ナッツと16号がドクターゲロへ会いに行ったその翌日。神様の宮殿にて。
そろそろ悟飯達が出てくる頃だと待っていたナッツ達の前で、精神と時の部屋の扉がついに開く。
そして少女は、見違えた少年の姿と戦闘力に目を輝かせる。ボロボロの戦闘服を着た悟飯は、ナッツと同様に背丈が大きく伸びており、そして何より、その髪が金色に輝いていた。
(悟飯も成長期に入ったんだわ! それに超サイヤ人になってる!)
いてもたってもいられず、少年の名を呼びながら、全力で駆け寄るナッツ。途中で自らも超サイヤ人となり、迫る彼女を見て慌てる悟飯の身体を抱き締める。
「格好良くなったわね、悟飯」
12歳のサイヤ人の少女は、嬉しそうに微笑んだ。2日前にそうした時の彼は、まだ小さい子供だったけど、今は目と目がしっかり合った。自分と同じ、青い瞳。
(前から素の戦闘力は悟飯の方が高かったし、今戦ったら負けちゃうかも)
そんな甘酸っぱい事を考えているナッツの背中に、少年も両手を回して抱き締める。
「会いたかったよ。ナッツ」
「えっ……」
彼の手に込められた力と、震える声に込められた感情の大きさに、少女は不意を打たれたように固まってしまう。
(そっか、私にとっては2日ぶりだけど、悟飯にとっては2年近くだから……)
彼にこうされるのは、初めてではないけれど。大きくなったその身体が父親を思わせて、彼女は安心感と同時に、何故だか顔が熱くなるのを感じていた。
満月を見たわけでもないのに、心臓まで大きく高鳴って。どうしていいか判らず、ナッツは切なげな顔で、目の前の少年を見つめていた。
「悟飯……」
その声で、彼ははっと我に返る。いつにない彼女の表情と、密着した互いの戦闘服ごしに感じる、彼女の小さな胸の感触に、少年もまた真っ赤になって慌てだす。
「こ、これはっ! その……」
ばっ、と身体を離すも、互いに顔を赤くしたまま、もじもじと見つめ合う2人の姿に。
「悟飯の野郎……!」
「あのサイヤ人……!」
「悟飯さんと姉さんが……!」
ぐぬぬと悔しがるベジータとピッコロ。感涙しながら長方形の板のような機械で彼らを撮影するトランクス。
「いつ結婚するんだ、おめえ達?」
「カカロットーーー!!!!」
そして空気を読まない悟空の発言に、激高した父親が血涙を流しながら襲い掛かり、そのまま激しい戦闘が始まった。
その余波だけで宮殿全体が何度も大きく揺らぎ、ミスターポポやデンデが青くなる中、ナッツは夢見る乙女の顔で呟いた。
「やっぱり1度くらい本気の本気で戦って……けど今私、尻尾が無いし……悟飯だけ人間の姿なんてフェアじゃないし……」
「ちょっとナッツ?」
可愛らしい顔で彼女が口にした物騒な内容に、自分は将来何をさせられるのかと、思わず突っ込みを入れる悟飯。
「大丈夫よ。私達まだ子供なんだし、大人になる頃には尻尾も……って、ちょっと待って!?」
ある可能性に気付いたナッツは、慌てて少年に叫ぶ。
「悟飯! ちょっと後ろ向いて!」
「こ、こう?」
困惑しながら言われるがままに後ろを向いた悟飯の背中に、少女もすぐに自分の背中をくっつけて、背中合わせの格好になる。
「ナ、ナッツ?」
「ちょっと黙ってて」
背中に当たる長い髪の感触に、少年がどぎまぎする一方、彼女は真剣な顔で、自分の頭に乗せた手を、ゆっくりと悟飯の頭へスライドさせる。
その手が彼の頭髪をギリギリ掠めて頭上を通り過ぎた瞬間、ナッツは大きく安堵しながら勝ち誇った。
「私の方が少しだけ高いわ!」
「えー……」
そんな事? という顔になった悟飯に、
「大事なことなの! 私の方が年上なんだから!」
と返して、えへんと小さな胸を張るナッツ。なお、2人の身長差は1年もしないうちに逆転する事になるのだが、それはまた先の話だ。
「おい、それよりセルはどうなった」
「それが……」
トランクスからセルが完全体になった事と、戦いが8日後である事などを説明されたピッコロが、楽しそうに戦っている悟空を怒鳴りつける。
「孫! 遊んでる場合か! どうする気だ!」
怒られた悟空は、少し気まずそうな顔で、額に指を当てながら言った。
「うーん、じゃあちょっとセルを見てくる。ベジータ、また後でな!」
「あっ、待て!」
ベジータの制止も空しく、一瞬でその場から消え去る悟空。同時に彼の気配がセルの間近に現れたのを感じ取って、ナッツは羨ましそうな顔になった。
(カカロットの瞬間移動、やっぱり凄く便利だわ。大猿になった時にも使えそうだし……)
そんな事を考えていた彼女は、少年を見てふと気付く。
