あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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24.彼女が人造人間と戦う話 その4

 真昼の空に輝く人工の満月の下、再び激突を開始するナッツと16号。

 

 腹部の負傷によるダメージは大猿の力を弱めていたが、それ以上に、16号の方が弱体化していた。

 

『どうしたのかしら? 随分疲れてるみたいじゃない』

 

 嗜虐的な笑みを浮かべながら、ナッツはそれでも向かってきた16号をあっさり殴り飛ばす。稼働限界を超えた永久エネルギー炉は、その出力を見る影もなく落としていた。

 

「くっ!」

「おい! 大丈夫か!」

 

 岩山に叩き付けられ、地面に落ちて片膝をつく彼に、17号と18号が駆け寄り助け起こす。

 

「何をしている! 早く逃げろ!」

「見捨てて行けるわけないだろ!」

「さあ早く!」

 

 3人はそのまま岩陰に隠れて逃げようとするが。

 

『逃げられると思ったの?』

「!?」

 

 ナッツが口から放った赤いエネルギー波が間近に着弾し、衝撃と爆風で、彼らは吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

「う……痛っ……」

 

 18号はふらふらと起き上がるも、身体の痛みに顔をしかめる。さっきの攻撃は、直撃すれば死んでいてもおかしくなかった。それを思えば、生きているだけで僥倖かもしれないが、無傷というわけにはいかないらしい。

 

 そこで地響きを感じた18号が顔を上げると、未だ漂う土煙の中、ゆっくりと近づいてくる巨大な影が見えた。

 

(か、隠れないと……)

 

 岩陰に隠れた18号は、間近を通る大猿の姿を、息を殺して観察する。背後で揺れる尻尾が見えたが、おそらく狙おうと攻撃を仕掛けた瞬間、気付かれてしまうだろう。

 

 そしてナッツが通り過ぎ、18号が内心息を吐いた、その時だった。

 

『見つけたわ。まずは一匹ね』

(!?)

 

 その声にびくりと身を震わせる18号だったが、大猿が見ていたのは、彼女ではなかった。その視線の先には、うつ伏せに倒れた17号の姿。打ちどころが悪かったのか、意識を失っているように見えた。

 

 踏み潰そうというのか、ナッツは真っ直ぐ、倒れた17号に向かっていく。数秒以内に、弟が殺されるのは明白だった。考える前に、18号は飛び出していた。

 

「や、止めろ!」

『あら、そこにいたのね?』

 

 ギロリと、大猿の赤い目が彼女を見下ろした。次の瞬間、凄まじい速度で迫りくる黒いブーツの蹴り上げを、18号は飛び離れて回避する。外れた攻撃によって岩山が一瞬にして蹴り砕かれる中、彼女はあえて、崩れ行く岩山の中に飛び込んだ。

 

 巨大な岩がいくつも落下する中、その隙間を飛翔し潜り抜けていく。土煙と落石で、あの化け物の目からは見えないだろう。どうにか時間を稼げば、17号は目を覚まして逃げられるかもしれない。

 

 だが次の瞬間、落石を物ともせず土煙を突き破った巨大な腕が、18号を鷲掴みにする。

 

「やめろ! 放せ……ああっ!」

 

 凄まじい力で圧迫され、悲鳴を上げる18号。その姿を見て、ナッツは悪魔のような笑みを浮かべる。

 

『頭は良くないみたいね。出てこなければ助かったかもしれないのに。機械のくせに、仲間意識でもあるのかしら』

「……17号と私は、双子の姉弟だ」

『えっ?』

 

 その言葉に、彼女は一瞬硬直してしまう。確かに似ているとは思っていたが、機械ではないのか。いや、たとえ機械だとしても、そうした関係はあり得るだろう。

 

『……っ!』

 

 突如、気配を感じて真上に跳躍するナッツ。その眼下には、今の一瞬の隙に飛び出して、尻尾を狙おうとしていた16号の姿。

 

『まったく、油断も隙も無いわね』

 

 大猿は落下の勢いも乗せた踵を16号に叩き込み、地面に落ちた彼をそのまま踏みつける。余程頑丈にできているのか、壊れた感触はないが、少なくとも逃げられはしないだろう。

 

『さて、まずは父様と同じように、両腕からかしら。殺してしまわないよう気を付けないとね』

「あ、あ……」

 

 血に濡れた口元を歪めるナッツの姿に恐怖し、18号は言葉も出せず身を竦ませた。

 

 

 

 

 その時、クリリンは、殺されようとしている人造人間達、正確には18号の姿を、複雑な思いで見つめていた。

 

