あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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31.彼女達が、完全体のセルと戦う話●

 完全体となったセルに、二人掛かりで挑むベジータとトランクス。

 

 戦闘力ではセルが上回っており、仮に一人ならあっさり倒されていただろうが、親子二人は立ち位置や攻撃のタイミングを絶妙に調整し、徹底してセルが対応しづらいように動き続けていた。

 

 攻撃役と防御役を目まぐるしく入れ替え、セルを翻弄し続ける。精神と時の部屋で、2年間寝食を共にして訓練を続けた彼らの強さとコンビネーションは、格上のセルに拮抗できるレベルにまで達していた。

 

「やるな。完全体の私を相手に……むっ?」

 

 突如飛来した赤いエネルギー弾が、セルの脇腹に命中し爆発する。反射的に目を向けると、彼からやや離れた場所に、長い金色の髪の少女が身構えていた。

 

「私だっているわ! 油断したらその程度じゃ済まないわよ!」

 

 宣言し、彼女は素早い動きでセルを遠巻きにして飛び回る。鬱陶しいが仮に手を出せば、その隙をベジータとトランクスは見逃さないだろう。そして無視すれば今のように、少しずつ自分を削るつもりだ。

 

「ほう……なかなか厄介だな」

 

 三人掛かりの攻撃に、少しずつダメージを蓄積させていくセル。圧倒的に不利となった戦況にも拘わらず、彼は喜びを隠さない。

 

「では少し、本気を出すとしよう」

「!?」

 

 言い放つと共に、セルの戦闘力が跳ね上がる。それまでとは段違いの速度で一瞬にして距離を詰めたセルの膝が、戦闘服を砕き、トランクスの腹部にめり込んでいた。

 

「がっ……!?」

「させるかっ!」

 

 息もできずに呻くトランクス。ベジータがすかさず割って入るが、セルは彼の攻撃を片手で防ぎ、反対側の手でトランクスに裏拳を叩き込んだ。

 

 島の木々を何本もへし折りながら吹き飛ばされた弟を、駆けつけたナッツが助け起こす。

 

「トランクス! 大丈夫!?」

「へ、平気です、姉さん……」

 

 少女は彼の状態を観察する。父親が割って入ったおかげか、止めを刺されるには至らなかったが、それでも彼のダメージは大きく、先程のように、激しく動き回って戦う事は難しいだろう。

 

「さて、どうする?」

「くっ……!」

 

 本気を出したセルに対し、ベジータは両手を身体の前に出し、エネルギーを集中させながら叫ぶ。

 

「セル! いくら貴様が完全体になったからといって、こいつを受け止める度胸はあるか? 無理だろうな! 貴様はただの臆病者だ!」

「む……?」

 

(父様……攻撃を避けさせないために、セルを挑発してるんだわ!)

 

 父親の意図を悟ったナッツは、何か自分も言わねばと思うも、相手を罵る言葉がとっさに出てこない。王族として恥ずかしくないようにしなさいと、言葉遣いやマナーを幼い彼女に教え込んだ母親の教育の成果だったのだが、どうしてもこういう場面では困ってしまう。

 

「ば、ばーか! ばーか!」

「姉さん、無理しないでください……」 

 

 必死ながらもあまりに稚拙な挑発に、見かねた年上の弟が突っ込んだのだが、

 

「いいだろう。その必死さに免じて、一撃だけ食らってやるとしよう」

「っ! 後悔するなよ! セル!」

 

 余裕たっぷりに言い放つセルに、ベジータは唇を噛み締めつつ更に気を高める。その様子を、ナッツは心配そうに見つめていた。 

 

(いくら父様のあの技が凄い威力でも、頭を吹き飛ばしても再生したセルを、たった一撃で殺すのは難しいわ。セルもそれを判っているからあの余裕なのに、父様は何を考えてるのかしら……)

 

「姉さん、オレ達も一緒に撃つべきでしょうか」

「駄目よ。それをやったら、きっとセルは普通に避けるわ」

 

 固唾をのんで見守る娘に、父親はほんの一瞬だけ目を向ける。目と目が交差し、父親の意図を悟ったナッツは、背伸びして弟の耳に囁いた。

 

(トランクス! 今こそあなたのあれを使う時よ!)

(! そうか! あれですね姉さん!)