「あれ? 悟飯の超サイヤ人、私とちょっと違ってる?」
金色の髪と青い目は確かに超サイヤ人だけど、金色のオーラとか出てなくて、何だか威圧感が足りない気がする。
「最初はボクも同じだったけど、お父さんに言われて、この状態が普通になるまで維持し続けたんだ」
「ふうん」
その方が消耗が少なく、戦闘時にはパワーが引き出せるという理屈だろうか。理屈は分かるけれど、面倒そうだし、私にはあんまり向いていない気もする。
「そういえば、どうやって超サイヤ人になったの? なにか怒る事あった?」
「そ、それは……」
君やお父さんやピッコロさんが、フリーザに殺されそうになっているのを想像してたらなれましたと、本人の前で言えるわけもなく。
悟飯が言葉に詰まっているうちに、彼の父親が再び一瞬でその場に現れた。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい。どうだった?」
ナッツの質問に、悟空は不満そうな顔で答える。
「セルがリングを作ってたんだけどよ、あんま大した事ないっていうか、観客席も飯食う所も無かったし……」
「リングじゃなくてセルの強さを言え!?」
「うん、あれなら大丈夫だと思う」
それを聞いた少女が、ぱあっと顔を輝かせる。
「本当? じゃあ今から倒しにいくの?」
「いや、せっかく8日もあるんだから、半分くらいはゆっくり休もう」
「えー!」
「ナッツ達もあそこに2年もいて大変だったろ? まだ完全には、疲れが取れてねえんじゃねえかな」
「うーん……」
ナッツは考え込む。言われてみれば、確かに全く疲れが残っていないといえば、嘘になるかもしれない。
それにあとたった8日訓練したところで、大したパワーアップは見込めないだろうし、だったらいっそ、身体を休めて力を発揮できるようにするというのも一つの手だ。
大人の戦士だけあって、カカロットの言葉には含蓄があるわと少女は思った。
同じ結論に達したベジータが、少し困ったような顔で言った。
「……ナッツ、トランクス、明日からどうする?」
「オレは姉さんにお任せします」
「そうですね……」
ナッツは少し考えて、少年の方をちらりと見る。せっかく2年ぶりに会えたのだから。
「皆でどこかへ、遊びに行きたいです」
その翌日。時刻はまもなくお昼になろうとする頃。
西の都から車で2時間ほどの、自然の多い田舎道。良く晴れた日差しの下、ナッツは父親の運転するワゴン車に乗っていた。
助手席には、弟を抱いたブルマが座っている。そしてナッツが乗る後部座席の隣には、初の家族全員でのドライブに感涙しているトランクス。
(ちょっと遅いけど、自分で飛ばなくて良いのは楽だし楽しいわ)
そんな理由で、彼女はこの地球の乗り物が好きだった。ベジータに免許を取ろうと決意させるほどに。
ちなみにおよそ2年前、彼が免許を取りに行った時、偶然同じ日に来ていた悟空とピッコロに巻き込まれて大変な事になったのだが、それはまた別の話だ。
ゆっくりと流れる外の風景を眺めながら、少女はすっかりリラックスした様子だった。
そんな娘の姿をバックミラーで確認し、父親は顔を綻ばせる。そんな彼の姿を、赤ん坊を抱いたブルマが微笑ましそうに見つめていた。
やがて車は目的地である自然公園に到着する。買ったばかりの服でおめかしした少女が車を降りると、ちょうど後ろから、悟空達の乗ったオープンカーがやって来る所だった。
「こっちこっち!」
彼らに向かって、笑顔で手を振るナッツ。そして10分後、2つの家族は広々とした芝生の上に敷物を広げてピクニックをしていた。
互いに準備してきた山ほどのお弁当箱が並べられ、その場の全員が思い思いに、笑顔で談笑しながら料理を堪能する。
「おいしい! 凄くおいしいわ!」
「ふふっ、そりゃ良かっただ。たくさん作って来たから、お腹いっぱい食べるといいだよ」
「はい、ありがとうございます!」
お礼と共に、嬉しそうに少女は料理を口にする。立派なレストランから街中の屋台まで、色々なおいしい食べ物のお店に連れていってもらったけど、それらと比べてもチチさんの料理が、一番おいしいと思った。
けどそれだけでなく。ナッツは料理を楽しみながら、周囲を見る。父様にブルマに、赤ん坊のトランクスと未来から来たトランクス。それに悟飯やカカロットやチチさんといった、大好きな人達と皆と一緒に食べているから、いっそうおいしいのだし、幸せだと思った。
(……母様とも、いつかきっと……)
