

 

 大猿のものとは思えないほど、ナッツは優しい声で応える。

 

「ナッツ、仙豆を持ってきてやったぞ。もし1粒で効かなかったら、ありったけ食っていいからな」

 

 クリリンから奪ってきた袋を掲げる父親に、ナッツは苦笑してしまう。気持ちはとても嬉しいし、確かにあの薬は凄い効き目だけど、たとえ全部食べても、ちょっとしたビルほどもある今の私の身体に、どれほどの効果があるか判らないし、悟飯から聞いた話によると、作るのが難しくて、凄く貴重らしいのだ。

 

『ありがとうございます、父様。けど大丈夫です。私はまだ十分戦えますし、相手も弱ってますから』

「しかしだな……」

『変身が解けてから、メディカルマシーンに連れてってください』

 

 休憩した事もあってか、先程よりも楽になった身体で立ち上がったナッツに、弟がおずおずと声を掛ける。

 

「姉さん……」

『なあに、トランクス?』

 

 いつもの癖で、彼をあやそうと尻尾を近づけたところで、大人の胴体より太いそれを前に、唖然とする弟の姿を見て慌てるナッツ。

 

『ごめんなさい! ただ赤ん坊のあなたには、いつもこうしていたものだから……』

 

 彼は思う。その赤ん坊は自分ではない。自分が幼い頃から、姉に尻尾は生えていなかった。ただそれでも、目の前の巨大な獣から感じる優しい気配は、彼のよく知る姉と同じものだったから。

 

 トランクスは大きな尻尾に両腕を回し、ふさふさの毛皮に顔を寄せた。その温もりは、まるで死んでしまった姉に抱かれているかのようで。

 

 涙を流す弟の頭を、姉は大きな手で優しく撫でた。

 

 

 

 

 エイジ779年、およそ12年ほど先の、トランクスが元いた未来。

 

 よく晴れたある日のこと。結婚したナッツと悟飯は、眺めの良い湖のほとりを散歩していた。彼は人造人間との戦いで左腕を失っていたが、それでも残った右腕で、歩けない妻の身体をしっかりと抱きかかえていた。

 

 幸せそうに夫に身を任せながら、儚げで美しい女性に成長したナッツは彼に語り掛ける。

 

「悟飯、あなたと私の子供が大きくなったら、きっと人造人間を倒してくれるわ」

 

「ううん、別に強くなくったっていい。ただ私が父様や母様やブルマに愛してもらった分まで、私達の子供も、うんと可愛がってあげたいの。こんな世界だけど、きっと幸せにしてみせるわ」

 

「だから……その、今日もお風呂で、身体を洗って欲しいの」

 

 そこで顔を赤くした悟飯は慌てて後ろを歩いていたトランクスの方を見るが、弟は彼らのやり取りの意味に気付かない振りをしていた。

 

 

 

 それからさらに、数ヶ月が経ったある夜のこと。

 

 夫婦の寝室から、姉のすすり泣く声を聞いたトランクスは、居ても立っても居られず姉と悟飯の部屋へ近づき、そして彼らの会話を聞いてしまう。

 

 

「悟飯……わ、私、怪我のせいで、子供、できないって、お医者様が……幸せになるって、母様と、約束したのに……」

 

 

 動かぬ両脚と、戦えない身体を抱えて、ナッツは綺麗な顔をくしゃくしゃに歪めて、ぽろぽろと涙をこぼしていた。

 

 

「ねえ悟飯、どうして、こんな事になっちゃったの……?」

 

 

 答えられず、悟飯は傷心の妻を抱きしめたまま、やりきれない怒りを胸に拳を震わせる。 

 

 彼が人造人間に挑んで命を落としたのは、それから間も無くの事だった。

 

 

 

 

『どうしたの? トランクス』

 

 怒りに震えていた彼は、信じられない程に強い気を持つ姉の言葉で我に返る。あの後いくら修行しても、自分では人造人間の強さに届かなかった。たとえこの時代で奴らをどうしたところで、未来が変わって姉さん達が生き返るわけではないけれど。

 

 

「姉さん……人造人間どもを、殺してください!!」

 

 

 涙ながらの鬼気迫る絶叫に、ナッツは驚き、同時に怒りを掻き立てられる。よほど辛い事があったに違いない。私の弟を。許せない。

 

『言われるまでもないわ。見てなさい。全員惨たらしく殺してあげる』

 

 風を切って、尻尾が力強く振るわれる。血のように赤い瞳で、凶悪に笑う獣の顔は、たとえ優しい姉のものだとわかっていても、ゾクリとしてしまう。だからこそ、頼もしいと思った。




 すみません前中後編の予定でしたが文字数足りなかったので次で決着です! 話は既に考えてますので気長にお待ちください!
 あと前回はたくさんのお気に入りと高評価と誤字報告をありがとうございます! 続きを書く励みになっております! 今後ともよろしくお願いします!



【挿絵表示】

阿井 上夫様から頂いた悟飯とナッツの背比べの絵です! 素晴らしいですね!
あと3話か4話くらい先でこの問題に突っ込んだ話をやる予定ですのでお楽しみに!


・16号のロケットパンチ

 原作だとあれセルに使った後、自分でキャッチして再装着してるんですよね……。けど戦闘中だから急いで回収しただけかもしれなくて、ジェット噴射+誘導機能が無いとは一言も書いてなかったので入れました。



・未来ナッツ

 儚げで綺麗でかなり母親似の感じです。子供時代に人造人間の襲撃で大怪我して歩けなくなって、言動も物静かになってます。ブウ編のナッツと比べるとまるで別人なのです。
 あんまり詳しく話せないのですが、暗い話は好きではないので彼女を含めて絶望の未来についてのあれこれはセル編最終話にご期待ください!
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