あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

97 / 104
33.彼女がドクターゲロを訪ねる話(中編)

 西の都の郊外にひっそりと準備された、ドクターゲロの新研究所にて。

 

 ナッツに席を勧め、自分もまた座ろうとした彼は、テーブルの上にある、先程まで食べていたカップ麺に気付く。

 

 中身はまだ半分近く残っており、彼女と話をしていては、冷めて麺が伸びてしまう事は明らかだった。一瞬逡巡した彼の様子を見て、ナッツは申し訳なさそうに言った。

 

「……もしかしてご飯の途中だった? 邪魔しちゃってごめんなさい」

「……片付けてしまうから少し待て」

 

 言って急いでカップ麺を啜るドクターゲロ。年齢を思わせぬその豪快な食べっぷりに、少女のお腹が小さく音を立てた。

 

(いいなあ……)

 

 彼の食べる1個80ゼニーのカップ麺に、ナッツの目は釘付けになってしまう。

 

 あんまり身体に良くないらしいので、普段の食事では出てこないけれど。たまに夜にブルマの研究室へ遊びに行くと、内緒よと言ってこっそり作ってくれて、一緒に食べたそれが凄くおいしかったのだ。

 

 じーっ、と目を輝かせて安物のカップ麺を見つめる少女を、ドクターゲロはしばしスルーして食事を続けていたが、やがてその視線に耐えかねて言った。

 

「……19号、もうひとつ作ってやれ」

「はい、博士」

 

 19号は台所の棚から取り出したカップ麺の蓋を開き、慣れた手付きで粉末スープを入れてポットからお湯を注ぐ。割り箸と共に差し出されたカップ麺を、ナッツはキラキラした瞳で受け取ってぺこりと頭を下げる。

 

「ありがとう!」

 

 少女は箸を蓋の上に置いて待っていたが、1分程度で蓋を剥がして麺をほぐし始めるのを見て、ドクターゲロは眉をひそめる。

 

「おい、ちゃんと3分待たんか」

「ブルマはこのくらいで十分って言ってたわ。お腹に入れば同じよって」

「科学者のくせに大雑把な……」

 

 渋面になるドクターゲロの前で、ナッツは笑顔で手を合わせる。

 

「いただきます!」

 

 そしてまだ固い麺を箸で摘み、嬉しそうに食べ始める。食べ方は丁寧だが、そのペースはかなり速いもので。

 

「……おいしい!」

 

 毒を警戒しないのかと、嫌がらせで言ってやろうかとも思ったが、あまりの幸せそうな食べっぷりに、無粋な真似を控えてしまう。

 

 思えばこんな子供と接したのは、何年ぶりだろうか。彼はナッツの後ろに立つ、16号の方をちらりと見る。

 

(……あいつが生きていたら、孫はこのくらいの歳になっていたか? ヘドには昔から嫌われておったから、こんな機会も……いやいやいや! 私は何を考えておる!?)

 

「ごちそうさまでした」

 

 そしてあっという間にカップ麺を綺麗に食べ終えた少女が、一瞬物足りなさそうな目をしたのを見て、彼は思わず命じていた。

 

「おい19号、酒棚に菓子があったはずだ。持ってきてやれ」

「いいの!?」

 

 

 そうして10分後、ナッツは山と積まれた食料をもぐもぐと嬉しそうに頬張っていた。

 

 どれもおいしかったが、その中でも特に柿の種やあたりめ、チーズ鱈など、食べた事の無いお菓子の美味しさと物珍しさに、彼女は夢中になってしまう。

 

 微笑みながら穏やかにそれを見守るドクターゲロに、内心驚く16号と19号。そして彼の姿があまりに幸福そうだったので、その時間を少しでも引き伸ばすべく、家じゅうの食料を次々に運んでくる16号達。

 

 しばし優しい時間が流れ、良い感じに小腹が満たされたところで、ナッツはふと我に返る。

 

(そういえば、ご馳走になってる場合じゃなかったわ!?)

