「よ、よくわからないですが、あたし急いでるので行きます!」
そう言って顔デカさんを無視して背を向ける。
「ヴァナータ……待ちなさい!」
「うぐっ」
走り出そうとした背中側の服を掴まれて、宙に浮かびあたしは前に進めなくなる。
「ヴァナタはここが火事になることを知っていて、なんでここに来たっチャブル?」
「助けたい人が居るからだよ! これを知ってる大人だかなんだかに言っても「それがどうした?」って態度だし……あー! もう、兄弟たちを探さないといけないのに!! 離せー! オカマ!」
「ヴァターシは
どこからか「許すんかーい!」と突っ込みが聞こえそうなノリツッコミ……もうダメだ。あたし、ここで疲れた。
片足を突っ込んでる? あ、この格好のせいか。あたしは男の子が女になりたいと思われてるのか、女の子が男になりたい、どっちだと思われてるのでしょうか……? 別に今は性別を隠してるつもりはないんだけど。
顔デカさんに背中を掴まれたまま、一気に力が抜けガクンと項垂れる。
──この"ゴミ山"を燃やす?! なんでそんな事すんだよ!!
──大変だ、ゴミ山のおっさん達に知らせねェと!!
「うへっ?!」
「どうしチャッブル?!」
エースとルフィの声が突然聞こえて、項垂れて宙ぶらりんになってたあたしが顔を突然上げたことに驚いたのか、顔デカさんも驚いてあたしに声を掛けてきた。
何処にいるのかわからない人の声が頭に響いてるのか、本当に聞こえてるのかはわからない。
だけど、昨日サボが言ってた言葉もあたしはその場に居なかったけど聞こえていた。
ここは今、本当に二人が発した言葉だと信じよう。それなら、エースとルフィはゴミ山が火事になることを知ってる。きっと逃げてくれるはず。
「……イワンコフ」
「うわっ!」
急に体がさっきより上に浮かんだと思ったら、顔デカさんより大きな体をした黒マントの人に片腕にヒョイと抱きかかえられ、驚きの声を上げる。
あたしがその人の手に渡ったことを、なんとも思ってないのか顔デカさん……もとい、イワンコフと呼ばれた人は平然と話し始める。
「悪魔の実の能力持った、不思議なボーイを捕まえチャッブル」
「………」
「それに、ここが火事になるって。何故かこのボーイが言ってるのよ」
不思議そうな顔であたしの顔を、至近距離でジッと見つめる大きい人。
「なぜ、それを知っている?」
ジッと見られ、どう答えればいいかわからず唇を噛みしめる。
火事とポロッと言ってしまったが、その後にあたしを傷をつけるような事をして来るわけでもない。
悪い人達には見えない。けど、この人達がなんなのかわからない。
「……言ってみなさい」
ポスンと大きい人の手が、優しく肩を叩く。大きい人は言葉は少ないが、何故か安心させてくれる雰囲気を持っている。
「た、高町で噂になっているから……」
その雰囲気に流されて、知ってる理由を言うとイワさんが声を上げる。
「高町って、ヴァナータ貴族だったの?! 確かにその服は、立派な物っチャルブルね」
「ちがっ! 兄弟が貴族で、だからえっと……」
兄弟が貴族なのに、あんたは貴族じゃないのか? と言う視線が突き刺さる。
サボのことをまだ言い慣れてない兄弟じゃなく、せめて友達と言うべきだったかも。
「それにヴァナータ、兄弟を探しにここに来たって言ってたブルね?」
「それも本当!! 兄と弟がここにいる。だけど、二人は多分だけど大丈夫」
二人は顔を見合わせて「ふぅ」と言った感じでため息を吐いたように見えた。
「少し意味不明だけど、火事を止めるのは、もう手遅れね」
「手遅…れ……っ?!」
あたしが言葉を発した途端、ドカーンと数カ所から爆発音が聞こえた。
「ぎゃあっ!?」
「ここは湿気がない。これですぐに火が回るナブル。ヴァナタどうする? ここから離れると言うなら、くまが送るわ」
あたしを抱えてた大きな人が、あたしのことをそっと下ろす。
「で……でも、ここに住んでる人は、どうなるの?」
少し遠くで上がる煙から視線を煽らし大きな人を見上げながら、小さな声で話し出したあたしのことを目を丸くして二人は見る。
「それはヴァターシたちが、できる限りなんとかするっチャブル」
「革命軍がここの人々を見捨てるのは、対策ではない」
「……革命軍?」
何処かで「革命軍」と、聞いたことがある気がする。だけど、何処で聞いたのか思い出せない。
「…………」
大きい人はどうするのかと、あたしの様子を黙って見ている。
あたしがここに戻って来た理由は、もちろんエースとルフィに火事になることを伝えて安全な所に逃げて貰う為。
でも「自分達が安全ならそれでいい」だと、火事になることを知ってた貴族と同じだ。
「あ……あ、あたしも、ゴミ山の人を助ける!」
「ヴァナータみたいな、子供に何も出来きなっしブルね」
「たくさんは無理だけど、安全な所に人を運ぶことは出来る……と、思う」
イワさんに問われ、自信なさげに発言しつつ、シャボンを手元にフワリと出す。
「これを大きくして、この中に人を入れれば浮かせて運べるよ」
あたしの手元にあるシャボンを観察するように見つめ、結んでた口を大きい人が開いた。
「……では、あっちの海岸に我々の船がもうすぐ到着する。そこに人を誘導して貰う」
「ちょっと、くまっ?! ヴァターシたちのこともそうだけど、任務を子供にまで明かすの!?」
「……任務?」
大きな人のことを、イワさんがくまと呼ぶ。大きいから? 名前なのかな? よくわからないまが、心の中でくまさんと呼ぶことにする。
くまさんが指を向ける方を見ると、さっき端町から見えた船がこちらに近付いている。
だけど任務ってなんだ?