 

 そしてベジータは、気合と共に技を撃ち放つ。

 

 

 

「ファイナルフラーーーッシュ!!!!」

 

 

 

 放たれた極大威力のエネルギー波が、射線上の大気すらもプラズマ化させながらセルを直撃する。その全身を飲み込んだ後も、あまりの威力にエネルギー波は減衰しないまま直進を続け、そのまま大気圏を突き抜けて、宇宙へと飛び出していった。

 

 そして熱と光と轟音がようやく収まった後、土煙の中から現れたセルは、余裕の笑みを浮かべていた。右半身が跡形も無く吹き飛び、その断面から内臓までも晒したその姿は、人間ならばまず間違いなく致命傷なのだが。

 

「残念だったな、ベジータ。まだ半分残っているぞ」

 

 言い放ち、セルは瞬時に身体を再生させる。もちろんその分体力は失われ、戦闘力も落ちているのだが、それでもまだ、実力差を覆すには至らない。

 

「ああ、そうだな」

「……何?」

 

 にやりと笑うベジータの態度を、セルは訝しむ。次の瞬間、後ろに回り込んでいたトランクスが、すかさずセルを羽交い絞めにする。

 

「何のつもりだ? 完全体の私を、この程度で止められるとは……」

 

 次の瞬間、トランクスの筋肉が大きく膨れ上がった。

 

「な、何っ!?」

 

 驚愕したセルが振り解こうと試みるが、爆発的に増したパワーによって、彼はセルの身体をしっかりと拘束する。

 

「今です! 父さん!」

 

 そして同じくパワー重視の変身を果たしたベジータが、回避のできないセルの胴体に、全力のボディブローを叩き込んだ。

 

「ぐはあっ!?」

「まだだっ!」

 

 あまりのダメージに目を剥くセルに、ベジータはなおもラッシュを叩き込む。膨れ上がった筋肉によって、その速度はナッツでもギリギリ避けられるだろうレベルにまで落ちていたが、その分当たった時の威力は凄まじい。

 

(1年前に考えた作戦が上手くいったわ! 当たらないなら、当てれるようにすればいいのよ!)

 

 得意げな顔の少女が見守る前で、何発目かの拳を腹部に食らったセルが奇妙な声を上げる。

 

「おごっ……!?」

 

 まるで吐き気をこらえているような、明らかに苦しんでいるセルを見て、子供2人のテンションは最高潮に達した。

 

「父様! あと一息です!」

「父さん! ボディ効いてますボディ!」

「うおおおおおっ!」

 

 娘と息子からの声援を受けて、いっそう攻撃に力を込めるベジータ。さしものセルも、これで終わりかと思えたが。

 

「ぬ、ぬわあああああっ!!!」

 

 セルもまた、全身の筋肉を肥大化させ、一瞬でトランクスを弾き飛ばす。

 

「し、しまった!?」

 

 そして至近距離で避けられないベジータを、セルはお返しとばかりに全力で殴り飛ばした。激しく岩場に叩き付けられ、動かなくなるベジータ。

 

「父さん!? よくも!」

 

 パワーと引き換えに動きが鈍くなったセル。その弱点を熟知するトランクスは変身を解いて、一瞬で背後を取るも。同じく変身を解いたセルが、彼の攻撃よりも早く、振り向きざまのハイキックで顎を蹴り上げる。

 

「がっ!?」

 

 衝撃で宙に浮き、落ちて苦しげに呻くトランクス。こちらは意識はあるようだが、ダメージが大きいのか、起き上がれない様子だった。

 

「そ、そんな……あと少しだったのに……」

「ふむ、まあまあ有効な変身だな。だが一人で使うには、少々隙が大き過ぎるか」

 

 そして残されたナッツは震えていたが、動けない父親と弟を見て、意を決して身構え叫ぶ。

 

「来なさい! 私が相手よ!」

「ふむ……」

 

 セルは考える。その意気は買うが、今倒した2人より明らかに弱いナッツを相手にしても、完全体の力を引き出す練習にもなりはしない。それよりも、気になる事があった。

 

「お前達はこの短期間で遥かにパワーを増した。まだ本気ではないとはいえ、完全体の私を驚かせる程に」

「……」

 

 その言葉に、少女は警戒する。まさか精神と時の部屋の秘密を知って、自分も入りたいとか言うんじゃないだろうか。セルにそんな事をされたら、とんでもない事になる。絶対止めないと。