 トランクスの話によると、人造人間を放っておけば、悟空もベジータも、自分達も皆殺されて、地獄のような未来になってしまうのだという。それを思えば、人造人間を倒すのは正しい事だ。

 

「けどあいつらは、オレ達を殺さなかったじゃないか……」

 

 仙豆の事まで知っていたにも関わらず、強くなってまた挑んで来いとまで言っていた。かつてのベジータやナッツ、フリーザのように悪い奴らだとは、どうしても思えないのだった。

 

 ただそれだけで、確証も無く止めに入る事などできようはずがなく。ただ状況を眺めるしかない彼の手が、気付かず、18号に口付けされた頬に触れていた。

 

 

 

 その時、踏みつけられ、身動きの取れない16号は、己に残された最後の武器を使おうとしていた。

 

 孫悟空を確実に倒すべく、彼の体内に仕込まれた超高性能の爆弾。計算上はあまりのパワーに封印された13号達ですら倒せる代物だ。

 

 たとえこの大猿が相手でも、これだけ密着していれば間違いなく粉々にできる。ただ捕まっている18号や、近くに倒れている17号も巻き込んでしまうだろう。 

 

(見捨てて行けるわけないだろ!)

(さあ早く!)

 

 無暗に人を殺そうとせず、自分すらも助けようとしてくれた2人の顔が脳裏に浮かぶ。どうあがいても、3人共助からない。ならばここで自爆してでも、逃げた博士達に害が及ぶのを避けるのは、計算上は正しい事のはずなのだが。

 

(すまない博士、やはりオレは、失敗作なのか……) 

 

 上からの圧力で、自分が少しずつ壊れていくのを感じながら、それでも16号は、爆弾の起爆ができないでいた。

 

 

 

 

「や、やめろ、18号を放せ……」

 

 その声を聞いて、ナッツは露骨に顔をしかめる。見ると倒れていた17号が、よろよろと起き上がり、こちらを見ている。既に戦える状態ではないようだが。

 

『頭の悪い人造人間が、もう一人いたようね』

「やめろ……早く逃げるんだよ、17号……」

「た、頼む。オレを殺してくれてもいい。だから、18号だけは……!」

 

 必死に懇願する彼の姿が、何故だか弟と重なって、18号を握り締めた少女の拳がぶるぶると震えだす。 

 

『ふざけるなっ! 人造人間は一人たりとも逃さないわ! 皆殺しにしてあげる!』

 

 叫ぶその姿は、自らを鼓舞するかのようで。殺せなくなる前に止めを刺そうと、焦ったナッツは、一息に18号を握りつぶそうとして。

 

 

 

 

 次の瞬間、とてつもない衝撃が彼女を襲った。一瞬何が起こったのか、理解できなかった。

 

 切断された尻尾が、どさりと地面に落ちたその音を聞いて、ナッツは己の身に起きた状況を理解する。

 

『ガ……あ……』

 

 初めて地球に来たあの日以来の、地獄のような痛み。震える全身から力が抜け、変身を維持できなくなる。

 

『グ、ガアアアアアアッ!!!!』

 

 怒りのままに吼え猛えるも、見る間にその身体は縮んでゆく。握り締めていた18号が地面に落下し始める。

 

 それを見て、それまでひたすら潜伏を続け、そして今ナッツの尻尾を切った者が、歓喜の声を上げる。

 

 

 

「ふ、ふはははははっ!!!! や、やった! やったぞ! 18号! そして17号も! 奴らを吸収して、私はついに完全体に……!!」

 

 

 

 哄笑するそれは人型だったが、どこか爬虫類を思わせる緑色の身体に、先端が針のようになった尾を持っていた。

 

 謎の怪物は、力なく落下していく18号へ飛び掛かる。その光景を、ピッコロ達も見ていたのだが。

 

「な、なんだ、あいつの気は!?」

「悟空!? それにフリーザだと!?」

 

 数十名の気配が入り交じったような異様な気は、彼らが感じた事のないもので。あまりの異様さと急展開に、誰一人反応できない。尾の先端が大きく広がり、そして18号を頭から飲み込もうとしたその時、

 

 

 

「やめろーーーーーっ!!!」

 

 

 飛来した気の円盤が、怪物の尾を切断した。

 

「んなっ!?」

 

 悲願を妨害された怪物は、痛みも忘れて声の方を睨む。クリリンは飛翔しながら、なおも矢継ぎ早に十数枚の気の円盤を投げつける。

 

「気円斬ーーーーっ!!!!」

「お、おのれ!! クリリンごときに!」

 

 怪物は身をわなつかせ、迫り来る気の円盤を避けながら、地上に落ちて呻く18号の傍に着地する。

 