 

「あ、あの! お菓子ありがとうございます! けど!」

 

 血相を変える少女に対してドクターゲロは、仮にレッド総帥あたりが見たらお前誰だと言いたくなるほど好々爺な顔で言った。

 

「ん? 喉が乾いたのか? なら19号達に買って来させよう。何が良い?」

「じゃあオレンジジュース……じゃなくて!? 私はセルの弱点を聞きに来たのよ!」

「セルだと?」

 

 自分と19号以外は知らないはずのその単語に、一瞬で真顔に戻るドクターゲロ。まさか19号が話すはずもないし、一体どこから漏れたというのか。

 

「……どこで知ったか知らんが、セルならそこにおるぞ」

 

 彼が示した先、窓際には水槽が置かれており、満たされた培養液の中に小さな緑色の生き物が浮かんでいた。隣に置かれた金魚鉢の中で、金魚やボラが隣の水槽を興味深げに眺めている。

 

「成長には十数年掛かる。なるほど、今のうちに始末しに来たというわけか」

「? そのセルじゃないわ」

 

 頭の上に?マークを浮かべて首を傾げたナッツは、話がかみ合わない事に気付く。

 

「私は今、外にいるセルの事を言ってるのだけど」

「? セルはここにいるだろう」

「……もう、何で知らないのよ。あんなにテレビでやってるのに」

「最近の番組はつまらんから見ておらん」

「見なさい!」

 

 少女は埃の被ったブラウン管テレビを指さしながら叫んだ。老科学者は不承不承リモコンを手にする。

 

「セルなんているはずなかろう」

 

 ドクターゲロがそう言ってテレビを点けるとセルが映った。

 

『10日後にセルゲームを開催する』

 

 

 

 

「セルだーーーーーー!!!!????」

 

 

 

 

「だからセルって言ったじゃない!」

 

 繰り返し放送されているそのVTR映像を見た瞬間、これが漫画なら、両目の玉が飛び出さんばかりに驚愕するドクターゲロ。

 

「しかも完全体になっておるぞ!? 17号と18号を吸収したのか! 忠実なあいつらになんという事を……」

「博士、それについてはオレから説明を……」

「そもそも何故セルが2体いる!? あのセルはどこから来たというのだ!?」

「えっと、十数年後の未来から……」

「未来だと! まさかタイムマシンか!? 時空工学の大盛博士が研究していた!」

「誰よそれ!?」

 

 有り得ない事象に混乱しつつも、知的好奇心に突き動かされて年甲斐も無く大興奮するドクターゲロをナッツ達が落ち着かせるには、しばしの時間を要したのだった。 

 

 

 

 

 一方その頃、精神と時の部屋にて。

 

 中の時間で1年以上が経過し、今日も日課のトレーニングを終えた悟空は、カプセルハウスの中で汗を拭きながら言った。

 

「ピッコロ、もうそろそろ出ようと思うんだ」

「な、何だと!?」

「もう十分強くなったしさ、これ以上続けてもキツいだけじゃねえかって」

 

 悟空の言葉に目を剥くピッコロ。確かに最近は、入ったばかりの頃と比べて強さの上昇ペースも落ちてきたが、まだ時間は1年近くも残っているのだ。

 

「悟飯のやつもナッツやチチに会えなくて寂しそうだしさ。もうセルはベジータ達が倒してるかもしれねえし、このくらいで良いかなって思ってよ」

「正気か孫。判っているだろう。もしまだセルが生きていた場合、あいつらが束になっても倒せない強さという事だぞ。可能な限り鍛えておくに越したことはないだろう」

「まあ、大丈夫じゃねえかなあ」

 

 戦いの話だというのに、どこか他人事のような彼の態度に違和感を覚えたピッコロは問いかける。

 

「……お前、本当にセルと戦う気があるのか?」

「オラで勝てるなら。けど、今の悟飯、本気になったら間違いなくオラより強えし、無理だったら譲ろうかなって」

「……は? ま、まあ、確かにそうだが」

 

