あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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26.彼女達が、精神と時の部屋で過ごす話(中編)

 悟飯との別れを終えたナッツは、父親達と共に、精神と時の部屋へと入ろうとした所で、ふと気付く。

 

 神様の姿が、どこにも見えない事に。地球の神の仕事があるから、この宮殿を離れる事は、滅多にないはずなのだけど。

 

「ねえミスターポポ、神様はどこ?」

 

 声を掛けられた黒い肌の彼は、悲痛な表情で俯いた。

 

「……かみさま、ピッコロと融合した。地球を守るために」

「えっ……?」

 

 少女はピッコロをまじまじと見る。確かにその気配が変化しており、戦闘力が大きく向上していた。以前ナメック星で、ネイルと融合した時のように。  

 

 最後に神様と会ったのは、誕生日パーティーの時で、もう寿命が近いかもしれないと、冗談交じりに言っていたけれど。

 

 事態を理解したナッツの黒い瞳に、じんわりと涙が浮かんだ。融合という事は、死んだわけではないから、ドラゴンボールでも生き返れなくて。

  

「か、神様、もう会えないの……? まだお別れも、言ってなかったのに……」

「……っ!?」

 

 その瞬間、ピッコロの脳裏に、己の物ではない記憶が浮かび上がる。

 

 

 あの娘と初めて会った時は、危険な悪のサイヤ人だと思った。月を直してくれと頼んできて、断ると、自ら月を作ると脅された。 

 

 だが月を作り直した後、ナメック星の話になって、行って来たらと勧められた。あれがなければ、神である自分が、地球を離れて故郷へ戻る事などなかっただろう。

 

 感謝の印として、誕生日に菓子を持って行った時には、とても感謝された。思えば個人的に感謝される事など、ここ三百年ほど滅多になく。もちろんそれは、この星の神として仕方の無い事なのだが。気付けば毎年、訪ねていくようになった。

 

 自分の寿命が尽き掛けている事は、自覚していた。あの恐ろしい怪物を倒すために、再びピッコロと一つになる事は、地球の神として果たす最後の仕事となるだろう。

 

 次の神は、幸いな事に、デンデという優秀な後継者がいる。ナメック星で育ったおかげか、ドラゴンボールについては自分を超えている。

 

 ミスターポポには既に伝えてあるが、あのサイヤ人の娘に別れを告げる時間はないのは、心残りだった。悪でありながらも、同時に穏やかな心を持つあの娘は、知ればきっと悲しむだろう。

 

 だが、その必要は無いのだと伝えたい。なぜなら、私は死ぬのではなく、ピッコロの中で……。

 

 

「……ピッコロ?」

「……はっ!?」

 

 気付けば思わず、少女の頭に手を置いていた。彼女は呆然とするピッコロの顔をじっと見上げていたが、やがて何かを悟ったかのように、涙を拭ってにっこり笑う。

 

「神様、そこにいるのね。良かったわ」

「ち、ちが……いや、そうだが! 基本はピッコロで!」

 

 慌てるピッコロに、ナッツはくすくす笑いながら言った。

 

「ねえ、これから何て呼べばいいの? 神コロ様?」

「だからピッコロでいい! 孫の奴から聞いたんじゃなかろうな!?」

 

 

「かみさま、よかった……」

 

 そんな二人のやり取りを見て、ミスターポポがハンカチを目に当てていた。

 

 

 

 そしてブルマの用意した山ほどの物資を持って、精神と時の部屋へと入っていったナッツ達。

 

 居住スペースと思しき、ベッドや食料の置かれた場所を抜けて、建物の外へ出た彼らが見たものは、とてつもなく広く、何もないただの真っ白な空間だった。

 

「こ、これは……凄い光景ですね」

「気をつけろよ、お前達。うっかりここから離れすぎると、戻れなくなるかもしれないからな」

「は、はい。それに暑いし空気も薄くて……身体も重くなってますね」

「この重力は、だいたい地球の10倍くらいね。惑星ベジータと同じだわ」

 

 身体の重さを感じ取って、どこか嬉しそうに笑うナッツ。

 

