ナッツ達が精神と時の部屋を出てから、およそ30分後。
逃げた18号達を追っていたセルは、上空から無数の島々を見下ろして叫ぶ。
「出て来い18号! この辺りに隠れているのはわかっているぞ!」
「な、何だあれ?」
「で、でかい声……」
真下の島の住民達が、その大音声にざわつき始める。そして出て来ようとしない18号達に向けて、セルは苛立った声で続ける。
「姿を見せなければ、島を一つ一つ破壊する! 手加減などせんぞ! 既に私は十分な力を得ているのだ!」
セルはおもむろに手をかざし、眼下の島の一つへと、エネルギー波を打ち下ろす。
「え?」
住民達が呆然と見上げる中、高速で遠くの島へ着弾したそれは、轟音と共に大爆発を巻き起こし、爆風が晴れた後、島は跡形もなく消滅していた。
その様子を木々の間から見上げながら、他の島に隠れていた18号は呻く。
「ど、どうする? このままじゃあ、いつかこの島も……」
頭部が半壊し、内部の機械部分を露出させた16号が、立っているのも辛いのか、地面に腰掛けたまま、冷静な声で応える。
「動かなければ大丈夫だ。ああ言っているが、セルはお前を破壊しない程度に威力を抑えている。あいつは相当、完全体に執着している」
「私は大丈夫でも、お前はどうするんだよ……あれは?」
18号が見上げる先、猛スピードでセルへと迫る3つの人影があった。
新品の戦闘服に身を包んだ、長い黒髪の美しい少女が、不敵な笑みを浮かべて宣言する。
「また会ったわね。セル」
「むっ? お前は……」
どう考えても会った事のない彼女の言葉に、セルは内心困惑する。後ろの二人が、ベジータとトランクスである事は判るのだが。
「誰だお前」
「ちょっと!? 人の尻尾を切っておいて! 忘れたなんて言わせないわよ!」
その言葉で、彼女の正体に思い当たったセルは驚愕する。
「……待て、お前ベジータの娘か? 見た目がずいぶん変わってないか? この数日で何があった?」
精神と時の部屋での2年間で、20センチ以上成長した少女は、説明が面倒だし、わざわざ敵に情報を与える必要も無いので、ふふんと小さな胸を張って答える。
「成長期よ」
「……なるほど」
明らかにそれで説明できる現象ではないのだが、確かにドクターゲロが残していたデータでも、小さかった孫悟空が、いきなり大きく成長していた事がある。知的に見えて人生経験の少ないセルは、そういうものかと納得した。
「そっちこそ、ずいぶん見た目が変わったじゃない」
「ふふふ……分かるか? どう思う? 完全体に近付いたこの私のボディを」
第二形態となったセルは、全身が一回り大柄になっていた。そして大きな鼻に厚い唇のその顔は、一般的な地球の美的感覚で言えば、それほど格好良くは無かったのだが。
戦闘民族であるナッツにとって、大事なのは強さであり、姿の美醜はそこまで気になるものではない。頓着しないあまり、幼い頃、将来はナッパみたいに強そうなムキムキの身体になりたいと言って、両親を青い顔にさせた事もある程だ。
「前よりは強そうね」
「そうだろうそうだろう! ……で、3人がかりというわけか? 私はそれでも構わんぞ」
余裕たっぷりのセルを、嘲笑うようにベジータが言った。
「何勘違いしてやがる。てめえの相手はナッツ一人で十分だ」
「……何だと?」
「父様の言うとおりよ。完全体とやらならともかく、今のお前なら私一人で十分だわ」
好戦的な笑みを浮かべて、ぼきぼきと指を鳴らす少女の言葉に、セルは怒りを爆発させる。
「後悔させてやるぞ!」