ほんの一瞬だけ、少女の目に浮かんだ悲しみを見て取って、悟飯は彼女に声を掛ける。
「どうしたの、ナッツ」
「ううん、なんでもないわ」
ナッツはすぐに微笑んで見せたけど、少年は彼女を心配して、自分の食べていた料理を示して見せる。
「ねえ、これも凄くおいしいよ」
「本当? じゃあ私にもちょうだい」
次の瞬間、彼にとって予想外の事が起こった。
悟飯の持つ取り皿に顔を近付いてきた少女が、あーん、と可愛らしく口を開けたのだ。
ぴきり、と思わず硬直する悟飯。ガタッ、と立ち上がるベジータに、すぐさま動画撮影の構えを取るトランクス。
「あ、あの……ナッツ?」
窮地に陥った少年の声に、ナッツは口を開けたまま、どうしたの? と不思議そうに目で問い掛けてくる。
「その、ちょっと変じゃないかな?」
「どうして? ブルマや父様は、私が頼んだらこうして食べさせてくれるわ」
純真な少女の黒い瞳に追い詰められた彼は、これおかしくない? と助けを求めるように母親を見るも。当のチチは興奮した様子で、身を乗り出して両の拳を握り締めていた。
「悟飯ちゃん、男を見せるチャンスだよ! と、ところで悟空さ、オラも……」
「あーん」
きゃー! と若々しくはしゃぐ母親の姿を見て、死んだ目になる悟飯。
いっそベジータさんが殴って止めてくれないかとそちらを見るも、笑顔のブルマが超サイヤ人と化した彼をまあまあと引き留めつつ、自身も8ミリビデオカメラを向けていた。
まだかなー、となおも期待に満ちた目で見つめてくるナッツを見て、少年は覚悟を決めた。自身の箸で料理を摘み、そっと彼女の口へと運ぶ。
「あ、あーん」
「あーん!」
ぱくり、と差し出された料理を食べて、美味しそうに頬張るナッツ。
「おいしい!」
「よ、良かった……」
激しく疲労しながらも、嬉しそうな少女の姿に報われたと感じた悟飯だったが。
「私が作ってきたのもあるの! 悟飯に食べさせてあげる!」
「えっ」
それから10分後、味はとてもおいしかったが、気恥ずかしさが限界に達した悟飯が倒れている横で、満足そうにつやつやと顔を輝かせたナッツが、食後のお昼寝をしていると。
音楽を流していたラジオから、臨時ニュースが流れる。セルに挑んだ軍隊が壊滅した事と、8日後に行われるセルゲームに、格闘技の世界チャンピオンであるミスター・サタンが挑むという内容だった。
それを聞いたナッツは驚愕し、身を起こしながら叫ぶ。
「えっ、ミスター・サタン!? いつの間に世界チャンピオンになったの?」
少女の疑問に答えるように解説が流れる。
『ミスター・サタン氏は11年ぶりに行われた第24回天下一武道会で見事優勝し……』
「だ、第24回天下一武道会!? 天下一武道会やってたの!? ピッコロが会場で暴れたせいで、ずっと中止になってたはずなのに!」
解説によると、人造人間達が現れる少し前に開催されたと聞いて、ナッツはしょんぼりと肩を落とす。その時期だと、知っていても流石に出場はできなかっただろうけど。
「私も天下一武道会に出たかったわ……天空×字拳やりたかった……」
「ま、また次があるよ。その時は一緒に出よう?」
「……うん!」
悟飯が慰めてくれた事と、将来彼と戦う事を想像して、ナッツは満面の笑みを見せる。
「けど、ミスター・サタンがセルと戦ったら足の小指1本で死んじゃうわ……あの人に迷惑を掛けないような形で、何とかしないと」
「ミスター・サタン……姉さんのお知り合いですか?」
「色々あったのよ。ねえ悟飯?」
「……うん」
地球に来たばかりの頃、悪人に台無しにされたクレープを買い直してもらって以来、彼女は地球人にしてはほんの少しだけ強くて優しいおじさんである、ミスター・サタンのファンをしていた。
そして悟飯の方も、悪人からとっさにナッツを助けられなくて、情けない思いをしていた自分まで励ましてくれた彼の事を、とても格好良い人だと思ったのを、今も忘れてはいなかった。
そう思いつつも同時に、ラジオから流れるミスター・サタンの声を聞いて、彼女が嬉しそうにしているのを見ると、胸のうちにもやもやとした黒い感情が湧き上がるのを、抑える事ができなかった。
・嫉妬!嫉妬なんですかあっ?
ブラボとアルフレートとクゥリきゅんが大好きです!
けど別にドロドロとした話にはなりませんのでごあんしんください。
・以前登場したミスター・サタン
「エピローグ2.彼女が地球で憩う話」の「5.彼女が彼と出かける話」の事です。サタン関係の話はかなり前から温めてたので、ここまで来れて感無量です……。