この人達は、ここが火事になることは知らなかったはずなのに、わかってたようなことを言う。
「何か言いたそうな顔だっチャブルね。ヴァターシたちの任務は、ここで火事が本当にあったら人々を逃がせと言う任務。火事になるなんて、ヴァナタが言わなければまだ半信半疑だったわよ! って、喋らされた?!」
よくわからないが、イワさんは任務のことを暴露したらしい。
くまさんは、イワさんのコロコロと変わる顔芸を黙って見ている。
お友達だか仲間だかなんだから、いい加減あたしがビビって出来ない突っ込みをしてもらいたい所だけど、くまさん無口そうだからな……。
「行くぞ」
「はい……って、え、えぇっ?!」
イワさんに背を向けたくまさんが、ピョンっと跳ねた。跳ねた。跳ねたんだよ!?
「消えたっ?!」
「くまは、船を停泊させる場所に移動したっブル」
「移動?!」
「ヴァナータも悪魔の実の能力者なのに、そんなに驚くことでもないでしょうに」
……いや、驚くでしょ。
悪魔の実の能力なんて、ゴムみたいにビヨーンと伸びるルフィとシャボンを出せる自分の能力しか知らない。
「さぁ、ヴァターシ達も行くわよ!!」
「……え?」
「だから、行くの!」
「……はい?」
「はい? じゃなぁーい!! ヴァターシをそのシャボン玉みたいのに包んで、火が回ってる場所に連れて行きなさーい!」
なんで、あたしが?
と、思ったが口には出せなかったが、顔には出てたたようで。
「ヴァナータが、壁から落ちる所を助けてあげたでしょ!」
イワさんに怒られた。
いや、あれ、あなたがシャボンを割ったから、落ちたんですけどね!
と、言う言葉も飲み込みながら、イワさんをシャボンで包む。
「ヴァナタところで、何の実を食べたっブル?」
「?! そ、それは……あ、あたしもわからないです!」
「ふーん」とした、顔でイワさんはあたしの事を見る。
ヤルキマンマンの実なんて、絶対に言えない……。
◆◇
火の回り始めた所に到着すると、すでに四方火に囲まれて逃げ遅れてる人が沢山いる。
煙を吸って咳をする人、パニックで泣き叫んでる人、諦めたのか黙ってその場に座り込んでいる人。
この状況が何がなんだか飲み込めなくて、あたしも呆然とその場を見つめることしか出来なくなっていた。
「……まっ?! ん…し…さっ!! ゲホッゲホッ…」
助けるって言ったのに、こんなんじゃだめなのはわかってる。下に降りて、何かしなきゃと思うとからだが震える。
怖い。火事ももちろん怖いけど、その理由だけで動けないんではない。
この戦場みたいな状況、来てみたもののあたしに何が出来る──?
──助けてくれぇ!!
──誰だ火をつけたやつ、ぜってェに許さねェ……ぶっ殺してやる。
──うわぁぁぁあん。あつい、あついよぉぉぉぉぉ!!