一瞬で気を全解放したセルが、自分の胸ほどまでしかない少女に躍り掛かる。戦闘力にすれば130億はあるだろうパワーで放たれた拳は、直撃すれば16号だろうと、大猿化したかつての彼女だろうと、一撃で粉微塵にできるだけの威力を秘めていたのだが。
「え?」
金色のオーラに包まれたナッツの、まだ小さな手によって、あっさりと受け止められていた。
「後悔するのはそっちよ。覚悟しなさい。私の全力で叩き潰してあげるわ」
恐ろしいほど整った顔立ちの少女が、いくつもの星を無慈悲に滅ぼしてきた、冷酷なサイヤ人の笑みを浮かべていた。透き通るように青い殺意の瞳に貫かれたセルは、背筋が凍るような恐怖に汗を流していた。
「はああああっ!」
気合の叫びと共に、ナッツも戦闘力を限界まで高める。先程の神の宮殿と異なり、手加減抜きで解放された気の奔流が、未だ拳を掴まれたままのセルの全身を打ち据える。
「ば、馬鹿な……」
今や戦闘力300億に達し、ばちばちと全身に金色のスパークを纏わせた少女が、笑顔と共に、震えるセルの拳を握りつぶした。
「じゃあ始めましょうか。……簡単には死なないでね?」
「うおおおおおっ!」
先に動かれたら死ぬと、生存本能に突き動かされたセルが、血まみれの拳を振り上げて襲い掛かる。半ば捨て身で繰り出される無数の猛攻を、楽しそうに少女は回避していく。
そしてセルの動きが疲労でわずかに鈍り始めたその瞬間、狙いすましたように放たれた痛烈なカウンターの拳が、セルの胴体に深々と突き刺さった。
「ガッ……!?」
息すらできず、身体をくの字に折り曲げて苦悶するセル。一撃を放った少女の姿がぶれながら消え、瞬時に彼の頭上に現れる。すらりとした右足が天上へと垂直に振り上がり、勢いよくハンマーのようにセルの脳天へ振り下ろされた。
「!?」
もはや声すら出せず、弾丸のように眼下の島へと叩き付けられるセル。追い打ちのように上空から無数の赤いエネルギー弾を撃ち下ろす少女の姿を、18号は遠くの島から呆然と見つめていた。
「あいつ、化け物の姿にならなくても、あんなに強かったのか……?」
「判らない。オレと戦っていた時とは、まるで別人のような強さだ……」
「とにかく、もしかして、あのままセルが死ねば、私達助かるんじゃ……!」
希望に目を輝かせる18号。一方その頃、いつでも割って入れるよう身構えつつ、戦う娘を応援していたベジータは、息子が鋭い目で、眼下の島々を睨んでいる事に気付く。
「どうした? トランクス」
「18号を探しています。セルが探していたという事は、この辺りにいるはずです」
「……見つけたらどうする?」
問い掛けながら、父親は考える。あの18号とかいう女の人造人間に恨みはあるが、無様に敗北したあの時とは違い、もはや既に、圧倒的にパワーアップした自分の敵ではない。
一度完敗して、殺されてもおかしくなかった所を見逃された事もあり、不要なら手は出さずにいようとベジータは思っていたのだが、トランクスの方は、また違った思いを抱えていた。
父さんはとても良い人だった。会う前は、姉さんや母さんを置いて死んでしまった事に、多少のわだかまりはあったけれど、実際に会ってみたら、そんなものはすぐ消えてしまった。2人が慕うのもよく判る、最高の父親だった。
精神と時の部屋で、そんな父さんや、小さな姉さんと一緒に暮らした2年間は、間違いなく今までの人生で、最高に幸せな時間だった。
だが本物の父さんは、とっくの昔に殺されているのだ。姉さんや悟飯さんと同じように。生きていたらきっと同じように、子供のオレを優しく育ててくれたに違いない父さんは、あの人造人間共に殺されてもういない。悲しんでいた母さん達の気持ちが、今なら痛いほどにわかる。