「と、とにかく、この場で吸収できないまでも、2人を確保して……!」

 

 この時のセルは、自分にピッコロ譲りの再生能力がある事に気付いていない。とはいえそれを知っていたとしても、間に合わなかっただろう。彼の背中に、拳の無い16号の腕が押し付けられる。ナッツの変身が解けた事で、彼もまた解放されていた。

 

「はっ!?」

「お前の存在はデータにはない。だが、18号達に危害を加えるのなら見過ごせない」

「ま、待て! 私とお前は、同じドクターゲロに造られた……」

「つまり貴様も人造人間ってわけか……!」

 

 怪物が気付いた時には、目の前に額に青筋を浮かべたベジータが、眩く輝く掌を向けていた。

 

「よくも、ナッツの大事な尻尾を切ってくれやがったなあああ!!!!」

「う、うおおおおおっ!?」

 

 

「ヘルズフラッシュ!!」

「ビッグバンアタッーーーク!!!!」

 

 

 

 前後から二人の必殺技を同時に叩き込まれ、閃光と熱と轟音が、怪物の悲鳴とその場の全員を飲み込んでいった。

 

 

 

 

 その直前、変身の解けた姉の身体を抱えて、トランクスは戦場から飛び離れていた。

 

「姉さん、大丈夫ですか!」

「はぁっ……くぅっ! ……ト、トランクス……」

 

 脇腹の傷から、血が流れだす。弱点である尻尾を切られた事と、負傷によるダメージが重なって、少女は息も絶え絶えに言葉を絞り出す。

 

「ごめんなさい、あなたの仇の人造人間を、殺せなかった……」 

「いいんですそんな事! 姉さんが無事でいてくれたなら!」

「……いい子ね、トランクス……」

 

 小さな手が、そっと彼の頭に乗せられる。未来の姉を彷彿とさせる言動に、思わず微笑んでいたトランクスは、その手が力なく垂れ下がった事に愕然とする。

 

「姉さん!? 姉さん! は、早く仙豆を!」

「落ち着け。オレ達サイヤ人が死ぬほどの傷じゃない」

「と、父さん!?」

 

 追い付いてきたベジータが、飛翔するトランクスの横に並ぶ。16号との攻撃の余波で、全身がやや煤けていた。

 

「それに仙豆も意識が無ければ食えんだろうしな。このままカプセルコーポレーションに向かうぞ」

「メディカルマシーンですね……ところで、あの怪物は倒したんですか? あれは一体……」

「ダメージは与えられたが……仕留めきれたかはわからん。戦闘力を消して逃げたかもしれん」

 

 ベジータは内心唇を噛む。16号とかいう人造人間も、奴を警戒したのか、他の2人を回収してその場を離れていた。止めを刺しに行くべきか迷ったが、かなり損傷しているとはいえ、大猿化した娘とあそこまで戦った相手に、確実に勝てる保証が無かったのだ。

 

「ドクターゲロが作ったらしいが、お前にも判らないのか」

「はい、未来にあんな奴はいませんでした。もしかして、オレが来てしまったせいで歴史が……」

 

 そこで父親の手が、彼の頭に乗せられる。

 

「気にするな、トランクス。敵なら倒してしまえば問題ない。それがオレ達、サイヤ人のやり方だ」

「と、父さん……」

 

 優しい声に、今まで知らなかった父親からの愛情を感じて、彼はわずかに涙ぐんでしまう。

 

 一方、傷ついた意識の無い娘を見る父親の心境は、それほど穏やかなものではなく。

 

 人造人間の女にやられたばかりか、娘に助けられる始末。あそこで自分が人造人間を倒せていれば、娘がここまで傷つく事も、大事な尻尾まで失う事もなかったのだ。

 

「超えてやる……超サイヤ人を超えてやるぞ……!」

 

 決意を込めた父親の声を聞いて、意識を失ったナッツの口元が、嬉しそうに緩んでいた。




 というわけでセル編なのでセル出ました! ここまで来るのに結構時間掛かってしまいましたが、今後はなるべく定期的に投稿していきたいと思いますので、よろしければ評価や感想、お気に入りなどよろしくお願いします!



・セルがここにいる理由は?
 戦闘力20億以上のヤバい奴がドクターゲロの研究所付近で戦ってるのを感知して様子を見に来てました。


・流石にセル死んだのでは?

 16号の方はかなりボロボロですし、原作で自爆してもしれっと再生復活してくるしぶとさがあるので、あのくらいなら大丈夫かと思いました。この後は原作どおり、潜伏しながら地球人を吸収してパワーを高めるムーブに入るかと。
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