 ちなみに当の悟飯は今、先に風呂に入っている。ピッコロの目から見ても、確かに最近の悟飯は背丈も伸びて見る間に実力を付けており、自分は既に追い抜かれたと思っている。

 

 これでサイヤ人やフリーザとの戦いで見せたような、怒りによる潜在パワーの解放があれば、悟飯こそが地球で一番強いという話は頷けるものなのだが。

 

「残念だけど、地球のためだしな。セルと戦えて、悟飯のやつも喜ぶだろうし」

「はあ!?」

 

 その一言で、ピッコロは思わずぽかんと口を開いてしまう。お前は悟飯の何を見ていたのかと。 

 

 この悟空の誤解には仕方の無い所もあり、そもそもベジータ達の来襲時でもナメック星でも、彼は悟飯が戦う姿をほとんど見ていない。幼いながらも、強敵相手にボロボロになるまで戦ったという結果だけを見ている。

 

 またキツい修行にもしっかり素直についてきて、めきめきと実力を伸ばしているものだから、自分の子供の頃と重ね合わせて、勉強が好きなのは知ってるけど、当然強い奴との戦いも好きなんだろうと誤解してしまっていたのだ。

 

 話は逸れるが、仮に同じ状況で、セルと戦ったベジータが「お前の出番だ、ナッツ」と譲ったとしたら、彼女は内心父親に遠慮しつつも誇らしさと強敵との戦いに大喜びするだろう。

 

 

(けど、セルは父様と戦った分だけ消耗してるわ……)

 

「おいセル、仙豆だ! 食え!」

「やったー!! 父様ありがとうございます!」

 

 

 そうしてノリノリで向かって行くのがサイヤ人としては当然の事だ。悟空も大体そんな流れを想定していたのだったが。

 

「……その話は、悟飯にしたか?」

「? いや別に」

 

 心底不思議そうな悟空を見たピッコロは顔を引きつらせて叫ぶ。

 

「話し合え!? 大事なことだろうが!」

「だって物凄え奴と戦えるの嬉しいだろ?」

「悟飯を貴様と一緒にするんじゃない!」

「???」

 

 そうして風呂上がりの悟飯と話し合った結果、顔を引きつらせた悟飯が「いや無理です。仙豆も投げないでいいです」となり、最初に悟空、次に悟飯がセルと戦って、無理そうなら全員でボコろうという結論に達したのだった。

 

「えー」

「当たり前だ!」

 

 ちょっと不満そうに、かつ本気で首を傾げている父親を見た悟飯は、ピッコロさんがいてくれて良かった……と、内心胸をなで下ろすのだった。




というわけで、ドクターゲロの話なのです。
諸事情あってなかなか更新できなくて申し訳ないですが、エタらないようにはしたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。

セル戦で悟飯が戦ってた時の悟空、ピッコロに諭されてマジで驚いた顔してましたのでこんな感じに考えてたのかなあと。
あと前半を途中まで書いてたところで劇場版見て「孫もういるじゃん!?」ってなったのは貴重な体験でした。


・ドクターヘド
最新劇場版に出て来たドクターゲロの孫。16号とは別の子供の息子。
この子供が悪の科学者の父親とは気が合わずに疎遠だったらしく、その影響か孫も正義のヒーローが好きで悪は嫌いというスタンス。
パンが3歳なエイジ782の時点で24歳なのでエイジ767のこの時点では9歳。

制作したガンマ1号2号その他の強さがヤバい上に量産可能とか言ってたのでピッコロさんが潜入ミッションで情報収集しなかったらあの話は詰んでた可能性がある。
あと映画館には予備知識ゼロで行ったんですが名前を聞いた瞬間、間違いなく鳥山先生の仕事だと思いました。


・忠実なあいつらになんという事を……
この話では17号と18号が忠実な演技をしたまま逆らってないのでそう信じてます。


・時空工学の大盛博士
銀河パトロールジャコに出てた人。時間停止までは成功してたのでたぶんウイス様とかにバレたらヤバい。
同じタイムマシンを作った人でも則巻博士は田舎住まいなので多分知られてない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。