「聞いた事があります。父さんと姉さんの故郷の星だって」

「そうよ。正確には、私の生まれた時には、もう無かったんだけどね。私みたいなサイヤ人がいっぱいいて、数えきれないくらいの星を攻め滅ぼしてたっていうわ。私も参加したかったのに、本当に残念」

「そ、そうですね……」

 

 物騒な姉の発言に、顔を引きつらせるトランクス。実は未来の姉からも、同じ話を聞いた事があった。車椅子に乗った彼女は物静かでおしとやかで、荒事なんてした事が無さそうな雰囲気だったから、今まで何かの冗談かと思っていたのだけど。

 

「ナッツ、トランクス。訓練の前に、まずは住む場所の準備をするぞ」

「はい、父様!」

「わかりました、父さん」

 

 父親から掛けられた声をきっかけに、話を切り上げたトランクスは、上機嫌の姉と共に、持ってきた荷物の開封に取り掛かるのだった。

 

 

 

 ブルマの用意したカプセルハウスは、最初から内部に家具が設置されているもので。建物の居住スペースから水を引けるようにした後は、すぐに使う分の食料や日用品を、カプセルから出しておく程度で準備は完了した。

 

 そして数時間後。1日の訓練を終えて汗を流した後、トランクスはビデオを見ながら、氷を浮かべたアイスコーヒーを口にしていた。未来でもコーヒーを口にした事はあるが、まるで別の飲み物と思えるほど、段違いに良い品質だった。

 

 姉と父親は、台所で食事の準備をしている。手伝おうとしたのだが、

 

「トランクスは弟なんだから、今日は休んでるといいわ」

 

 と、姉から止められてしまったのだ。それでも明日からは手伝おうと思いつつ、しばし勧められた天下一武道会のビデオを見て過ごす。お色気や悪臭で勝とうとするのはどうなんだと思いながらしばらく視聴した所で、彼は静かに息を吐く。

 

 気で身体を強化しなければ死んでいたであろう外の気温と比べて、空調の効いたカプセルハウスの室内はとても快適で。それに加えて、人造人間の脅威が存在した未来で生まれ育ち、常に命の危険に晒されるのが当たり前だった彼にとって、安心かつ穏やかに流れるこの時間は、生まれて初めて感じるもので。心地良さのあまり、思わず顔が緩んでしまう。

 

「こんな所で、小さい姉さんや父さんと2年間も……」

 

 天国かな? と、彼が幸せを噛み締めていると、やがて料理を配膳する物音と共に、美味しそうな匂いが漂ってきた。

 

「トランクス、食事の準備ができたわよー!」

「はい! すぐ行きます!」

 

 そうして彼が目にしたのは、大きなテーブルの上に並ぶ、数十人分はありそうな料理の数々だった。もちろん全て一から作られたわけではなく、大半は出来合いの料理を解凍した物なのだが、全くそうには見えなかった。

 

 何週間も地球を離れる事もあるナッツが、食事に不自由しないようにと、世界中の一流料理人達の協力を得て、ブルマが開発させた見た目も味もとびきりの品だ。当然かなり値が張るのだが、試しに一般販売したところ、そのクオリティの高さから、たまには贅沢がしたい一般世帯向けに大ヒットしている。

 

 トランクスは、その素晴らしい料理の数々だけではなく、目の前で繰り広げられる、姉の食べっぷりにもまた驚いていた。

 

 たっぷりのチーズの上に、巨大な剥きエビや歯応えのあるイカなどの魚介類がたっぷり載せられた熱々のピザの一切れを、少女は幸せそうに頬張っていた。

 

「おいしい……!」

 

 綺麗に食べているが、そのペースはかなり早い。瞬く間に1枚を平らげると、缶から氷入りのコップに注いだオレンジジュースを口にして、にこにこと次の魚介パスタへ取りかかる。彼女は母親の作る動物の丸焼きのような、豪快な肉料理も好きだったが、自分では獲るのが面倒な魚介類もまたお気に入りなのだった。

 

「ね、姉さん? そんなに食べて大丈夫なんですか?」

「? サイヤ人はこれが普通よ。それに地球の食べ物って、どれも凄くおいしいし」

 