頭の中に逃げ惑う人たちの声なのか。鮮明に色んな声が聞こえて来てる気がして、頭が爆発しそうになって何がなんだかわからなくなる。
「……ちょっと、ヴァナータ!! ボーッとして何してるのよ。ヴァナタ、さっきから声かけられてるわよ!!」
下に降りて行ったり来たりしてるイワさんに、頭に聞こえてる声より大きい声で声を掛けられる。
あたしに声を掛けてる人……? 視線を下にやると、赤ちゃんを抱っこしてる人があたしのことを見ていて、何か叫んでいた。
「天使さま! どうか、私の娘だけでもお助け下さい!」
「え、天使さま…?」
あ、あ、あ……そうか、この状況で宙に浮かんでるあたしを見て天使って呼んでるのか。天使と言う単語は、頭に聞こえてた気がしてたけど、あたしが呼ばれてるとは思っても見なかった。
赤ちゃんを見ると、顔色が良くない。この状況なら泣き喚いてそうだけどその感じもない。
「天使さまっっっ!!」
「え、でも……」
「ヴァナータ、さっきまで兄弟助けるって威勢はどこにやったのよ。ほら、その赤ん坊よこしなさい!! 責任もって、船に先にこの赤ん坊連れて行くチャブル!!」
「えっ?! わ、わわわわっっ」
赤ちゃんを抱いてた人から赤ちゃんを奪ったイワさんは、あたし目掛けて赤ちゃんを投げてきた。
慌てて赤ちゃんをキャッチして、自分のシャボンの中に入れる。
やっぱり、赤ちゃんの顔色が悪い。
煙吸ってヤバイ状況……?
そういえば、あたし煙のほぼ真上にいたけどシャボンの中だったからか、なんともない。
このシャボンの中の酸素濃度を、高めればなんとかなるかもしれない。
酸素濃度を低くしてイノシシだのを殺ったりしてたけど、高くするのはしたことがない。
考えながら浮遊してるからか、ふらふらしながら船に向かってみたものの船の中も慌ただしく、バタバタしていて船医さんらしき人もどの人かわからない。
「赤ちゃんの顔色、良くなって来てた……? さっきより呼吸が深くなってる気がする」
あたしがしたことが正解なら、このままでなんとかなるかもしれない。
周囲を見渡せば、呼吸の仕方がおかしな人が多い。
「さっきは混乱して何も出来なかったけど……このシャボンでなんとかなるなら」
そう思って、船に乗って来てる人達を顔だけでもシャボンで包み込ませる。
いきなりシャボンが顔に現れた物だから、ビクッと身体を震わせて驚いてる人が多いがそれに抵抗して何かする元気は皆ないみたい。
「っ?!」
だけど、シャボンで包まれて呼吸が整ってくるとシャボンで呼吸が整ったことに気付いてホッとした顔に皆なっていた。
◆◇
どれくらい時間が経ったのだろうか。
乾燥したグレイ・ターミナルの火が、治まることもなく火事で負傷した人達が革命軍の人達に誘導されてどんどん船に上がってくる。
せっせとシャボンで負傷した人達を包んでると、声が頭に響いた──。
──エースー!! ルフィー!! 逃げろォーー!! アンも逃げろォーー!!
「さ、サボッ!!」
怒鳴るような必死なサボの声が響く。
辺りを見渡してみたが、サボの姿は見えない。
何処にいるのだろうか、ゴミ山の中まで入って来てるのか。
このままじゃいけない……!!
「そこの顔色良くなって来てる人!! このシャボン玉、割ろうと思わなければ他の人にも移せるから良くなって来た人から、顔色が悪い人にシャボン移してあげて!!」
「お、おう?!」
説明が適当だったのは致し方ない。サボもこの中まで入って来て家事に巻き込まれてたら元もこうもない。
言うだけ言って抱いてた赤ちゃんを渡して、シャボンで宙に浮かびサボを探しに飛んだ。
声のしたような方に行くと、ゴミ山の入り口の外からしてるのがわかった。
──おい、あのガキまだいるぞ。
──放り出せ!!
──ウッ……。
中までは入って来てなかった…? そりゃそうか、入り口であたしも門前払いくらったもん。
サボも入れるわけないか。
でも、サボにもエースもルフィもきっと大丈夫ってことだけでも伝えてあげないと。
この状況なら、こっち側から壁の上に上がる位なら兵士みたいな人に壁の上に上がったらシャボン消せば、不思議に思われてもシャボンが気付かれる可能性は低いかもしれない。
「この町はゴミ山よりイヤな臭いがする……!! 人間の腐った臭いがする!!」
「っ!! サボっっ……?」
思わず叫んだが、あたしの声はサボに届いてない。それに、独り言かと思ったら誰かと話してるみたいだった。
「ハァ……ここに居てもおれは自由になれない!」
さっき、イワさんとクマさんが被ってた黒マントみたいなのを羽織ってる人に掴みかかってサボが叫んでる。
あぁ……ダメだ。サボが壊れる。泣いてる。
あそこから連れ出さないと、もう家に返しちゃダメだ。
「サボーーーーーーっっ!!」
もう兵士みたいな人にシャボンを見られるのがどうのこうのって言ってる場合じゃない。
「アンかっ?!」
「ダダンのたちのとこにみんなで……」
サボの頭上まで行って声を掛けた途端、パッと頭が真っ白になって意識が飛んだ──。
本家サマだと革命軍は、火事になるの全く知らなかったような記載があった気がしますん。たぶん……!!