 

「時間があれば、更なるパワーアップも可能か?」

「う……」

 

 ナッツは言葉に詰まってしまう。精神と時の部屋で過ごせる2年間は、既に使い切ってしまっている。

 

 ここでもう強くなれないと言ったら、興味を失ったセルに殺されてしまうかもしれない。ただ、嘘をつくのは気に喰わないし、慣れない事をしても、すぐにバレてしまう気がした。観念して、少女は答える。

 

「私達はもう無理だわ。けどカカロットと悟飯なら、きっとお前を倒してくれるはずよ」

「ほう……それは楽しみだ。もっとも孫悟空はともかく、息子の方は大して期待できんが」

「なっ!?」

 

 それは少女にとって、聞き捨てならない発言だった。セルの方は特段何の意図も無く、自分が把握している二人の戦闘力を比較して、単に事実を述べただけなのだが。

 

 悔しさのあまり、ナッツは叫ぶ。

 

「悟飯を馬鹿にしないで! 私なんかより、悟飯の方がずっと強いんだから!」

「ほう……?」

 

 セルは面白そうに目を細め、少し考えてから言った。

 

「では10日間やろう。武道大会を開いてやる。せっかくだ。もう無理と言わず、お前達もせいぜい励むがいい」

 

 予想外の発言に、少女はきょとんとした顔で聞き返す。

 

「武道大会ですって?、天下一武道会みたいな?」

「そのとおり。ただしお前達と戦うのは私一人だ。何人集めて来てもいいぞ。人数が多ければ、それだけお前達が有利になる」

「えっ、いいの?」

 

 ぽわぽわぽわーん、とナッツは想像する。父様達と3人だけで、割と良い所まで行けたのだから、もっと大勢集めて皆でかかれば。

 

 

「太陽拳! そして気円斬!」

「気功砲!」

「魔貫光殺砲!」

「魔閃光ー!」

「かめはめ波!」

 

 

 そして最後に親子3人でファイナルフラッシュを繰り出し、跡形も無く消えるセルを想像してにこにこしている少女を見て、呆れた顔でセルが言った。

 

「……一度に戦うのは一人ずつだぞ」

「えー!」

「私も負けたいわけではないのでな。もしルールを無視して大勢で来るようなら、次はそれなりの対応をさせてもらう。今回のような手が、二度通じるとは思わない事だ」

 

 詳しい事はテレビ放送で知らせてやると、言い残して立ち去ろうとするセルの背中に、困惑した様子のトランクスが叫ぶ。

 

「ま、待て! お前の最終目的はなんだ? 何故こんな事をする? 地球を……宇宙を支配するつもりなのか?」

「さて、何だろうな。征服などという俗な事には興味がないし。孫悟空を殺すという命令も、今となってはな」

 

 そしてセルは、さらりと言い放つ。

 

「あえて言うなら、楽しむ事が目的かな。一番の目的はもちろん、恐怖に怯え、引きつった人間共の顔を見る事だ」

「なっ……!?」

 

「わかるけど他の星でやりなさいよ!」

「なっ……!?」

 

 即言い返した姉の言葉に、やはり呆然とするトランクス。その顔を見て、セルは面白そうに笑うのだった。

 

 

 

 そうしてセルが去って行った後。トランクスが持っていた仙豆で回復したクリリンは、悔恨の表情で頭を下げる。

 

「すまない、オレのせいで……!」

「……私にも、セルを逃がした責任があるわ。さっさと止めを刺しておけば……」

「姉さんは悪くないです! オレが躊躇わずに18号を殺しておけば良かったんです!」

 

 トランクスの発言に、さらに深く落ち込むクリリン。重くなった空気を断ち切るように、ベジータが言った。

 

「そこまでだ。要はあの野郎を殺せばいい。10日後だったか。それまでにできる事をやるまでだ」

「そうですね! 父様!」

「……そうですね」

 

 努めて明るい声で、少女は元気良く答える。その声を聞いて、落ち込んでいた弟も、小さく笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、まずはスカウターでブルマ達に連絡して、それからうちに帰って晩御飯でも……」

「オ、オレも連れて行ってくれ……」

 

 ナッツ達が声のした方を見ると、おぼつかない足取りで立ち上がる、半壊した16号がいた。

 