 むぐむぐと、幸せそうに料理を平らげていく彼女の姿を見て、トランクスは未来の姉の事を思いだしていた。

 

 人造人間によって世界中の工場が破壊され、農地はあっても耕そうとすれば、すぐに見つかって殺されて、作物は焼き払われてしまう。同様に、野山で食料を調達するのも命懸けで。母さんや悟飯さんや自分も、毎日必死に食べ物を探していたけれど、満足に食べられる事など、ほとんど無い時代だった。

 

(トランクス、あんまり食欲が無いの。私の分、半分食べてもらっていいかしら?)

 

 そんな風に、彼女はいつも、人の半分程度しか食べていなかった。足の不自由な姉は、ほとんど家から出ず母の手伝いをするだけだったから、その言葉を信じて、ありがたく分けてもらっていたけれど。

 

「姉さん……」

 

 本来はこのくらい食べるのが普通というのなら、たったあれだけで、足りていたはずがない。十数年もずっと、弟である自分にまで隠していたなんて。

 

「トランクス、どうしたの? どこか痛いの?」

「い、いえ。何でもないです……」

 

 否定するも、悲痛な彼の表情から、何かあったのは明らかで。

 

(きっと未来であった、悲しい事を思い出してるんだわ……)

 

 そんな弟に、ナッツは料理を差し出して、優しい声を掛ける。

 

「ねえトランクス、これ食べてみてくれる? 私が作ったの」

「こ、これは!」

 

 その料理に、彼は見覚えがあった。たまたま材料が手に入った時に、未来の姉が作ってくれたのと同じ、中華まんだった。

  

「チチさんから習った料理で、自信作なの。悟飯もおいしいって言ってくれたわ」

 

 恐る恐る口にした温かいそれは、記憶にあるのと全く同じ、もう二度と食べられないと思っていた味で。見守る姉の、にこやかな表情まで同じに見えた。

 

「おいしい?」

「はい、姉さん。おいしいです……」

「そう、良かったわ」

 

 ナッツは涙を流す弟の背中を優しく撫でる。

 

「トランクス、未来で何があったのか、私には判らないけど。元気出して、一緒に食べましょう。私は誰かと一緒に食べるのが好きなの。きっと未来の私もそうだったはずよ」

 

 その言葉で、彼は思い出す。未来の姉はいつも食事の時、辛そうな様子など、欠片も見せていなかった。自分や母さんと一緒に食事をしながら、彼女はいつも、嬉しそうな顔をしていたのだ。

 

「……そうでしたね、姉さんは」

「そうでしょう? ほら、他の料理もいっぱい食べて! 食べ終わったら父様とビデオとか見て、それから皆で一緒に寝ましょう! トランクスには真ん中を譲ってあげる!」

 

 普段父親にするように、弟の腕にしがみ付きながら微笑む姉の姿を、トランクスは眩しいものを見るように見つめていた。

 

「ありがとうございます、姉さん」

 

 ふと気付けば、父さんも優しい目で自分達のやり取りを見ていて。トランクスは心が温かくなるのを感じていた。

 

 これから始まる2年間の修行生活は、厳しいものになるだろうけど、それと同時に、姉さんや父さんと一緒なら、きっと充実した、楽しいものになるだろうと思った。




・地球の神様

 戦闘力的についていけなくなってたから仕方ないんですが、ピッコロと融合後に悲しんでる人がミスターポポしかいなかったりで可哀想だなあと思ったので主人公と絡ませました。ナメック星人は一人でも子供作れると老齢になるまでに気付いていたら、たぶん後継者として一人くらい生んでたんじゃないかと思ったり。


・お色気や悪臭で勝とうとするのはどうなんだと思いながら

 第21回天下一武道会、コミカルな要素が強かったり悟空が大猿になったり地球人が月を壊したりと色々盛りだくさんでナッツのお気に入りです。後はミスター・サタンの出る格闘番組のビデオもよく見返してます。クレープを買い直してくれた親切なおじさんの事を彼女は忘れていないのです。
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