憎悪に塗れた暗い瞳で、トランクスは呟いた。
「当然、殺します」
「……好きにしろ」
父親はその表情から、彼の想いを大体理解していた。痛ましかったが、それで息子の気が済むのなら、やらせてやろうと思った。
「あははははっ! どうしたの? その程度かしら?」
踏み貫かんばかりの勢いで降下したナッツを、セルは転がってかろうじて回避する。
「舐めるなあ!」
セルは飛び起き、再び肉弾戦を挑むと見せかけて、彼女の死角から鋭い針の付いた尻尾を伸ばす。生き物である以上、突き刺してしまえば吸収できる。
だが背後から針が刺さろうとした瞬間、少女はそちらを見ぬまま掴み取る。
「なっ!?」
「尻尾の動きなんて、警戒して当然じゃない」
口元を吊り上げながら、当然のようにナッツは言い放つ。サイヤ人である少女にとって、尻尾は身体の一部であり、相手がそれを武器として使うのも想定の内だ。
「お返しよ!」
彼女は両手でしっかりとセルの尻尾を掴み、そのまま自身の倍近くはある彼の身体を、背負い投げの要領で地面に叩き付ける。そして倒れたセルの尻尾の付け根に足を掛け、力を込めて根元から千切り取った。
「おうっ!?」
「ふふん、私の痛みが分かったかしら……っ!?」
次の瞬間、瞬時に再生した尻尾の先端が、無防備な少女の胸へ突き刺さる。
「っ!?」
「ナッツ!?」
「姉さん!?」
父親と弟が絶叫し、戦闘服を突き破った針が肌へと届く刹那、ナッツは後ろに飛ぶと同時に、刺さっていた針を、とっさに腕で打ち払う。間一髪で危機を逃れた少女は、戦闘服の胸元に空いた小さな穴を見ながら、荒い息をつく。
「危なかったわ。まさか再生できるなんてね……」
「仕留め損ねたか……」
起き上がるセルを、少女は憎々しげに睨みつける。人の尻尾を切っておいて、自分は再生できるなんて許せない。もしこの瞬間尻尾が生えたら、大猿に変身して、より惨たらしく殺してやれるのに。
「けど体力までは戻らないみたいね。力尽きるまで、何度でも千切ってやるわ」
犬歯を見せて笑い、ナッツは更に戦意を滾らせる。自分を圧倒する彼女の強さに、セルは違和感を覚えた。身体の方は成長期だとしても、短時間でここまでの急激なパワーアップは、いくら何でもおかしい。
「貴様、どうやってこれほどの力を……っ!?」
言い終わる前に、額に青筋を浮かべたベジータの拳が、セルの頭部を粉々に粉砕した。突然のバイオレンスに、目を白黒させるナッツ。
「と、父様?」
「てめえ、よくも嫁入り前の娘の身体を傷物に……!」
先程悟飯を殴れなかったもやもやした鬱憤も上乗せされた怒りの叫びに、セルは頭部を再生させて反論する。
「ま、待て! 私にそんな意図は無い! 今のは不可抗力だろう!?」
「首まで生えてくるの!?」
「ちっ、核を潰さないと死なないタイプか」
舌打ちするベジータ。そして姉を守るように、トランクスも前に出る。
「姉さん、オレ達も一緒に戦います。こいつは危険です」
言って弟と父親も、それぞれ気を解放する。戦闘力およそ400億。ナッツをも大きく上回る彼らの強さに、唖然とするセル。
「ば、馬鹿な……何者だ、お前達……!?」
その呟きに答えるように、ベジータは親指を自分に向けて、カメラ目線でドヤ顔した。
「オレは……超(スーパー)ベジータだ!」
(か、格好良い……!)
父親の姿に感動したトランクスは、同じように親指を自分に向けて、カメラ目線でドヤ顔する。
「そしてオレは、超トランクス」
(か、格好良いわ……!)