「オレも大会に出る。カプセルコーポレーションで修理してくれ……か、必ず役に立って見せる」

「何言ってるの! 未来で酷い事をした人造人間なんて、信用できるわけないじゃない!」

「……?」

 

 彼にとっては理解できない事を怒鳴る少女の肩を、ちょいちょいと弟がつついて呼びかける。

 

「あの……姉さん?」

「なあに? トランクス」

 

 年下の姉の耳元に小さく屈んで、トランクスは耳打ちする。

 

「確かに17号と18号は、姉さんや父さんや悟飯さん達を殺しやがったので絶対許さないんですけど……あの人造人間は未来で見た事がないんです」

「そうなの? じゃあ恨みとかは?」

「……正直、人造人間というだけで思うところはありますが……あいつ個人には別に何も。姉さんにお任せします」

「うーん……」

 

(トランクスが気にしないなら……けど敵だし……)

 

 腕を組んで悩む少女は、ふと2年前、初めて人造人間と戦った日の朝に、ブルマと交わした言葉を思い出す。

 

 

(科学者の端くれとして、人造人間ってのを、ちょっと見てみたいのよ)

(絶対に駄目よ!? だいいちトランクスはどうするのよ!?)

 

 

 ぴこーん! と頭上に電球を浮かべたナッツは、急に笑顔になって言った。

 

「良いわよ! カプセルコーポレーションに持ち帰っ……連れて行ってあげる!」

 

 その表現に、16号は何だか嫌な予感がするのだったが選択の余地もなく。少女が自分の倍近くある男の身体を抱きかかえようとしたところで、父親と弟が真顔で割り込んだ。

 

「ナッツ、そいつはオレ達が持つ」

「そうですよ姉さん。そういう事をしていいのは悟飯さんだけです」

「?」

 

 そうしてさっさと16号を運んでいく2人に、ナッツは不思議そうに、首を傾げてついていくのだった。

 

 

 

 10分後、カプセルコーポレーションにて。

 

 事の顛末を聞いて出迎えてくれたブルマの前に、父親と弟が運んできた16号を、ナッツはじゃーんと示して見せる。

 

「ブルマ、お土産持ってきたわ! ドクターゲロの人造人間!」

「本当に!?」

 

 駆け寄って16号の姿を確認した彼女は、破損部分からぱっと内部を見ただけでも、全く未知のテクノロジーの塊に目を輝かせる。

 

「やるじゃないあなた達! 研究室まで持ってってくれる? 父さんも呼んでくるから!」

「はい! 母さん!」

「はーい!」

 

 あれよあれよという間に、そのまま運ばれて作業台に拘束される16号。

 

「信じられん。まるで人間そのものじゃないか。凄いぞこれは……」

「さて、どこから調べましょうか……」

 

 怪しい目つきで興奮した天才科学者2名に迫られ、16号は不安そうに言った。

 

「あの、直して欲しいのだが……」

「まずは構造を調べてからね」

 

 そして彼女達が楽しそうにしているのを見たナッツは、ブルマの母親や、弟や父親にも協力してもらって、いそいそと夕食の支度を始めるのだった。




悟飯の修行が終わるまであと2日ありますので、次はドクターゲロの話になります。
遅くなるかもしれませんが、気長にお待ちくださいませ。

それと阿井 上夫様から成長したナッツの絵を頂きました!


【挿絵表示】


すらりと背丈も手足も伸びてて、顔つきもどこか凛々しい感じで素晴らしいです! ありがとうございます! こんな風に絵のリンクのある話には後でサブタイトルに●を入れる予定ですので、小さい頃の絵と見比べてみても良いかもしれません。

あと毎回書いてますが、評価と感想とお気に入りをありがとうございます!
続きを書く励みになっておりますので、よろしければ是非お願いします!



・あえて言うなら、楽しむ事が目的かな
セル、作られた存在でひたすら完全体に執着して、いざ完全体になったらリングの上で10日間何もせず突っ立ってるくらいには特にやりたい事とか無くて負けて悔しかったら即自爆を選ぶあたり、自分の命にすらそこまで執着していないという……。原作だとしつこいしどうしようもない悪役だったんですがちょっと哀れ。

というわけでやりたい話があるんですが、時系列的に本編最終回の後になると思います。
(ドクターゲロに持ち出されたセルの幼体を見ながら)
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