2人を見ていたナッツも、やはり親指を自分に向けて、カメラ目線で嬉しそうに同じポーズを決める。
「私は超ナッツよ!」
カメラ目線で並ぶ親子3人を見たセルは、こいつら馬鹿だと思った。
「こ、こんな奴らに……完全体になれさえすれば……!」
悔しさに身を震わせるセルに、少女は上機嫌で宣言する。
「そうはさせないわ。再生できないよう、跡形もなく消し飛ばしてあげる。父様に新しく習ったこの技でね」
言ってナッツは身体の前に両手を突き出し、膨大な量の赤いエネルギーを集中させる。
「ファイナル……」
「させるかっ!」
少女が技を撃ち放つ直前、セルは両手の人差し指と親指を合わせ、作った四角の中に少女と背後の2人を入れて叫ぶ。
「気功砲!!」
次の瞬間、凄まじい衝撃がナッツ達を打ち据えた。
「きゃあああっ!?」
「くっ!?」
とっさにガードするも、100メートル以上後ろへ飛ばされてしまう3人。彼らは素早く身体を停止させて体勢を整えるが、その時には、既にセルの姿は見えなくなっていた。
「今の技……天下一武道会のビデオで見た事あるけど、やっぱり凄い威力ね……」
戦闘服をボロボロにした少女が、辺りを見渡しながら呟いた。彼らの周囲、島の大半の地面が大きく抉れ、そこにあった木々や地形も全てが吹き飛ばされていた。
身体のダメージはそれほどでもないが、あの戦闘力差でこの有様だ。もしセルが自分と同じくらい強かったらどうなっていたかと思うと、ナッツはぞっとしてしまう。
「体内のエネルギーの大半を、そのまま衝撃波にして撃ち出したようだな。確かに強力だが、消耗が大き過ぎて、一歩間違えれば自分が死ぬような技だ」
一目で技の性質を見抜いた父親を、ナッツとトランクスは尊敬の目で見つめる。
「つまり、今のセルは弱っているという事ですね、父さん」
「探しましょう。そう遠くには行けないはずよ」
(まさかあんな技まで使えたなんてね……けど次は絶対逃がさないわ!)
少女がそんな決意を固めた、ちょうどその頃。
「い、いた……!」
ドクターゲロの研究室から回収した資料を元に、ブルマが作った緊急停止コントローラーを託されたクリリンが、隠れていた18号達の姿を見つけていた。
いつもよりちょっと早いですが、年末ですし何より久々にランキングに載れまして、感想も評価もお気に入りもびっくりする程たくさん頂けてとても嬉しかったので投稿しました! あと誤字報告もありがとうございます! ポルンガを呼び出す呪文が間違ってたのとか、その他色々全然気付いてませんでした……。
感想もお気に入りももちろん嬉しくて頂くたびに大喜びしてるんですが、特に大きな評価を頂けるとランキングに載れて新しい読者の方が増えて更に色々増えて続きを書く励みになりますので、評価がまだ、という方はよろしければ私の作品に限らず是非お願いします! マジで作者にとっては大変嬉しいものですので!
・セルの人生経験
20年くらいは生きてるはずなんですが、その大半が卵とか幼虫の状態だったと思われます。一応知識はドクターゲロのコンピューターから得ていたようですが、内容がかなり偏ってそう。各人の技とか戦闘方法とか、あと完全体についてとか。
セルゲームで10日間待ってやるって言って夜中も腕組みして待ってるの、かなり面白い光景なんですが今見るともっと暇潰しとか娯楽とか……って言いたくなります。
・超トランクス
一瞬ちょっと暗い感じでしたが、本来は特に意味もなく多分格好良いってだけの理由で両手をばばばっと動かしてバーニングアタック撃ったりする年頃の少年なんです……。
・セルの核
原作だと頭にあるって言ってましたが、1つとは言ってないので多分全身にいくつかあるんだと思います。「さっき瞬間移動かめはめ波で上半身消し飛んでも再生してただろ!」って誰か突っ込むべきだったと思いますがそんな雰囲気でも無かったですね……。